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【記憶のロールバック】八目迷『きのうの春で、君を待つ』感想

青春とタイムリープ、明かされる真実と決断

どうもトフィーです。

今回は八目迷先生のライトノベル作品、『きのうの春で、君を待つ』について紹介していきます。
前作『夏へのトンネル、さよならの出口』と同様に季節外れのレビューにはなってしまいますが……、やはりこの作品に関してもいつ読んでも名作といえるほどの完成度でした。

 

切なくて甘酸っぱい、幼馴染の物語です。
相変わらずの繊細な文章が、その魅力を底上げしていて読んでいて癒されました。


きのうの春で、君を待つ (ガガガ文庫)

 

 

 

1.あらすじ

幼馴染だった二人、すれ違う時間と感情。
17歳の春休み。
東京での暮らしに嫌気が差した船見カナエは、かつて住んでいた離島・袖島に家出する。そこで幼馴染である保科あかりと2年ぶりの再会を果たした。

その日の夕方、カナエは不可思議な現象に巻き込まれる。
午後6時を告げるチャイム『グリーンスリーブス』が島内に鳴り渡るなか、突然、カナエの意識は4日後に飛んだ。混乱の最中、カナエは憧れの存在だったあかりの兄、保科彰人が亡くなったことを知らされる。
空白の4日間に何が起きたのか。困惑するカナエを導いたのは、あかりだった。

「カナエくんはこれから1日ずつ時間を遡って、空白の4日間を埋めていくの。この現象を『ロールバック』って呼んでる」
「……あかりはどうしてそれを知っているんだ」
「全部、過去のカナエくんが教えてくれたからだよ」

『ロールバック』の仕組みを理解したカナエは、それを利用して彰人を救おうと考える。
遡る日々のなかで、カナエはあかりとの距離を縮めていくのだが……。

甘くて苦い、ふたりの春が始まる。

大きな感動を呼んだ、『夏へのトンネル、さよならの出口』に続き、八目迷×くっかで贈る、幼馴染だった少年少女の春と恋の物語。

引用:きのうの春で、君を待つ (ガガガ文庫)

 

 

2.『きのうの春で、君を待つ』感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★★★
ガガガ文庫
2020年4月刊行 


w受賞を果たした『夏へのトンネル、さよならの出口』に続く、第二作目の小説。
この作品についても以前レビューをしていますので、よければご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

本作も文句なしの星5、まごうことなき名作です。
個人的には夏トンの方が好みだけれども、今作の方がハマる方も多いと思うし、優劣はつけがたいです。
あまり作家買いはしない方ですが、八目先生の次回作は絶対に買うと決めました。

 

 

b.作品内容

前作のレビュー記事でも書きましたが、ある程度まで読み進めるとページを読み進める手が止まらなくなります。

 

この物語は、東京で父親と二人暮らしをしていた主人公・船見カナエが、妹と祖母の住む故郷・袖島に家でするところから始まります。
……ところが、二年もの間、妹とは連絡を取っておらず、再開早々に口喧嘩。

 

その結果、家出先でも逃げ出すというなんともいえない状況に陥るわけですが、堤防でひとり涙を流す幼馴染の少女・保科あかりと再会。
以後、彼女を中心に物語は大きく動きを見せます。

 

あかりと別れてから、打ち捨てられた小さな公園に訪れた主人公。
そこで古びた祠を見つけ、何気なしにその中にあるご神体の石に手を伸ばしたその時。
18時を告げるグリーンリーブスのメロディが流れ、意識を失ってしまい……。
目覚めると4日も経過しているうえに、あかりの兄・彰人(あきと)の訃報を聞かされることに。

 

ここから少し変わったタイムリープが始まります。
1日18時→5日18時~6日18時→4日18時~5日18時→3日18時~……
という感じで、空白の4日間を埋めるかのように、翌日の18時になると一昨日の18時へと戻るという『ロールバック』現象に巻き込まれていくのです。

 

ちょっとややこしいですね……。
主人公自身も困惑しながらも、この現象を利用して幼馴染の兄を救うことを決意します。
そうして周りに不審がられながらも着実に情報を集めていくわけですが、毎回「もう少し待ってくれ!」というタイミングでメロディが鳴るのが本当にもどかしい。

 

時の戻り方、そしてそれによって得られる衝撃。
その時々ではよくわからなかったことが、後に少しずつ明かされていく期待感。
着実に真相に迫りながらも、同時に高まっていく不安感。
いや本当に、八目先生は物語の展開のさせ方が素晴らしい。
グリーンリーブスがアイズだというのもまた哀愁を誘っていいですね。

 

また前作と同様に描写が美しい
袖島の情景描写や、感情の揺れ動き、色々な意味でもどかしい空気感など、読ませる力があります。

 

『きのうの春で、君を待つ』は基本的にカナエの一人称で綴られていきますが、各章の終盤にはあかり視点での語りが続いています。
それによって幼いころの記憶や、カナエが中学を卒業して袖島を発ってからの日々の出来事が少しずつ明かされていきます。
それがまた物語の展開とリンクしていて、より期待感と焦燥感を煽ってくるわけです。

 

 

c.キャラクター

船見カナエ(ふなみかなえ)

主人公の少年。
中学を卒業して以来、袖島から出て東京で父親と二人で暮らしていたが、父親とケンカして一人帰省する。
島にいたころ、幼馴染の少女・保科あかりに好意を抱いていたが、彼女が「カナエくんとはただの幼馴染で、恋愛感情とかないから」と口にしていたのを聞いてしまい、ひそかに失恋した。

 

あかりの兄、保科彰人(あきと)は幼いころの恩人。
ロールバック現象を利用して彼を救うことを決意する。

 

保科あかり(ほしなあかり)

袖島の高校に通う少女で、本作のヒロイン
カナエとは幼馴染の関係だったけれども、中学を卒業して以来は連絡もとっていなかった。
昔は気が弱く、コンプレックスに感じていた地黒の肌人間ついてからわかれていたが、カナエにすすめられた泳ぎの実力を伸ばすとともに、人並みに周囲に溶け込めるようになってきた。

 

彼女の内面や境遇については、本編を通して知っていってほしい。
各時間軸でのあかりの言動や、各章の終盤での一人称による語りには、ぜひとも注目していただきたい。

保科彰人(ほしなあきと)

あかりの兄であり、袖島のスター。
抜群の投球センスで、弱小野球部を甲子園まで導いた。
カナエは彼に助けられたこともあり、島にいたころは彼に憧れていて、また今でも彼の言葉を胸の内に秘めて生きてきた。

 

4月2日の午前0時から2時の間に、急性アルコール中毒により死亡していた。

 

 


これより先はネタバレアリの感想をのせていますのでご注意ください。
また『きのうの春で、君を待つ』が未読で、関連作品に興味をお持ちいただけた方に関しては、以下のリンクか冒頭の目次を活用して頂ければと思います。

 

また他にも様々なライトノベル・ライト文芸のレビューをしていますので、もしよければご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.ネタバレありの感想

綺麗でなくても、彰人を救わないという決断をする方が個人的には望ましかったです。
ハッピーエンドよりもビターエンドの方が好きとかそういう問題ではなくて、また彰人個人にどうこうという感情もそこまでなくて、単純に物語の締めくくりとしてより印象に残るものになっただろうなと。
誰にも言えない「しこり」を抱えたまま二人で生きていく、そんなラストを望んではいました。

ただやはり物語の締めくくり方としては、彰人を救うと決断する方が綺麗にまとまっていることは間違いないでしょう。
作品としても美しいし、宝くじの伏線回収も完璧。
みんなが幸せの方が絶対にいいし、未来への希望を示した今作の終わり方は多くの読者が望むものでしょう。
ぼく自身も期待とは裏腹にホッと胸をなでおろしましたし、この終わり方でも十分に名作だと太鼓判を押すことができますし。

 

どんなエンディングがいいかなんて一概には言えないし、読者の数だけ期待する展開がある。
だからこそ、物語というものは面白いのかなと思います。

 

カナエとあかりの二人が、東京で幸せに暮らしていけることを願いつつ、ネタバレありの感想を終わりにさせていただきます。

 

 

4.『きのうの春で、君を待つ』を読んだ方におすすめ作品

 『夏へのトンネル、さよならの出口』

八目先生のデビュー作。
『きのうの春で、君を待つ』と同様に、「時間」をギミックとして利用しています。
現在を置き去りにする「ウラシマトンネル」へと潜って、過去と向き合っていく物語です。
『きのうの春で、君を待つ』にハマった方は、なによりもまずこの作品を手に取ってください‼

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』

ガガガ文庫の新人賞作品です。
八目先生のものとはまた違った綺麗さと切なさを持つストーリーです。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

他にも様々な小説のレビューをしています。
よければご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 最後まで目を通していただき、ありがとうございました。