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斜線堂有紀『恋に至る病』|レビューと寄河景についての考察

評価:★★★★★

メディアワークス文庫

2020年3月刊行

 

どうも、トフィーです。今回は3月25日にメディアワークス文庫より刊行された作品、斜線堂有紀先生の『恋に至る病』を紹介したいと思います。この作品のような歪な愛の物語、ぼくはめちゃくちゃ大好きです。

 

実在した集団自殺ゲーム事件を題材にしているからか、この小説には妙なリアルさがあります。それに、不思議な引力も併せ持っています。単純に言ってしまえば、この小説は暴走する愛と依存の物語。このワードだけで引っかかる人もいるでしょう。

 

ちなみににこちらが前回の記事です。

www.kakidashitaratomaranai.info

 【追記】斜線堂有紀先生の『私が大好きな小説家を殺すまで』についても色々書きましたので、よければご覧ください。この作品も『恋に至る病』と同様に、エピローグでの解釈がわかれる内容となっています。

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1.あらすじ

僕の恋人は、自ら手を下さず150人以上を自殺へ導いた殺人犯でした――。

やがて150人以上の被害者を出し、日本中を震撼させる自殺教唆ゲーム『青い蝶』。
その主催者は誰からも好かれる女子高生・寄河景だった。
善良だったはずの彼女がいかにして化物へと姿を変えたのか――幼なじみの少年・宮嶺は、運命を狂わせた“最初の殺人”を回想し始める。
「世界が君を赦さなくても、僕だけは君の味方だから」
変わりゆく彼女に気づきながら、愛することをやめられなかった彼が辿り着く地獄とは?
斜線堂有紀が、暴走する愛と連鎖する悲劇を描く衝撃作!

引用元:恋に至る病 (メディアワークス文庫)

 

2.カリスマ的ヒロイン寄河景について

メディアワークス文庫ということからもわかる通り、この作品はキャラ文芸(ライト文芸)です。キャラ文芸はライトノベルほどではないものの、他のどんな要素よりもまずはキャラクターが第一。なので、この作品を語るにおいても、主要人物の説明は避けては通れません。

 

そういった意味で、ヒロインである寄河景(よすがけい)の存在は非常に重要なものではありますが、この小説においてはあらゆる意味で彼女の存在がすべてであるとも言えます。これからこの小説を読まれる方は、彼女の言動のすべてを注意深く観察しながら、ページを進めていくといいでしょう。

 

ということで、『恋に至る病』のキーパーソン、寄河景について話していこうかと思います。(※この作品はプロローグとエピローグを除いて、四つの章から構成されています。以下では、ネタバレを避ける意味でも章までの情報だけで、景について説明していきます。)

 

寄河景はクラスの中心的な人物です。小学生の頃から突出した美貌を兼ね備えていて、成績も常に上位をキープ、それでいて強い正義感をも併せ持っています。転校初日の自己紹介ですっかりと上がり切ってしまった主人公に助け舟を出したり、公園で涙を流している少女に寄り添って泣き止ませたり。

 

彼女がクラスの中心に立ち続けている要因は、なにも上記のものだけではありません。彼女は自身の特異的にすぎるカリスマ性によって、頂点に立ち続けているのです。

 

たとえば彼女がいるクラスでは、多数決が行われたことが一度たりともありません。クラスの係り決めでは34人の生徒が綺麗に定員数通りに分かれ、合唱祭の曲決めでは対抗案は一つたりとも出ず、文化祭ではほとんどの生徒がジャズを聴いたことすらないのにジャズ喫茶をやろうと言い出すほど。しかもこのすべてが、小学校時代のエピソードです。

 

そんな誰の目から見ても完璧に映る彼女にも、一つだけどうしようもないものがありました。それは、主人公へ降りかかる凄惨な虐めです。彼女は虐めに気がつくと、すぐに首謀者に詰め寄りますが、まったくの逆効果。それどころか、彼女も体育倉庫に閉じ込められてしまいます。主人公はそのこともあり、一度は景を遠ざけて一人で耐え続けますが、骨折してしまったことでついに決壊。それを受けて、景はとある手段を取ります。この事件を契機に、彼女の倫理観は大きく変貌し、『青い蝶』が産まれるのです。『恋に至る病』は、絶対的なカリスマを有する少女が悪へと堕ちていく物語なのです。

 

景の紹介の締めくくりとして、彼女を象徴する、ぼくが好きな台詞を三つ引用しましょう。

「宮嶺は私のヒーローになってくれる?」

「そんなことないんだよ。人はそう簡単に理由も無く死にたくなるんだ。死にたくなるから死ぬ。人間の中には流されやすい人も居るから、そういう人はただ自殺の方向に流されてるだけ」

「もう分かったよね。私は宮嶺が好きだから、ブルーモルフォを創り出せた。宮嶺のことが無かったら、私はブルーモルフォを運営出来なかった。だから、これが愛の証明。……私があげられる全部」

 

3.感想

 この物語は、回想の形式で進んでいきます。回想という形式は、書き手からすれば時系列通りに物語を展開していけばいいので非常に筆が進みやすく、また読み手としても現在という明確なゴール(今回の場合はプロローグ)を目標にしていけるから飽きにくい。ぼくはそう感じているのですが、この作品もまさしくそれです。ページをめくる手がなかなか止まりませんでした。

 

そしてゴールへと追いつき、残りの数ページに目を通した後に、まるで白昼夢から覚めたような思いをさせられました。もうこれ以上は語れません。ただ一つだけ言うとするならば、消しゴムで記憶をまっさらにでもしない限りは、再読するのが怖い作品だったということです。

 

さて最後になりますが、もしもこのサイトがきっかけで『恋に至る病』を読むことを決意した方がいらっしゃれば、読了後に再びここを訪れてください。あなたはきっと、二つの意味で狐に化かされたような心情になっていることでしょう。この物語がどのような結末を迎えるのか、ぜひともあなたの目で確かめてください。

※以下は、物語の核心に迫るネタバレです。『恋に至る病』を未読の方は、お気をつけください。そうでない方はグッとスクロール‼

 こんな記事も書いています

 

『夏へのトンネル、さよならの出口』
ノスタルジーな田舎の夏、鮮やかな青春とライトなSF。
爽やかで切ないボーイミーツガールで、巧みな情景描写がそれを後押ししています。
『恋に至る病』でグサグサと心を抉られた人は、こちらを読んで癒されてみてください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『15歳のテロリスト』
「少年犯罪」がテーマのライト文芸。
『恋に至る病』とは違う方向性で心を抉ってくる作品です。
被害者家族の少年と、加害者家族の少女の嘆きには胸を痛めつけられながらも、目が離せません。

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他にも様々な作品のレビューをしています。

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4.エピローグについての考察(ネタバレ注意‼)

サラッと物語の流れを復習しましょう。

 

出会う → 主人公がいじめを受ける → 景がいじめっ子を殺害する → それから景とは疎遠になるも、中学で再び接近 → 高校で付き合う→ 景が集団自殺教唆ゲームの主催者だと判明 → 主人公も事件に関わっていく → 彼女の異常性に気づき、なんとか暴走を止めようとする → 失敗し、景が刺されて死ぬ → 主人公が景を庇ってゲームの主催者だと主張するも、彼は利用されていただけだという疑念があがりストーリーが締めくくられる。

 

だいたいの内容はこんな感じだったと思います。要するに、主人公の目線で景という少女の姿に迫っていく。そして最後に「主人公さえもが景に利用されていただけなのか?」という謎が残されて、読者が色々と考えるような構成になっています。

 

さて、ぼくの見解を書きましょう。

 

景は一度たりとも宮嶺のことを「望」と名前で呼んでいません。それって、ちょっと不自然じゃないですか? いや確かに恋人同士であったとしても、互いのことを苗字で呼び合うカップルはいるでしょう。でも、この作品において主人公の名前を呼ばないということには大きな意味が込められているのではないかとぼくは思うのです。なぜかといえば主人公の名前が「望」だから。それはつまり、この物語には希望がないということを暗に示しているのではないでしょうか。

 

またラストに出てくる消しゴムの文字が滲んで消えているというのも、希望が消されているということを示しているのではないでしょうか。この物語が、「けれど僕は、それが自分の名前であることを知っている」という一文で締められていることからも、この物語にはやはり「名前」というファクターに大きな意味が込められていると思うのです。

 

そう考えれば消しゴムはおまじないではなく、彼女によって作為的に作られたいじめの引き金だったではないでしょうか。消しゴムがなくなったことを皮切りに、いじめがスタートしたのですから。

 

「恋は人を盲目にする」とはよく言われますが、寄河景はそれを利用して宮嶺望を掌握したのです。すべては初めから仕組まれていたというわけですね。以上のことから、寄河景は純然たるサイコパスだった、『恋に至る病』とはそういった寄河景の悪の性質そのものだったというのが個人的見解です。

 

色々と語りましたが、これはあくまでも個人の意見です。あなたは、この物語のエピローグをどのように捉えましたか?

 

この物語が刺さった人には、『私が大好きな小説家を殺すまで』もおすすめです。どうしようもない依存関係にある男女の恋愛ストーリーです。未読の方は、ぜひとも手に取ってみてください。

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