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斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』感想|才能の消費期限

この世界は、もうすぐそこまで迫ってきている

 

どうも、トフィーです。

 

今回は、斜線堂有紀先生の小説『ゴールデンタイムの消費期限』について紹介させていただきます。
大人の方でも楽しめる作品かと思いますが、特に10代の方に触れていただきたい物語でした。

 


ゴールデンタイムの消費期限

 

 

1.あらすじ

書けなくなった高校生小説家・綴喜に届いた
『レミントン・プロジェクト』 の招待状……それは、
元・天才を再教育し、蘇らせる国家計画――!

「才能を失っても、生きていていいですか」?

『楽園とは探偵の不在なり』で最注目の俊英が贈るAI×青春小説‼

自分の消費期限は、もう切れているのか──
小学生でデビューし、天才の名をほしいままにしていた小説家・綴喜文彰(つづき・ふみあき)は、ある事件をきっかけに新作を発表出来なくなっていた。孤独と焦りに押し潰されそうになりながら迎えた高校三年生の春、綴喜は『レミントン・プロジェクト』に招待される。それは若き天才を集め交流を図る十一日間のプロジェクトだった。「また傑作を書けるようになる」という言葉に参加を決める綴喜。そして向かった山中の施設には料理人、ヴァイオリニスト、映画監督、日本画家、棋士の、若き五人の天才たちがいた。やがて、参加者たちにプロジェクトの真の目的が明かされる。招かれた全員が世間から見放された元・天才たちであること。このプロジェクトが人工知能「レミントン」とのセッションを通じた自分たちの「リサイクル計画」であることを──。

引用:ゴールデンタイムの消費期限

 

2.『ゴールデンタイムの消費期限』感想・レビュー・関連作品

a.評価

評価:★★★★★
祥伝社
2021年1月刊行

 

作者は斜線堂有紀(しゃせんどう ゆうき)先生。
第23回電撃小説大賞で《メディアワークス文庫賞》を受賞し、『キネマ探偵カレイドミステリー』にてデビューされてから、多くの作品を世に出されています。

 

 

 

斜線堂先生の他作品については、でも紹介していますのでここでの説明は省略します。

 

刊行作が相次いで重版発表されている斜線堂先生ですが、今回の『ゴールデンタイムの消費期限』も発売してすぐに重版が発表されています。
第何版まで数字を伸ばすのか、1ファンとしても楽しみです。

 

 

b.作品内容・キャラクター

ある日、かつて天才少年作家として名をはせた綴喜文彰(つづき ふみあき)のもとに、国主導のプロジェクトへの参加以来が届く。


その計画の名は、『レミントン・プロジェクト』
各分野の若い世代の天才を一か所に集めた11日間の合宿のようなものということ以外には、詳しい概要も明かされなかったが、なにかの刺激になればと、綴喜は参加を承諾する。


ヴァイオリニスト、料理人、日本画家、映画監督、棋士
彼ら彼女らの誰もが優れた才能を有していて、そのことに綴喜は委縮してしまうが、プロジェクト2日目に衝撃的な事実が発覚。

 

実は彼らはみな、才能が枯れてしまったとされる人間だった。
そして、今回のプロジェクトは、そんな彼らの才能を人工知能・レミントンを用いてリサイクルするという趣旨の内容だった――。


レミントンは膨大なデータをもとに、大衆の関心を熟知していて、音楽にしろ料理にしろ、プロジェクト参加者以上のパフォーマンスを実現することが可能
そんなレミントンの指示に従い、再び才能を取り戻させよう、というのが計画の目的です。

「AIの手が届かないところをサポートして、AIの作品が世に出る手助けをする。これじゃあ私たちの方が道具だ。ふざけんな! 結局私たちは利用されてるだけじゃん」

引用:斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』本文より

 

……とこんな感じの内容となっています。

 

それにしても、また斜線堂先生はエゲツない小説を出すなぁ……と思いました。
そう感じた理由は2つあって、うち1つめは他の著作と同様に、各登場人物の暗い内面がリアルに描写されているという点。 
だから、キャラクターに感情移入できるし、物語にも没頭できます。

 

綴喜を含めた多くのプロジェクトメンバーは、レミントンというAIに対し、程度の差はあれどマイナスな印象を抱いています。
彼ら彼女らも気分が悪くなったり、取り乱してしまったりするわけですが、それもしょうがないよなぁと。

だって、自分よりも優れた才能を見せつけられるのは辛いですよね。
特に彼らは、各々の分野に対して人生を捧げてきたわけですから、その悔しさたるや常人の比ではないでしょう。

 

本作では、そんな彼らの鬱屈とした感情をリアルに描きだしていて、各々がどのようにレミントン、ひいては自分の人生に対して向き合っていくのかが綴られていくのです。

 

また、天才とは言われなくても、他人の能力と自分の能力とをくらべて絶望したなんていう経験をした方も、きっと少なくはないでしょう。
そういう方にこそ、この『ゴールデンタイムの消費期限』をぜひ読んで欲しいです。

 

 

さて、エゲツない小説と称したもう1つの理由ですが、それはAI技術の絶妙なリアルさです。
というのも、この物語の内容を見て、SFだと思う方も大勢いらっしゃるかもしれませんが、レミントンのようなAI技術の実現はもうすぐそこまで迫ってきているんですよね……。

 

たとえば、個人の好みを分析して、それに適した商品を見栄えよく提示するなんていうことは、Netflixのサムネイル機能などですでに使われています。
他にもGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などをはじめとした最先端を走る企業も、ビッグデータを活用して次々と戦略を打ち出しています。
ある分野で活躍する人間よりも、優れた才能を実現させるという領域にもすでに手がかけられていることでしょう。

 

とまあ、そんな話はさて置いて、この物語は非常に現実に近い技術を用いているので、ワクワクしながら読み進めた人もいらっしゃれば、逆に感を持ってハラハラした方もいるかもしれません。

 

ぼく自身、電撃小説大賞などの新人賞に投稿している身のため、「もしAIが大衆を喜ばせ感動させるような魅力的な物語を描く時代が来てしまったら」と想像すると、楽しみに思う一方で、それ以上に怖くもなりました。

 

ただ実際のところ、小説の分野に関しては数行の文章ならまだしも、きちんとした形になっている面白い物語を書き上げるとなると、まだまだ難しい段階にはあるようです。(これに関しては、作中でも「AIが自然言語を解釈するのは極めて困難です。この問題がある以上、AIに小説を書かせることは、現時点では不可能でしょう」と言及されています。)

 

「じゃあ、どういった方法でAIと一緒に小説を書いていくの?」と疑問に思われるかもしれませんが、具体的な手法についてはせっかくなので、ぜひ本編を読んでご確認いただきたいです。

 

 

 

 

 

綴喜くんを見ていると、天才小説家として認められるも、スランプに苦しむ青年が描かれている『私が大好きな小説家を殺すまで』を彷彿とさせました。
こちらも斜線堂先生による作品で才能にまつわる物語なので、気になる方はセットで読まれてみてもいいかと思います。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

とりあえず、核心に迫るようなネタバレを避けての説明は以上となります。
次の項では、『ゴールデンタイムの消費期限』以外の斜線堂有紀先生の著作について紹介させていただきますので、もしよければ引き続きご覧いただければ幸いです。

 

3.斜線堂有紀先生の他作品

 

斜線堂先生の作品はすでに多数ありますが、このブログ内でもいくつか紹介させていただいております。
以下にそれぞれのリンクを貼らせていただきますので、もし気になるものがありましたらチラッと覗いてみてください。

 

『恋に至る病』

個人的に一押しの小説。
『ゴールデンタイムの消費期限』では、才能あるキャラクターたちが登場しましたが、『恋に至る病』でもまた異なる才女が描かれています。
言うなれば、悪のカリスマ
実在した集団自殺ゲーム事件を題材に、歪な愛の物語が展開されていきます。


余談ですが、読んだ後も色々と考えさせられる内容で、数多くの方が『恋に至る病 考察』などのワードで検索しているようです。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』

『ゴールデンタイムの消費期限』と同じく青春小説。
複雑な家庭の事情に閉塞感と抱く少年が、体が金になってしまう不治の病に侵されてしまった女子大生と出会い、心を通わせていく物語です。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『楽園とは探偵の不在なり』

二人殺せば地獄に堕ちる!
起こりえない連続殺人事件
に挑む探偵の物語です。
こちらは今まで触れてきた斜線堂先生の小説の中でも、特殊な設定が用いられた本格ミステリです。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『私が大好きな小説家を殺すまで』

書けなくなった天才小説家とゴーストライターの少女、共依存の沼にはまり追い詰められていく物語。
のとともに、こちらも切なく苦しい気持ちになっていく。
けれども読み進めるてが止まらない、そんな読者を惹きつけるような魔力をもった一冊です。

『憧れの相手が見る影なく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んでほしかった』

先ほども触れましたが、こちらも才能に関する物語です。
やはりこの小説はぜひセットで読んでいただきたいです!

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

また、当ブログでは他にも様々な物語を紹介しています。
次に読む1冊をお探しの方のお役に立てれば幸いです。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

※この先は、『ゴールデンタイムの消費期限』の重大なネタバレを含んだ感想となります。
未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

4.『ゴールデンタイムの消費期限』ネタバレありの感想

最初の数十ページ を読んだ段階では、「人工知能による支配」という方向性で物語が進んでいくのかなと思いました。
けれども『ゴールデンタイムの消費期限』では、レミントンと人間との共生が描かれていて、AIに頼ることは決して悪いことではない、というような形で終わりを迎えました。

 

この物語の主人公は、あくまでも人間である綴喜。
いや、綴喜だけでなく、秋笠や晴哉、プロジェクト仲間の全員が、主人公といえるような物語でした。
彼らは、それぞれのスタンスでレミントンと向き合いながら、別々の未来へと歩みを進めていきました。

 

秒島は天才として返り咲き、レミントンと共に成長しながら、日本画の分野で活躍。
互いに影響を及ぼし合う彼とレミントンからは、「人とAIとの調和」という一面が色濃く表れています。

真取は優勝した後に、レミントンとのセッションと並行して『当月堂』で修業を重ねています。
「『やっぱり料理は人の手で作った方が美味い』」という常連客の言葉からは、AIが人間社会に自然に溶け込む未来の可能性を示しています。

 

一方、宣伝通りレミントンに頼らずに、地道に活動し続ける凪寺にも暗い雰囲気はありませんでした。
彼女を見ていると、「成功することだけがすべてではない」、ということを語りかけてくれているような気がして、少し気持ちが楽になりました。

 

またレミントンに可能性を感じていた御堂も、ギリギリのところでプロ棋士の肩書に喰らいついているようで、ほっとしました。

そして本作の主人公・綴喜は、固執していた作家としての生き方を辞め、持ち前の観察眼を活かして記者になりました。
レミントンプロジェクトの中で、彼が小説の執筆のために元天才たちに取材するという描写がありましたが、これは伏線でもあったというわけですね。


「小説家という職業に設定すれば、取材という名目で登場人物の過去や想いを深堀できて便利だなぁ」という、なんともメタ的な見方をしていたので、彼が記者へ進路を変更する選択をしたことには、また別の面白さを感じました。


という余談はさておき、綴喜が記者として取材を続ける中で、かつてのプロジェクトの仲間たちとコンタクトを取ることができました。
無事に約束を果たすことができたわけです。
ほっこりしますね。

 

エピローグで個人的に1番驚いたのは、やっぱり晴哉です。
彼は宇宙飛行士の夢を絶たれてしまったわけですが、なんと自身の体験を基にしたSF小説を綴る作家になっていたのです。
「これもかくのか」という病室での彼の言葉は、綴喜を責めるためのものではなかった。
いや、もしかしたら、明かされていないだけでそういったニュアンスも込められていたのかもしれません。
けれども、彼は自分の体験を物語にしたいという前向きな想いから、綴喜に対して問いを投げていたわけです。
小説家を辞めた従弟に代わって、小説家になるという展開にはこみあげてくるものがありました。

 

そして、最後に秋笠。
ヴァイオリニストとして生きていく夢を諦めた彼女ですが、『レミントン・プロジェクト』の3年後には、農業の手伝いをしていました。

「それと、ヴァイオリンが好きです」

物語の最後の台詞ともなるこの秋笠の言葉に、不覚にも泣きそうになりました。(訂正します、少し泣きました。)

 

夢を諦めた秋笠の姿はそれでも美しく、彼女のこの台詞から、「才能を失っても、才能がなくても、生きていていいんだ」というメッセージがヒシヒシと伝わってきました。

 

 

 

10代の方にこそ読んで欲しいとぼくは冒頭で述べましたが、その想いはほとんど上記の台詞につまっています。

 

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