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【夏に読みたい小説】八目迷『夏へのトンネル、さよならの出口』感想・レビュー

「ノスタルジーな田舎の夏、鮮やかな青春とライトなSF」

どうもトフィーです。このブログを始めてから、本を読む量が倍増しました。

今回は八目迷先生の小説『夏へのトンネル、さよならの出口』を紹介していきます。
いい意味で、えげつない作品です。(語彙力)
デビュー作にして高い完成度を誇る作品で、見事にその世界観に引き込まれました。
ライトノベルにしては珍しく一巻完結にして、数巻分の満足度がえられます。

この小説の一番の美点は、巧みな情景描写でしょう。
筆力を感じさせる文章で綴られる、ひと夏の不思議な青春ストーリーには、読者を強く惹きつける力がありました。

そしてもう一点、この本を読み終えた時に「あともう一ヶ月、待てばよかった……」と後悔しました。

それほどまでに夏に読んで欲しい一冊です。

もちろん、いつ読んでも楽しめますけどね 笑

どちらかといえば、ライトノベルというよりはライト文芸に分類されるであろう作品だと思います。
美麗なイラストに劣らない、清廉なストーリーでした。


夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)

 
 
 

1.あらすじ

「ウラシマトンネルって、知ってる?そこに入れば欲しいものがなんでも手に入るんだけど、その代わりに年を取っちゃうの―」。そんな都市伝説を耳にした高校生の塔野カオルは、偶然にもその日の夜にそれらしきトンネルを発見する。―このトンネルに入れば、五年前に死んだ妹を取り戻すことができるかも。放課後に一人でトンネルの検証を始めたカオルだったが、転校生の花城あんずに見つかってしまう。二人は互いの欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶのだが…。かつて誰も体験したことのない驚きに満ちた夏が始まる。

引用:夏へのトンネル、さよならの出口 (ガガガ文庫)

 

2.感想・レビュー

 

a.評価と情報


評価:★★★★★
ガガガ文庫
2019年7月刊行 
第13回小学館ライトノベル大賞「ガガガ賞&審査員特別賞」を受賞(レーベル史上初)

W受賞という快挙を成しとげた作品。
受賞時は『僕がウラシマトンネルを抜ける時』という題名でした。

またこの年には『クラスメイトが使い魔になりまして』についても、同じく『ガガガ賞&審査員特別賞』を受賞しています。

二作品がダブル受賞となった経緯について、ゲスト審査員を務めた浅井ラボ先生はこのように語っています。
『されど罪人は竜と躍る』で有名な先生ですね。

 

審査員である私と編集者各位と編集長という全員の評価が分かれ、当落と受賞で長い議論が続いた賞です。

《中略》

次に、方向性の違う二作品に上下をつけることは「この路線が正解で、あの路線は次点となる」と投稿者の方々に誤解させ、賞の方向性を狭める危険性がある、と私なりに考えました。
両作者がもし大賞に固執していたなら、私ではなく同時代に相手がいたことを恨んでください!
そこで異例ではありますが、私からの提案と編集部の協議の結果、ガガガ賞と審査員賞のW受賞者を二人としました。

引用:https://gagagabunko.jp/grandprix/entry13_FinalResult.html

 

ようするに受賞時の段階で、これほどまでの議論を引き起こすほどの魅力が『夏へのトンネル、さよならの出口』にはあったということです。
当時と比べるとタイトルだけでなく、おそらく内容も改良されているはずです。

ぼくも実際に読んでみて、W受賞に見合う内容だったと感じました。

 

b.作品内容

 

この物語を、一文で説明するならば……
世界から置いて行かれることと代償に、欲しいものが手に入るトンネルへと潜る少年少女のボーイ・ミーツガール。
……といったところでしょうか。

時間をとるか、失ったものを追い求めるのか。
彼らの選択と結果はその目で確かめていただくとして、この項では重大なネタバレを避けて語っていくとしましょう。

ウラシマトンネルを介して展開される、少年少女の衝突や葛藤、友情とそれから恋愛。
「青春小説」として求められるもののほとんどが、この小説の中にはあるのではないでしょうか。

また他にも、グッとくる要素が盛りだくさん。
胸を締めつけるようなノスタルジックな田舎の夏。
幼少期に経験した妹の死を、未だに実感できない主人公・塔野カオル。
そんな彼の視点で紡がれる高校生たちの青春ストーリー。

 

まったくもってうまい作品です。
まさしく王道の詰め合わせ。
それを秀でた文章力で描きあげているわけですから、面白くなるに決まっています。

 

ぼくも一応文章を書く身なわけですが、この本を読んでいると八目迷先生の才能に「ずるい」と思わず嫉妬してしまうわけです。
そりゃあ浅井ラボ先生も絶賛しますわと。
「ここからが青春小説の新時代」という浅井先生の帯の推薦文にも納得せざるをえません。
小学館ライトノベル大賞を狙っている方にとっては、研究対象として必読の一冊でしょう。

また純粋な読者としての感想としては、まだまだこの物語に浸っていたい、この先も読みたいというところでしょうか。
ページをめくるたびに「まだまだ終わって欲しくない」と思ってしまったのです。
もったいなさから、あえて物語を読み進めるのを中断してしまうくらいには。

人生でそこそこの量の小説を読んできましたが、ここまでの感情を抱かせてくれたモノは、ほんのわずかしかありません。
だからこそ、自信をもって最高評価の星5をつけました。


c.キャラクター

 

塔野カオル

 

この物語の主人公。
五年前に妹のカレンを亡くし、それをきっかけに母は蒸発、精神的に不安定な父と二人暮らしをしています。
妹を死なせてしまった原因は自分にある、と自身を責め続けていた彼ですが、学校の帰りにたまたま噂で耳に挟んだ「ウラシマトンネル」を発見。
妹を取り戻すために探索を決意しますが、とある事情からあとをつけていた花城あんずに、トンネルの存在が発覚します。
彼はあんずに自身の過去を打ち明けます。
そして彼女と秘密の協力関係を結び、彼の日常もまた少しずつ変わっていきます。

 

花城あんず

 

この物語のヒロインで、表紙の少女です。
都会から引っ越してきた転校生ですが、初日から天才ぶりを発揮する一方で、人を寄せつけないような雰囲気を醸し出し、早くも孤高の存在となります。

花城あんずは自分に「基準」を課し、それをもとに行動する芯のある少女です。
クールだけど本当は子どもっぽい、現実主義者のようで夢追い人、強さと弱さを兼ね備えるなど、様々な「二面性」を有した非常に魅力的な女の子です。
イメージとしては、有名作品で例えるとするならば『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の雪ノ下雪乃と 、『いなくなれ、群青』の真辺由宇を足して割ったような性格、といったところでしょうか。

そんなあんずですが、カオルがウラシマトンネルに一週間閉じこもっていた間に、彼女を取り巻く環境が一変していました。
クラスを牛耳るわがまま女王・川崎小春に目をつけられていじめが始まっていたのです。
あんずは小春に対し、涼しい顔で完全無視を決め込み続けていましたが、「はぁ。もういいや。ちょっと殴るね」と宣言したのちに顔面グーパンチをお見舞い。
小春は報復のため上級生の先輩を引き連れ、あんずを教室から連れ出してしまいます。
そのあとを追うカオル(とその友人)。
色々とあったのち、あんずは彼の残したある言葉に興味持ち、その真意を尋ねるために彼のあとをつけるのでした。

その後は上での説明通り、カオルと協力関係を結び、ともにウラシマトンネルの探索を行っていきます。
うーん、カオルと比べて文章量が明らかに多いなあ……。

 

そして今年に入って八目迷先生の新刊『きのうの春で、君を待つ』が発売していたみたいです。
ああ、また読む本が増える……。(嬉しい悲鳴)




例のごとく、このあとには核心的なネタバレをふくむ感想を書き連ねています。
未読の方は、作品を一読してからご覧ください。
特に今回に限っては本当に……。

 
 
 
 
 
 
 
 
 

3.ネタバレありの感想

「ウラシマトンネルを抜けると砂浜であった」

導入から幕引きまでのすべてが丁寧な小説でした。

大筋についてはおおかた予想通りでした。
塔野カオルが最終的にカレンを連れ出せないであろうこと、彼女の死を受け入れて「現実と向き合う力」を手に入れること。

一つ予想外だったのが、あんずがすぐにカオルを追いかけず、彼の願いの通りに漫画家をめざしたことでしょうか。
けれどもそれも納得のいく選択でした。
5年間待ち続け、22歳になってから決心がつきカオルを追いかけるその健気さには強く胸を撃たれました。

心を打たれたといえば、カレンから「愛するしかく」を受け取る場面もそう。
あれはずるい。感情のないアイムトフィーで有名な(?)ぼくでも、さすがに涙腺がゆるんでしまいました。

とまあ若干脱線しましたが、だいたい半分は展開が読めていたわけです。
それでもこの物語には感動させられました。
情景描写もそうですが、八目迷先生は感情の魅せ方がとにかくうまいわけで。
うえでも触れましたが、彼ら彼女らの選択には納得がありましたし、感情移入も容易にできるので応援もしたくなる。

トンネルを抜けたときには、二人とも社会的には30歳。
実際の年齢としては、カオルは17歳であんずは22歳、けれども同級生となんともちぐはぐで不思議な組み合わせ。
あんずもですが、カオルの13年と45日のブランクはきっと大きな壁となるでしょう。(そのうえ、中卒ですしね)
けれどもビジネスホテルでの無邪気なじゃれ合いっている様子からして、この二人なら苦労はしつつも、うまくやっていけるんじゃないかなと思います。
そしてきっと、父親と向き合える日も来るでしょう。

またこれから変わるかもしれませんが、現時点では「青春小説」というくくりで考えると、ぼく史上一番の作品だと思います。

最後になりますが、『夏へのトンネル、さよならの出口』はまちがいなく「重力のある小説」でした。