書き出したら止まらない

3人で運営するサブカル系雑記ブログです。Amazonへの商品リンクが機能していない記事があります。申し訳ないです……。

斜線堂有紀『私が大好きな小説家を殺すまで』【感想・レビュー/ラストについての考察も】

どうも、トフィーです。

 

今回紹介する小説は、斜線堂有紀先生の『私が大好きな小説家を殺すまで』(メディアワークス文庫刊行)です。この小説の内容について簡潔に説明するならば、「敬愛と執着の物語」というのがなによりも相応しいでしょう。

 

共依存の関係にある男女が追い詰められていくのとともに、こちらも切なく苦しい気持ちになっていく。けれども読み進める手が止まらない。そんな読者を惹きつけるような魔力を持った一冊です。 

 

先月『恋に至る病』のレビューをしましたが、また斜線堂先生です。面白いんだからしょうがない。


私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)

 

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1.あらすじ

突如失踪した人気小説家・遥川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった一人の少女の存在があった。遥川悠真の小説を愛する少女・幕居梓は、偶然彼に命を救われたことから奇妙な共生関係を結ぶことになる。しかし、遥川が小説を書けなくなったことで二人の関係は一変する。梓は遥川を救うため彼のゴーストライターになることを決意するが…。才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女―なぜ彼女は最愛の人を殺さなければならなかったのか?

出典:私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)

 

2.ネタバレなしの感想

 評価:★★★★★

メディアワークス文庫

2018年10月刊行

 

 

この作品も素晴らしかった。星5か4かで迷いましたが、最後の数ページを読んで5にすると決めました。

いやあ本当に、斜線堂先生は男女の共依存を描くのがうますぎる。

読んだ長編小説はまだ2作だけれども、それでも全作読んでみようかなと思わされるほど。作者買いなんてほとんどしたことのない自分からして見れば、これはもう異例の事態です。それだけドンピシャに突き刺さる作風だった。

 

『憧れの相手が見る影なく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んでほしかった』(作中より引用)

 

この物語は二人組の刑事が、荒れた遥川の部屋で謎の遺書らしきものを見つけるところから始まります。部屋には他に手がかりはなく、二人の刑事はその遺書を読み進めていくことになる。そして、彼らは気づきます。それが遺書ではなく、小説の体を成していることに。

 

この物語の大部分はその小説の中身です。我々読者は、刑事とともに少女と小説家の奇妙な共存の物語を追っていくのです。

 

真綿で締め付けられるような、幸せの「崩壊」がただただ切ない。そしてその崩壊のきっかけとなってしまったのが「小説」なのですが、梓は先生の小説によって命を救われています。だからこそ、その「崩壊」がより重く苦しい。『恋に至る病』でもそうでしたが、意味深な終焉を序盤で示されてから、また終焉へと行きつく、まるでジェットコースターのように物語が展開されていくのでなおさらです。

 

余談ですが最近のぼくの生活も崩壊してきています。外出自粛のため一週間も外に出ず、日光を浴びず、昼夜も逆転し、生きているのか死んでいるのかもわからないほどです。えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。

はい、話が脱線しました。(゜Д゜)ゞ アー、ハイハイ、ゴメンゴメン

 

まとめに入りますが、物語には人を救う力もあるし、狂わせて壊す力もある。そんなことを『私が大好きな小説家を殺すまで』では訴えかけています。

よければぜひ、手に取ってみてください。そして最後の瞬間、一人の小説家が一歩を踏み出したのかどうか、自分なりの解答を出してみてください。ぼくの解答はネタバレアリの感想で示します。

 


私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)

 

前回の【感想・レビュー】記事。

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そして以下に、『私が大好きな小説家を殺すまで』のラストについてのネタバレを記載していますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

3.ネタバレありの感想と考察

ぼくは、彼女が最後の一歩を踏み出したと解釈しています。

 

その根拠としては、物語冒頭の一文、『憧れの相手が見る影なく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。』にあります。

 

結局のところ彼女は先生を殺していません。そして265頁では、彼が生きていることを願い「執着」していることが吐露されています。そう、執着。彼女には殺意はなく、遥川は自ら死を選んだに過ぎない。

 

もちろん彼女の小説がきっかけで先生は自殺したわけだから、殺したと見ることもできます。けれども『私が大好きな小説家を殺すまで』のタイトルを回収するのであれば、彼女自身が一歩を踏みだして死ぬ選択をすることこそがしっくりくると思います。

 

ゴーストライターである梓の自殺、それは作家「遥川悠真」を本当の意味で殺すことと同義であり、物語中でも散々出てきた伏線の回収に繋がるのではないかと思います。

 

 この小説が刺さった方には、『恋に至る病』もおすすめです。今作以上に『歪な愛』を描いた物語です。未読の方はぜひ!

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アーサー王伝説・私的おすすめ本②~周辺事情の解説書~

「カフェイン」がもう「ガウェイン」にしか見えなくなってしまったAuraです。お茶やコーヒーを飲む時は、彼を想いながら味わおうと思います。

 

さて、アーサー王伝説のストーリーやキャラクターについて、現代日本においてはサブカルチャー作品を通じて知られることが増えてきたと言っていいと思います。
そこから興味を抱いて、「原典」となった作品などを読み漁ることもあるでしょう……言わずもがな僕もその内のひとりです 笑

 

【関連】「物語そのものが読める本を知りたい!」という方はこちらの記事をご覧ください。↓

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そして、ある程度詳しくなってくると、「もっと深く掘り下げたい!」と考えるのが世の常人の常!笑

今回はそういった方のために、言わば「アーサー王伝説の周辺事情」について知ることができるおすすめの解説書をご紹介します。解説書といっても、そんなに難しい内容のものではないので、初心者の方でも読みやすいと思います。

 

近年、アーサー王伝説の知名度を高めている『Fate』シリーズの原作者・奈須きのこさんも読んでいる本や、セイバー=アルトリアが人気を得た理由について考察した本をご紹介しています。

 

 

アーサー王伝説 おすすめの本(掘り下げ編)

①アンヌ・ベルトゥロ『アーサー王伝説』(創元社)


アーサー王伝説 (「知の再発見」双書)
(Amazonへのリンクです)


この本は、アーサー王伝説の物語を味わうためのものではなく、伝説が成立した歴史的背景などを中心に扱った本となっています。


5章立て+資料編という構成で、

第1章 アーサー王と歴史
第2章 伝説の創造
第3章 アーサーの生涯
第4章 封建制と騎士道
第5章 花咲くアーサー王文学
資料編

となっています。全170ページほどですが、内容はかなり濃いです 笑


また、図版が多数入っていて、1ページに最低ひとつはあるようなレベルなので、それを見るのも楽しいです。

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※写真は少しぼかしてあります

では、この本の内容の一部(第1章)を、かんっっったんにご紹介していきます。

 

〇 第1章 アーサー王と歴史
ブリテン島の実際の歴史と、アーサー王のモデルであろう人物について述べています。 


ブリテン島は、およそ紀元前50年、ローマ帝国に侵略されていました。これはブルータス、お前もか!」で有名なカエサルの時代ですね。

以後、西暦410年ごろまでローマ帝国の支配下にあり、当時ブリテン島はブリタニアと呼ばれていました。

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ブリタニア違いです

©SUNRISE/PROJECT GEASS

 
では、肝心のアーサー王のモデルは誰でしょうか…??


それは、マクシムスです!彼は、ローマ帝国のブリタニア軍司令官でしたが、なんと反乱を起こしてローマ皇帝を倒し、自分が帝位についたのです(西暦383年のこと)。
まぁ、在位6年くらいで戦いに負けて処刑されてしまうんですけど…。

しかし、アーサー王も物語の中でローマ帝国と戦ったことがあるので、確かに上記の史実と重なって見えますね。

 

ふぅ、これでモデルの人物が確定…ではないんです!!笑


実は他にも、モデルとされる人物がいます。アルトリウスという名の指揮官がいて、ブリテン島を侵略してくるサクソン人などを相手に戦ったといいます。

やはりアーサー王も作中で侵略者と戦っているので、重なる要素があります…!アルトリウス、お前もか!
そして「アルトリウス」の別の発音が「アーサー」になります。

 

しかし本の中では、さらに何人か候補が紹介されているんです 笑
僕は読んでて「お前もか!お前もか!あっ、お前もかいッ!!」となりました。つまり結論として、アーサー王のモデルはひとりではなく複数いたということなのです。

 

ただ、全員分書くと大変なので、詳細は割愛させてください…笑

 

そして、上記の史実を踏まえた『ブリタニアの破滅と征服』という文献が、550年ごろに書かれます。ここでは直接「アーサー」の名は出ませんが、最古のアーサー王文献とされています。

この後、800年ごろに『ブリトン人史』、1138年に『ブリタニア列王史』が書かれ、段々と伝説の枠組み(筋書きや登場人物)が整っていくのです。

 

どういう風に整っていったか、そして時代が下るにつれ物語の構成がどう変質していったかが、続く章で語られていきます。

 

余談にはなりますが、この本、なんと『Fate』シリーズ原作者・奈須きのこさんの本棚にも置いてありました(TYPE-MOON展での展示で確認)。

原作者と同じ本読んでたって、なんか嬉しいですね…笑

 

②岡本広毅・小宮真樹子編『いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか 変容する中世騎士道物語』(みずき書林)


いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか〈アーサー版〉: 変容する中世騎士道物語
(Amazonへのリンクです)

 

まず思うことがありますよね。タイトルなっっっが!!笑

このタイトルには元ネタがあります。ずばり今日一番知られているアーサー王物語である、『アーサー王の死』の章タイトルです。

そこでは「いかにして〇〇が△△したか」というフレーズが度々出てきます。この本のタイトルはオマージュになっているわけですね。
(長すぎて、公式で『いかアサ』という略称が設定されてもいます 笑)

 

そして書名の通り、「アーサー王伝説が日本でどのように受け入れられたか」について取り扱っています。この記事の冒頭で書いていた「サブカルチャー作品を通じて知られること」についても詳しく分かるわけです。


伝説そのものについて細かく書いている書籍は多々あれど、こういったテーマを扱う本はそうそうないので即購入しました。


この本は大きく分けて3部構成になっています。それぞれの部の内容について、概要と共に個人的に着目したところをご紹介します(枠で囲まれている部分は本からの引用です)。

 

第1部 受容の黎明期
〈アーサー王が海を越えて日本へやって来たこと。明治・大正期の騎士と武士の混合。夏目漱石が日本初のアーサー王小説を書いたこと。日本人研究者の貢献。〉

日本で初めてアーサー王伝説を題材に小説を書いた(単なる翻訳ではなく)のは、実は日本近代文学の巨匠・夏目漱石なのです。

『薤露行(かいろこう)』というタイトルで、ランスロットの逸話に取材した短編小説となっています。

数ある伝説の中から、漱石がランスロットを選んでくれたのはグッジョブですね~。僕はランスロットが好きなので、漱石とは話が盛り上がりそうです 笑

 

この『薤露行』という作品の分析や、日本では最初「ナイト」が「騎士」ではなく「武士」と訳されていた話などなど、見どころがたくさんあります。

 

第2部 サブカルチャーへの浸透
〈アーサー王と円卓の騎士たちがその名声を高めていったこと。アニメ、ゲーム、舞台で活躍する騎士たち。ご当地化・女体化するアーサー王伝説。〉

日本のサブカルチャーにおける「アーサー王」として最も名が知られているのは、ほぼ間違いなく『Fate』の「セイバー」だと言って良いでしょう。

 

この本、実は元々『女体化するアーサー!?』という書名の予定だったんです 笑
後々、『いかアサ』へと改められました。セイバーこそまさしく「女体化するアーサー」の筆頭なのです。

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女体化するアーサー!?

©TYPE-MOON/FGO PROJECT

そして本の中では、女体化したアーサー王であるセイバーが受け入れられた理由を、

①「戦う少女」
②「男性として育てられた女性」
③「キャラクターの商品展開」

という3つの観点から、『美少女戦士セーラームーン』『ベルサイユのばら』といった作品と比較して論じています。

面白い論考でした、大学時代に読んでたら絶対レポートのネタにしたのに……!笑

 

第3部 君臨とさらなる拡大
〈さまざまな冒険のすえ、高貴なるアーサー王と円卓の騎士たちが現代日本サブカルチャーにおける英雄となったこと。語り直されるアーサー王伝説。騎士たちのグローバルな活躍。〉

2017年にノーベル文学賞を受賞した、カズオ・イシグロさん。彼もまた、アーサー王伝説に題を取った小説『忘れられた巨人』を著しています。

ちなみにこちらはガウェインの逸話が元ネタとなっています。

イシグロさんがアーサー王伝説をモチーフとした理由や、それによって生まれる意義などが論じられていて、『忘れられた巨人』をまだ読めていない僕は「早く買わなきゃ…!」という思いが芽生えました 笑

 

また他にも、『ルドルフとイッパイアッテナ』で有名な作家・斉藤洋さんが、アーサー王伝説をリライトするに当たって、「なぜマーリンは不道徳な先王ウーサーに仕えたのか」を考察されたエピソードなど、他にも読んでいて興味深い話がありました。

斉藤洋著『アーサー王の世界』について、記事末尾の関連記事内にてご紹介しています。


なお、この『いかアサ』はなんと表紙が3種類あります。「アーサー版」・「ランスロット版」・「ガウェイン版」があるので、好きな騎士のものを選ぶと良いでしょう。
僕は迷った末にランスロット版にしました 笑

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左からガウェイン・アーサー・ランスロットの順です

©みずき書林 

 

おわりに

アーサー王伝説の物語を味わった次は、「周辺事情」を掘り下げてみましょう!
ちょっとマニアックな内容かもしれませんが、楽しめること請け合いです 笑

 

〇「伝説そのものの成り立ちや、それがどう発展していったか知りたい!」という方は ① の『アーサー王伝説』

 

〇「日本でどう受け入れられ、どう広がっていったのか興味がある!」という方は ② の『いかアサ』

を手に取るのがいいと思います。 

 

こちらの2冊は、比較的入手しやすいのもおすすめできるポイントのひとつです。アーサー王伝説関連書籍は、絶版になっていたり入手しづらかったりと、中々ハードルが高いんですよね…。

 

それでは、アーサー王物語の沼の底で語り合える日を楽しみにしています!そしてイギリスまで聖地巡礼に行っちゃいましょう!!笑

 

関連記事

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 ↑ 斉藤洋著『アーサー王の世界』について取りあげた記事です。

www.kakidashitaratomaranai.info

 ↑このブログの、アーサー王伝説に関する記事まとめです。

 

読書が苦手な人は「ライトノベル」や「ライト文芸」から始めよう

どうも、トフィーです。

 

この記事では、読書は苦手だけれども克服したい‼読書は嫌いだけどなんとかしたいといった方に向けて対処法を紹介しています。

 

結論としては「ライトノベル」や「ライト文芸(キャラ文芸)」から始めるといいでしょう。

 

そしてぼくなりに、おすすめのライトノベル・ライト文芸小説をいくつか紹介していこうと思います。

 

できるだけ読みやすく、古すぎず、そしてなによりも面白い物語ばかりを選びましたので、気になるものがあれば触れてみてください。

 

 

1.そもそもなぜ読書を苦手に感じてしまうのか

「あなたは、なぜ読書への苦手意識ができてしまったのでしょうか?」

 

事情はいろいろあるかと思います。答えとしてよく聞くのが「文字を読むのがめんどくさい」「展開が遅く感じてしまう」「読解力・理解力がないからよけいにテンポが悪くなってしまう」、「読書って難しそうだから、そもそも本に興味が持てない」といったところでしょうか。 

 

要するに、小説は映画やアニメと違って能動的で、時間も集中力も求められるのです。そしてハードルが高いイメージがある国語の時間で手にとった「夏目漱石」や「太宰治」みたいな、いわゆる「文学」からそのような印象をうけてしまった方もきっと多いことでしょう。

 

そういった理由から苦手意識を抱いてしまうわけですが、ライトノベルは比較的そういった苦痛を感じにくい作りになっています(詳しくは三章でお話しします)

 

 

2.「小説家になろう」や「カクヨム」みたいなネット小説じゃダメなの?

きっかけはネット小説でも大丈夫ですが、同時にそういった作品群には落とし穴もあります。

 

最近は投稿サイトも充実してきており、アマチュアの方でも簡単に自分の作品を発表できる環境が整ってきています。お金をかけずに楽しみたいという方にとっても嬉しい時代になってきました。

 

もちろん、そうしたネットでの小説でもきっかけや趣味として始める分には十分ですが、二つの大きな問題点があります。

 

 

一つ目は、編集の手が加えられていないということ。もちろん書籍化されている小説のすべてが、クオリティが高いわけではありません。けれども商品として市場に出回っている以上、ネットに公開されているものと違って編集の手が加えられており、ある程度の質が保証されています。

 

逆にネット小説は、そういった編集の手が加えられていないうえにスピード重視の世界であるため、どうしても書籍化されているものと比べると、クオリティにおいて差が開いてしまいがちです。

 

 

二つ目は、目に入る範囲の作品の内容が、だいたい同じであるということです。投稿サイトで高い評価を得る場合、どうしても「多数派の読者の声」を意識せざるをえません。サイトの仕組み上しょうがないことではありますが、ランキングにのるためには、ランキングの分析が必要不可欠。もっといえば上位作品の模倣が求められるのです。

 

そのためランキングにある作品の多くが似たり寄ったりの傾向になってしまいます。もしそれらの作品群があなたの好みにマッチしていればそれで問題はないのですが、逆に好みから外れていると「やっぱ小説ってつまんねえんだな」とより読書が嫌いになってしまいかねない危険性があります。

 

 

とまあ、「ネット小説」のデメリットをあげましたけど、もちろんいいところもあります。

 

たとえば、もし手にとった作品があなたの好みに合っていれば、他にも好きな物語に出会える可能性が高いこと。また作者に対して直接メッセージを送ることができて、お祭り感があることなどでしょうか。

 

上でのデメリットを押さえてさえいれば、一度手にとってみるのもアリだと思います。もし合わなくても、たまたまあなたの好みが「ネット小説」の傾向とはずれていただけ。「小説自体にむいていない」というわけではないことを押さえてさえいれば、「ネット小説」からチャレンジしてみてもいいでしょう。

 

ただ手っ取り早く、自分の好みに合いそうないろんな作品を知りたいという人向けに、以下でいくつかのライトノベル・ライト文芸を紹介していますので、目を通していただけると嬉しいです。

 

 

3.読書が苦手な人にライトノベルをおすすめする理由

解決策としてライトノベルをおすすめする理由は三つあります。それはイラストがあること、文章が簡単なものが多いこと、漫画のようなストーリー展開のため退屈しにくいことです

 

これらの想像力を手助けしてくれる要素のおかげで、国語の時間に扱うようないわゆるお堅い文学作品と違って親しみやすい。さらにイラストのおかげで、ふとした時に内容も振り返りやすいのもおすすめするポイントです。

 

さらにライトノベルは漫画やアニメになることも多く、メディアミックスもあわせて楽しむことができます。

 

けれどもライトノベルといえどもピンからキリまで。いざ本屋に足を運んでも、たくさん種類があるために困ってしまうことでしょう。

 

それならばどういう本がいいのかといえば、答えとしてベストなものはありません。タイトルやイラストなどを見て自分の直感を信じても構いませんし、 あらすじやレビューを見て吟味するのもいいでしょう。

 

 

4.おすすめのライトノベル 4選

①『声優ラジオのウラオモテ』

『王道』ド直球のライトノベル。相性の悪い二人の新人声優が一緒にラジオをすることになって、ぶつかり合いながらも少しずつ互いのことを知っていって……といった内容です。コメディが非常に面白く、テンポよく読み進めることができます。
 
ライトノベル界の頂点*1、電撃小説大賞《大賞》に選ばれた作品のため、クオリティも保証されています。
 
以前にこの作品単独のレビュー記事をあげていますので、よければそちらもどうぞ。
 

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②『All You Need Is Kill』

物語は「ギタイ」と呼ばれる、未知の生命体の猛攻を受けている地球、その一角が舞台です。
 
この物語の主人公は、冒頭数ページで戦死してしまいます。けれども、再び意識が覚醒。再び戦場におもむくも再び戦死、そしてまた目覚める。要するにループ物のSF作品です。
 
死ぬ、目覚める、また強くなり、死ぬ。繰り返されるループの中で、少年は一人の少女と出逢い新たな絶望に直面します。
 

一巻完結なのもハードルが低いと思います。ハリウッドで映画化され、コミカライズもしています こちらも漫画版の方を過去記事で取り上げていますので、よければご覧ください。

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③『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』

隣に住んでいる学校一の美少女が、主人公の自堕落な生活を知ってしまい、見るに見かねてお世話をしにくるといったお話。ぼくみたいなモテない人間からすれば、血の涙を流すこと間違いなしの一冊です。

 

とにかく甘いラブコメ。「隣人以上、恋人未満」という二人の関係性は、もう本当にもどかしい。 

 

文章はこの中だと一番とっつきやすいかもしれない。女性作者ということもあって、感情表現も繊細です。

 

④『天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~』

 
主人公は超有能な天才王子。だけれども、彼は天才であるがゆえに「この国がどうしようもなく詰んでいる」という事実に気づいてしまいます。
 
「こんな国、さっさと売って隠居生活だ!」と、彼は虎視眈々と売国の機会をうかがっていたけれども……。
 
ところどころコミカルだけれども、しっかりと軍記物としての描写もなされています。天才王子の爽快で痛快な国家運営をぜひ見ていただきたいです。

 

【追記】この作品についても記事を書きました。より詳しい作品説明と感想ものせましたので、気になった方はぜひのぞいてください!

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5.慣れてきたらライト文芸も(女性の方はこっちから‼)

ライト文芸(キャラ文芸)は基本的に女性の好みに合うように作られています。

 

これは出版社の方やプロの小説家からも聞いた話ですので間違いありません。ライト文芸市場は圧倒的に女性の方が強いのです。(もちろん、男性読者も大勢います)

 

今回は、男性でも楽しめるライト文芸を、ジャンルに分けてとり上げたいと思います。

 

「お仕事もの」、「日常ミステリー」、「あやかし」、「中華後宮」、「青春」etc.…

 

ジャンルは様々ですし、それらの要素が複合的に絡み合っているものも多いので、線引きが難しいところはありますが、それぞれからおすすめの本を紹介いたします。(あやかしは読んだことがないので今回は除外します……。いつか追記します。)

 

以下では何冊かミステリー小説をあげていますが、そこまで肩ひじ張る必要はありません。あくまで「謎」は先の展開を気にならせるため使用されているだけ。言ってしまえば、読む方にとっても書く側にとっても便利な道具なのです。リラックスして読んでみてください。

 

ちなみに番外編の『恋に至る病』と『私が大好きな小説家を殺すまで』以外はシリーズものです。はまればどんどん沼に沈めます。

 

・「お仕事もの」

『ビブリア古書堂の事件手帖』
ライト文芸の先駆け的作品。「ビブリア古書堂」の店主篠川栞子と、長時間本を読むことのできない体質の五浦大輔が、本にまつわる様々な謎を追っていくベストセラー小説で
 
この小説では様々な文学作品が登場します。といっても内容は難しくないので安心してください。それに、もしかしたら『ビブリア古書堂の事件手帖』をきっかけに、文学への扉が開かれるかもしれません。

 

 

『珈琲店タレーランの事件簿』
こちらは京都の珈琲店タレーランを舞台に、様々な事件を解決していきます。この作品の持つ、温かく居心地の良い雰囲気は個人的にはかなり好みです。
 
喫茶店を舞台に、人間関係の輪が広がっていくのが面白いです。そして喫茶店に通う常連客の主人公と、バリスタのヒロインのもどかしい恋愛ストーリーとしても見ごたえありです。
 
ちなみに、上の「ビブリア古書堂」や下の「氷菓」もそうですが、人の死なないミステリー小説なので過激な描写もありません。
 

・「日常ミステリー」

『氷菓』

主人公は無気力で、でも頭のキレる高校生男子。そんな彼が、バイタリティお化けのヒロインに振りまわされながら高校という舞台に潜む謎を追いかけていきます。

 

アニメ化したこともあって、多くの人に知られている有名作品です。まずはアニメを見てイメージを補ってから、この作品を手にとってもいいでしょう。

 

上でも説明しましたが、ミステリーといっても、なにも難しいことはありません。極端な話、推理する必要もありません。なぜかというと、日常ミステリーにはだいたいの場合、凝ったトリックが使われていません。「先が気になるなあ」と感じさせるためのきっかけとして「日常のちょっとした謎」が使われているだけなのです。

 

 

・「中華後宮」

『薬屋のひとりごと』
中世の宮中で下働きをする少女・猫猫(マオマオ)が主人公。薬師の彼女が毒物の知識を活用して、様々な問題を解決していきます。
 
ここで取り上げるライト文芸の中では、時代も舞台も他とは大きく異なる作品です。非日常に触れられるのも、読書の面白いところです。
 
 

・「青春」

『いなくなれ、群青』

主人公は目覚めると知らない場所にいた。そこで生活するうちに、幼なじみの少女真辺由宇と再会する。由宇は主人公を巻き込み、この島から出るために「自分たちが失くしたもの」を探すために動き始めます

SFファンタジーに分類されるのでしょうか。第八回大学読書人大賞を受賞した作品で、実写映画化もされています。

 

 

・「番外編(個人的な趣味)」

『恋に至る病』

上の小説群と比べると、かなり過激な作品です。実在した集団自殺ゲーム事件を題材にしています。一人の少女が化け物へと変貌していく過程を追っていく、暴走する愛と依存の物語です。

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『私が大好きな小説家を殺すまで』

『恋に至る病』と同じ斜線堂有紀先生の小説。簡単に説明するなら、この小説は「敬愛と執着の物語」です。将来を期待された小説家と自殺を考えていた少女が、いかにして惹かれ合い、どのようにタイトルへと結びついてしまうのか。ぜひ、あなたの目で確認してみてください。

 

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読書を嫌いにならないで

繰り返しにはなりますが、ライトノベルやライト文芸は苦手意識を克服するためには有効な手段です。

 

ぜひ、色々な作品に手を伸ばしてみてください。それからここで紹介した作品以外にも、面白い物語はいくらでもあります。本屋に行ってなんとなく手にとったり、友人におすすめの作品を聞いてみたり、アニメや映画から興味を持ったりときっかけはなんでも構いません。

それからこのブログ内でも読書レビュー系の記事をたびたびアップしています。「なにか面白い小説はないかな」と覗いていただければ、それ以上に嬉しいことはありません。

最後になりますが、あなたが読書への苦手意識を克服できることを祈っています。

 

 

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*1: 新人への応募数と、売り上げがともにトップ。アニメ化もしたヒット作が多い

『未来の年表』(前編)【人口という観点から近未来について考える】

どうも、トフィーです。本記事では、『未来年表 人口減少日本でこれから起きること』を紹介しようと思います。


未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)

 

 

 

突然ですが、ぼくは近未来という舞台が好きです。作品を総括しての感想は置いておくとして、たとえばインフィニット・ストラトス、ギルティクラウン、虐殺器官やハーモニー、PSYCHO-PASSと、近未来的な世界観が心の底から好き。そんな作品に触れたときには、本当にワクワクします。

 

今まであまり口にしてこなかったが、ぼくは自分で小説もどきを書くこともあります。そして前述したような趣味のために、物語の舞台も近未来的な世界観になります。

 

そのために何か作品へのスパイスにでもなればと、面白そうな本を見つけては購入するということを繰り返してきました。結果、まったく触れずに積んだままにすることもあるが、まあ、きっといつかは読むでしょう。うん。

 

ということで、そんな活動の中で目を通した本を紹介していきたいと思います。自分への備忘録にもなるし、ブログの投稿数は稼げるしでいいこと尽くめです。

 

というわけで今回紹介する本はこちら。

 

『未来の年表』のざっくりとした概要

 

この本についての概要をざっくりと説明すると、国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口(2017年)」のデータを基に、日本の今後について「人口」という観点から分析していこうというもの。

 

第一部では、人口減少によって起こる出来事を、年表のように時代を追って説明しています。

 

そして第二部では、そんな人口減少によって起こる危機を解決、あるいは和らげるための対策を「10の処方箋」と題して取り上げています。

 

さすがに全部の出来事を取り上げるわけにもいかないため、いくつか印象に残ったもののみ紹介します。より詳細な内容について、気になった方は是非とも自分の目で確認していただきたい。

 

前編では、第一部の「人口減少によって起こる出来事」を紹介しましょう。第二部の処方箋については、また後編の記事をよろしくお願いします。(公開次第リンクを貼ります)

 

あらかじめ宣言しておくが、ぼくはこの本の内容について、すべてが正しいとは思っていません。けれども、SF的な近未来の舞台について、そのイメージを深めるための大きな手助けになるとは確信しています。

 

これからの日本で起きること

2036年 3人に1人が高齢者となる

 

→2035年には「未婚大国」となる。2039年には深刻な火葬場不足に陥る。国内死亡者数が約168万となりピークを迎える。そのために、霊園も不足する。

 

2040年 自治体の半数が消滅の危機に陥る

 

→20~39歳の女性の都会流出は、人口が減り始めた自治体には痛手となる。

 

青森市や秋田市のような県庁所在地さえもが、消える可能性がある。

 

日本創生会議の言う「地方消滅」とは、そんな女性の数が現在の半数以下となれば、たとえ残った女性の合計特殊出生率が改善しても、自治体の人口は減り続けて消滅してしまうということを意味する。

 

→「東京医療・介護地獄」の問題も。かつての若者が歳をとり、現在の勤労世代が地方の老親を呼び寄せることで、高齢者が激増する。ちなみに2042年には日本の高齢者数が3935万人となり、ピークを迎える。2065年には、2.5人に1人が高齢者となる。

 

2050年 世界的な食料争奪戦に巻き込まれる

 

→日本の人口が減る一方で、世界人口は増え続けて100億になる。農水省の「2050年における世界の食料需給見通し」(2012年)では、この時点での世界人口を養うためには、2000年の1.55倍に引き上げる必要があると試算している。

 

→輸入食料をすべて自ら生産したら、どの程度の水が必要かを推計する、「バーチャルウォーター」という考え方がある。環境省によれば、2005年のバーチャルウォーターは、国内の年間水使用料とほぼ同水準。

 

→食料自給率が低い日本は、水の輸入大国とも言える。輸入に頼ってきたために、自国の水を使わずに済んできた。世界が困窮すれば、当然日本も食料争奪戦に巻き込まれる。

 

2065年以降 外国人が無人の国土を占拠する

 

→2050年時点で、現在の居住地の約20%が「誰も住まない土地」となる。特定の自治体や地域の土地を集中的に買い占めれば、武力を行使せずとも、合法的に日本国内に領土を作ることができる。

 

→国境警備を強化するには若い力が必要だが、少子化のために、人手不足となる。逆に高齢者が増えるために、いわゆる「災害弱者」や「犯罪弱者」が激増する。東日本大震災では半数近い自衛隊員が動員されたが、はたして今後はどうなるだろうか。

 

おわりに

以上、第一部の内容についてぼくが気になったものを取り上げました。どれもフィクションにあてがえば、面白い内容になりそうではないでしょうか? 

 

食料争奪戦なんかはもろに使えるし、地方や未来の東京を夢想するための足がかりにもなるし、設定への説得力が増します。

 

どちらかといえば個人的に興味深かったのは、第二部の処方箋について。第一部の問題について十の対策が挙げられているわけですが、これは近未来についてリアルな舞台を整えるのに役に立つことでしょう。

 

当然ながら、ぼくみたいな不純な動機ではなく、真剣に日本の人口問題について学びたいといった方々にもおすすめです。

 

では、さようなら。

【アニメ化してください】『声優ラジオのウラオモテ』【感想・レビュー/分析】

どうも、KADOKAWAの回し者のトフィーです。……いえ、違うんです。たまたま、レビューしようとした小説が全部KADOKAWAだっただけなんです。次回はちゃんと(?)他のところの作品なので‼

 

今回は二月公先生の『声優ラジオのウラオモテ #01 夕陽とやすみは隠しきれない?』を紹介したいと思います。栄えある第26回電撃小説大賞《大賞》を受賞したライトノベルです。声優について詳しく知らない自分でも、十分に楽しめる一冊でした。


声優ラジオのウラオモテ #01 夕陽とやすみは隠しきれない? (電撃文庫)

※ 表紙の左が夕陽(千佳)、右がやすみ(由美子)です。

 

1.あらすじ

ギャル&地味子の放課後は、超清純派のアイドル声優!?

 

第26回電撃小説大賞選考会において、選考委員満場一致で2年ぶりの《大賞》を受賞!

電撃文庫が今とどけたい、青春声優エンタテインメント!

 

「夕陽と~」「やすみの! せーのっ!」 「「コーコーセーラジオ~!」」

偶然にも同じ高校に通う仲良し声優コンビが教室の空気をそのままお届けしちゃう、ほんわかラジオ番組がスタート!

でもパーソナリティふたりの素顔は、アイドル声優とは真逆も真逆、相性最悪なギャル×根暗地味子で!?

「……何その眩しさ。本当びっくりするぐらい普段とキャラ違うな『夕暮夕陽』、いつもの根暗はどうしたよ?」

「……あなたこそ、その頭わるそうな見た目で『歌種やすみ』の可愛い声を出すのはやめてほしいわ」

オモテは仲良し、ウラでは修羅場、収録が終われば罵倒の嵐!こんなやつとコンビなんて絶対無理、でもオンエアは待ってくれない…!

プロ根性で世界をダマせ! バレたら終わりの青春声優エンタテインメント、NOW ON AIR!!

(引用元リンク)声優ラジオのウラオモテ 01 夕陽とやすみは隠しきれない? (電撃文庫)

 

2.ネタバレなしの感想 / 続刊発売日情報

評価:★★★★★

 電撃文庫(第26回電撃小説大賞《大賞》受賞作)

2020年2月刊行

 

普段この手のジャンルにはあまり手を出さないけれども、大賞作ということで購入。

読み終わっての感想としては、「ああ、そりゃ受賞するわー……」というものでした。

 

余談だけれど、自分もちょくちょくと小説もどきを書いています(いわゆるワナビ)。そんな自分のような境遇の身からすれば、電撃大賞の、それも《大賞》受賞作は頂点に君臨する存在です。

自分は今年の電撃大賞に応募しています。昨年は応募しなかったけれど、それでも動向には注目していました。

そんな読者の中でも少数派の感想ですが、もし自分の作品も投稿していたとしたら、打ちのめされて、才能に嫉妬して、結局は納得したのだろうと思う、そんな一冊でした。

もしシリーズが続くのであれば、間違いなくアニメ化するでしょう。おそらく過去にないくらいに宣伝にも力を入れていますし、純粋に中身が面白いですから。

 

この物語を一言で表現するのならば、「王道」という言葉こそが相応しいでしょう。

とにかく王道のストーリー展開を、非常に読みやすい文章で綴っていきます。声優(というよりも有名人全般)が抱える問題にもサラッと触れつつも、青春ど真ん中の物語をぶつけてくる今作はまさしくライトノベルの教科書のようです。

 

相性の悪い二人が一緒にラジオをすることになって、でもその仕事を通して距離が少しだけ縮まって、それでも互いに口が悪くて……。そんな二人のコントのような遠慮のない掛け合いがとにかく面白い。「喧嘩するほど仲がいい」、まさしくこの言葉通りだと思います。仕事仲間であり、ライバルでもあり、友人(…はちょっと違うか?)でもある二人のやりとりはいつまででも見ていたくあります。

 

展開は取り立ててて珍しいものはありません。山場の前の段階(いわゆるための箇所)で、「えっ?」と意外に思うところはあったものの、概ね予想通りではありました。

 

でも、予想できたとしても、それはなにも悪いことじゃありません。 

当たり前のことだけど、王道は多くの人が面白いと思うから王道なのです。このラノベもお手本のような王道。だからこそ、多くの人が楽しめるはずです。

 (王道と書きすぎて、そろそろゲシュタルト崩壊気味)

 

それから、この作品のジャンルについて、個人的には職業ものではないんじゃないかなと思います。なによりも、「少女同士の友情と青春」がテーマに据えられていて、声優業はそれらを彩るための一要素。だからこそ、声優についてあまり詳しくない自分でも楽しめましたし、逆に言えばそこに期待してしまうと物足りなさを感じてしまうかもしれません。

 

なにはともあれ非常に面白く、かつスピーディに楽しめる珠玉の作品でした。

 

『声優ラジオのウラオモテ』二巻は6月10日に発売予定らしいです。ちなみに、ぼくは間違いなく買います。

 

 
以下は、一個前の記事。

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 ※以下、ネタバレアリの感想です。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

3.ネタバレアリの感想と分析

『声優ラジオのウラオモテ』の分析を述べるのであれば、キャラクターの作り込みに触れないわけにはいかないと思いました。この作品を読んでみれば、生き生きとしたキャラクター設定こそが物語を魅せるというのがわかります。

 

この小説、本当に展開が丁寧なんですよねえ……。夕陽(千佳)の「せめて嘘を減らす努力はしたい」という姿勢のおかげで、お肉屋さんのコロッケを一緒に食べに行ったり、厭々ながらもお泊り会をしたりと、二人が打ち解けていくためのイベントを自然な流れで持ってきています。やすみ(由美子)のコンプレックスを抱きつつも、夕陽のポテンシャルに惹かれてしまうという心情も、しっかりと物語を展開するうえで活きていますし。

由美子が心にもないことをぶちまけてしまったり、千佳が清水を殴り飛ばしたりするのも、きちんとした関係の積み重ねがあるから納得できる。終盤の二人が抱きしめ合うシーンでも、しっかりとした感動を覚えます。

 

「いかに違和感なく自然な展開にできるか」、この問題は小説の完成度を上げるためには、決して避けては通れない項目なので、参考にしていきたいところです。

電撃に限らず、ライトノベル新人賞に投稿しようとしている方は、絶対に読んだ方がいいと思います。 

最後にもう少し描写が欲しかったというのが正直な感想。それも含めて次巻に期待です。きっと買うので、読み終わり次第またレビューします。

 

追伸

 木村ぁぁぁぁあああああああ‼ 「絶対なんかやらかすぞ」って、疑ってごめんよぉぉぉぉおおおおお‼

まあ、高校張り込みしたり個人情報を握ろうとしたりと、彼のガチストーカー行為には、さすがにドン引きましたけどね。

 

『15歳のテロリスト』感想|渡辺篤人と灰谷アズサから見えてくるテーマ

少年 VS 社会
どうも、トフィーです。外出自粛が求められる情勢の中、ぼくはというと長らく放置していた本、いわゆる積み本というやつを消化しています。

今日はその積み本から消化したうちの一冊、村松涼哉先生の『15歳のテロリスト』を紹介したいと思います。
なぜ15歳の少年がテロリストになってしまったのか、その謎にせまりつつ、「少年犯罪」の抱える問題にも迫る物語です。

 

 

15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

 

前回に引き続きメディアワークス文庫から刊行の小説です。

 

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【追記】カドフェス2020「手に汗握る!」の項でピックアップされました。
重版も重ねられていて、勢いに乗ってきていますね。


【追記2】最近「15歳のテロリスト 読書感想文」で検索される方が増えてきているみたいですね。
「少年犯罪」という社会的なテーマもしっかりしていますし、なによりもストーリーが面白いので、読書感想文を書くにはうってつけの一冊かもしれませんね。

参考までに、もしぼくがこの作品で読書感想文を書くとするならば……。
①「少年犯罪をベースに物語の内容を簡単に説明する」
②「偏見と憶測、世間の声へと話を移していき、最後にこの作品を読んで思ったことをまとめる」
といった感じでしょうか。

 

 

1.あらすじ

なぜ少年はテロリストになったのか――衝撃と感動が迫りくる慟哭ミステリー 「すべて、吹き飛んでしまえ」 突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。 少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて、少年犯罪被害者の会で出会った、孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか――? 進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方を晦ませた少年の足取りを追う。 事件の裏に隠された驚愕の事実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた――。 「ページをめくる度、常識が裏切られていく。手を触れたら指が切れてしまうような物凄い小説」――佐野徹夜(『君は月夜に光り輝く』著者)も大絶賛! 心に突き刺さる衝撃と感動――空前の衝撃作『ただ、それだけでよかったんです』で話題を呼んだ松村涼哉が描く、慟哭ミステリーが登場!

引用:15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

 

 

2.『15歳のテロリスト』ネタバレなしの感想

評価:★★★★★

メディアワークス文庫

2019年3月刊行

 

前回の記事に引き続き、メディアワークス文庫刊行の小説。
この物語、かなり社会派の内容でした。 

 

やや淡々とした文章ではありますが、ここ最近手に取った小説と比べても非常に読みやすい部類です。
『君は月夜に光り輝く』の佐野徹也先生が、帯の紹介文で「ページをめくる度に、常識が裏切られていく。手を触れたら指がきれてしまうようなものすごい小説」とコメントを寄せていましたが、まさにその通り。

 

特に篤人の一人称で語られる22ページ目からは、ページをめくる手が加速していきました。
ページ数も250とそこまで多くないこともあって、あっという間に読了。
非常に読み応えがあり、心を動かされる小説でした。

 

 

さて、作品の内容に移ります。

 

「まずは全てを知らなきゃ判断できない」

これは作中に登場する台詞ですが、これこそが『15歳のテロリスト』における最も重要なテーマでもあります。

 

 『15歳のテロリスト』において、少年がテロを起こした動機は、決して単純なものではありません。
負の連鎖に搦めとられてしまった少年
が、社会に訴えかけるための手段として「テロ予告」を行うわけですが、それがもうなんとも切ない
読了後には、彼の行動にすとんと納得がいっていまう、そんな一冊でした。

 

『少年犯罪』への綿密な取材がなされているだけあり、衝撃を受ける描写も多いです。
というのも、今作では少年犯罪について様々な目線での主張が語られていきます。
被害者、被害者遺族、加害者、加害者家族、マスメディアの目線、そして世間の声。
そうした当事者から部外者まで各方面の主張や感情にも焦点を当てながら、少年犯罪という難しい問題に対して、一石を投じていく作品でした。

 

特に惹きつけられたのが、加害者家族の描写
この作品では遺族感情を尊重しながらも、加害者家族が抱える現実をも取り扱っています。
少年犯罪の孕む複雑な事情について、色々と考える契機となりました。

 

「まずは全てを知らなきゃ判断できない」というのは全くその通りです。
それはこの物語の登場人物に限らず、ぼくを含めた無関係の第三者にも求められるはず。
憶測や根拠のない情報だけをあてにせず、まずは真実を知ることこそが肝要なのだということを、改めてこの作品を通じて確認しました。(とはいっても、なかなか難しいのですが……。)
そのスタンスだけは忘れないようにしようかなと。

 

15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

 

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3.渡辺篤人について(ここからネタバレありの感想)

 

まさか、渡辺篤人がテロリストでもなんでもなかったなんて、当初はまったく予想していませんでした。彼の一人称で語られるパートを読むごとに、「この子がどうして、テロを起こしてしまったんだろう」という疑問が膨らんではいきましたが、むしろテロを阻止するためだったとは。

「爆破予告」は決して褒められた手段ではないけれども、15歳の孤独な少年からしてみれば他に取れる手段なんてあるはずもない。それに彼の行動のおかげで、救われた命があることもまた確かでしょう……。

「動き続けること」、そう口にしては、切実に自身の願いを求めて戦った少年は悪であるはずがありません。失った家族のため、そして加害者家族でありながらも大切な存在へとなった灰谷アズサのことを想って勇気を振り絞った少年が、テロリストなんかであるはずもありません。少なくともぼくは、そう受け止めました。

 

 

4.灰谷アズサについて

上でも触れましたが、この小説において『加害者家族』の抱える問題も大きなテーマです。

 

灰谷アズサは普通の女の子でした。それは篤人と出会った時も同じで、どこにでもいるような優しい性格の花が好きな女の子でした。

 

それなのに、兄の灰谷ユズルが人を殺してしまったばかりに責められ続ける宿命を負うことになってしまいます。彼女自身は決して何も悪いことはしていません。それなのに社会は、とりわけマスコミは「正義」の名のもとに拳を振りかざして彼女を追い詰めていきました。

 

確かに、家族に責任が一切ないわけではありません。とりわけ人格形成という点において、親の責任というものは大きいでしょう。けれども当時の彼女はまだ中学生です。みなさんも自身の中学時代を思い返してみてください。当時のあなたは、いやあなただけでなく周りの友人も思春期真っただなかだったはず。自分のことでいっぱいいっぱいではなかったでしょうか。

 

そんな年頃のアズサにいったいどれほどの責任があるというのでしょうか? アズサの境遇を考えれば、彼女はむしろ上手くやっていたかと思います。心に抱く不平不満を外には漏らさずに静かにノートに吐き出し続け、周りから与えられる「暴力」を受け入れる。そんなアズサのことを誰も理解しようとせず、社会は本来罪のないはずの彼女を正義の名のもとに叩き続けるというのです。

 

もしアズサが開き直ってしまっていて、事件のことを笑い飛ばし、のうのうと生きているようならば叩かれてもしょうがないでしょう。けれども彼女は違います。「人殺しの兄」がのうのうと生きている一方で、「人殺しの妹」として糾弾されることに耐え続けてきたのです。

このような加害者家族に対する暴力は、作中だけの出来事ではなく、現実でもいくらでも起こっていることです。事件の事情をよく理解していない第三者によって。

『15歳のテロリスト』を読まれた方は、この作品のメインテーマでもある、「まずは全てを知らなきゃ判断できない」という台詞について改めて考えてみてください。

その暴力の矛先が本当に正しいのか。無関係な自分に他人を糾弾する権利が本当にあるのか。一度立ち止まって考えてみることの大切さを、ぼくたちはこの小説から教えられたのですから。

 

 

 

『15歳のテロリスト』を読んだ方におすすめしたい小説

『私が大好きな小説家を殺すまで』

天才小説家としてデビューするも枯れてしまった青年と、そんな彼に救われつつも彼のゴーストライターとなってしまった少女の物語。
世間の目を欺きながらも、少しずつ崩壊が近づいて行く感覚は、『15歳のテロリスト』に通じるところがあります。

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『恋する寄生虫』

重度の潔癖症に悩む青年と、視線恐怖症に苦しむ少女の恋愛ストーリー。
誰にも理解されない苦しみを共有する男女が、手を取りあい不器用ながらに社会に溶けこもうとしていく様は、読者としても苦しくなりながらも応援したくなっていきます。

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他にも様々な作品のレビューをしています。
よければご覧ください。

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 ここまでご覧くださりありがとうございました。

アーサー王伝説・私的おすすめ本①~原典から読みやすい本まで~

 

円卓の騎士の「え」の字を聞くや否や鼻息を荒げて円卓トークを始めてしまうAuraです。伝説や伝承に詳しくない人でも、アーサー王をはじめとした円卓の騎士について、何かしら聞いたことのある方が多いと思います。

 

それもそのはず、日本のサブカルチャー作品には、アーサー王伝説の要素を数多く見出すことができるからです。
アニメやマンガ、ゲームなど様々な媒体で騎士や武具の名前が使われていて、全て調べるのもそれを載せるのも難しいくらいです 笑


ほぼ名前だけ借りているものも少なくないですが、アーサー王伝説の物語自体をモチーフとした作品もあります。マンガ『七つの大罪』やゲーム『Fate』シリーズなどです。

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『Fate』シリーズにおける円卓の騎士(とマーリン)

 ©TYPE-MOON/FGO PROJECT

 

僕がアーサリアン(=アーサー王伝説が好きな人)になったきっかけは、『Fate』シリーズに触れたことでした。そこで興味を持ち、原典となった物語を読もうと思い至ったのです。

【関連記事】

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今回は「興味はあるけど、どの本を読めばいいんだろう…?」という初心者の方のために、私的なおすすめ(入門書)に加え、他との比較も書き連ねていきます。

※なるべくネタバレなしで書いています。

 

 

それなりに情報量の多い記事なので、先んじて結論を書いておこうと思います。
僕のおすすめは、以下の3作品です(番号は目次でつけた数字です)。

② ジェイムズ・ノウルズ『アーサー王物語』(偕成社文庫)

 

③ アンドレア・ホプキンズ『図説 アーサー王物語』(原書房)

 

④ ローズマリ・サトクリフ『アーサー王』シリーズ(原書房)

「この3つが特におすすめなのか~」と念頭に置いて、記事を読み進めていただくと良いかもしれません。

 

 

アーサー王伝説の「原典」

①トマス・マロリー『アーサー王の死』(ちくま文庫)


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)


「原典」といっても、アーサー王伝説は様々な作家たちに題材とされているので、明確に「これだ!」と言えるものはありません。

 

しかし今日一番よく知られているのが、1470年ごろに書かれたトマス・マロリーの『アーサー王の死』です。

現代において、アーサー王伝説の「原典」として真っ先に挙げられるのは『アーサー王の死』だと言ってよいでしょう。

 

【関連記事】
一般にアーサー王伝説の「原典」と呼ばれている、中世ヨーロッパ文学について詳しく取りあげている記事です。

アーサー王伝説の発展や、日本語訳の本についてもまとめました。(こちらは若干のネタバレありです)

 

まとめ①では、数あるアーサー王物語の中でも、メインストーリーといえるような作品群を扱っています。

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こちらのまとめ②では、サイドストーリーの中でもとりわけ有名な作品をご紹介しています。

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話を戻しましょう。

『アーサー王の死』を読む場合、文庫版がおすすめです。
この文庫版は完訳『アーサー王物語Ⅰ~Ⅴ』(筑摩書房)の内容から、アーサーとランスロットが中心となるエピソードが収められています。

本当なら完訳版の方がいいのでしょうが、いかんせん絶版になっていて中々手に入れられません。※kindle版(アーサー王物語 1)はあります。

 

アーサーの誕生、王への即位、円卓の結成、そして栄光の終焉と、言わばアーサー王伝説のメインストーリーをこの一冊で読むことができます。

 

ただ、ガウェインやトリスタンが主役をはっているサイドストーリーや、「聖杯探索」の話が入っていないのは少々残念に感じられるところです。

 

また、この本の欠点は、「ちょっと読みにくいところがある」ということです。
というのも、元が中世の作品なので、文章の書き方・描写の仕方などが現代の作品とは異なります。

 

たとえるなら「〇〇が✕✕した。すると◆◆が▢▢した。〇〇は△△した。」というように、単調な・単純な感じで進むところもあったので、読み物としての面白さが少し足りないかもしれません…実際僕はそう感じたんですね…笑

 

言い換えれば、淡々とした三人称視点で書かれているため、「あらすじ」をずっと読んでいるかのような感覚に陥ってしまいました…笑

全部が全部そうという訳ではありませんよ!面白く読める箇所もあります。 

 

ただし、これはアーサー王伝説に限らず、他の神話・伝説などにも言えることかもしれません。古典ならではの文章の味わいを楽しむというのは、最初はハードルが高いでしょう。

 

つまりは、最初に中世文学を読むと挫折する可能性があるということです。
なので、原典を読む前に②や③でご紹介している本などで「予習」してから改めて原典を読むのもありでしょう。

 

遠回りに思えるかもしれませんが、場合によってはこの方がいいかもしれません。
僕は「予習」した後で、原典をいろいろ読んでいたら中世文学にけっこう慣れました 笑

 

なんだか欠点ばかり書いてしまいましたが、「(現代的感覚で)物語として楽しむ」よりもまず「原典そのものを知る」ことを重視したい場合は、手に取るといいんじゃないかな~と思います。

 

 

さて、ここからはふたつのスタンスに分けて書籍を紹介していきます。
すなわち、

〇とりあえず一冊ざっと読みたい
何冊かになってもいいからじっくり読みたい

のふたつです。

 

正直なところ、アーサー王伝説の魅力は一冊だけではカバーしきれないのですが、何冊か読むのは大変だと感じる方もおられるかと思います 笑

そこで、上記に基づく作品をそれぞれご紹介していきます!
まずは「一冊で読める本」です。

 

 

一冊で読む時のおすすめ本

②ジェイムズ・ノウルズ『アーサー王物語』(偕成社文庫)


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)

 

偕成社文庫の『アーサー王物語』は、長大なアーサー王伝説の中から、マロリーの『アーサー王の死』をベースとして、メインストーリーと言える部分だけをまとめた作品です。 

なので傾向としては、①の文庫版『アーサー王の死』と似たような感じですが、こちらには聖杯探索のエピソードも入っています。

 

児童書にはなりますが、「小学校高学年以上から読める本」であって、決して「小学校高学年までが対象の本」ではありません。

もちろん大人の目から見ると、描写などがざっくりとはしていますが、それは原典の伝説でも似たようなものですしね……笑

 

一冊でまとまっている上に、文章が文庫版『アーサー王の死』よりは読みやすくなっているのでおすすめです。

 

ちなみに、この記事を最初に投稿した時は、この本をおすすめに入れていませんでした……。
なぜかと言うと、ガウェインやトリスタンの有名なエピソードなどが収録されていないからです。

 

ここに関しては、Amazonの商品レビューでも評価が分かれているようです。
でもまぁ、メインストーリーに直接関係ない話ではあるので、カットされるのも仕方ないのかなと……。

 

ただカットした分、一本筋の通ったストーリーが読めます。
これはまんざら悪いことでもないなと最近思ったため、おすすめに追加しました。

 

 

③アンドレア・ホプキンズ『図説 アーサー王物語』(原書房)


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)

 

「図説」とありますが、説明や図がメインの事典のような作りではなく、物語の文章の合間合間に、コラムや挿絵のように図が入っています

そのためストーリーを楽しむだけでなく、豆知識を知ったり、図をあわせて見て当時のイメージを膨らませたりすることもできるのです。

 

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※画像は少しぼかしてあります。

 画像:『図説 アーサー王物語』より

 

内容として、①でご紹介した『アーサー王の死』に加え、中世のマロリー以外の作家の作品も収められています。

 

省略されているところもありますが、複数の作品をひとつの作品としてまとめ再構成しているので、この一冊でカバーできる範囲が広いです。
(再構成した本であるため厳密には「原典そのもの」ではないですね)

 

『ガウェインと緑の騎士』『トリスタンとイゾルデ』、「聖杯探索」など、文庫版『アーサー王の死』には入っていなかった話もこちらでは読むことができます。

アーサー王伝説を一冊にまとめている本は色々ありますが、この『図説 アーサー王物語』は、一番ちょうど良い幅広さになっていると思います。

 

また、著者の手で文体が改められているため、中世の文章を直訳した本より随分と読みやすくなっています。

 

なので文庫版『アーサー王の死』よりは、原典を知りつつ、物語としても楽しめる…!と僕は思ってます。 

 

旧版普及版とがあり、後者は2020年4月に出た新刊なので、アーサー王関連の本の中ではおそらく入手しやすいのもポイントです。

 

いいところばかり書きましたが、人によっては気になる可能性のある点も書いておきますね 笑

 

この本は、「著者による文」と「(原典からの)引用文」の2種類の文を組み合わせて構成されています。

前者の地の文は「です・ます調」、後者の地の文が「だ・である調」で書かれているので、異なる文体が混ざっていることにモヤモヤする方もおられるかもしれません。

 

ただ、それほど頻繁に文体が入れ替わる訳でもないので、僕は気にならなかったことも付け加えておきます。

 

あ、同じ原書房さんから、『図説 アーサー王伝説物語』という書名のめちゃくちゃ似てる本が出ていますが、こちらはどちらかというと解説本なので、探す時は間違えないようお気をつけください…笑

 

補足として、この項では他にも1冊簡単にご紹介します!「おすすめ」というよりは比較です。 

井村君江『アーサー王ロマンス』(ちくま文庫)


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)

 

『図説 アーサー王物語』と同じく、「一冊で読める」というところを重視し、僕が以前読んだのがこちら。
『アーサー王ロマンス』も、『アーサー王の死』をベースに様々な原典をまとめている本です。ガウェインやトリスタンの話も読めます。

 

この記事でご紹介している本の多くは、ハードカバーで2000円くらいしますが、これは文庫となっています。約700円なのでお手頃価格!

 

「お!これは読みやすそうじゃん!しかも文庫だから安いし!」と思ったんですけれども……ダイジェストすぎる感じがしましたね……笑

確かに、かなり読みやすい文章ではありましたが、「物語として楽しむ」には不十分なように思います。

 

また、『図説 アーサー王物語』と同じく解説がところどころに入っているのは良い点ですが、この本ではそれが本文に地続きで書いてあって流れが悪いです。

 

イメージをお伝えしますと、
「アーサー王はついにイングランドを平定し、キャメロットに拠点を定めました。このキャメロットの場所については諸説あって……

というように、伝説の内容と解説がごっちゃになっている部分があり、「ストーリーを続けて読みたい」という方には不向きな本です。

 

『図説 アーサー王物語』のように、本文とは別に枠で囲うなどしてあれば良かったんですが…。

 

中盤以降は解説が減り、ストーリーも佳境に入って盛り上がるので読み進められましたが、(僕個人の好みの問題ではありますけれども)前半部における上記の欠点がやはり気になるところです。

 

『アーサー王ロマンス』はあくまで物語風の解説本である、と言うと伝わりやすいかと思います。
なお、『新訳 アーサー王物語』(角川文庫)という本も同様に、物語風の解説本という作りになっています。

 

 

では、今度は「何冊かに分かれている本」でのおすすめをご紹介していきます。

 

何冊かで読む時のおすすめ本 

④ローズマリ・サトクリフ『アーサー王』シリーズ(原書房)


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)

全3巻。

1巻『アーサー王と円卓の騎士』
…アーサー誕生からパーシヴァルの登場まで

 

2巻『アーサー王と聖杯の物語』
…騎士たちによる聖杯探索

 

3巻『アーサー王最後の戦い』
…王国の崩壊とアーサー王の死

という構成になっています。

 

この本は、中世ではなく現代の作家がアーサー王伝説をモチーフとして書き上げたオリジナル作品です。
なので、必然的に描写も現代の感覚に合うものとなっています。

「どういう心理で、どのように行動していったか」を丁寧に描いているので、より物語へ没入できるでしょう。感情移入のしやすさって、やっぱり大事ですからね…笑

 

1巻で語られるメインストーリーは、アーサーの誕生~円卓結成までで、それ以降は様々な騎士たちのサイドストーリーが描かれています。

 

なので1巻だけだとメインストーリーは半ばまでしか進みませんが、他の本ではあまり読めないサイドストーリーがたくさん読めるのはやはりいいところですね。
(2巻以降でメインストーリーが大きく動き出していきます)

 

「原典」ではありませんが、「物語として楽しむ」のであれば、この『アーサー王』シリーズが一番だと思っています。

 

また欠点をあげるとすれば、ごくたまに日本語訳にちょっとあやしいところが…。まぁ翻訳ものの本にはつきものですから、小さなことかもしれません。

 

この問題よりは、「たまに買いにくい」ことの方が大きいです。在庫に余裕のあるところが少ないので、(新品だと)3巻全部揃えにくいかもしれません…。

僕の場合、出版社さんへ直接問い合わせて購入した巻もあります。

 

あと、個人的には「推し騎士」のランスロットが美形のキャラじゃないことが気になります!ランスロットならやっぱりイケメンでなきゃ!
でもオリジナル作品なので、ここに注文をつけてはいけないですね 笑

 

この『アーサー王』シリーズは「原典」に比較的忠実な作品とされていることもあり、入門としてアーサリアン界隈では一番よくおすすめされている本だと思います。
(単純に小説として面白いですしね)

 

 

現代のオリジナル作品を、補足として2冊簡単にご紹介します。入手しやすいよう近年出版されたものを選んでいます。

ローズマリ・サトクリフ『落日の剣 真実のアーサー王の物語』(原書房)


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)

 

先ほどの『アーサー王』シリーズと同じ作家による本で、上・下巻あります。

「じゃあ『アーサー王』シリーズとの違いは何?買うならどっち??」と気になるかと思います、僕もそうでした 笑

 

端的に言うと、『アーサー王』シリーズはフィクション寄りの「伝説重視」、『落日の剣』は歴史ものっぽい「史実重視」です。
なのでいわゆる「アーサー王伝説」のストーリーや人物設定とはかなり違うところも多いです。

例えば、グワルフマイ(ガウェインの他言語での読み方)の役職が医者になっていたりします。

 

『落日の剣』も傑作ですし、2019年に新装版が出て入手しやすいのも良いところなんですが、「アーサー王伝説」の入門としてはちょっと向いていないかもしれません。

ちなみに『落日の剣』は、アーサー王の上の世代の物語である『ともしびをかかげて』(岩波少年文庫)という作品の続編です。

 

バーナード・コーンウェル『小説アーサー王物語』シリーズ(原書房)


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)

 

全6巻。2019年に新装版が出ています。巻数多いですね…笑

『小説アーサー王物語』シリーズは、『落日の剣』と同様に史実を盛り込んだ作風となっています。
そのストーリーは、華やかさ、と言うよりは重々しい雰囲気を全編に渡ってまとっています。

 

こちらも「原典」からの改変がいくつかあります。
僕が驚いた設定をひとつだけ紹介しますと、「モードレッド」という名前のキャラクターがふたりいて、その内の片方はなんとアーサーの兄弟という設定なんです 笑

 

そのモードレッドの子どもが、僕らのよく知っている方のモードレッド、という人物関係になっています。 

 

 

⑤斉藤洋『アーサー王の世界』シリーズ(静山社)


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)


作者の斉藤洋さんは『ルドルフとイッパイアッテナ』シリーズで知られる児童文学作家です。
昔夢中になって読んでいたのが懐かしいなぁ……。その斉藤さんがなんとアーサー王の物語を書いておられる!


ジャンルが児童書にはなりますが、大人の目で見ても楽しめると思います。読みやすさは随一で、物語世界へスッと入っていくことができるのです。

 

既刊は以下の通りで、

1巻『大魔法師マーリンと王の誕生』

 

2巻『二本の剣とアーサーの即位』

 

3巻『ガリヤの巨人とエクスカリバー』

 

4巻『湖の城と若きランスロット』

 

5巻『荷車の騎士ランスロット』

 

6巻『聖杯の騎士パーシヴァル』

 

7巻『キャメロットの亡霊』

となっています。一冊にまとめてダイジェストにすることが多い児童書の中で、既刊が7巻もあるのは珍しいと言えるでしょう。

 

言い換えれば、『アーサー王の世界』シリーズの魅力は、伝説を一冊にまとめず、巻数をかけてじっくり描き出すことにあると言えるかもしれません。

ダイジェストになりすぎないというのはおすすめできるポイントですね。 

 

1巻丸ごと、アーサーに仕えた魔法師・マーリンを主人公にして描いているのは中々面白い構成です。基本的にアーサー王伝説のメインの筋書きに沿った進み方をしていますが、終盤になると斉藤さん独自の設定も出てきます。

巻数は多いものの、全て170~200ページほどなのでスラスラ読めます。こちらも近年の作品なので、比較的買いやすいでしょう。

 

ひとつだけ気になるとすれば、刊行ペースがゆっくりなこと。
1巻は2016年10月で、6巻が2020年12月です。完結するまでもう少しかかりそうなんですよね…笑

追記:2021年8月に最終巻が出て完結しました!!

 

 

おわりに

最後にまとめますと、

〇「読むなら原典の最大手から!メインストーリーを知りたい!」
という方は ① の文庫版『アーサー王の死』


〇「メインストーリーを一冊で読みたい!しかも原典より分かりやすく!」
という方は ② の『アーサー王物語』


〇「いろんな原典を一冊で読みたい!」
という方は ③ の『図説アーサー王物語(普及版)』

 

〇「現代的に書かれた重厚な物語を読みたい!」
という方は ④ の『アーサー王』シリーズ

がおすすめです。あ、もちろん全部でもいいですよ!笑
( ↑ 青色の書名部分はリンクになっています)

 

強いてどれかひとつを選ぶなら、個人的には ③の『図説アーサー王物語(普及版)』がいいのかな、と思ってます。

 

約3000円と文庫本などに比べるとちょっと高いですが、一冊でいろんな「原典」の美味しいところを読める(しかも知識も身につく)のが最大のおすすめポイントかもしれません。
他の作品だと、買い揃える場合、合計で結構な値段になりますので… 笑

(④の『アーサー王』シリーズも、是非とも読んでいただきたいのですが……!!)

 

なので、アーサー王伝説の本を買うという時は、多少の出費は覚悟する必要があります…!笑
もちろん、図書館で探して購入前に自分で比較する、あるいは借りて読むというのもアリですね。

 

これを機に、アーサー王や円卓の騎士たちをより深く知ってみると、マンガやゲームでの彼らの姿がまた違って見えてくると思います。ぜひ自分の「推しの騎士」を見つけてください 笑

どれか読み終わる頃には、すっかりアーサリアンとなっていることでしょう…。僕はこちら側でお待ちしております……。

 

関連記事

アーサー王物語と円卓の騎士について~超・ざっくり解説~ 

→アーサー王伝説のストーリーや登場人物について要約した記事です。 

 

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→劇場版FGO『キャメロット前編』の感想記事です。2万字あるので、とにかく暇な時にご覧ください(笑)

 

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→劇場版FGO『キャメロット後編』の感想記事です。僕がアーサー王伝説にハマるきっかけとなった作品が、素晴らしい映画になっていて感無量です。

 

アーサー王伝説記事まとめ|「原典」や解説書などについて

→このブログの、アーサー王伝説に関する記事の一覧です。

 

斜線堂有紀『恋に至る病』|感想と寄河景についての考察

歪な愛の物語

 

(2021年3月23日 記事内容を改稿・追記しました)

 

どうも、トフィーです。
今回は3月25日にメディアワークス文庫より刊行された作品、斜線堂有紀先生の『恋に至る病』を紹介したいと思います。
この作品のような歪な愛の物語、ぼくはめちゃくちゃ大好きです。

 

実在した集団自殺ゲーム事件を題材にしているからか、この小説には妙なリアルさがあります。それに、不思議な引力も併せ持っています。
単純に言ってしまえば、この小説は暴走する愛と依存の物語
このワードだけで引っかかる人もいるでしょう。

 


恋に至る病 (メディアワークス文庫)

 



1.『恋に至る病』あらすじ・作者情報について

a.あらすじ

僕の恋人は、自ら手を下さず150人以上を自殺へ導いた殺人犯でした――。

やがて150人以上の被害者を出し、日本中を震撼させる自殺教唆ゲーム『青い蝶』。
その主催者は誰からも好かれる女子高生・寄河景だった。
善良だったはずの彼女がいかにして化物へと姿を変えたのか――幼なじみの少年・宮嶺は、運命を狂わせた“最初の殺人”を回想し始める。
「世界が君を赦さなくても、僕だけは君の味方だから」
変わりゆく彼女に気づきながら、愛することをやめられなかった彼が辿り着く地獄とは?
斜線堂有紀が、暴走する愛と連鎖する悲劇を描く衝撃作!

引用元:恋に至る病 (メディアワークス文庫)

 

b.作者・斜線堂有紀先生と関連作品について

斜線堂有紀先生は、第23回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を受賞してデビューされました。
その時の受賞作が『キネマ探偵カレイドミステリー』
全3巻のシリーズもので、『恋に至る病』とはまた毛色の異なる作品です。


キネマ探偵カレイドミステリー (メディアワークス文庫)

 

また斜線堂先生の作品の中で、『恋に至る病』に近い雰囲気の物語としては、『私が大好きな小説家を殺すまで』『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』があります。
両作品ともメディアワークス文庫から刊行されており、このブログでもとりあげさせていただきましたので、もし気になりましたらチェックしてみてください。

 


『私が大好きな小説家を殺すまで』

『恋に至る病』にはまった方に対して、特におすすめできる小説です。
こちらは「敬愛と執着の物語」です。
共依存の関係にある男女がどんどん深い沼へと沈んでいく様は、今作と重なる部分があります。

『憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は遥川悠真に死んでほしかった』

(『私が大好きな小説家を殺すまで』冒頭より引用)

 

www.kakidashitaratomaranai.info 

 

『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』
「金塊病」という特殊な病を患う女子大生と、彼女にひかれてしまった少年のひと夏の物語です。
「感情の証明は可能なのか?」という問いを一つのテーマとして、物語が進んでいきます。www.kakidashitaratomaranai.info 

また他にも、斜線堂先生は『楽園とは探偵の不在なり』のような本格ミステリーにも挑戦されており、バラエティ豊かな作風を楽しめます。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

c.相次ぐ重版・人気の理由は?

20年の3月に刊行された『恋に至る病』ですが、年内ですでに何度も重版の発表がされており、翌21年もな勢いが衰えていません。
(21年3月19日で第12刷となることが作者のTwitterより判明。えぐい)


かなりのスピードで売れているわけですが、どうしてここまでの人気が出たのかぼくなりに要因を考えてみました。

 

①先生自身の人気・知名度が上がってきている


上でも何作かの作品を紹介しましたが、斜線堂先生はその筆の速さと多才さから、すでに数々の作品を発表しています。
それぞれの作品に独特の味があり、いわゆる「作者買い」がされやすい作家だと思います。
あくまでもぼく個人の感覚になりますが、Twitterで読書アカウントの方と繋がっていると、他の作家とくらべて熱心なファンのツイートが流れてくることが多い印象です。
(まあこれに関しては、ぼくのタイムラインが偏ってるだけかもしれませんが……)

 

作品の積み重ねによって、着実にファンが増えてきているんですね。
発売から間もなく重版が決定したのは、『恋に至る病』が面白いからというのは当然のこととして、加えて先生自身の知名度があがり入口が広がっていることもまた一つの要因としてあげられるでしょう。

 

とこのように、すでに売れている『恋に至る病』ですが、ここからさらなるブーストがかかります。 

 

②先生のツイートがバズった

これは①とも重なる内容ではあるのですが、20年の7月末に先生のとあるツイートがバズっていました。
これが『恋に至る病』の直接的な売り上げ増に、強く関係したかは定かではありませんが、作者の知名度増に貢献したことは間違いないでしょう。

 

 

 

③Tik Tokの影響力


8月2日の日曜日に、この記事に異常なまでのアクセスが集まりました。
最初は「どこかでここのリンクが貼られたのかな……?」とも考えましたが、調べてみるとどうやら違うらしいことが判明します。

これも先生のツイートで知ったのですが、このとき『恋に至る病』自体が爆発的に売れていたようです。
ただその原因自体は、先生自身にも不明だといいます。

 

そして数時間が経過し、ついに真相が発覚。
なんと原因はTik Tokであることがわかりました‼

vt.tiktok.com

上の動画がバズりまくっていたようです。
内容をチェックしてみると、動画自体はシンプルなもので雰囲気がウケたのかな……といった感じ。


正直Tik Tokを甘く見ていました。
たった一日で各所通販サイトで品切れって、これはもう相当異次元なことが起きているわけで。
べつにこの結果を受けて、Tik Tokを始めてみようとまでは思いませんが、この動画で一気にブーストがかかったことは間違いありません。
宣伝の形も色々と変わってきたのかなあ……と妙な感動を覚えました。

この影響はしばらく続きました。
ちょくちょくとアクセスを集めていた当ブログにも、『恋に至る病』を通してより多くの人が訪ねて来ていただけるようになり、この作品のファンの一員としてもうれしいかぎりです。

 

2.『恋に至る病』感想・レビュー

a.感想・レビュー

 評価:★★★★★
メディアワークス文庫
2020年3月刊行

 

この物語は、回想の形式で進んでいきます。
回想という形式は、書き手からすれば時系列通りに物語を展開していけばいいので非常に筆が進みやすく、また読み手としても現在という明確なゴール(今回の場合はプロローグ)を目標にしていけるから飽きにくい
ぼくはそう感じているのですが、この作品もまさしくそれです。
誇張抜きでページをめくる手がなかなか止まりませんでした。

 

そしてゴールへと追いつき、残りの数ページに目を通した後に、まるで白昼夢から覚めたような思いをさせられました。

もうこれ以上は語れません。
ただ一つだけ言うとするならば、消しゴムで記憶をまっさらにでもしない限りは、再読するのが怖い作品だったということです。

 

 

もしもこのサイトがきっかけで『恋に至る病』を読むことを決意した方がいらっしゃれば、読了後に再びここを訪れてください。
あなたはきっと、二つの意味で狐に化かされたような心情になっていることでしょう。
この物語がどのような結末を迎えるのか、ぜひともあなたの目で確かめてください。

 

b.登場人物|寄河景(よすがけい)の魅力について

メディアワークス文庫ということからもわかる通り、この作品はキャラ文芸(ライト文芸)です。
キャラ文芸はライトノベルほどではないものの、他のどんな要素よりもまずはキャラクターが第一。
なので、この作品を語るにおいても、主要人物の説明は避けては通れません。

 

そういった意味で、ヒロインである寄河景(よすがけい)の存在は非常に重要なものではありますが、この小説においてはあらゆる意味で彼女の存在がすべてであるとも言えます。
これからこの小説を読まれる方は、彼女の言動のすべてを注意深く観察しながら、ページを進めていくといいでしょう。

 

ということで、『恋に至る病』のキーパーソン、寄河景について話していこうかと思います。
(※この作品はプロローグとエピローグを除いて、四つの章から構成されています。以下では、ネタバレを避ける意味でも章までの情報だけで景について説明していきます。)

 

寄河景はクラスの中心的な人物です。
小学生の頃から突出した美貌を兼ね備えていて、成績も常に上位をキープ、それでいて強い正義感をも併せ持っています。
転校初日の自己紹介ですっかりと上がり切ってしまった主人公に助け舟を出したり、公園で涙を流している少女に寄り添って泣き止ませたり。

 

彼女がクラスの中心に立ち続けている要因は、なにも上記のものだけではありません。彼女は自身の特異的にすぎるカリスマ性によって、頂点に立ち続けているのです。

 

たとえば彼女がいるクラスでは、多数決が行われたことが一度たりともありません。
クラスの係り決めでは34人の生徒が綺麗に定員数通りに分かれ、合唱祭の曲決めでは対抗案は一つたりとも出ず、文化祭ではほとんどの生徒がジャズを聴いたことすらないのにジャズ喫茶をやろうと言い出すほど。
しかもこのすべてが、小学校時代のエピソードです。

 

そんな誰の目から見ても完璧に映る彼女にも、一つだけどうしようもないものがありました。
それは、主人公へ降りかかる凄惨な虐めです。
彼女は虐めに気がつくと、すぐに首謀者に詰め寄りますが、まったくの逆効果。
それどころか、彼女も体育倉庫に閉じ込められてしまいます。
主人公はそのこともあり、一度は景を遠ざけて一人で耐え続けますが、骨折してしまったことでついに決壊。
それを受けて、景はとある手段を取ります。
この事件を契機に、彼女の倫理観は大きく変貌し、『青い蝶』が産まれるのです。
『恋に至る病』は、絶対的なカリスマを有する少女が悪へと堕ちていく物語なのです。

 

景の紹介の締めくくりとして、彼女を象徴する、ぼくが好きな台詞を三つ引用しましょう。

「宮嶺は私のヒーローになってくれる?」

 

「そんなことないんだよ。人はそう簡単に理由も無く死にたくなるんだ。死にたくなるから死ぬ。人間の中には流されやすい人も居るから、そういう人はただ自殺の方向に流されてるだけ」

 

「もう分かったよね。私は宮嶺が好きだから、ブルーモルフォを創り出せた。宮嶺のことが無かったら、私はブルーモルフォを運営出来なかった。だから、これが愛の証明。……私があげられる全部」

 

 

 


恋に至る病 (メディアワークス文庫)

 

 

c.『恋に至る病』と一緒におすすめしたい小説

ここでは、『恋に至る病』と一緒に手に取っていただきたい物語を紹介いたします。
もちろん斜線堂先生の他作品もおすすめではありますが、すでに上でも触れたため、別の作者の小説の中からセレクトいたしました。

 

『ハーモニー』

過剰なまでの優しさは暴力になり、楽園は地獄となる。

 

この物語は数年前に自殺したと思われていた少女、御冷ミァハを中心に動いていきます。
小さなコミュニティのリーダーに過ぎなかった少女が、多くの人を魅了する絶対的なカリスマへと変貌し、世界を混乱に陥れていく。
そんなミァハの軌跡を、彼女の親友である主人公・トァンの視点で追っていく、といった内容です。

 

『恋に至る病』を読み、寄河景という少女の軌跡を追っていく際に、ぼくは『ハーモニー』のミァハのことを連想しました。
寄河景の魅力にどっぷり浸った方は、きっとこの本にもハマれるかと思います。


ミァハのセリフには魅力的なものがいくつもありますが、その中でも個人的に一番印象に残っているものを以下に引用いたします。
もし、何か引っかかるところがあるのなら、ぜひ手にとっていただきたいです。

「フィクションには、本には、言葉には、人を殺すことのできる力が宿っているんだよ、すごいと思わない」

(『ハーモニー』より引用)

 


ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

『15歳のテロリスト』

「少年犯罪」がテーマのライト文芸。
『恋に至る病』とは違う方向性で心を抉ってくる作品です。
被害者家族の少年と、加害者家族の少女の嘆きには胸を痛めつけられながらも、目が離せません。

「全部、全部、世界ごと、吹き飛んでしまえばいい」

(『15歳のテロリスト』より引用)

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『夏へのトンネル、さよならの出口』

ノスタルジーな田舎の夏、鮮やかな青春とライトなSF。
爽やかで切ないボーイミーツガールで、巧みな情景描写がそれを後押ししています。
『恋に至る病』でグサグサと心を抉られた人は、こちらを読んで癒されてみてください。 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

以上、おすすめ本でした。
また、他にも様々な作品のレビューをしていますので、もしよければご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 ※以下は、物語の核心に迫るネタバレです。
『恋に至る病』を未読の方は、お気をつけください。そうでない方はグッとスクロール‼

 

 

 

 

 

 

 

 

3.『恋に至る病』エピローグ・寄河景についての考察(ネタバレ注意‼)

サラッと物語の流れを復習しましょう。

 

出会う → 主人公がいじめを受ける → 景がいじめっ子を殺害する → それから景とは疎遠になるも、中学で再び接近 → 高校で付き合う→ 景が集団自殺教唆ゲームの主催者だと判明 → 主人公も事件に関わっていく → 彼女の異常性に気づき、なんとか暴走を止めようとする → 失敗し、景が刺されて死ぬ → 主人公が景を庇ってゲームの主催者だと主張するも、彼は利用されていただけだという疑念があがりストーリーが締めくくられる。

 

だいたいの内容はこんな感じだったと思います。
要するに、主人公の目線で景という少女の姿に迫っていく。
そして最後に「主人公さえもが景に利用されていただけなのか?」という謎が残されて、読者が色々と考えるような構成になっています。

 

さて、ぼくの見解を書きましょう。

 

景は一度たりとも宮嶺のことを「望」と名前で呼んでいません。
これって、ちょっと不自然じゃないですか?
いや確かに恋人同士であったとしても、互いのことを苗字で呼び合うカップルはいるでしょう。
でも、この作品において主人公の名前を呼ばないということには大きな意味が込められているのではないかとぼくは思うのです。
なぜかといえば主人公の名前が「望」だから。
それはつまり、この物語には希望がないということを暗に示しているのではないでしょうか。

 

またラストに出てくる消しゴムの文字が滲んで消えているというのも、希望が消されているということを示しているのではないでしょうか。
この物語が、「けれど僕は、それが自分の名前であることを知っている」という一文で締められていることからも、この物語にはやはり「名前」というファクターに大きな意味が込められていると思うのです。

 

そう考えれば消しゴムはおまじないではなく、彼女によって作為的に作られたいじめの引き金だったではないでしょうか。
消しゴムがなくなったことを皮切りに、いじめがスタートしたのですから。

 

「恋は人を盲目にする」とはよく言われますが、寄河景はそれを利用して宮嶺望を掌握したのです。
すべては初めから仕組まれていたというわけですね。
以上のことから、寄河景は純然たるサイコパスだった、『恋に至る病』とはそういった寄河景の悪の性質そのものだったというのが個人的見解です。

 

色々と語りましたが、これはあくまでも個人の意見です。
あなたは、この物語のエピローグをどのように捉えましたか?

 

 

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

詩を(ライトに)読む ~『萩原朔太郎詩集』編①~

何かにつけ人目が気になってしまいがちなAuraです。今ここでは何を気にしているのかと言いますと、自分が「詩が好きだ」という話を人にはしづらいということです。趣味で「読書(小説・ラノベなど)が好きだ」という人はあまた見かけますけれども、そこでもし「詩が好きだ」と話したら、「え…?なんかガチじゃん」と言われるような予感がしてならないのです 笑


詩と言うと、どこか近寄りがたいように感じることが多いのでしょう。しかし、他の本と同じように気軽に触れてみてもいいものだと僕は思っています。
僕とて詩人に詳しいわけでも、毎日のように読むというわけでも、そして読んで何かしらの「高尚な思索」をしているわけでもありません。時々図書館にふらっと行っては読んでいたという程度の、いわゆるライト勢に過ぎません 笑

 

 

『萩原朔太郎詩集』を選んだきっかけ

ただ、手近なところに詩集のひとつでもあればとこの頃思うようになり、買ったのが『萩原朔太郎詩集』です。

朔太郎をはじめに選んだのは、昔『こころ』という詩を読んで以来記憶に残っていたからです。

 

こころ

 

こころをばなににたとへん
こころはあぢさゐの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思ひ出ばかりはせんなくて。

(後略)

 

おそらく彼の詩の中で最も有名と言ってよいでしょう。読んだことのある方もおられると思います。また、ジブリ映画『ゲド戦記』における『テルーの唄』の歌詞は、この詩を下敷きにしていると(パ〇リとも…)言われています。

 

さて、これから記しますのは、半分ほど読んで気に入ったものの個人的なメモであり、ライトな感想です。詩の背景にある作者の生涯などは、今回は取り扱いません…。

特に詩では作品にどこまで作者の姿を見出すか、という少々難しい問題がありますけれども、まず作品から入っていこうと思います。

 


萩原朔太郎詩集 (岩波文庫)
(Amazonへのリンクです)

結構イケメンですね、朔太郎 笑

 

『夜汽車』

夜汽車

 

有明のうすらあかりは
硝子戸に指のあとつめたく
ほの白みゆく山の端は
みづがねのごとくにしめやかなれども
まだ旅人のねむりさめやらねば
つかれたる電燈のためいきばかりこちたしや。
あまたるきにすのにほひも
そこはかとなきはまきたばこの烟さへ
夜汽車にてあれたる舌には佗しき
いかばかり人妻は身にひきつめて嘆くらむ。
まだ山科は過ぎずや
空気枕の口金をゆるめて
そっと息をぬいてみる女ごころ
ふと二人かなしさに身をすりよせ
しののめちかき汽車の窓より外をながむれば
ところもしらぬ山里に
さも白く咲きてゐたるをだまきの花。

 
(※原文では、にすに傍点が打ってありますが、ブログでは表記できないので代わりに太字としました。)


汽車の中での様子を描いた詩。夜明けが近づき、かすかに光る山の稜線をみづがね=水銀にたとえています。車窓を隔てた向こうの、もの静かな情景を想像できます。同じ静けさでも、夜とは違い朝のそれは一瞬で過ぎてしまいます。稜線が光っているのもわずかな時の間…。


そのかすかでもまばゆい光で目を覚ましたのでしょう、視線を車内へと動かせば、乗客の多くは眠ったまま。静かなはずの車内で五感が際立ってとらえるのは、電灯のちらつく音と、ニスの匂いと、タバコの煙。こうしたものを感じ取る時、外の景色と比べると車内はどこか雑然としています。「電燈のためいき」という表現が個人的にグッときました。
目的地まではまだ遠く、同じく起き出した女と身を寄せ合い再び外へと目をやれば、そこにはオダマキの花。きっと朝陽をうけて一層白く見えていることでしょう。

 

僕は新幹線ではなく在来線でゆっくり行く旅が好きで、(朝とは少し違いますが)夕方の車内はこの詩の現代版とも言える様子となります。それを思い出して、たまには車ではなく電車で旅行に出かけてみようかなぁ、という気持ちになりました。

 

 

『桜』

 

桜のしたに人あまたつどひ居ぬ
なにをして遊ぶならむ。
われも桜の木の下に立ちてみたれども
わがこころはつめたくして
花びらの散りておつるにも涙こぼるるのみ。
いとほしや
いま春の日のまひるどき
あながちに悲しきものをみつめたる我にしもあらぬを。

 

咲きわたる桜を見て、人は何を感ずるでしょうか。今でも花見で宴を開き、楽しげに盛り上がっている場面を目にします。桜のもとに集まりその綺麗さに心うたれる人々。自分もそんなふうに、と思っても決して心が満たされることはありません。散りゆく桜を見て感傷を抱いてしまうのです。人とは違うのだという孤独の涙が、花びらとともに落ちていきます。今自分が見つめているのは、悲しいもののはずではないのに…。

 

桜というのは古来、美しさと散る儚さの両方が取りあげられています。とはいえ、悲しい面ばかりを見出す感傷的な人はきっと少数派なんだろうな…と思っています。そういう人にとっては、この桜の詩は胸に迫るものがあるでしょう。朔太郎の感性がよく表れています。

この前僕は夕暮れ時に桜を見にいったんですが、まさにセンチメンタルのダブルパンチに遭ってしまい、それはもうすさまじく気分がうちしおれました 笑

 

 

『月光と海月』

月光と海月

 

月光の中を泳ぎいで
むらがるくらげを捉へんとす
手はからだをはなれてのびゆき
しきりに遠きにさしのべらる
もぐさにまつはり
月光の水にひたりて
わが身は玻璃のたぐひとなりはてしか
つめたくして透きとほるもの流れてやまざるに
たましひは凍えんとし
ふかみにしづみ
溺るるごとくなりて祈りあぐ。

 

かしこにここにむらがり
さ青にふるへつつ
くらげは月光の中を泳ぎ出づ。

 
とても幻想的な詩です。月光に照らされた水面はさぞ美しいことでしょう。くらげをとらえようと手を遠くまで伸ばすも、つかまえられることはなく…。海を漂い濡れた体は、さながらガラスのように月光を映し出しますが、やがて溺れるように、冷たく暗い深みへと沈んでいってしまいます。対象的に、くらげは周りや頭上でたゆたっているのです。

 

遠くまで離れていき手の届かなくなったくらげは、自分が望んでも叶わない・得られないものを象徴しているのかなと個人的には感じられました。そも、くらげというのはつかみどころのない存在ですから、その願望もはじめから成し得ない幻なのでしょうか。凍えた魂のまま沈んで行く姿は、先の『桜』とはまた異なる孤独を描き出しているように思います。

 

 

 

第一回はこの三つで終わりとしますが、今後続きを書く予定…?です。詩の感想を書くのが予想していたよりも難しかったので、この記事では魅力は伝わりにくいかもしれません。うまく言葉にまとめられない感覚があります。

 

詩集の中の朔太郎の言葉、

『どういふわけでうれしい?』といふ質問に対して人は容易にその理由を説明することができる。けれども『どういふ工合にうれしい?』といふ問に対しては何人もたやすくその心理を説明することは出来ない。

にはすごく同意したくなりました。


みなさんも何か詩に触れてみることを僕としてはすすめたいのですが、今回記事にした萩原朔太郎は、正直なところ万人受けしにくいかもしれませんね…笑
次は現代の詩人・谷川俊太郎の詩集を買ってみようと思います。

 

【アニメ化】ハードSF『86-エイティシックス-』紹介|感想・レビュー

どうも、先ほど電撃大賞に応募してきたトフィーです。
いやあ、今回は余裕をもって投稿できました(締め切り一日前)



さっそくですが、その電撃文庫の中でもぼくのお気に入りのライトノベルを紹介させていただきます。

第23回電撃小説大賞《大賞》受賞作、『86-エイティシックス-』です。

 


86―エイティシックス― (電撃文庫)

 

 

1.『86-エイティシックス-』あらすじ

 

“その戦場に死者はいない”――だが、彼らは確かにあそこで散った。サンマグノリア共和国。そこは日々、隣国である「帝国」の無人兵器《レギオン》による侵略を受けていた。しかしその攻撃に対して、共和国側も同型兵器の開発に成功し、辛うじて犠牲を出すことなく、その脅威を退けていたのだった。そう――表向きは。本当は誰も死んでいないわけではなかった。共和国全85区画の外。《存在しない“第86区”》。そこでは「エイティシックス」の烙印を押された少年少女たちが日夜《有人の無人機として》戦い続けていた――。死地へ向かう若者たちを率いる少年・シンと、遥か後方から、特殊通信で彼らの指揮を執る“指揮管制官(ハンドラー)”となった少女・レーナ。二人の激しくも悲しい戦いと、別れの物語が始まる――!第23回電撃小説大賞《大賞》受賞作、堂々発進!
引用元:86―エイティシックス― (電撃文庫)

 

2.『86-エイティシックス-』感想・内容紹介


『86-エイティシックス』は、SF・キャラクターが多い・(一巻は)女性主人公というライトノベルではウケにくい要素が詰め込まれた作品です。

それにも関わらず近年のライトノベル作品ではかなり売れていて、電撃小説大賞《大賞》作ということもあり、多くのライトノベル読者に一目置かれています。
ちょうど今年の3月にアニメ化も発表されたこともあり、勢いに乗っている作品です。

ライトノベルでありながら、『86-エイティシックス』は決して「ライト」な小説ではありません。
娯楽としての小説でありながら、こちら側へと強く訴えかけてくるテーマがあります。

そのテーマとは、「差別と戦争」という非常にハードなもの。
『86-エイティシックス』では差別する側、される側双方にフォーカスが当てられており、あらゆる角度から差別について描かれています。

たとえばヒロインのレーナの視点から。
彼女は帝国の中では珍しく、エイティシックスに対しても心優しい善良な指揮官です。しかしながら、当初のエイティシックス達は彼女に対して冷めた目を向けていました。
その理由は彼女が共和国民であるからというだけではありません。
なんと、レーナは自身でも気づかぬうちに彼らへの差別を行っていたのです。
そのことに気づかされた彼女は、エイティシックスたちとの向き合い方を改めて考え、少しずつではありますが信頼関係を築いていくように努めていくのです。

差別にもいろいろな形があり、自分にそのつもりがなくても無自覚な差別を行っていることもある。
このように『86-エイティシックス』はライトノベルでありながらも、差別問題における一つの核心を突いたストーリーになっているのです。
そしてそれが戦時下というひっ迫した環境の中で展開されていて、多くの人の死を通して戦争と差別の悲惨さをこれでもかと訴えかけてきます。

またこの作品では、それぞれのキャラクターの信念が描かれています。
たとえ差別され、使い捨てにされる存在だとしても、エイティシックスには彼らなりの信念がある。
普通の暮らしをしていたころの平穏な日常の記憶や、エイティシックスと呼ばれるようになってからの人間関係など各々に人生があり、家畜として扱われながらも積み上げてきた信念があるのです。

それはプライドであるとともに呪いでもあります。
そんな彼らの信念に対し、レーナがどのように反応し行動するのかもこの作品の大きな見どころです。

ようするに『86-エイティシックス』は、娯楽としてのミリタリーSFの枠を飛び越えた作品なのです。
やがて死にゆく者たちにとっての救いとはなにか、立場がまったく異なる者たちの、真の意味での相互理解は可能なのか、その結末は自身の目で確かめてみてください。


一巻だけでも完成されているため、とりあえずこの一冊だけでもキリよく読み終えることができるのもおススメポイントです。

一つだけこの作品の欠点をあげるとするならば難解な言い回しや語彙が多く、読みにくいところが欠点でしょうか。
けれどもその難解な書き方も、物語の雰囲気作りに寄与していることもまた事実です。良くも悪くも非常に読み応えのある文章だと言えるでしょう。

あらゆる意味でイレギュラーな『86-エイティシックス-』ですが、その読後感は屈指のもの。
『キノの旅』で有名で最終選考委員でもある時雨沢恵一先生に、「ラストの一文まで、文句なし」と言わしめたほどです。


この作品、実は一次落ちを経験しています。
ある意味一次選考というものは、たとえ作品のクオリティがあろうが、下読みとのミスマッチが起こりうるために一番難関だとささやかれています。
そして再度投稿する際に、現在のラストシーンを付け加えたという経緯があります。
『86-エイティシックス-』の結末が評価されたことから考えると、『電撃大賞』ではライトノベルとしてはやはり希望を持たせる締め方が望ましいというスタンスを取っているのでしょうか。
その真偽はわかりませんが、『電撃大賞』を狙うのであれば分析する価値はおおいにあります。

未読の方はどうか一度目を通してみてください。


86―エイティシックス― (電撃文庫)

 

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