少年 VS 社会
どうも、トフィーです。外出自粛が求められる情勢の中、ぼくはというと長らく放置していた本、いわゆる積み本というやつを消化しています。
今日はその積み本から消化したうちの一冊、村松涼哉先生の『15歳のテロリスト』を紹介したいと思います。
なぜ15歳の少年がテロリストになってしまったのか、その謎にせまりつつ、「少年犯罪」の抱える問題にも迫る物語です。
前回に引き続きメディアワークス文庫から刊行の小説です。
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【追記】カドフェス2020「手に汗握る!」の項でピックアップされました。
重版も重ねられていて、勢いに乗ってきていますね。
【追記2】最近「15歳のテロリスト 読書感想文」で検索される方が増えてきているみたいですね。
「少年犯罪」という社会的なテーマもしっかりしていますし、なによりもストーリーが面白いので、読書感想文を書くにはうってつけの一冊かもしれませんね。
参考までに、もしぼくがこの作品で読書感想文を書くとするならば……。
①「少年犯罪をベースに物語の内容を簡単に説明する」
②「偏見と憶測、世間の声へと話を移していき、最後にこの作品を読んで思ったことをまとめる」
といった感じでしょうか。
1.あらすじ
なぜ少年はテロリストになったのか――衝撃と感動が迫りくる慟哭ミステリー 「すべて、吹き飛んでしまえ」 突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。 少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて、少年犯罪被害者の会で出会った、孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか――? 進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方を晦ませた少年の足取りを追う。 事件の裏に隠された驚愕の事実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた――。 「ページをめくる度、常識が裏切られていく。手を触れたら指が切れてしまうような物凄い小説」――佐野徹夜(『君は月夜に光り輝く』著者)も大絶賛! 心に突き刺さる衝撃と感動――空前の衝撃作『ただ、それだけでよかったんです』で話題を呼んだ松村涼哉が描く、慟哭ミステリーが登場!
2.『15歳のテロリスト』ネタバレなしの感想
評価:★★★★★
メディアワークス文庫
2019年3月刊行
前回の記事に引き続き、メディアワークス文庫刊行の小説。
この物語、かなり社会派の内容でした。
やや淡々とした文章ではありますが、ここ最近手に取った小説と比べても非常に読みやすい部類です。
『君は月夜に光り輝く』の佐野徹也先生が、帯の紹介文で「ページをめくる度に、常識が裏切られていく。手を触れたら指がきれてしまうようなものすごい小説」とコメントを寄せていましたが、まさにその通り。
特に篤人の一人称で語られる22ページ目からは、ページをめくる手が加速していきました。
ページ数も250とそこまで多くないこともあって、あっという間に読了。
非常に読み応えがあり、心を動かされる小説でした。
さて、作品の内容に移ります。
「まずは全てを知らなきゃ判断できない」
これは作中に登場する台詞ですが、これこそが『15歳のテロリスト』における最も重要なテーマでもあります。
『15歳のテロリスト』において、少年がテロを起こした動機は、決して単純なものではありません。
負の連鎖に搦めとられてしまった少年が、社会に訴えかけるための手段として「テロ予告」を行うわけですが、それがもうなんとも切ない。
読了後には、彼の行動にすとんと納得がいっていまう、そんな一冊でした。
『少年犯罪』への綿密な取材がなされているだけあり、衝撃を受ける描写も多いです。
というのも、今作では少年犯罪について様々な目線での主張が語られていきます。
被害者、被害者遺族、加害者、加害者家族、マスメディアの目線、そして世間の声。
そうした当事者から部外者まで各方面の主張や感情にも焦点を当てながら、少年犯罪という難しい問題に対して、一石を投じていく作品でした。
特に惹きつけられたのが、加害者家族の描写。
この作品では遺族感情を尊重しながらも、加害者家族が抱える現実をも取り扱っています。
少年犯罪の孕む複雑な事情について、色々と考える契機となりました。
「まずは全てを知らなきゃ判断できない」というのは全くその通りです。
それはこの物語の登場人物に限らず、ぼくを含めた無関係の第三者にも求められるはず。
憶測や根拠のない情報だけをあてにせず、まずは真実を知ることこそが肝要なのだということを、改めてこの作品を通じて確認しました。(とはいっても、なかなか難しいのですが……。)
そのスタンスだけは忘れないようにしようかなと。
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3.渡辺篤人について(ここからネタバレありの感想)
まさか、渡辺篤人がテロリストでもなんでもなかったなんて、当初はまったく予想していませんでした。彼の一人称で語られるパートを読むごとに、「この子がどうして、テロを起こしてしまったんだろう」という疑問が膨らんではいきましたが、むしろテロを阻止するためだったとは。
「爆破予告」は決して褒められた手段ではないけれども、15歳の孤独な少年からしてみれば他に取れる手段なんてあるはずもない。それに彼の行動のおかげで、救われた命があることもまた確かでしょう……。
「動き続けること」、そう口にしては、切実に自身の願いを求めて戦った少年は悪であるはずがありません。失った家族のため、そして加害者家族でありながらも大切な存在へとなった灰谷アズサのことを想って勇気を振り絞った少年が、テロリストなんかであるはずもありません。少なくともぼくは、そう受け止めました。
4.灰谷アズサについて
上でも触れましたが、この小説において『加害者家族』の抱える問題も大きなテーマです。
灰谷アズサは普通の女の子でした。それは篤人と出会った時も同じで、どこにでもいるような優しい性格の花が好きな女の子でした。
それなのに、兄の灰谷ユズルが人を殺してしまったばかりに責められ続ける宿命を負うことになってしまいます。彼女自身は決して何も悪いことはしていません。それなのに社会は、とりわけマスコミは「正義」の名のもとに拳を振りかざして彼女を追い詰めていきました。
確かに、家族に責任が一切ないわけではありません。とりわけ人格形成という点において、親の責任というものは大きいでしょう。けれども当時の彼女はまだ中学生です。みなさんも自身の中学時代を思い返してみてください。当時のあなたは、いやあなただけでなく周りの友人も思春期真っただなかだったはず。自分のことでいっぱいいっぱいではなかったでしょうか。
そんな年頃のアズサにいったいどれほどの責任があるというのでしょうか? アズサの境遇を考えれば、彼女はむしろ上手くやっていたかと思います。心に抱く不平不満を外には漏らさずに静かにノートに吐き出し続け、周りから与えられる「暴力」を受け入れる。そんなアズサのことを誰も理解しようとせず、社会は本来罪のないはずの彼女を正義の名のもとに叩き続けるというのです。
もしアズサが開き直ってしまっていて、事件のことを笑い飛ばし、のうのうと生きているようならば叩かれてもしょうがないでしょう。けれども彼女は違います。「人殺しの兄」がのうのうと生きている一方で、「人殺しの妹」として糾弾されることに耐え続けてきたのです。
このような加害者家族に対する暴力は、作中だけの出来事ではなく、現実でもいくらでも起こっていることです。事件の事情をよく理解していない第三者によって。
『15歳のテロリスト』を読まれた方は、この作品のメインテーマでもある、「まずは全てを知らなきゃ判断できない」という台詞について改めて考えてみてください。
その暴力の矛先が本当に正しいのか。無関係な自分に他人を糾弾する権利が本当にあるのか。一度立ち止まって考えてみることの大切さを、ぼくたちはこの小説から教えられたのですから。
『15歳のテロリスト』を読んだ方におすすめしたい小説
『私が大好きな小説家を殺すまで』
天才小説家としてデビューするも枯れてしまった青年と、そんな彼に救われつつも彼のゴーストライターとなってしまった少女の物語。
世間の目を欺きながらも、少しずつ崩壊が近づいて行く感覚は、『15歳のテロリスト』に通じるところがあります。
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『恋する寄生虫』
重度の潔癖症に悩む青年と、視線恐怖症に苦しむ少女の恋愛ストーリー。
誰にも理解されない苦しみを共有する男女が、手を取りあい不器用ながらに社会に溶けこもうとしていく様は、読者としても苦しくなりながらも応援したくなっていきます。
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よければご覧ください。
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