書き出したら止まらない

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【ろしでれ】『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』感想

 

どうもトフィーです。


今日は燦々SUN先生のライトノベル、『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』を紹介していこうかと思います。


この小説ですが、実は発売前から色々と話題になっていて、ぼくにしては珍しく予約してまで購入しました。


以下でどのように話題になっていたのか、またどういった内容のストーリーなのかを詳しく紹介していきます。

 


時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん (角川スニーカー文庫)

 

 

1.あらすじ

 

ただし、彼女は俺がロシア語わかることを知らない。

「И наменятоже обрати внимание」
「え、なに?」「別に? 『こいつホント馬鹿だわ』って言っただけ」「ロシア語で罵倒やめてくれる!?」
俺の隣の席に座る絶世の銀髪美少女、アーリャさんはフッと勝ち誇った笑みを浮かべていた。
……だが、事実は違う。さっきのロシア語、彼女は「私のことかまってよ」と言っていたのだ!
実は俺、久瀬政近のロシア語リスニングはネイティブレベルなのである。
そんな事とは露知らず、今日も甘々なロシア語でデレてくるアーリャさんにニヤニヤが止まらない!?
全生徒憧れの的、超ハイスペックなロシアンJKとの青春ラブコメディ!

引用:時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん (角川スニーカー文庫)

 

 

2.『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(『ろしでれ』)感想・レビュー

 

a.評価と情報

個人的評価:★★★★★
角川スニーカー文庫
2021年3月刊行

 

作者は、燦々SUN(サンサンサン)先生。
イラストは、ももこ先生。

 

略称は『ろしでれ』
発売前から、多くのラノベ読みや関係者に注目されていた作品。
発売前に公式Twitterのフォロワー数が1万5千人を突破し、同じくTwitter上で公開された漫画も大反響。

 

これで重版しなければおかしいくらいに、期待度マックスで世に放たれた『アーリャさん』ですが、ぼくもちゃっかりとAmazonで予約して購入しました。

 

 

【追記1】3月1日に即重版決定、また2巻の発売も発表されました。
絶対に売れるだろうと予想はしていましたが、まさか初日にこれらの発表が来るとは衝撃的です。

 

【追記2】 破竹の勢いで売れまくっていた『ろしでれ』ですが、5月19日に第6刷目・第7万部突破となることが発表されました。
これは最近のライトノベル史において、伝説級といっても過言ではありません。

 

わかりやすい押しポイントに、美麗なイラスト、さらにはアニメなどでの人気も根強かった「ロシア語」要素。
ちゃんと物語自体もしっかりと面白く仕上げられていますし、売れるのも納得だなぁと思います。
また最初からPVなどでガンガンと宣伝もかけられており、プロモーションの力を感じた一冊でもありました。

 

 

なんでこんなに売れるのかといえば、ヒロインが「銀髪&碧眼(通称:約束された勝利のルックス)」なんですもん。
それもこのイラスト、かなりの戦闘力。
今までの銀髪ヒロインの中でも、(当社比)トップクラスのビジュアルです。
こんなん買うっきゃないやないですか⁉

 

……テンションをもとに戻して続けます。
さて、そんな期待度マックスで購入した今作ですが、肝心の中身の方も文句なし、完成度の高い作品でした。
ハラショー‼
 

またあとがきによると、今作は燦々SUN先生のデビュー作で、小説家になろうで出していた短編がたまたま編集さんの目にとまった結果、出版にまで至ったようです。
なろうから書籍化されている作品は、近年ではそれほど珍しくなくなってきていますが、短編からの書籍化は比較的少ないほうかと思います。

 

b.キャラクター・ストーリー紹介

 

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん (角川スニーカー文庫)

引用:時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん (角川スニーカー文庫)

ヒロインの少女、アリサ・ミハイロヴナ・九条日本人とロシア人のハーフ

タイトルにもなっているアーリャ』とは彼女の愛称で、学園内だと姉を除けば主人公の久世政近(くぜ まさちか)のみが、呼ぶことを許されています。


誰に対しても壁を作っているアーリャですが、不真面目なところがある政近に対してだけはツンツンとした態度で厳しく当たります。
周りの生徒たちもそれをヒヤヒヤとした様子で見届けますが、当の政近にはダメージはありません。 


なぜなら、政近にはロシア語がわかるから。
アーリャさんはロシア語でボソリとデレ発言を口にしますが、政近にはそれがすべて伝わっていて、時々こぼす彼女の本音が筒抜けになってしまっているのです。

 

「ただのバカじゃなくて、救いようがないバカだったみたいね」と言いながらも、バレていないと思って【かわいい】とロシア語でこぼしてしまったりしてしまうわけです。
(なんだこのかわいい生き物は!)

 

そんな2人によるラブコメを、3人称視点で追っていきます。

 

はい、優勝。
こんなのズルです。
コンセプトの勝利です。
対戦ありがとうございました。

 

とこれだけで、投げ出すとあまりにアレなので、もう少し語ることにします。

今作は非常に高い筆力で描かれていました。
臨場的で、感情表現が豊かな文章に、まるで自分がそこにいるのではないかと錯覚してしまうほど、ドギマギさせられます。

 

またアリサが政近に対して、興味を持つようになったきっかけが描かれる、P85からのアーリャ視点の過去の描写がとにかく秀逸で素晴らしい
彼女がデレるようになったその動機に、しっかりと説得力を加えてくれていました。

 

いや、本当に買ってよかったです。
個人的な『2021年に読んだ本10選』には、ほぼ確定で入り込んでくるかと思います。

 


時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん (角川スニーカー文庫)

 

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※この先、『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』に関する重大なネタバレが含まれています。
未読の方、読みかけの方はお気をつけください。

 

 

 

 

 

3.『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』ネタバレありの感想

ニーソックスを穿かせたり脱がせたりするくだりはめっさ最高でした、はい。

 

激辛ラーメンに悶えるアーリャさんだったり、ファッションショーで自爆するアーリャさんだったり、上でも紹介したニーソックスのくだりで自爆するアーリャさんだったり、本作は「とにかくアーリャさんがポンコツで可愛い」1冊でした。

 

周防有希(すおう ゆき)が幼なじみではなく実の妹であったことや、逆にアーリャが幼なじみであったことなど、「ほへー」と驚かされる設定もあって読みごたえもありました。

 

そういう理由で☆5をつけた今作ですが、あえて気になる点を挙げるとするのであれば、物語の尺でしょうか。
ページ数が少なかったからか、あるいは続編を見越してのことなのか、2人が恐らく幼なじみであったことは明かされず、最近ヒロインとのイベントが多めなラブコメばかりを読んできた身としては少しだけ物足りなさも感じました。

 

ただ、1巻としては政近が事件を解決し、生徒会入りが決定、アーリャとともに会長選に出馬することを宣言もして、きれいにまとめられていますし、次巻以降に期待というところでしょうか。
すでに2巻が出ることも確定しているため、そういった感じで、この作品については引き続きチェックしていこうかと思います。

 

 

『ろしでれ』にハマった方には、以下の『氷の令嬢の溶かし方』『隣のクーデレラを甘やかしたら、ウチの合鍵を渡すことになった』あたりもオススメかと思います。
どちらもメインヒロインがはっきりとしていて、また距離の詰め方が丁寧な作品です。

 

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串木野たんぼ『泥酔彼女「弟クンだいしゅきー」「帰れ」』感想

どうも、トフィーです。


突然ですが、生きていると、誰にだって疲れてしまう時があります
それは学生であろうと、社会人であろうと、あるいはニートの方であろうと変わりません。
そして心身の疲れをため込んだままにしておくと、やがてだめになっていってしまいます。

 

だから人間という生き物は、定期的に息抜きをする必要があるのです。
ゲームをするなり、音楽を聴くなり、美味しいものを食べるなり。
大人の方ならアルコールに頼って息を抜くのも一つの手でしょう。


また、この記事までたどり着いていただけた方は、ライトノベルを読むことこそが息抜きだという方も少なくないはず。


ぼくは、そんな方たちに向けて、1冊のラノベをオススメさせていただきたい。

 

その1冊とは……デン‼
お姉さんのヤツ‼


泥酔彼女 「弟クンだいしゅきー」「帰れ」 (GA文庫)

 

ということで今回は、年上のお姉さん好きなあなたにピッタリのライトノベル、『泥酔彼女「弟クンだいしゅきー」「帰れ」』を紹介していくわ。

さあ、この作品を読んで、あなたも一緒に優勝しましょう。

 

……はい、すみません。
ここからは、いつも通り真面目に(?)語っていきます。

 

 

1.あらすじ

 

姉の友達襲来! 距離感激近宅飲みラブコメ!

聖夜に近所の年上美人と二人で過ごすことになった。全男子にとって、夢のようなシチュだと思う。相手が泥酔一歩手前でさえなければだけど。
「弟ク~ン、おつまみま~だ~?」
ありえないほど顔がいいのに、それが霞むレベルのお気楽マイペースなダメ女・和泉七瀬。聖夜に俺と残念なかたちで出会ったこの人は、勝手に家に来るしやたら酒好きだし隙あらば弄り倒してくるし、とにかくひたすら面倒くさい。いくら顔がよくても、距離感バグってるタイプの近所のお姉さんって普通に悪夢だろ。
無自覚&無頓着。顔がいいくせに絶妙にガードが緩いハタチのダメ女に男子高校生が付き合わされまくる、酒ヒロイン特化型宅飲みラブコメ!

引用:泥酔彼女 「弟クンだいしゅきー」「帰れ」 (GA文庫)

 

 

2.『泥酔彼女「弟クンだいしゅきー」「帰れ」』感想・レビュー

 

a.評価と情報

個人的評価:★★★★★
GA文庫
2021年2月刊行 

 

作者は、串木野反保(くしきの たんぼ)先生。
イラストは、加川壱互(かがわ いちご)先生。

 

串木野先生は、第9回GA文庫大賞《優秀賞》を受賞され、『キングメイカー!-戦野の隅の大英雄-』でデビューされています。

他にも同じくGA文庫より『七代勇者は謝れない』を刊行されています。

 

 

さて、『泥酔彼女「弟クンだいしゅきー」「帰れ」』に話を戻しましょう。
最近よく見る、大人のお姉さんヒロインもののラブコメ
小さな本屋で店員さんに在庫確認してもらう時には、なかなか口に出しにくいタイトルの作品。


けれど、個人的にこのタイトルは割と好きです。
簡潔かつわかりやすいメインタイトル、キャラクターの性格がなんとなく把握できるサブタイトル。
長すぎず、また最近特に多いなろう系のタイトルともまた違った趣があるなと。

 

ちなみに帯には、同じGA文庫の『友達の妹が俺にだけウザい』のヒロイン彩羽よりコメントが寄せられています。(初版分。2刷目以降は不明です)
『いもウザ』についても、過去にこのブログで紹介させていただいておりますので、もしよければこちらもご覧ください。 

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さて、次の項では『泥酔彼女「弟クンだいしゅきー」「帰れ」』の内容と感想をより詳しく紹介していきます。
ネタバレ少なめで、極力序盤のみの内容だけで説明していきます。
これから読もうかどうか迷われている方のご参考になれば幸いです。 

 

b.キャラクター

 

こちら、キャラクター紹介です。

 

瀬戸穂澄(せと ほずみ)

主人公。
仕事のため、ほとんど家に帰ってこない姉と2人暮らしの高校2年生。
酒飲みが嫌い。

 

クリスマスの夜に出来上がった姉に呼び出され、これまた出来上がった状態の七瀬を預けられ、自宅で介抱することになる。
その日以来、毎日のように穂澄の家を訪ねては飲んだくれる七瀬に呆れつつも、高校の演劇部に献上するための脚本の素材になればと、彼女の習性を観察してメモに残している。

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引用:泥酔彼女 「弟クンだいしゅきー」「帰れ」 (GA文庫)

 

和泉七瀬(いずみ ななせ)

ヒロイン。
20歳の、お酒大好きお姉さん
ちゃんぽん派。


酒を飲むとハイテンションでウザがらみしてくる。
ルックス以外はダメダメで、酒飲みを嫌う穂澄からすれば「蚊」のような存在らしい。
穂澄の姉の後輩で、姉が留守の日も酒を持ち込んで入り浸るようになる。
なにかの仕事をしているが、物語序盤では不明。

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引用:泥酔彼女 「弟クンだいしゅきー」「帰れ」 (GA文庫)

 

c.ストーリー

 

いや、素晴らしい。
実に素晴らしい作品でした。
イラストに惹かれて買った作品ではありましたが、読んでみれば中身も面白い。
特に七瀬(以下、お姉さん)のキャラクターが、ドストライク過ぎてもうダメでした。

 

内容のほどんどは、ただ酔っ払ったお姉さんにウザ絡みされるというもの。
お姉さんからすれば穂澄はあくまでも「先輩の弟」であり、恋愛感情などなしに揶揄っていた感じですし、穂澄も酒飲みは嫌いだと基本的には雑に対応するだけ。

しかし、ページが進むにつれて、穂澄はお姉さんのいいところを見つけていき、お姉さんとの日々が当たり前のように馴染んできて、その存在が彼の中で大きくなっていきます。
お姉さんもお姉さんで、穂澄のことを仲のいい先輩の「弟くん」から、一緒にいて落ち着くような異性へと認識を変えていきます。


このように、関係性が変わっていく様子が丁寧に描かれていて、タイトルからウケる印象とは裏腹に、ラブコメとしては非常に丁寧なつくりになっています。

 

またネタバレになるため詳細には語りませんが、「関係性の変化」の過程以外にも、本作はストーリーラインもしっかりとしていますし、なによりもヒロインのお姉さんが魅力的
2人の軽快な掛け合いは、ずっと見ていたくなるほどに面白く、正直今作を読んでいる時のぼくの顔は、人様には見せられないくらいには弛緩していたと思います。
それくらいには、個人的には刺さりまくりでした。

ポンコツ可愛い年上のお姉さんが好きな方には、必見の一冊だと思います。

 

以上がネタバレ少な目の内容紹介となります。 

 

また余談ですが、表紙で手に持っているのは、『水曜日のネコ』でしょう。
水曜日のネコは何度か口にしたことがありますが、ビールでありながらフルーティでなかなか飲みやすかった覚えがあります。
コンビニにも置いているところがあるので、大人の方は試してみてはいかがでしょうか。 


泥酔彼女 「弟クンだいしゅきー」「帰れ」 (GA文庫)

 

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※この先、『泥酔彼女「弟クンだいしゅきー」「帰れ」』に関する重大なネタバレが含まれています。
未読の方、読みかけの方はお気をつけください。
 
 

3.『泥酔彼女「弟クンだいしゅきー」「帰れ」』ネタバレありの感想

『泥酔彼女』ですが、元カノの正体が月浦水守だったことといい、酔っていないとうまく演技ができないお姉さんのために走って駆け付けるシーンといい、わかりやすく伏線が貼られていたため、後半の展開事態はだいたい予想することができました。

 

ええ、予想できはしましたが、だからどうしたという感じで、それでもなお面白かったです。
個人的にはさり気ない伏線が貼られているうえでの驚きの展開が続くような意外性のある物語が好みではあります。
ただ、それはそれとして、やっぱり「王道」の展開って、実力のある作家さんが書けば面白くなるよなぁ……ということを実感させられましたね。

 

またもう一点、自分の仕事、与えられた役に対しては、たとえどんな端役であれど、真摯に向き合って取り組むお姉さんの姿はシンプルにカッコよかったです。
プライベートではダメダメで、主人公の前ではゆるみきっている彼女ですが、役者としての自覚はしっかりと持ち合わせていて、そういったところにギャップを感じられて、より一層好感度が増しました。 

 

物語は水守が主人公宅を訪れたところで締められていて、非常に続きが気になる終わり方です。
なので、次巻も買ってみようと思います。

落葉沙夢『ー異能ー』感想|第15回審査員特別賞作

どうも、トフィーです。


今回は落葉沙夢先生の『ー異能ー』を紹介させていただきます。
タイトルの通り、この物語のキャラクターは異能を有しています。
そんな彼ら彼女らが、自身の能力を駆使しながら1対1での命を懸けた試合を続けていく、異能バトルものの物語です。

MF文庫Jライトノベル新人賞において《審査員特別賞》を受賞した作品で、ラノベとしてはかなり変わった作風となっていました。

 


―異能―【電子特典付き】 (MF文庫J)

 

 

 

1.あらすじ

自分の凡庸さを自覚している大迫祐樹(おおさこゆうき)には、成績優秀で野球部エースの赤根凜空(あかねりく)と学校一可愛い月摘知海(るつみちひろ)という友人がいる。二人は誰が見てもお似合いで、自分は間を取り持つモブキャラなのだ、と認識する大迫だが、なぜか月摘と2人で映画に行くことになってしまう。「デートだね」とはにかむ月摘に戸惑いながら帰宅した大迫の前に、見知らぬ少年が現れて問う。「君の願いは、なにかな?」それは異能を秘めたモノたちへのバトルロワイヤルへの招待だった。「僕……の中にも異能があるのか?」しかしそれすらも「完全な勘違い」だったのかもしれない――!! 予想を覆す怒濤の展開。審査員評が完全に割れた事件的怪作、刊行。

引用:―異能― (MF文庫J)

 

 

2.『ー異能ー』感想・レビュー

 

a.評価と情報

評価:★★★☆☆
MF文庫J
2020年1月刊行  
第15回MF文庫Jライトノベル新人賞《審査員特別賞》

MF文庫Jライトノベル新人賞受賞作。
その中でも、《審査員特別賞》に選ばれ、「審査員評が完全に割れた事件的怪作」として売り出しているのは、作風が良くも悪くも従来のライトノベルっぽくないからでしょう。


具体的にどういったところが、ということに関しては次の作品内容の項でお話ししますが、星を3つにしたのは万人受けする作風ではないという理由が大きいです。

 

ちなみに、同じ回の受賞作には、『探偵はもう、死んでいる。』などがあります。

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また以下の記事でも、第15回MF文庫Jライトノベル新人賞について軽く触れています。
こちらは新人賞受賞作が、刊行前後でどのようにタイトルが変化したのかを調べたものとなります。
ちなみに今作に関しては、『異能モノ』『―異能―』といった具合に変更されています。

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b.作品内容・キャラクター

本作は異能バトルもの。

 

謎の人物、和抄造(にぎ しょうぞう)によって選ばれた13人の異能者が、毎週土曜日にクジを引き、当たりを手にした2人が翌日の夜に命を懸けた死闘を繰り広げる。
最後の1人にまで残れば何でも願いが叶えられるというその大会に、主人公の少年・大迫祐樹(おおさこ ゆうき)も半強制的に参加させられてしまう。

 

しかし、祐樹には自分の異能が分からない
基本的に、異能を持つ者であれば、人生のどこかで自分の能力に気づくはず。
それに今まで気づかなかったということは、自分の能力は「異能を打ち消す異能」なのではないかとふんで、祐樹は大会へと挑むが――というのが第一章です。

 

『ー異能ー』を読んでいるうちに、ぼくはなんとなく『未来日記』を思いだしました。
ちなみに『未来日記』はライトノベルではなくコミックですが、アニメ化もされています。

 

 

さて、先ほど良くも悪くも従来のラノベっぽくないと述べた理由ですが、ざっと挙げると以下の通り。

 

①群像劇である

主人公やヒロインを活躍させることに重きを置いたライトノベルにおいて、群像劇というスタイルはあまり選ばれていません。

※もちろん全く無いわけではないですし、最近だと『魔女と猟犬』のように群像劇っぽい作風のものもあります。

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また本作は全部で13章の構成となっていますが、それが8人の視点により描き分けられています。

そういうわけで、まず多くのライトノベルと毛色が異なっていると言えます。 

 

②主人公がほとんど登場しない

群像劇というスタイルを選択されていることから、「当たり前では?」と思われるかもしれませんが、本作はとある理由から、一章以降、大迫くんは名前すらほとんど登場しません
そのため、「主人公やヒロインの活躍を見たい‼」という方にはあまりオススメできず、逆に色んなキャラクターの活躍を見たいという方には向いている1冊です。

 

③文章が淡々としている

本作は一人称ですが、文章が非常に淡々としています
そう感じた理由としては、文末が基本「る」か「た」で終わることや、心情描写が少なめであることなどが挙げられます。
ただ、文章自体は読みやすく、淡々とした文章が好きな方には向いているかと思います。
ラノベではないのですが、どことなく中村文則先生のような印象を受けました。

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他にも細かな理由はありますが、ライトノベルっぽくはないと感じたのはこの3点によるところが大きいのではないかと思いました。 


また余談ですが、ぼくがこの作品を読み終えて一番意外だと感じたのは、この作品が電撃文庫からではなく、MF文庫Jから刊行されたということ。
新人賞作品ですし、変わった作風のものを取り入れようとされたのでしょうか?

 

上述のようにかなり変わった作風ではありますが、1冊で完結していて手に取りやすいので、気になった方はまずは読んでみることをオススメします。

 

 

 

 

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 ※この先、『ー異能ー』に関する重大なネタバレが含まれています。
未読の方、読みかけの方はお気をつけください。

 

 

 

 

3.『ー異能ー』ネタバレありの感想

最後はヒロインの知海(ちひろ)が、最後まで勝ち残って、「願いを使って元通り‼」という展開や祐樹を生き返らせるような展開を想像していました。
勝ち残った知海と祐樹以外のキャラクターが死んだままで終わるというのは少し予想外ではありましたが、むやみやたらと生き返りまくるとそれはそれで命が軽く感じられてしまうかと思うので、これはこれでアリだなと。

 

あと祐樹が自分のことを「主人公」だと認めて、胸を張って生きていけるようになったのは彼にとっていい終わり方だなぁと思いました。
そのため、「後味の良い終わり方だなぁ」と思ったわけですがそれも束の間、そのあとに重護視点で本物の橘の腐敗した死体を発見する描写が続き、物語が締めくくられたので、ちょっとだけモヤモヤが残りました。
とはいえ、本物の橘さんがどうなってしまったのかは、少しだけ気になるところではあったので、それを描いてくださったのはよかったなぁと。

 

あと振り返ってみれば、ソシャゲのガチャが好きだったりとタチバナが黒幕・和抄造である伏線自体は描かれていましたが、「タチバナ」だけカタカナ表記だったのは、重護の違和感を演出するためでもあったのかなぁとも思いました。

 

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『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』|貴族の生活や日常がわかる

 

貴族の普段着である直衣が欲しいAuraです。でも軽く調べたところウン万円するみたいなのであきらめました 笑

 

さて、今回ご紹介しますのは、『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』という本です。

 


平安貴族 嫉妬と寵愛の作法
(Amazonへのリンクです)

 

本書の魅力は、平安時代の貴族の生活や日常を、分かりやすく解説しているところにあります。

 

「貴族の暮らしってどんな感じだったんだろう?」と気になるけど、ライトな本で読みたいという方にうってつけの構成になっています。

表紙からしてポップな感じなので、とっつきやすいのではないでしょうか 笑

 

 

「貴族の実生活」を知ることの意義

本の内容についてのご紹介に入る前に、僕の所感を軽く書いておきます。

 

「貴族の実生活」がどんなものだったかイメージできる人はそう多くないんじゃないかな?と個人的には思っています。

 

僕たちは学校で、『枕草子』や『源氏物語』など、数多くの古典作品を習いましたが、そこで「時代背景とか文化が分からんから、内容も入ってこない……」という壁にぶち当たることも少なくないでしょう。

現代を扱う作品であれば、そういったものへの解説は少なく済みますから、内容になじみやすいですからね……笑

 

本書を読み、平安時代の貴族文化を理解すれば、古典文学への理解をもさらに深めることになるのです。

文学的なことを抜きにしても、当時の習俗が分かるということそれ自体に楽しさがあるのではないかとも思います。

 

そして、ただ雅なだけじゃない貴族の面白おかしい実態が分かっちゃいますからね 笑

では、ここから『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』の特長や内容についてご紹介していきます!

 

特長と内容

本書の章立てと、掲載している事項は主に以下の通りです。 

一章 後宮の作法 
……宮仕え、女性貴族

 

二章 暮らしの作法
……日常、食事、服装、医療・薬、信仰

 

三章 通過儀礼の作法
……幼少期、青年期、老齢期

 

四章 年中行事の作法
……行事

 

五章 住まいの作法
……住居、娯楽

 

出典:繁田信一 監修『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』GB(2020年)

 

本のタイトルには「嫉妬と寵愛の作法」と書かれているので、恋愛関連のことを中心に載せているように思えるかもしれませんが、こうして見ると、貴族文化全般を広く扱っていることが分かりますね。

またこの他にも、コラムや平安時代の年表なども載っています。

 

各章には、対応する「〇〇の作法」がそれぞれ10~20個ほど収められています。

一章の「後宮の作法」には15個、二章の「暮らしの作法」には22個……といった具合に、全部で70個近くあるという充実した内容になっています。

 

たくさんありますけれども、ひとつの作法につき「解説文1ページとイラスト1~3ページ」で書いてあります。

なのでスラスラ読めますし、イラストも多いのでイメージがつかみやすいです。

 

具体的な中身としましては、

「平安時代の美人は丸顔でぽっちゃり体型」


「結婚相手の素顔を見られるのは、基本的に初夜を過ごした翌朝」

といった、わりと定番(?)な知識から、

「貴族の持つ見た目が豪華な太刀は、実戦では役に立たない」


「雪が降ると男性貴族たちは雪だるまを作って遊んだ」

のような、意外に思われることまで書いてあります 笑

 

せっかくなので、次項では2つの「作法」について、内容を一部引用しご紹介しようと思います。

 

紫式部は初出仕の日に職場イジメに遭った

結婚後3年で夫と死別した紫式部は、かの有名な『源氏物語』を書くことで現実逃避をしていました。

この物語が宮中で高い評判となり、これをきっかけとして一条天皇の中宮である彰子に仕えることになりました。しかし……

 

 そして迎えた初出仕の日。初日は誰だって緊張するもので、紫式部にしても同様。しかし、それ以上に紫式部の心にダメージを与える出来事が宮中では待ち受けていた。イジメである。周囲に無視され、ショックを受けた紫式部は出仕を拒否して5カ月ほど引きこもってしまう。

 (中略)

 こうしたイジメへの回避策として紫式部がとったのが、バカキャラ作戦である。「自分は“一”という漢字も書けないトロい女ですよ」というフリをしたのだ。嫌味に対し間の抜けた返事をすることで、同僚たちは紫式部を「才能を鼻にかけない、おっとりした女性」だと認識するようになったという。

 

出典:繁田信一 監修『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』GB(2020年)

 

うーん、いつの時代でもやっかみはコワイコワイ。

大変な目に遭っていた紫式部ですが、一方で『紫式部日記』に清少納言の悪口を書いたりもしてますし、ただ受け身な女性だというわけでもないですね。ドロドロしてるなぁ……笑 

 

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出典:繁田信一 監修『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』GB(2020年)

 

労働時間は4時間程度だが、たまに夜勤

現代社会では8時間労働(+残業)が基本ですが、平安の貴族たちは違っていた……!!

 

出勤時間も早かった。日の出が早い夏至には4時30分、日の出が遅い冬至でも6時40分には、職場である宮城の門が開いていたのである。

 仕事は曹司(ぞうし)と呼ばれる部屋で行った。始業時間は早いが、仕事が終わる時間も早かった。勤務時間は3時間半~4時間程度で、夏場は9時30分、冬場は11時過ぎには退勤した。

 午前の仕事が終わっても帰宅せず、職場に残って働くことを命じられた人もいた。これを「宿直(しゅくちょく)」という。夜の勤務を「宿」、昼の勤務を「直」と呼び、どちらかだけを担当することはなく、午後から翌朝まで働いた。

 

出典:繁田信一 監修『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』GB(2020年)

 

労働時間は長くても4時間程度って、現代人の半分しか働いてない!
たまに夜勤するとはいえ、これは羨ましすぎる……!!笑

 

まぁ、当時は今と違って空調設備がありませんから、夏なんかは暑くなる前に仕事を終えるのが合理的ではありますよね。 

 

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出典:繁田信一 監修『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』GB(2020年)

 

おわりに

 『平安貴族 嫉妬と寵愛の作法』という書籍のご紹介をしました。

 

「貴族の生活や文化をライトに読みたい!」という方へおすすめできる、貴族の日常が幅広く、簡潔に分かる良書です。

王朝文化について、さらに詳細かつ学術的に書いている本は多々ありますが、こちらは入門として気軽に読めるという点が大きなメリットでしょう。

 

僕自身、日本文学部出身の者ですが、こういうゆるい本も好きなんですよね 笑
ソファに寝そべりながらでも読めますし……笑

 

もちろん、この本をきっかけとして関心が深まったら、専門書などを読むのもいいと思います!

 

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どうも、トフィーです。

 

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大人の方でも楽しめる作品かと思いますが、特に10代の方に触れていただきたい物語でした。

 


ゴールデンタイムの消費期限

 

 

1.あらすじ

書けなくなった高校生小説家・綴喜に届いた
『レミントン・プロジェクト』 の招待状……それは、
元・天才を再教育し、蘇らせる国家計画――!

「才能を失っても、生きていていいですか」?

『楽園とは探偵の不在なり』で最注目の俊英が贈るAI×青春小説‼

自分の消費期限は、もう切れているのか──
小学生でデビューし、天才の名をほしいままにしていた小説家・綴喜文彰(つづき・ふみあき)は、ある事件をきっかけに新作を発表出来なくなっていた。孤独と焦りに押し潰されそうになりながら迎えた高校三年生の春、綴喜は『レミントン・プロジェクト』に招待される。それは若き天才を集め交流を図る十一日間のプロジェクトだった。「また傑作を書けるようになる」という言葉に参加を決める綴喜。そして向かった山中の施設には料理人、ヴァイオリニスト、映画監督、日本画家、棋士の、若き五人の天才たちがいた。やがて、参加者たちにプロジェクトの真の目的が明かされる。招かれた全員が世間から見放された元・天才たちであること。このプロジェクトが人工知能「レミントン」とのセッションを通じた自分たちの「リサイクル計画」であることを──。

引用:ゴールデンタイムの消費期限

 

2.『ゴールデンタイムの消費期限』感想・レビュー・関連作品

a.評価

評価:★★★★★
祥伝社
2021年1月刊行

 

作者は斜線堂有紀(しゃせんどう ゆうき)先生。
第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞し、『キネマ探偵カレイドミステリー』にてデビューされてから、多くの作品を世に出されています。

 

 

 

斜線堂先生の他作品については、でも紹介していますのでここでの説明は省略します。

 

刊行作が相次いで重版発表されている斜線堂先生ですが、今回の『ゴールデンタイムの消費期限』も発売してすぐに重版が発表されています。
第何版まで数字を伸ばすのか、1ファンとしても楽しみです。

 

 

b.作品内容・キャラクター

ある日、かつて天才少年作家として名をはせた綴喜文彰(つづき ふみあき)のもとに、国主導のプロジェクトへの参加以来が届く。


その計画の名は、『レミントン・プロジェクト』
各分野の若い世代の天才を一か所に集めた11日間の合宿のようなものということ以外には、詳しい概要も明かされなかったが、なにかの刺激になればと、綴喜は参加を承諾する。


ヴァイオリニスト、料理人、日本画家、映画監督、棋士
彼ら彼女らの誰もが優れた才能を有していて、そのことに綴喜は委縮してしまうが、プロジェクト2日目に衝撃的な事実が発覚。

 

実は彼らはみな、才能が枯れてしまったとされる人間だった。
そして、今回のプロジェクトは、そんな彼らの才能を人工知能・レミントンを用いてリサイクルするという趣旨の内容だった――。


レミントンは膨大なデータをもとに、大衆の関心を熟知していて、音楽にしろ料理にしろ、プロジェクト参加者以上のパフォーマンスを実現することが可能
そんなレミントンの指示に従い、再び才能を取り戻させよう、というのが計画の目的です。

「AIの手が届かないところをサポートして、AIの作品が世に出る手助けをする。これじゃあ私たちの方が道具だ。ふざけんな! 結局私たちは利用されてるだけじゃん」

引用:斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』本文より

 

……とこんな感じの内容となっています。

 

それにしても、また斜線堂先生はエゲツない小説を出すなぁ……と思いました。
そう感じた理由は2つあって、うち1つめは他の著作と同様に、各登場人物の暗い内面がリアルに描写されているという点。 
だから、キャラクターに感情移入できるし、物語にも没頭できます。

 

綴喜を含めた多くのプロジェクトメンバーは、レミントンというAIに対し、程度の差はあれどマイナスな印象を抱いています。
彼ら彼女らも気分が悪くなったり、取り乱してしまったりするわけですが、それもしょうがないよなぁと。

だって、自分よりも優れた才能を見せつけられるのは辛いですよね。
特に彼らは、各々の分野に対して人生を捧げてきたわけですから、その悔しさたるや常人の比ではないでしょう。

 

本作では、そんな彼らの鬱屈とした感情をリアルに描きだしていて、各々がどのようにレミントン、ひいては自分の人生に対して向き合っていくのかが綴られていくのです。

 

また、天才とは言われなくても、他人の能力と自分の能力とをくらべて絶望したなんていう経験をした方も、きっと少なくはないでしょう。
そういう方にこそ、この『ゴールデンタイムの消費期限』をぜひ読んで欲しいです。

 

 

さて、エゲツない小説と称したもう1つの理由ですが、それはAI技術の絶妙なリアルさです。
というのも、この物語の内容を見て、SFだと思う方も大勢いらっしゃるかもしれませんが、レミントンのようなAI技術の実現はもうすぐそこまで迫ってきているんですよね……。

 

たとえば、個人の好みを分析して、それに適した商品を見栄えよく提示するなんていうことは、Netflixのサムネイル機能などですでに使われています。
他にもGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などをはじめとした最先端を走る企業も、ビッグデータを活用して次々と戦略を打ち出しています。
ある分野で活躍する人間よりも、優れた才能を実現させるという領域にもすでに手がかけられていることでしょう。

 

とまあ、そんな話はさて置いて、この物語は非常に現実に近い技術を用いているので、ワクワクしながら読み進めた人もいらっしゃれば、逆に感を持ってハラハラした方もいるかもしれません。

 

ぼく自身、電撃小説大賞などの新人賞に投稿している身のため、「もしAIが大衆を喜ばせ感動させるような魅力的な物語を描く時代が来てしまったら」と想像すると、楽しみに思う一方で、それ以上に怖くもなりました。

 

ただ実際のところ、小説の分野に関しては数行の文章ならまだしも、きちんとした形になっている面白い物語を書き上げるとなると、まだまだ難しい段階にはあるようです。(これに関しては、作中でも「AIが自然言語を解釈するのは極めて困難です。この問題がある以上、AIに小説を書かせることは、現時点では不可能でしょう」と言及されています。)

 

「じゃあ、どういった方法でAIと一緒に小説を書いていくの?」と疑問に思われるかもしれませんが、具体的な手法についてはせっかくなので、ぜひ本編を読んでご確認いただきたいです。

 

 

 

 

 

綴喜くんを見ていると、天才小説家として認められるも、スランプに苦しむ青年が描かれている『私が大好きな小説家を殺すまで』を彷彿とさせました。
こちらも斜線堂先生による作品で才能にまつわる物語なので、気になる方はセットで読まれてみてもいいかと思います。

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とりあえず、核心に迫るようなネタバレを避けての説明は以上となります。
次の項では、『ゴールデンタイムの消費期限』以外の斜線堂有紀先生の著作について紹介させていただきますので、もしよければ引き続きご覧いただければ幸いです。

 

3.斜線堂有紀先生の他作品

 

斜線堂先生の作品はすでに多数ありますが、このブログ内でもいくつか紹介させていただいております。
以下にそれぞれのリンクを貼らせていただきますので、もし気になるものがありましたらチラッと覗いてみてください。

 

『恋に至る病』

個人的に一押しの小説。
『ゴールデンタイムの消費期限』では、才能あるキャラクターたちが登場しましたが、『恋に至る病』でもまた異なる才女が描かれています。
言うなれば、悪のカリスマ
実在した集団自殺ゲーム事件を題材に、歪な愛の物語が展開されていきます。


余談ですが、読んだ後も色々と考えさせられる内容で、数多くの方が『恋に至る病 考察』などのワードで検索しているようです。

 

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『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』

『ゴールデンタイムの消費期限』と同じく青春小説。
複雑な家庭の事情に閉塞感と抱く少年が、体が金になってしまう不治の病に侵されてしまった女子大生と出会い、心を通わせていく物語です。

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『楽園とは探偵の不在なり』

二人殺せば地獄に堕ちる!
起こりえない連続殺人事件
に挑む探偵の物語です。
こちらは今まで触れてきた斜線堂先生の小説の中でも、特殊な設定が用いられた本格ミステリです。

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『私が大好きな小説家を殺すまで』

書けなくなった天才小説家とゴーストライターの少女、共依存の沼にはまり追い詰められていく物語。
のとともに、こちらも切なく苦しい気持ちになっていく。
けれども読み進めるてが止まらない、そんな読者を惹きつけるような魔力をもった一冊です。

『憧れの相手が見る影なく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んでほしかった』

先ほども触れましたが、こちらも才能に関する物語です。
やはりこの小説はぜひセットで読んでいただきたいです!

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また、当ブログでは他にも様々な物語を紹介しています。
次に読む1冊をお探しの方のお役に立てれば幸いです。

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※この先は、『ゴールデンタイムの消費期限』の重大なネタバレを含んだ感想となります。
未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

4.『ゴールデンタイムの消費期限』ネタバレありの感想

最初の数十ページ を読んだ段階では、「人工知能による支配」という方向性で物語が進んでいくのかなと思いました。
けれども『ゴールデンタイムの消費期限』では、レミントンと人間との共生が描かれていて、AIに頼ることは決して悪いことではない、というような形で終わりを迎えました。

 

この物語の主人公は、あくまでも人間である綴喜。
いや、綴喜だけでなく、秋笠や晴哉、プロジェクト仲間の全員が、主人公といえるような物語でした。
彼らは、それぞれのスタンスでレミントンと向き合いながら、別々の未来へと歩みを進めていきました。

 

秒島は天才として返り咲き、レミントンと共に成長しながら、日本画の分野で活躍。
互いに影響を及ぼし合う彼とレミントンからは、「人とAIとの調和」という一面が色濃く表れています。

真取は優勝した後に、レミントンとのセッションと並行して『当月堂』で修業を重ねています。
「『やっぱり料理は人の手で作った方が美味い』」という常連客の言葉からは、AIが人間社会に自然に溶け込む未来の可能性を示しています。

 

一方、宣伝通りレミントンに頼らずに、地道に活動し続ける凪寺にも暗い雰囲気はありませんでした。
彼女を見ていると、「成功することだけがすべてではない」、ということを語りかけてくれているような気がして、少し気持ちが楽になりました。

 

またレミントンに可能性を感じていた御堂も、ギリギリのところでプロ棋士の肩書に喰らいついているようで、ほっとしました。

そして本作の主人公・綴喜は、固執していた作家としての生き方を辞め、持ち前の観察眼を活かして記者になりました。
レミントンプロジェクトの中で、彼が小説の執筆のために元天才たちに取材するという描写がありましたが、これは伏線でもあったというわけですね。


「小説家という職業に設定すれば、取材という名目で登場人物の過去や想いを深堀できて便利だなぁ」という、なんともメタ的な見方をしていたので、彼が記者へ進路を変更する選択をしたことには、また別の面白さを感じました。


という余談はさておき、綴喜が記者として取材を続ける中で、かつてのプロジェクトの仲間たちとコンタクトを取ることができました。
無事に約束を果たすことができたわけです。
ほっこりしますね。

 

エピローグで個人的に1番驚いたのは、やっぱり晴哉です。
彼は宇宙飛行士の夢を絶たれてしまったわけですが、なんと自身の体験を基にしたSF小説を綴る作家になっていたのです。
「これもかくのか」という病室での彼の言葉は、綴喜を責めるためのものではなかった。
いや、もしかしたら、明かされていないだけでそういったニュアンスも込められていたのかもしれません。
けれども、彼は自分の体験を物語にしたいという前向きな想いから、綴喜に対して問いを投げていたわけです。
小説家を辞めた従弟に代わって、小説家になるという展開にはこみあげてくるものがありました。

 

そして、最後に秋笠。
ヴァイオリニストとして生きていく夢を諦めた彼女ですが、『レミントン・プロジェクト』の3年後には、農業の手伝いをしていました。

「それと、ヴァイオリンが好きです」

物語の最後の台詞ともなるこの秋笠の言葉に、不覚にも泣きそうになりました。(訂正します、少し泣きました。)

 

夢を諦めた秋笠の姿はそれでも美しく、彼女のこの台詞から、「才能を失っても、才能がなくても、生きていていいんだ」というメッセージがヒシヒシと伝わってきました。

 

 

 

10代の方にこそ読んで欲しいとぼくは冒頭で述べましたが、その想いはほとんど上記の台詞につまっています。

 

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村瀬健『西由比ヶ浜駅の神様』感想・レビュー

どうも、トフィーです。


今回はメディアワークス文庫刊行のライト文芸小説、村瀬健先生の『西由比ヶ浜駅の神様』を紹介させていただきます。 
幽霊電車の中で、亡くなってしまった最愛の人に心残りの言葉を告げる連作短編(各章の登場人物がたびたび別の章で顔を出す形式)です。

 

 

【追記】
タイトルの「西由比ヶ浜」の読み方は、「にしゆいがはま」です。
「読み方」や「ふりがな」について検索されている方が、多かったため追記させていただきました。


確かに駅名や地名って、初見だと分からなかったりすることがままありますよね。
上挙母駅(うわごろもえき/愛知県)とか、安足間駅(あんたろまえき/北海道)とか、まず読めませんよね……。

 


西由比ヶ浜駅の神様 (メディアワークス文庫)

 

 

1.あらすじ 

過去は変えられないが、未来は変えられる――

鎌倉に春一番が吹いた日、一台の快速電車が脱線し、多くの死傷者が出てしまう。
事故から二ヶ月ほど経った頃、嘆き悲しむ遺族たちは、ある噂を耳にする。事故現場の最寄り駅である西由比ヶ浜駅に女性の幽霊がいて、彼女に頼むと、過去に戻って事故当日の電車に乗ることができるという。遺族の誰もが会いにいった。婚約者を亡くした女性が、父親を亡くした青年が、片思いの女性を亡くした少年が……。
愛する人に再会した彼らがとる行動とは――。

引用:西由比ヶ浜駅の神様 (メディアワークス文庫)

……と、あらすじはこんな感じです。
以下で、より詳しく紹介していきます。 

 

2.『西由比ヶ浜の神様』感想・レビュー 

a.評価と情報

評価:★★★★★
メディアワークス文庫
2020年6月刊行 

 

『西由比ヶ浜駅の神様』は上述した通り連作短編の形式をとっていて、プロローグを除いて4つの物語がつづられています。

 

作者は村瀬健(むらせ たけし)先生。
第24回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》を受賞され、『噺家ものがたり~浅草は今日もにぎやかです~』でデビューされています。
こちらは、新人落語家の物語で、『西由比ヶ浜の神様』同様に温かな人間模様を描いた物語です。

 


噺家ものがたり ~浅草は今日もにぎやかです~ (メディアワークス文庫)

 

b.Tik Tokでバズった?

 

 

『西由比ヶ浜駅の神様』ですが、Tik Tokでバズって売り上げを伸ばしていたようです。
その当時のぼくは、まだこの小説を読んでいなかったため、どれほどの影響があったのかは詳しくは存じあげません。


ただ、過去に当ブログで紹介させていただいた『恋に至る病』も同じようにTik Tokでバズって、Amazonなどで在庫が1日で完売するなど、重版に少なくない影響を与えていたことから、今作に関してもそれなり以上の宣伝効果があったのではないかと想像できます。
(『恋に至る病』のTik Tok事変については、以下のリンク先で紹介しています)

 

時代の変化かなぁ……。

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c.作品内容・キャラクター

脱線事故により、「大切な人の死」を失ってしまった人たちに焦点を当てた物語。

 

全4話の中で、婚約者を亡くした女性、父を失った青年、想い人と死に別れた少年、そして運転手だった伴侶を失い加害者家族となってしまった妻の物語が描かれています。 

 

物語の進み方としては、1話「彼へ。」4話「お父さんへ。」は、訃報を受けるところから描かれ、故人との思い出を回想していきます。
対して2話「父へ。」3話「あなたへ。」は、亡くなる前の日常から始まり、事故の起こる日に向かって進んでいきます。

そうしていずれの章でも、遺族は幽霊電車の噂を聞きつけ、西由比ヶ浜駅に現れる「雪穂」という名の幽霊のもとを訪ねます。

 

幽霊電車には以下のルールがあります。

 

・亡くなった被害者が乗った駅からしか乗車できない。

・亡くなった被害者に、もうすぐ死ぬことを伝えてはいけない。

・西由比ヶ浜駅を通り過ぎるまでに、どこかの駅で降りなければならない。西由比ヶ浜駅を通過してしまうと、その人も事故に遭って死ぬ。

・亡くなった被害者に会っても、現実は何一つ変わらない。何をしても、事故で亡くなった者は生き返らない。脱線するまでに車内の人を降ろそうとしたら、元の現実に戻る。

(『西由比ヶ浜駅の神様』本文より引用)

 

ルールにもある通り、現実は何一つ変わらない。

それでも、遺族たちは過去に戻って事故当日の電車の中に乗り込んでいくのです。

 


どれも胸に迫る内容になっているのですが、ぼくは中でも第二話の「父へ。」が最も印象に残りました。

 

 

主人公は社会人に成りたての青年
彼は、子どものころから地元の小さな工務店に勤める父を軽蔑していました。
父親とは違う人生を歩むために、上京して大学に進学し、商社に就職します。

さあ、平均年収1,200万の華やかな未来が始まるぞ‼
……という感じにはならず、上司に目を付けられてしまい、会社では全然うまくいきません

 

疲弊し続ける日々の中で、父からの留守電が入ってくるわけですが、もちろん無視
それでも父は明るい調子で、ちょっとした用事を見つけては、連絡を入れてくるのです。

はぁ……。
辛い、辛いです。
疎遠になってしまった息子を心配し、コミュニケーションを図ろうと頑張る父親の姿を想像すると本当に胸が締め付けられてしまいます。


そして、その後に待ち受ける『別れ』のことを考えると、いっそのこと読むのをやめてしまいたくなるわけですが、なんとか読破‼
案の定、最後には涙を流すこととなりました。

 

昔は映画やら小説やらで泣くことはなかったのに、最近涙もろくなってきているなぁ……という個人的なつぶやきはさておいて。

 

『西由比ヶ浜の神様』は涙を誘うようなお話ばかりで、感動系の小説を読みたい方には本当におすすめの一冊となっていますので、気になった方はぜひ手に取ってみてください。

 


西由比ヶ浜駅の神様 (メディアワークス文庫)

 

 

 

※次の項目ではネタバレを含んだちょっとした感想も載せていますので、未読の方はご注意ください。

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3.『西由比ヶ浜の神様』ネタバレありの感想

「脱線事故により、「大切な人の死」を失ってしまった人たちに焦点を当てた物語」と述べましたが、最後の章まで読み終えると、各エピソードの見方が変わってきます

 

というのも、第4話の雪穂によってこれまでの認識がガラリと変えられてしまうからです。

 

「この電車にいる人たちは、魂が成仏できずにこの世に居残っている。幽霊電車に乗っている人間は、脱線事故で死んだことを覚えている。事故の際の記憶を保持したまま、この電車に乗っているの。けれど、幽霊は幽霊。何をしたところで事故は起きてしまうし、現実は何も変わらないの」

(『西由比ヶ浜駅の神様』本文より引用)

 

最後の最後で、亡くなった人たちが運命を自覚していると明かされるわけです。
そして、「だから、お父さんはあんな話をしたのか」といった感じで物語の見方が変わってきます。

 

「遺族目線で見てきた物語を、今度は被害者目線でもう一度読みたい」と思えるような内容になっていて、一冊で何度も楽しめるような構成になっているのはさすがだなぁと思いました。

 

 

4.この物語を読んだ方におすすめの小説

 今回は感動路線の小説を3冊紹介させていただきます。

『15歳のテロリスト』

少年犯罪をテーマにした物語。
『西由比ヶ浜駅の神様』と同じく、被害者家族と加害者家族の双方に焦点を当てられており、いろいろと感情をかき乱された名作でした。

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 『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』

【金塊病】という病を患う女子大生と、彼女に惹かれてしまった少年の物語です。
片田舎のサナトリウムを舞台に、二人は「家庭と金」「愛の証明」などの問題にかき乱されていきます。

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『恋する寄生虫』

潔癖症の青年と、視線恐怖症の少女の物語。
そんな二人が惹かれ合うのは必然的――――彼らもぼくも途中まではそう思っていました。
プラトニックな恋愛切なく苦しい真実が描かれます。
やるせない空気感が好きな方におすすめの一冊です。

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このブログでは他にも色々な小説を紹介していますので、もしよければ次の一冊を選ぶ際の参考にご活用ください。

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【アニメ化決定!】二五十『探偵はもう、死んでいる。』1巻の感想

故人系ヒロインも意外とアリですね……

 

どうも、トフィーです。

 

今回は、二五十先生の『探偵はもう、死んでいる。』の第1巻を紹介させていただきます。
上でも触れている通り、ヒロインがすでに死んでしまっているという異色の物語。
今とても勢いに載っている作品で、『このライトノベルがすごい! 2021』文庫部門・第4位にも選ばれています。

 

【追記】この記事を投稿した翌日、1月20日にアニメ化が発表されました! 
なかなかアニメ映えしそうな作品ですし、この物語を映像で見れるとなるとワクワクしてきますね。

 


探偵はもう、死んでいる。 (MF文庫J)

1.あらすじ

 高校三年生の俺・君塚君彦は、かつて名探偵の助手だった。「君、私の助手になってよ」―始まりは四年前、地上一万メートルの空の上。ハイジャックされた飛行機の中で、俺は天使のような探偵・シエスタの助手に選ばれた。それから―「いい?助手が蜂の巣にされている間に、私が敵の首を取る」「おい名探偵、俺の死が前提のプランを立てるな」俺たちは三年にもわたる目も眩むような冒険劇を繰り広げ―そして、死に別れた。一人生き残った俺は、日常という名のぬるま湯に浸っている。…それでいいのかって?いいさ、誰に迷惑をかけるわけでもない。だってそうだろ?探偵はもう、死んでいる。第15回MF文庫Jライトノベル新人賞“最優秀賞”受賞作。

引用:探偵はもう、死んでいる。 (MF文庫J)

 

 

2.『探偵はもう、死んでいる。』感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★★★
MF文庫J
2019年11月刊行 
第15回MF文庫Jライトノベル新人賞《最優秀賞》
『このライトノベルがすごい! 2021』文庫部門・第4位 


作者は二五十(にごじゅう)先生、イラストはうみぼうず先生です。
略称は『たんもし』


上述の通りこのラノ4位の作品ですが、ヒロインのシエスタは『このライトノベルがすごい! 2021』のキャラクター女性部門でも第4位を獲得しています。

 

このラノ2021の作品については、以前まとめ記事にも書きましたのでよければそちらもご覧ください。

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また、冒頭でも触れた通りアニメ化も発表されています!

 

 

b.ストーリー


タイトルに『探偵』とつくことから初見の方は「推理ものなのかな?」と思うかもしれません。
しかし、この作品はミステリー小説ではありません。
ストーリー中にある程度の謎は含まれていますが、それがメインというわけではなく、ラブコメだったり、アクションだったり、SF要素があったり、《人造人間》が登場したりと、ジャンルにとらわれないお祭りのような作品でした。

 

この手の現代ベースのバトルものは、MF文庫だけでも『緋弾のアリア』だったり、『アブソリュート・デュオ』であったり、『学戦都市アスタリスク』だったりと多くの作品がありますが、『たんもし』にはまた違った個性があります。

それは冒頭でも触れた通り、ヒロインの探偵・シエスタがすでに死んでいること。
体の一部が武器のように発達した《人造人間》が所属する秘密組織《SPES》(スペース)との戦いの中で、一年前に彼女は命を落としてしまったのです。

詳しくは次の項目で解説します。 

 

 

C.キャラクター

まさかの故人系ヒロイン。 

探偵はもう、死んでいる。

 引用:探偵はもう、死んでいる。 (MF文庫J)

いや、現在軸にももう一人のメインヒロインが登場するわけではありますが、それでもダブルヒロインのうちの片方がすでに亡くなっているというのは、他のライトノベルではなかなか見られない設定です。

 

そんな故人系ヒロインのシエスタですが、決して空気というわけではなく、しっかりと物語に影響を与えていきます。
作中では彼女の助手だった主人公の少年・君塚君彦(きみづか きみひこ)によって、彼女と過ごした日々が回想され、その数々のエピソードが現在の事件にも絡んでくるため、死後もなお存在感を放ち続けているのです。

 

そして現在の時間軸のメインヒロイン、夏凪渚(なつなぎ なぎさ)も重要な役を担っており、シエスタに負けず劣らず存在感のあるキャラクターです。
ネタバレになるためになるためここで詳しくは説明しませんが、君塚は彼女と関わることによってシエスタの死から止まっていた時間が動き始めることとなります。

 

 

 

※ここから先はネタバレを含んだ感想となりますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

3.『探偵はもう、死んでいる。』ネタバレありの感想

個人的に一番盛り上がったのは、なんといっても292ページ目の挿絵ですね。


渚の心臓の中に宿っていたシエスタの意識が表に出て、君塚のもとへと駆け付け手を伸ばすあのシーン。
そこで表紙と全く同じイラストを採用するとは本当にニクイ演出です。
こんなの、これから一巻の表紙を見るたびに思い出すに決まってますやん……。
こういう魅せ方もまた、人気に拍車をかけている一つの要因なんじゃないのかなぁと思います。

 

そして、君塚とシエスタとのやり取りも、なかなかエモかったですね。
君塚は恋愛感情はなかったと言いつつも、シエスタの「実のところ、一度くらい、君となら寝てもいいと思ってたんだけどね」という台詞に対して、「そういう大事なことは、今度から早く言ってくれ」と返したりと探偵と助手にの関係にとどまらない感じでした。

 

1巻時点では彼女の詳細な死因を含めて、まだまだ明かされていない謎がたくさんあるので続きに期待です。
続きといえば、シエスタから探偵の役割を受け継いだ渚が、これからどのような人生を歩んでいくかについても必見です。

 

 

4.この物語を読んだ方におすすめの小説

『緋弾のアリア』

先ほどいくつかのラノベのタイトルを挙げましたが、その中でも特に『緋弾のアリア』がおすすめです。


現代に近い世界観で、銃火器を用いて戦ったり、秘密組織が登場したり、超常の力を持った人間や化け物が敵として立ち塞がったりと、刊行年数こそ離れてはいるものの性質的にはかなり近い作品かと思います。
「探偵」を要素の一部として組み込みつつも、推理がメインではないところも似ていますしね。


現在までMF文庫を支えてきた長寿シリーズということもあり、とにかく数が多いものの、まずは1巻だけ手に取ってみて、もし楽しめるようであればキリのいい5巻まで読んでみてはいかがでしょうか。
ちなみに3巻までアニメ化もされていています。

 

 

2020年に読んだライトノベル・ライト文芸ベスト10

どうも、トフィーです。
みなさん、あけましておめでとうございます。

 

昨年はこのブログを始めたり、ライトノベル新人賞応募にむけて新作を研究し始めたこともあり、例年よりも多くの作品に触れることができたかと思います。


今年はより多くの物語に触れようという抱負を掲げつつ、昨年読んだ中でも特に面白かったなーと感じたラノベ・ライト文芸10作を振り返りつつまとめてみようと思い、この記事を作成しました。

 

作品探しの参考になるように簡単な紹介文も載せておりますので、お時間のある方はぜひご覧ください。

 

※シリーズものも含みますが、このランキングはすべて1巻のみの内容で決定しています。

※2020年以前に発売された作品も含みます。

 

 

 

【第10位】高峰翔『氷の令嬢の溶かし方』 

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第10位には『氷の令嬢の溶かし方』を選びました。

 

単体ヒロインもののラブストーリーです。
誰に対しても氷のように冷たい少女――氷室冬華(ひむろふゆか)。
本書は、そんな「氷の令嬢」とも呼ばれる一人の少女の壁を溶かしていく物語です。

 

ヒロインとの距離の縮めていくまでの過程が非常に丁寧で、甘酸っぱく、じれったく、もどかしい。
『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』が好きな方は、またこちらも楽しめるかと思います。

 

 

【第9位】二丸修一『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』

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第9位は『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』

 

復讐を題材にしたラブコメで、アニメ化も決まっています。

 

初恋の相手に彼氏がいることが発覚した主人公。
主人公に告白したものの振られてしまった幼なじみのヒロイン。
そして、主人公の初恋の相手であり、他の男性に対してはキツく当たっているのに、なぜか主人公に対しては態度を軟化させているもう一人のヒロイン。

 

この3人が織りなすラブコメディは非常に見ごたえがあって、「あー、そうきたかぁ」と思わず口にしてしまうような展開が先に用意されています。

 

【第8位】八目迷『きのうの春で、君を待つ』

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第8位には『きのうの春で、君を待つ』を選びました。

 

本作はタイムリープを利用して、幼なじみの少女の兄を死の運命から救いだそうとする物語です。
この説明だけだと割とありがちな作風のように思えますが、この作品のタイムリープは「ロールバック」の形式をとっています。


1日18時→5日18時~6日18時→4日18時~5日18時→3日18時~……
という感じで、空白の4日間を埋めるかのように、翌日の18時になると一昨日の18時へと戻るという形式です。

この展開方法によって、情報が少しずつ開示されていき、事件の真相に迫っていくため、先の展開が非常に気になった一冊でした。

 

ちなみに本作は1巻で完結するため、手が出しやすいかと思います。

 

 

【第7位】有象利路『君が、仲間を殺した数ー魔塔に挑む者たちの咎ー』

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第7位『君が、仲間を殺した数ー魔塔に挑む者たちの咎ー』です。

重厚で読み応えのあるファンタジー小説。

 

危険な魔物が生息するダンジョンーー《塔》に挑むことを強いられた主人公の物語。

主人公の少年・クライツにはある特殊な能力が発現してしまいす。

 

発動条件:仲間とともに《塔》の中にいる状況で、クライツが死ぬことによって発動する


代償:その仲間を喰らい、クライツ以外の人間の記憶から存在を抹消したうえで、喰らった相手の能力を吸収して翌日に生き返る。

 

いやぁ……エグイ、エグイ。


要するに仲間を犠牲にして死に戻る物語ですね。

 

【第6位】杉井光『楽園ノイズ』

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第6位は『楽園ノイズ』です。 

 

 問題を抱えている少女たちと、音楽を通して心を通わせていく青春ストーリー。

 

「このライトノベルがすごい! 文庫部門 第6位」にも選ばれた作品で、特にラノベを多く読む協力者票を集めていました。
実際に読んでみるとそれも納得の面白さ。

 

主人公とヒロインの掛け合いはテンポよくてクスリと笑えますし、短編連作形式の各ヒロインとの物語にはしっかりとしたドラマがあります。

 

そして最後はしっかりと感情をかき乱してきて、ラストのニクイ演出も手伝って、ほろりとをこぼしてしまいました。

 

【第5位】斜線堂有紀『私が大好きな小説家を殺すまで』

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第5位は『私が大好きな小説家を殺すまで』です。
ここからのランキングは特に悩みました。

 

依存関係にある少女と青年の、破滅へ向かうドラマ。 

 

この作品は、以下の告白から始まります。

『憧れの相手が見る影なく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んでほしかった』

引用:『私が大好きな小説家を殺すまで』

 

もうこれだけで気になったら買って損はないと思います。

 

【第4位】斜線堂有紀『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』

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第4位は『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』 です。
引き続き斜線堂有紀先生によるライト文芸です。

 

片田舎に暮らし、困窮した家庭に縛られる少年が、身体が金塊に変わってしまう致死の病ーー金塊病を患う女子大生と出会い、サナトリウムの中で交流していくといったストーリーです。

難病・家庭問題・感情の証明などといった一見すると難しそうなテーマを含んでいますが非常に読みやすく、また心に訴えかけてくるような感情描写が魅力的で、心に刺さりまくった作品でした。

 

【第3位】八目迷『夏へのトンネル、さよならの出口』

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第3位は『夏へのトンネル、さよならの出口』です。 

『きのうの春で、君を待つ』と同じく八目迷先生による1巻完結の物語。

ノスタルジー

田舎の夏

ボーイミーツガール

ライトなSF

これらの要素を好む方には必見の一冊。 

 


幼少期に経験した妹の死を未だに実感できない主人公の少年が、都会から転校してきたヒロインと協力し、「欲しいものがなんでも手に入る」と噂されているウラシマトンネルを調査するストーリーです。

 

【第2位】村松涼哉『15歳のテロリスト』 

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第2位は『15歳のテロリスト』です。
メディアワークス文庫より刊行されているライト文芸です。

 

なぜ15歳の少年がテロリストになってしまったのか、その謎にせまりつつ、「少年犯罪」の抱える問題にも迫る物語です。


少年犯罪を軸に被害者家族加害者家族の少年少女に焦点を当て、それぞれの悲惨な境遇を描かれています。
彼ら彼女らの心からの叫びには差し迫ったものがあり、グッと作中へと引き込まれました。

またこの小説の感想記事に関しては、「読書感想文」と検索してたどり着いてくださった方が多かったです。
(そういった事情から、記事中にその旨を加筆いたしました)


ライト文芸ということもあり読みやすく、またそれでいて社会問題をテーマに掲げていることから、確かに課題にはうってつけかもしれません。

 

 

【第1位】斜線堂有紀『恋に至る病』

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さて、いよいよ第1位。
君臨したのは『恋に至る病』です。

はい、またまた斜線堂先生の作品です。
基本作者買いをしない自分ですが、こうして振り返ると、2020年は推しの作家を見つけることができた年であったことが認識できます。

 

この本に感じた魅力は以下の3つ。

 

①読んでいる最中のハラハラ感。
ヒロインの少女・寄河景は社会からすれば犯罪者であり、悪女と言える存在です。
そんなヒロインに惹かれてしまい、共犯者の関係となってしまっている主人公の葛藤や終わりへと向かっていくハラハラ感は見ごたえ満点でした。

 

②ヒロイン寄河景のカリスマ性。
ぼくは『ハーモニー』の御冷ミァハや、アニメ『PSYCHO-PASS』の槙島聖護のような危険なカリスマ性を持ったパンチのあるキャラクターが大好物。
この2人に似つつもまた異なる雰囲気が寄河景にはあり、ぶっ刺さりました。

 

③読んだ後も気持ちをかき乱され、またいろいろと考察が捗る圧倒的読後感。

ネタバレになるのでここでは書けませんが、読まれた方や先にネタバレを知ってから読み進めたい方は上の過去記事をご覧ください。

 

 

2020年の振り返り

 

今までどんな価値基準で作品に触れてきたかはあまり深く考えてはきませんでしたが、昨年読んだ物語から10冊を選びランキングを考える中で、ぼんやりと次のような軸が見えてきました。

 

それは、「コメディチックなものよりもシリアスよりな作風を好み、キャラクター以上にストーリーで評価する傾向にある」といったもの。

なので、もしこの記事を読んでくださっている人の中に、似たような感性をお持ちの方がいらっしゃったら、このランキングの作品もドンピシャにハマるかと思うので、気になるものがあればぜひチェックしてみてください。

それでは、今年もよろしくお願いします。

『それでも、あなたは回すのか』感想|ソシャゲ運営のお仕事小説

「そうだ たい焼き、食べに行こう。」

 

どうも、トフィーです。


今回は新潮文庫NEXより刊行された紙木織々先生の小説、『それでも、あなたは回すのか』を紹介させていただきます。


キャラ文芸では定番ジャンルのひとつ、「お仕事モノ」です。
特に主人公が新卒の社員ということもあって、20代前後の方には刺さりやすい作品でした。


また、仕事を題材にしているといっても、今作はソシャゲの運営会社を題材にしているので、 学生の方にも親しみやすいのではないかなと思います。

 


それでも、あなたは回すのか(新潮文庫)

 

1.あらすじ

僕たちは「物語」の歴史の最先端を走ってる。編集者になりたい。そんな夢を胸に出版社を受けるも、就職活動がまったく上手くいかず、ソーシャルゲーム開発会社に入社することになった友利晴朝。配属されたのは、社内で「サ終(サービス終了)」と呼ばれる赤字チームだった……。ユーザーの声がダイレクトに届く運営現場。課金。ガチャ。そして、炎上。急成長するエンターテインメント業界、その内幕を描く新時代のお仕事小説。

引用:それでも、あなたは回すのか(新潮文庫) 

 

2.『それでも、あなたは回すのか』感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★★
新潮文庫(NEX)
2020年12月刊行

 

作者は紙木織々先生。
『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』というライトノベル作品で、オーバーラップ文庫大賞《金賞》を受賞し、デビューされています。


紙木先生自身が、実際にソシャゲ開発会社の中でゲームプランナーとして働かれているようで、今作もデビュー作も強みを活かした作風となっているようです。

 

 

b.作品内容・人物

この物語は主人公の青年・友利晴朝(ともり はるとも)ーー縮めてハトくんの一人称でつづられていくわけですが、個人的にはかなり感情移入がしやすい作品でした。

 

たとえば、冒頭は面接のシーンから始まりまるわけですが、彼はあがり症のために言葉に窮してしまい、文学部であることをうまく自己PRに結び付けられなかったり。

なんとか新卒として入社することに決まったその会社では、周りの社員の境遇が気になって不安になってしまったり。

自分なりに精一杯がんばろうとするも、予想だにしない箇所でもたついてしまい、先輩社員に迷惑をかけてしまったり。

 

そんな感じで翻弄される彼の姿が、社会人一年目のころの自分と重なって見えてしまって、他のライト文芸作品以上に共感することのできるキャラクターだなあと思いました。


このような要素はぼくだけでなく、新卒入社の方であったり、就活中の大学4年生であったり、アルバイトを始めて間もない方であったりと、20代のほとんどの方にはぶっ刺さるんじゃないかなぁ。

 

あとキャラクターについてですけど、同じ部署の先輩社員がみんないい人すぎて泣けてきます。
特に契約社員で主人公の指導係の女性・安村さんとのエピソードは、本当にいい内容でした。

 

 

またソシャゲ好きの方にも、裏側の雰囲気が伝わって面白く感じられるのではないかと思います。
デバック対応や、お客様からの問い合わせ対応、納期に追われる様子やイベントでの不具合、予算についてのあれこれなど、ライトではありながらも結構リアルに描かれていた印象でした。

 

ここまでは作品の魅力を紹介してきたので、気になる点も挙げておきます。
その気になる点というのは、ずばりタイトルと帯の宣伝文句です。


『それでも、あなたは回すのか』というタイトルであるために、今までソシャゲに触れてこなかったけれども、「ソシャゲのどこが面白いの?」、「どういう心理でガチャを回したくなるの?」みたいな疑問や興味から手を出される方もある程度いるはずです。

 

帯の「貴方は私で課金する?」という宣伝文句も、それをあおるような内容ですし。
これに関しては、ある程度読み進めれば「課金」=「芽が出るかどうかも定かではない、2人の問題児たちへの投資」とも受け取れますが、未読の方からすれば当然分かりませんからね。

 

ただ本作はあくまでも製作側の物語。
上で挙げたデバック作業や問い合わせ対応の他にも、プログラマープランナーなどの仕事について少し知ることはできます。
しかし、課金ユーザーにフォーカスした内容ではないために、ソシャゲそのものの魅力について知りたいという方からすれば、あまり満足できないかなあと思います。 

 

ただ、上であげたミスマッチさえ起こらなければ、お仕事小説としては十分に楽しめると思うので、気になった方はぜひ手を出してみてください。

 

 

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3.『それでも、あなたは回すのか』ネタバレありの感想|安村さんについて

本作では数多くの人物が登場しました。


高卒で主人公と同じ新卒採用された表紙の女の子・青塚凜子(あおつか りんこ)。

筋トレとサッカーが趣味のプランナー・猪原太郎(いのはら たろう)

インテリヤクザ風プログラマーの鹿宮卓(かみや すぐる)

デザイナー&イラストレーターのふわふわとした口調のお姉さん・天花寺蝶子(てんげいじ ちょうこ)

単語以上の言葉を発しないプログラマーの男性・峰(みね)さん。

上述のメンバーが所属する、プロジェクト『タクト』のディレクター・篠森淳之介(しのもり じゅんのすけ)

 

他にも様々なキャラクターがいましたが、ぼく的には主人公を除けばやっぱり、プランナーの安村瞳(やすむら ひとみ)さんが一番印象に残りました。 


安村さんですが、登場時点では無表情で厳しそうな女性社員というイメージでした。
しかし、物語が進むにつれてしっかりと主人公を成長させるために指導してくれるよき先輩社員であることがわかります。


カレー屋でのエピソードや、ミスをしてしまった主人公へのフォロー、同期入社の青塚までをも思いやっての行動、好物がたい焼きであるなど、それらの姿がなんともまあ魅力的。

 

そして忘れていけないのが、転職のため会社から離れることが明かされたあとでのたい焼き屋でのやりとり。


新卒時代の出来事から人を信じることをやめ、当初は主人公のこともまったく信用していなかったという告白。
けれどもそのあとに、ひたむきに頑張る彼の姿に「本当に久しぶりに、人を信じることができました」と続く言葉。
そして、彼女が残した「期待している」という言葉は、その後にもハトの背中を押し、いなくなった後も、存在感を残していくどこぞの柱のような姉貴っぷり。

 

別れ際の「ーーそれじゃあ、ハト君。お疲れ様」と、呼び名が「ハトさん」から「ハト君」から変わったのも、またこみあげてくるものがありました。

 

続刊があるなら、また彼女と再会できることに期待します……なんてことを読みながら思っていましたが、意外にも終盤で再登場。
数日間限定の助っ人として、ちょっぴり成長したハト君とともにデバック作業に打ち込むのでした。

  

本作を読み終えて、彼女のことを思い返し、ぼくは決めました。
「そうだ たい焼き、食べに行こう。」と。

 

 

 PS.362ページの各章タイトルの回収は、なかなかにグッときました。

 

4.この物語を読んだ方におすすめの小説

『これは経費で落ちません!』
ドラマ化もされた小説。
経理を務める女性の目から見る会社の物語。

 

 
『わたし、定時で帰ります。』
絶対に定時で帰ると決心した女性社員の物語。
タイトルの響きが素晴らし。
 
 

【メンタリスト】やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにぐいぐいいく|第1巻の感想

もはやメンタリスト級の読心術

 

どうも、トフィーです。

 

今回はGA文庫刊行のライトノベル、『やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにぐいぐいいく』を紹介させていただきます。

 

……タイトルが長いっ‼
初見の方でも、なんとなく察せられるかとは思いますが、『小説家になろう』発の作品です。
ページタイトルを32文字以内に収めたい、ブロガー泣かせのタイトルですね()

 


やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにぐいぐいいく (GA文庫)

 

 

 

1.あらすじ

「猛毒の白雪姫」こと白金小雪。美少女だが毒舌家な彼女をナンパから救った笹原直哉は、その日から小雪につきまとわれる。得意の毒舌で直哉をからかおうとする小雪だが…。直哉にはまったく効かなかった!やたらと察しがいい直哉は、小雪の言葉の裏にある心を読み取りグイグイ距離を詰めていく。お互いの「好き」を確かめるために。WEB小説発。ハッピーエンドが約束された、すれ違いゼロの甘々ラブコメディ。

引用:やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにぐいぐいいく (GA文庫)

 

 

2.『やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにぐいぐいいく』第1巻の感想・レビュー

a.評価と情報

個人的評価:★★★☆☆
GA文庫
2020年7月刊行
小説家になろう原作

 

作者はふか田さめたろう先生。 
こちらはなろう用の別名義で、元々は霜野おつかいという名義で書かれていた方で、第5回GA文庫大賞《奨励賞》を受賞しデビューされています。
今回の作品や『元勇者、印税生活はじめました。~担当編集はかつての宿敵~』など、GA文庫から何種類かの作品を出されているようです。

 

 


イラストはふーみ先生。
ぶっちゃけますと、ぼくは表紙買いしました。
ぼくは無類の銀髪好きとして、ごく一部の界隈で知られていたりいなかったりするのですが、少し前に書店でピンと来て購入したわけです。

 

 なろう発の作品は、『氷の令嬢の溶かし方』以来になりますね。 

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b.作品内容・キャラクター

主人公の笹原直哉(ささはら なおや)は、とてつもなく察しがいい少年です。
どれくらい察しがいいかというと、相手のことを少し見ただけで、心情はもちろんのこと素性なども見抜いてしまうほど。
もはや超高校級のメンタリストと言われてしまいそうなレベルです。
メンタリストNaoYaと呼ぶべきかもしれません。

 

そんな直哉ですが、銀色の髪の少女がスーツ姿のチャラ男に絡まれているところを目撃します。
彼は持ち前のメンタリズムを駆使して、チャラ男を撃退しますが、その日はバイト中でだったためそれっきり。
少女の顔をちゃんと見ることもなく別れます。

 

そして次の日に、学校で顔を合わせることになり正体が判明。
彼女は、「猛毒の白雪姫」と噂される少女・白金小雪(しろがね こゆき)だったのでした。

 

「猛毒」という言葉を含んでいることからも想像がつくかとは思いますが、彼女の言動にはトゲがふんだんに含まれています。
そのことから周りの生徒はみな距離を置いていたわけですが、直哉はもちまえの読心術で小雪が本心では自分に対して好意を抱いていることを見抜きます

 

その後、いろいろとあり、小雪との距離が縮まったのですが……。
彼は察しがいいだけでなく、思ったことはズバズバと言ってしまうタイプ。
さらには耳までいいものだから、いわゆる難聴系主人公とは真逆の性質のキャラクターです。

 

「あの程度で恩を売ったと思わないことね!」
「つまり、放課後どこかに誘いたいんだな?」
「ち、違わなくも、ないっていうかぁ……。ま、待ってるから!」

引用:『やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにぐいぐいいく』第1巻・カラー絵より

 

クーデレというよりはツンデレな気もしますが、強気な口調で毒を吐くにも関わらず即座に見抜かれて撃沈する様は、なかなかに可愛らしいですね。

 

要するに、両想い系ラブコメです。
直哉は人の心情を見抜けるから、小雪が自分に対して恋愛感情を抱いていることをヒシヒシと感じ取れてしまっている。
そして、小雪に対してもグイグイと好意を伝えていくわけです。


ラノベに限らず、ラブコメ全般でよくある難聴系主人公に対してモヤモヤとした想いを抱えている方にはおすすめできるかなと思います。

 

一方で気になる点としては、物語にあまりおおきな起伏がなかったことが挙げられます。
そのため「ハラハラした展開が欲しいなぁ」という方には、あまり向かないかもしれません。
これについては、『小説家になろう』でのニーズの関係上しょうがないのかなぁとも思います。

 

ただ、起伏がないことは、裏返せば「安心して読める、ストレスフリーの物語」と捉えることもできるので、この点に関しては普段読んでいる作品によって評価が分かれるのかなあと思います。

 

 

ちなみに、こちらが帯のイラスト。
これイラスト1枚に、今作品の魅力がグッと詰まっています。

 

01

引用:やたらと察しのいい俺は、毒舌クーデレ美少女の小さなデレも見逃さずにぐいぐいいく (GA文庫)

 

 

 
 

 

3.この物語を読んだ方におすすめの小説

『お隣の天子様にいつの間にか駄目人間にされていた件』

まずは、定番どころから行きましょう。
こちらもなろう発・GA文庫刊行の作品で、 いちゃあまが続くタイプの物語になっています。
ただ話の展開の仕方が慎重で、お互いに好意を示すことはほとんどありません。
じれったいラブコメを読みたいかたにはおすすめの一冊です。

 

 

 

『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』

続いて紹介するのは『おさまけ』と略されるこの物語。
テレビアニメ化も決まった作品です。
未読であれば、とにかく読んでいただきたい。
お姉さんぶって接してくるヒロインが返り討ちにあって赤面する姿は、小雪と通じるところがあります。

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『友達の妹が俺にだけウザい』
少し系統は変わりますが、ライトノベルらしいラブコメ作品をひとつ紹介。
タイトルがすべてを物語っていますが、さらにプラスアルファで同人サークルのようなノリであったり、それぞれが抱える問題などが描かれています。
1巻時点では表紙の子の他にももう1人のヒロインが登場するため、ハーレム的な空気感が好きな方にはおすすめです。

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