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【源氏物語のマンガ】『はやげん!』をおすすめしたい!

 

反実仮想の助動詞「まし」が古文の助動詞の中で一番好きなAuraです。あんまり出てこないですけど、その分ここぞという場面で使われていて心に残ります。

 

さて、この記事をご覧になっているということは『源氏物語』に興味がある……と考えてもいいですよね!?笑

 

念のために、基本情報を確認しておきます。
『源氏物語』は平安時代中期に成立した、紫式部の手になる長編物語です。
日本文学の最高峰といってよい作品で、1000年経った現代でも、多くの人を惹きつけてやまない魅力や奥深さを持っているのです。

 

高校で必ず習う作品ですから、中身についてもよく知られて……いません。

 

そりゃそうですよ~~、何せ全体の文字数が約100万文字と言われていて、これは実に文庫本10冊分に相当しますから、さすがに授業で扱われるのはごく一部。
(PCがなく紙も貴重であった平安時代にこの文章量ですから、その凄まじさが理解できますね)

 

授業で習う巻は「桐壺」「若紫」の一部が基本で、他に「葵」や「浮舟」などをやるかどうか…といったところです。

 

今回は「源氏物語を大まかに知りたい!でも手軽に!!」という方におすすめのマンガ、
『はやげん!~はやよみ源氏物語~』をご紹介します。(以下、『はやげん!』と表記します)

 

 

 

『はやげん!』の特徴

『源氏物語』のマンガと言いますと、大和和紀(やまとわき)著『あさきゆめみし』[全13巻]が抜群の知名度と人気を誇っています。
こちらもおすすめですが、「1冊で読みたい!」という方には『はやげん!』を推したいです。

 

1冊ではありますが、全54帖(じょう)の物語がよくまとめられていて全体像をつかみやすいです。
1帖につきおおよそ2~6ページで書かれています。(全199ページ)

 

表紙から分かるように絵柄が可愛い感じですけれども、親しみやすくて僕は気に入っています。
また、『源氏物語』は登場人物が多くてややこしいですが、描き分けられていて判別しやすいのもいいですね。
「平安時代らしい見た目じゃない!」というツッコミは野暮というものです 笑

 「人物イラスト紹介」の項で、実際のイラストをいくつか載せています。

 

ギャグテイストな描写の多さは、人によって評価が分かれる点かもしれませんが、「手軽さ」という意味ではアリだと僕は思っています 。
ちゃんと真面目なシーンやしんみりするシーンもありますし!

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メ、メリケンサック…!?

花園あずき『はやげん!~はやよみ源氏物語~』(新書館)

 

何より、『はやげん!』は僕が文学部にいた頃、入門にうってつけということで大学の先生におすすめされた本なんです 笑

「えっ…最高学府である大学で、先生から漫画を薦められるとは!ありがたい!」と思いましたね、いきなり原文全部を読む、とかだったらハードですし…笑

 

 

人物イラスト紹介

光源氏

『源氏物語』の主人公。「光」の名の通り、美しい容姿を持ちなおかつあらゆる才に秀でた貴公子。

 

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烏帽子欲しいんですけど、どこで買えるんでしょう。

花園あずき『はやげん!~はやよみ源氏物語~』(新書館)

 

こう書くと「完璧人間」みたいに見えるかもしれませんが、そうではありません…!人間的苦悩に満ちた「闇」もあってこそ『源氏物語』が成り立つんです。

 

『はやげん!』で唯一、僕が首を傾げたのは、光源氏が「ダメ人間寄り」に描かれていることです。確かにいただけないところも数ある彼ですが、それでも!「光」の名は伊達ではありませんよ…!!

以上、『源氏物語』好きからのめんどくさい補足でした 笑

 

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明石の御方を導くかっこいい光源氏(「明石」の巻)

花園あずき『はやげん!~はやよみ源氏物語~』(新書館)

 

 

藤壺の女御(ふじつぼのにょうご)

光源氏の母、桐壺の更衣(きりつぼのこうい)に生き写しだという女性。母の顔すら知らぬ光源氏は、その面影を藤壺に求めた。

 

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ちなみに桐壺の更衣と藤壺に血縁関係はないんです。似ているのは偶然。

花園あずき『はやげん!~はやよみ源氏物語~』(新書館)

 

藤壺は帝の寵愛を受けながらも光源氏の想いを拒み切れず、やがて密通することとなる。

 

よく「光源氏はマザコン」と揶揄される所以がここにありますが、全くもって僕は賛同しかねます。

 

話が脱線するのでここではつまびらかにできないのですが、光源氏の思慕の始点はあくまでも藤壺の女御であって桐壺の更衣ではないんですよね……。

以上、『源氏物語』好きからのめんどくさい補足第2弾でした 笑笑

 

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藤壺・紫の上・女三の宮(おんなさんのみや)の系譜を「紫のゆかり」と言います。

花園あずき『はやげん!~はやよみ源氏物語~』(新書館)

 

 

紫の上

高校古典でおなじみ「若紫」の巻で登場。
藤壺の縁者であり、彼女に似た少女ということで光源氏が想いを寄せる。紫の上もまた、(光源氏の行動などがきっかけですが)内面的な苦悩を深めていく。

 

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可憐な少女、紫の上

花園あずき『はやげん!~はやよみ源氏物語~』(新書館)

 

『源氏物語』のメインヒロインは紫の上と言っていいんじゃないかな~と思います。藤壺も同じくらい重要なポジションにいますが…。

 

僕は大体の物語でメインヒロインを推すという実直なファンなので、『源氏物語』ならば必然的に紫の上が好きなのです 笑

 

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大人になった紫の上(「野分」の巻)

花園あずき『はやげん!~はやよみ源氏物語~』(新書館)

 

 

「若紫」の巻を原文と見比べる

ここでは、「若紫」の巻の一部を、原文と『はやげん!』とで見比べてみようと思います!

『はやげん!』がこちら。

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源氏物語で一番有名なシーンと言っていいでしょう。

花園あずき『はやげん!~はやよみ源氏物語~』(新書館)

 

原文での同じ場面がこちら。

清げなる大人二人ばかり、さては童べぞ出で入り遊ぶ。中に、十ばかりにやあらむと見えて、白き衣、山吹などの、なえたる着て走り来たる女子、あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えてうつくしげなる容貌なり。髪は扇をひろげたるやうにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立てり。

「何事ぞや。童べと腹立ち給へるか。」

とて、尼君の見上げたるに、少しおぼえたるところあれば、子なめりと見給ふ。

「雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちに籠めたりつるものを。」

とて、いと口惜しと思へり。

 

この部分は教科書にも載っていますよね。
『はやげん!』の方は尼君に関する描写が減っていて、幼い紫の上に焦点が当てられていることが分かります。

 

『はやげん!』では、他の帖でもこのように主要人物の動きを分かりやすくする工夫がなされています。

 

『源氏物語』など古典を読む時気をつけたいこと

『はやげん!』自体の紹介とはあまりの関係ない項なのですが、「古典を読む時に気をつけたいこと」をどうしてもお伝えしたいです…!

 

古典を読む時の二つのポイント

それは、以下の二点です。

①現代の価値観や考え方を持ち込み過ぎない

 

②逆に、隔たった時代の作品でも共感できる

 

①現代の価値観や考え方を持ち込み過ぎない

古典作品あるいは、古典がテーマの現代の作品に対して、「こんなことするだなんてなんなの!?ありえない!」というような言い方をたまに見かけることがあります。

 

しかし、「当時の価値観や考え方がある」という前提を忘れないでほしいと僕は思います。
無論、現代の視点からアレコレ語るのも楽しいことではありますが、それを持ち込み過ぎて、作品自体に否定的な評価をつけたりするような事態は避けられるべきです。

『源氏物語』の場合、恋愛がひとつのテーマになっているために、いろいろ言われやすいのでしょう 笑

 

分かりやすさのため少々飛躍したたとえをしますが、『マッチ売りの少女』を読んで、「こんな劣悪な環境で小さな子どもを働かせるなんておかしい!」というツッコミはしないですよね。

 

きちんと作品世界の前提を踏まえること。これは古典作品のみならず今の作品に対しても必要なことですが、何かと古典は前提が忘れられやすいんです。

僕たちの親・祖父母の世代ですら考え方の違うことがあるんですから、1000年も過ぎていれば最初は理解しにくいのも無理ないですが…笑

 

②隔たった時代の作品でも共感できる

しかしながら逆に、幾星霜を経ても共感できる・理解できることがあると思います。
当時の価値観を踏まえて初めて分かることもあれば、時代を問わず分かることもあるでしょう。

そりゃ人間ですからね、根本はそう変わらないのかもしれません 笑

 

「古典の世界の人間は全く違う人種なんだ…」と思う高校生の方もおられるかもしれませんが、今と変わらない人間の姿もまた、そこには描かれています。

時代が隔たっていても分かることがありますから、古典を手繰り寄せる考え方として覚えておいてほしいな~~と思います!笑

 

『源氏物語』は栄光と苦悩・没落を描く

あ、『源氏物語』についてもう少しだけ…!!
(『源氏物語』に限りませんが)物語を「途中」までで評価しないよう気をつけてください。

『源氏物語』は、主に「光源氏の栄光と苦悩・没落」が描かれていて、その落差が大きな意味を持っているのですが、「栄光」の部分だけを切り取って「光源氏って調子乗ってるよな~」という浅い見方をしてしまう方がいます。

 

再びたとえになりますが、『ドラえもん』のよくある話のパターンを抽出した時、
「のび太が、ドラえもんの道具の力で全てを手に入れるという話
と言われたら違和感しかないですよね。

 

正しくは
「のび太が、ドラえもんの道具の力に増長し、時にはしずかちゃんを泣かせ、遂にはしっぺ返しを食らうという話
になるでしょう。

 

この因果応報を受けるという話の構造だけなら、『源氏物語』も共通しているんです。
ま、光源氏はのび太と違って、自前ですごい力持ち合わせてるんですけどね!!!笑

 

 

おわりに

話が逸れてしまいましたので、『はやげん!』についてまとめます! 

〇1冊で読める

〇絵柄のタッチが可愛い

〇ギャグテイスト多めで面白い

〇大学の先生もおすすめしてた

〇主要人物の動きが分かりやすくまとめられている

 

〇光源氏が「ダメ人間寄り」に描かれていることだけは注意

 

『はやげん!』を入口として、『源氏物語』への興味を深めていただけましたら幸いです。
ここからマンガ『あさきゆめみし』でも、小説でも、はたまた原文でも、『源氏物語』の世界へ飛び込んでみてほしいと思います!笑

 


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