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村瀬健『西由比ヶ浜駅の神様』感想・レビュー

どうも、トフィーです。


今回はメディアワークス文庫刊行のライト文芸小説、村瀬健先生の『西由比ヶ浜駅の神様』を紹介させていただきます。 
幽霊電車の中で、亡くなってしまった最愛の人に心残りの言葉を告げる連作短編(各章の登場人物がたびたび別の章で顔を出す形式)です。

 

 

【追記】
タイトルの「西由比ヶ浜」の読み方は、「にしゆいがはま」です。
「読み方」や「ふりがな」について検索されている方が、多かったため追記させていただきました。


確かに駅名や地名って、初見だと分からなかったりすることがままありますよね。
上挙母駅(うわごろもえき/愛知県)とか、安足間駅(あんたろまえき/北海道)とか、まず読めませんよね……。

 


西由比ヶ浜駅の神様 (メディアワークス文庫)

 

 

1.あらすじ 

過去は変えられないが、未来は変えられる――

鎌倉に春一番が吹いた日、一台の快速電車が脱線し、多くの死傷者が出てしまう。
事故から二ヶ月ほど経った頃、嘆き悲しむ遺族たちは、ある噂を耳にする。事故現場の最寄り駅である西由比ヶ浜駅に女性の幽霊がいて、彼女に頼むと、過去に戻って事故当日の電車に乗ることができるという。遺族の誰もが会いにいった。婚約者を亡くした女性が、父親を亡くした青年が、片思いの女性を亡くした少年が……。
愛する人に再会した彼らがとる行動とは――。

引用:西由比ヶ浜駅の神様 (メディアワークス文庫)

……と、あらすじはこんな感じです。
以下で、より詳しく紹介していきます。 

 

2.『西由比ヶ浜の神様』感想・レビュー 

a.評価と情報

評価:★★★★★
メディアワークス文庫
2020年6月刊行 

 

『西由比ヶ浜駅の神様』は上述した通り連作短編の形式をとっていて、プロローグを除いて4つの物語がつづられています。

 

作者は村瀬健(むらせ たけし)先生。
第24回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》を受賞され、『噺家ものがたり~浅草は今日もにぎやかです~』でデビューされています。
こちらは、新人落語家の物語で、『西由比ヶ浜の神様』同様に温かな人間模様を描いた物語です。

 


噺家ものがたり ~浅草は今日もにぎやかです~ (メディアワークス文庫)

 

b.Tik Tokでバズった?

 

 

『西由比ヶ浜駅の神様』ですが、Tik Tokでバズって売り上げを伸ばしていたようです。
その当時のぼくは、まだこの小説を読んでいなかったため、どれほどの影響があったのかは詳しくは存じあげません。


ただ、過去に当ブログで紹介させていただいた『恋に至る病』も同じようにTik Tokでバズって、Amazonなどで在庫が1日で完売するなど、重版に少なくない影響を与えていたことから、今作に関してもそれなり以上の宣伝効果があったのではないかと想像できます。
(『恋に至る病』のTik Tok事変については、以下のリンク先で紹介しています)

 

時代の変化かなぁ……。

www.kakidashitaratomaranai.info 

 

c.作品内容・キャラクター

脱線事故により、「大切な人の死」を失ってしまった人たちに焦点を当てた物語。

 

全4話の中で、婚約者を亡くした女性、父を失った青年、想い人と死に別れた少年、そして運転手だった伴侶を失い加害者家族となってしまった妻の物語が描かれています。 

 

物語の進み方としては、1話「彼へ。」4話「お父さんへ。」は、訃報を受けるところから描かれ、故人との思い出を回想していきます。
対して2話「父へ。」3話「あなたへ。」は、亡くなる前の日常から始まり、事故の起こる日に向かって進んでいきます。

そうしていずれの章でも、遺族は幽霊電車の噂を聞きつけ、西由比ヶ浜駅に現れる「雪穂」という名の幽霊のもとを訪ねます。

 

幽霊電車には以下のルールがあります。

 

・亡くなった被害者が乗った駅からしか乗車できない。

・亡くなった被害者に、もうすぐ死ぬことを伝えてはいけない。

・西由比ヶ浜駅を通り過ぎるまでに、どこかの駅で降りなければならない。西由比ヶ浜駅を通過してしまうと、その人も事故に遭って死ぬ。

・亡くなった被害者に会っても、現実は何一つ変わらない。何をしても、事故で亡くなった者は生き返らない。脱線するまでに車内の人を降ろそうとしたら、元の現実に戻る。

(『西由比ヶ浜駅の神様』本文より引用)

 

ルールにもある通り、現実は何一つ変わらない。

それでも、遺族たちは過去に戻って事故当日の電車の中に乗り込んでいくのです。

 


どれも胸に迫る内容になっているのですが、ぼくは中でも第二話の「父へ。」が最も印象に残りました。

 

 

主人公は社会人に成りたての青年
彼は、子どものころから地元の小さな工務店に勤める父を軽蔑していました。
父親とは違う人生を歩むために、上京して大学に進学し、商社に就職します。

さあ、平均年収1,200万の華やかな未来が始まるぞ‼
……という感じにはならず、上司に目を付けられてしまい、会社では全然うまくいきません

 

疲弊し続ける日々の中で、父からの留守電が入ってくるわけですが、もちろん無視
それでも父は明るい調子で、ちょっとした用事を見つけては、連絡を入れてくるのです。

はぁ……。
辛い、辛いです。
疎遠になってしまった息子を心配し、コミュニケーションを図ろうと頑張る父親の姿を想像すると本当に胸が締め付けられてしまいます。


そして、その後に待ち受ける『別れ』のことを考えると、いっそのこと読むのをやめてしまいたくなるわけですが、なんとか読破‼
案の定、最後には涙を流すこととなりました。

 

昔は映画やら小説やらで泣くことはなかったのに、最近涙もろくなってきているなぁ……という個人的なつぶやきはさておいて。

 

『西由比ヶ浜の神様』は涙を誘うようなお話ばかりで、感動系の小説を読みたい方には本当におすすめの一冊となっていますので、気になった方はぜひ手に取ってみてください。

 


西由比ヶ浜駅の神様 (メディアワークス文庫)

 

 

 

※次の項目ではネタバレを含んだちょっとした感想も載せていますので、未読の方はご注意ください。

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3.『西由比ヶ浜の神様』ネタバレありの感想

「脱線事故により、「大切な人の死」を失ってしまった人たちに焦点を当てた物語」と述べましたが、最後の章まで読み終えると、各エピソードの見方が変わってきます

 

というのも、第4話の雪穂によってこれまでの認識がガラリと変えられてしまうからです。

 

「この電車にいる人たちは、魂が成仏できずにこの世に居残っている。幽霊電車に乗っている人間は、脱線事故で死んだことを覚えている。事故の際の記憶を保持したまま、この電車に乗っているの。けれど、幽霊は幽霊。何をしたところで事故は起きてしまうし、現実は何も変わらないの」

(『西由比ヶ浜駅の神様』本文より引用)

 

最後の最後で、亡くなった人たちが運命を自覚していると明かされるわけです。
そして、「だから、お父さんはあんな話をしたのか」といった感じで物語の見方が変わってきます。

 

「遺族目線で見てきた物語を、今度は被害者目線でもう一度読みたい」と思えるような内容になっていて、一冊で何度も楽しめるような構成になっているのはさすがだなぁと思いました。

 

 

4.この物語を読んだ方におすすめの小説

 今回は感動路線の小説を3冊紹介させていただきます。

『15歳のテロリスト』

少年犯罪をテーマにした物語。
『西由比ヶ浜駅の神様』と同じく、被害者家族と加害者家族の双方に焦点を当てられており、いろいろと感情をかき乱された名作でした。

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 『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』

【金塊病】という病を患う女子大生と、彼女に惹かれてしまった少年の物語です。
片田舎のサナトリウムを舞台に、二人は「家庭と金」「愛の証明」などの問題にかき乱されていきます。

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『恋する寄生虫』

潔癖症の青年と、視線恐怖症の少女の物語。
そんな二人が惹かれ合うのは必然的――――彼らもぼくも途中まではそう思っていました。
プラトニックな恋愛切なく苦しい真実が描かれます。
やるせない空気感が好きな方におすすめの一冊です。

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このブログでは他にも色々な小説を紹介していますので、もしよければ次の一冊を選ぶ際の参考にご活用ください。

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