どうも、トフィーです。
今回紹介する小説は、斜線堂有紀先生の『私が大好きな小説家を殺すまで』(メディアワークス文庫刊行)です。この小説の内容について簡潔に説明するならば、「敬愛と執着の物語」というのがなによりも相応しいでしょう。
共依存の関係にある男女が追い詰められていくのとともに、こちらも切なく苦しい気持ちになっていく。けれども読み進める手が止まらない。そんな読者を惹きつけるような魔力を持った一冊です。
先月『恋に至る病』のレビューをしましたが、また斜線堂先生です。面白いんだからしょうがない。
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1.あらすじ
突如失踪した人気小説家・遥川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった一人の少女の存在があった。遥川悠真の小説を愛する少女・幕居梓は、偶然彼に命を救われたことから奇妙な共生関係を結ぶことになる。しかし、遥川が小説を書けなくなったことで二人の関係は一変する。梓は遥川を救うため彼のゴーストライターになることを決意するが…。才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女―なぜ彼女は最愛の人を殺さなければならなかったのか?
2.ネタバレなしの感想
評価:★★★★★
メディアワークス文庫
2018年10月刊行
この作品も素晴らしかった。星5か4かで迷いましたが、最後の数ページを読んで5にすると決めました。
いやあ本当に、斜線堂先生は男女の共依存を描くのがうますぎる。
読んだ長編小説はまだ2作だけれども、それでも全作読んでみようかなと思わされるほど。作者買いなんてほとんどしたことのない自分からして見れば、これはもう異例の事態です。それだけドンピシャに突き刺さる作風だった。
『憧れの相手が見る影なく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んでほしかった』(作中より引用)
この物語は二人組の刑事が、荒れた遥川の部屋で謎の遺書らしきものを見つけるところから始まります。部屋には他に手がかりはなく、二人の刑事はその遺書を読み進めていくことになる。そして、彼らは気づきます。それが遺書ではなく、小説の体を成していることに。
この物語の大部分はその小説の中身です。我々読者は、刑事とともに少女と小説家の奇妙な共存の物語を追っていくのです。
真綿で締め付けられるような、幸せの「崩壊」がただただ切ない。そしてその崩壊のきっかけとなってしまったのが「小説」なのですが、梓は先生の小説によって命を救われています。だからこそ、その「崩壊」がより重く苦しい。『恋に至る病』でもそうでしたが、意味深な終焉を序盤で示されてから、また終焉へと行きつく、まるでジェットコースターのように物語が展開されていくのでなおさらです。
余談ですが最近のぼくの生活も崩壊してきています。外出自粛のため一週間も外に出ず、日光を浴びず、昼夜も逆転し、生きているのか死んでいるのかもわからないほどです。えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。
はい、話が脱線しました。(゜Д゜)ゞ アー、ハイハイ、ゴメンゴメン
まとめに入りますが、物語には人を救う力もあるし、狂わせて壊す力もある。そんなことを『私が大好きな小説家を殺すまで』では訴えかけています。
よければぜひ、手に取ってみてください。そして最後の瞬間、一人の小説家が一歩を踏み出したのかどうか、自分なりの解答を出してみてください。ぼくの解答はネタバレアリの感想で示します。
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そして以下に、『私が大好きな小説家を殺すまで』のラストについてのネタバレを記載していますので、未読の方はご注意ください。
3.ネタバレありの感想と考察
ぼくは、彼女が最後の一歩を踏み出したと解釈しています。
その根拠としては、物語冒頭の一文、『憧れの相手が見る影なく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。』にあります。
結局のところ彼女は先生を殺していません。そして265頁では、彼が生きていることを願い「執着」していることが吐露されています。そう、執着。彼女には殺意はなく、遥川は自ら死を選んだに過ぎない。
もちろん彼女の小説がきっかけで先生は自殺したわけだから、殺したと見ることもできます。けれども『私が大好きな小説家を殺すまで』のタイトルを回収するのであれば、彼女自身が一歩を踏みだして死ぬ選択をすることこそがしっくりくると思います。
ゴーストライターである梓の自殺、それは作家「遥川悠真」を本当の意味で殺すことと同義であり、物語中でも散々出てきた伏線の回収に繋がるのではないかと思います。
この小説が刺さった方には、『恋に至る病』もおすすめです。今作以上に『歪な愛』を描いた物語です。未読の方はぜひ!
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