円卓の騎士の「え」の字を聞くや否や鼻息を荒げて円卓トークを始めてしまうAuraです。伝説や伝承に詳しくない人でも、アーサー王をはじめとした円卓の騎士について、何かしら聞いたことのある方が多いと思います。
それもそのはず、日本のサブカルチャー作品には、アーサー王伝説の要素を数多く見出すことができるからです。
アニメやマンガ、ゲームなど様々な媒体で騎士や武具の名前が使われていて、全て調べるのもそれを載せるのも難しいくらいです 笑
ほぼ名前だけ借りているものも少なくないですが、アーサー王伝説の物語自体をモチーフとした作品もあります。マンガ『七つの大罪』やゲーム『Fate』シリーズなどです。
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僕がアーサリアン(=アーサー王伝説が好きな人)になったきっかけは、『Fate』シリーズに触れたことでした。そこで興味を持ち、原典となった物語を読もうと思い至ったのです。
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今回は「興味はあるけど、どの本を読めばいいんだろう…?」という初心者の方のために、私的なおすすめ(入門書)に加え、他との比較も書き連ねていきます。
※なるべくネタバレなしで書いています。
それなりに情報量の多い記事なので、先んじて結論を書いておこうと思います。
僕のおすすめは、以下の3作品です(番号は目次でつけた数字です)。
② ジェイムズ・ノウルズ『アーサー王物語』(偕成社文庫)
③ アンドレア・ホプキンズ『図説 アーサー王物語』(原書房)
④ ローズマリ・サトクリフ『アーサー王』シリーズ(原書房)
「この3つが特におすすめなのか~」と念頭に置いて、記事を読み進めていただくと良いかもしれません。
アーサー王伝説の「原典」
①トマス・マロリー『アーサー王の死』(ちくま文庫)
「原典」といっても、アーサー王伝説は様々な作家たちに題材とされているので、明確に「これだ!」と言えるものはありません。
しかし今日一番よく知られているのが、1470年ごろに書かれたトマス・マロリーの『アーサー王の死』です。
現代において、アーサー王伝説の「原典」として真っ先に挙げられるのは『アーサー王の死』だと言ってよいでしょう。
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一般にアーサー王伝説の「原典」と呼ばれている、中世ヨーロッパ文学について詳しく取りあげている記事です。
アーサー王伝説の発展や、日本語訳の本についてもまとめました。(こちらは若干のネタバレありです)
まとめ①では、数あるアーサー王物語の中でも、メインストーリーといえるような作品群を扱っています。
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こちらのまとめ②では、サイドストーリーの中でもとりわけ有名な作品をご紹介しています。
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話を戻しましょう。
『アーサー王の死』を読む場合、文庫版がおすすめです。
この文庫版は完訳『アーサー王物語Ⅰ~Ⅴ』(筑摩書房)の内容から、アーサーとランスロットが中心となるエピソードが収められています。
本当なら完訳版の方がいいのでしょうが、いかんせん絶版になっていて中々手に入れられません。※kindle版(アーサー王物語 1)はあります。
アーサーの誕生、王への即位、円卓の結成、そして栄光の終焉と、言わばアーサー王伝説のメインストーリーをこの一冊で読むことができます。
ただ、ガウェインやトリスタンが主役をはっているサイドストーリーや、「聖杯探索」の話が入っていないのは少々残念に感じられるところです。
また、この本の欠点は、「ちょっと読みにくいところがある」ということです。
というのも、元が中世の作品なので、文章の書き方・描写の仕方などが現代の作品とは異なります。
たとえるなら「〇〇が✕✕した。すると◆◆が▢▢した。〇〇は△△した。」というように、単調な・単純な感じで進むところもあったので、読み物としての面白さが少し足りないかもしれません…実際僕はそう感じたんですね…笑
言い換えれば、淡々とした三人称視点で書かれているため、「あらすじ」をずっと読んでいるかのような感覚に陥ってしまいました…笑
全部が全部そうという訳ではありませんよ!面白く読める箇所もあります。
ただし、これはアーサー王伝説に限らず、他の神話・伝説などにも言えることかもしれません。古典ならではの文章の味わいを楽しむというのは、最初はハードルが高いでしょう。
つまりは、最初に中世文学を読むと挫折する可能性があるということです。
なので、原典を読む前に②や③でご紹介している本などで「予習」してから改めて原典を読むのもありでしょう。
遠回りに思えるかもしれませんが、場合によってはこの方がいいかもしれません。
僕は「予習」した後で、原典をいろいろ読んでいたら中世文学にけっこう慣れました 笑
なんだか欠点ばかり書いてしまいましたが、「(現代的感覚で)物語として楽しむ」よりもまず「原典そのものを知る」ことを重視したい場合は、手に取るといいんじゃないかな~と思います。
さて、ここからはふたつのスタンスに分けて書籍を紹介していきます。
すなわち、
〇とりあえず一冊でざっと読みたい
〇何冊かになってもいいからじっくり読みたい
のふたつです。
正直なところ、アーサー王伝説の魅力は一冊だけではカバーしきれないのですが、何冊か読むのは大変だと感じる方もおられるかと思います 笑
そこで、上記に基づく作品をそれぞれご紹介していきます!
まずは「一冊で読める本」です。
一冊で読む時のおすすめ本
②ジェイムズ・ノウルズ『アーサー王物語』(偕成社文庫)
偕成社文庫の『アーサー王物語』は、長大なアーサー王伝説の中から、マロリーの『アーサー王の死』をベースとして、メインストーリーと言える部分だけをまとめた作品です。
なので傾向としては、①の文庫版『アーサー王の死』と似たような感じですが、こちらには聖杯探索のエピソードも入っています。
児童書にはなりますが、「小学校高学年以上から読める本」であって、決して「小学校高学年までが対象の本」ではありません。
もちろん大人の目から見ると、描写などがざっくりとはしていますが、それは原典の伝説でも似たようなものですしね……笑
一冊でまとまっている上に、文章が文庫版『アーサー王の死』よりは読みやすくなっているのでおすすめです。
ちなみに、この記事を最初に投稿した時は、この本をおすすめに入れていませんでした……。
なぜかと言うと、ガウェインやトリスタンの有名なエピソードなどが収録されていないからです。
ここに関しては、Amazonの商品レビューでも評価が分かれているようです。
でもまぁ、メインストーリーに直接関係ない話ではあるので、カットされるのも仕方ないのかなと……。
ただカットした分、一本筋の通ったストーリーが読めます。
これはまんざら悪いことでもないなと最近思ったため、おすすめに追加しました。
③アンドレア・ホプキンズ『図説 アーサー王物語』(原書房)
「図説」とありますが、説明や図がメインの事典のような作りではなく、物語の文章の合間合間に、コラムや挿絵のように図が入っています。
そのためストーリーを楽しむだけでなく、豆知識を知ったり、図をあわせて見て当時のイメージを膨らませたりすることもできるのです。
画像:『図説 アーサー王物語』より
内容として、①でご紹介した『アーサー王の死』に加え、中世のマロリー以外の作家の作品も収められています。
省略されているところもありますが、複数の作品をひとつの作品としてまとめ再構成しているので、この一冊でカバーできる範囲が広いです。
(再構成した本であるため厳密には「原典そのもの」ではないですね)
『ガウェインと緑の騎士』『トリスタンとイゾルデ』、「聖杯探索」など、文庫版『アーサー王の死』には入っていなかった話もこちらでは読むことができます。
アーサー王伝説を一冊にまとめている本は色々ありますが、この『図説 アーサー王物語』は、一番ちょうど良い幅広さになっていると思います。
また、著者の手で文体が改められているため、中世の文章を直訳した本より随分と読みやすくなっています。
なので文庫版『アーサー王の死』よりは、原典を知りつつ、物語としても楽しめる…!と僕は思ってます。
旧版と普及版とがあり、後者は2020年4月に出た新刊なので、アーサー王関連の本の中ではおそらく入手しやすいのもポイントです。
いいところばかり書きましたが、人によっては気になる可能性のある点も書いておきますね 笑
この本は、「著者による文」と「(原典からの)引用文」の2種類の文を組み合わせて構成されています。
前者の地の文は「です・ます調」、後者の地の文が「だ・である調」で書かれているので、異なる文体が混ざっていることにモヤモヤする方もおられるかもしれません。
ただ、それほど頻繁に文体が入れ替わる訳でもないので、僕は気にならなかったことも付け加えておきます。
あ、同じ原書房さんから、『図説 アーサー王伝説物語』という書名のめちゃくちゃ似てる本が出ていますが、こちらはどちらかというと解説本なので、探す時は間違えないようお気をつけください…笑
補足として、この項では他にも1冊簡単にご紹介します!「おすすめ」というよりは比較です。
井村君江『アーサー王ロマンス』(ちくま文庫)
『図説 アーサー王物語』と同じく、「一冊で読める」というところを重視し、僕が以前読んだのがこちら。
『アーサー王ロマンス』も、『アーサー王の死』をベースに様々な原典をまとめている本です。ガウェインやトリスタンの話も読めます。
この記事でご紹介している本の多くは、ハードカバーで2000円くらいしますが、これは文庫となっています。約700円なのでお手頃価格!
「お!これは読みやすそうじゃん!しかも文庫だから安いし!」と思ったんですけれども……ダイジェストすぎる感じがしましたね……笑
確かに、かなり読みやすい文章ではありましたが、「物語として楽しむ」には不十分なように思います。
また、『図説 アーサー王物語』と同じく解説がところどころに入っているのは良い点ですが、この本ではそれが本文に地続きで書いてあって流れが悪いです。
イメージをお伝えしますと、
「アーサー王はついにイングランドを平定し、キャメロットに拠点を定めました。このキャメロットの場所については諸説あって……」
というように、伝説の内容と解説がごっちゃになっている部分があり、「ストーリーを続けて読みたい」という方には不向きな本です。
『図説 アーサー王物語』のように、本文とは別に枠で囲うなどしてあれば良かったんですが…。
中盤以降は解説が減り、ストーリーも佳境に入って盛り上がるので読み進められましたが、(僕個人の好みの問題ではありますけれども)前半部における上記の欠点がやはり気になるところです。
『アーサー王ロマンス』はあくまで物語風の解説本である、と言うと伝わりやすいかと思います。
なお、『新訳 アーサー王物語』(角川文庫)という本も同様に、物語風の解説本という作りになっています。
では、今度は「何冊かに分かれている本」でのおすすめをご紹介していきます。
何冊かで読む時のおすすめ本
④ローズマリ・サトクリフ『アーサー王』シリーズ(原書房)
1巻『アーサー王と円卓の騎士』
…アーサー誕生からパーシヴァルの登場まで
2巻『アーサー王と聖杯の物語』
…騎士たちによる聖杯探索
3巻『アーサー王最後の戦い』
…王国の崩壊とアーサー王の死
という構成になっています。
この本は、中世ではなく現代の作家がアーサー王伝説をモチーフとして書き上げたオリジナル作品です。
なので、必然的に描写も現代の感覚に合うものとなっています。
「どういう心理で、どのように行動していったか」を丁寧に描いているので、より物語へ没入できるでしょう。感情移入のしやすさって、やっぱり大事ですからね…笑
1巻で語られるメインストーリーは、アーサーの誕生~円卓結成までで、それ以降は様々な騎士たちのサイドストーリーが描かれています。
なので1巻だけだとメインストーリーは半ばまでしか進みませんが、他の本ではあまり読めないサイドストーリーがたくさん読めるのはやはりいいところですね。
(2巻以降でメインストーリーが大きく動き出していきます)
「原典」ではありませんが、「物語として楽しむ」のであれば、この『アーサー王』シリーズが一番だと思っています。
また欠点をあげるとすれば、ごくたまに日本語訳にちょっとあやしいところが…。まぁ翻訳ものの本にはつきものですから、小さなことかもしれません。
この問題よりは、「たまに買いにくい」ことの方が大きいです。在庫に余裕のあるところが少ないので、(新品だと)3巻全部揃えにくいかもしれません…。
僕の場合、出版社さんへ直接問い合わせて購入した巻もあります。
あと、個人的には「推し騎士」のランスロットが美形のキャラじゃないことが気になります!ランスロットならやっぱりイケメンでなきゃ!
でもオリジナル作品なので、ここに注文をつけてはいけないですね 笑
この『アーサー王』シリーズは「原典」に比較的忠実な作品とされていることもあり、入門としてアーサリアン界隈では一番よくおすすめされている本だと思います。
(単純に小説として面白いですしね)
現代のオリジナル作品を、補足として2冊簡単にご紹介します。入手しやすいよう近年出版されたものを選んでいます。
ローズマリ・サトクリフ『落日の剣 真実のアーサー王の物語』(原書房)
先ほどの『アーサー王』シリーズと同じ作家による本で、上・下巻あります。
「じゃあ『アーサー王』シリーズとの違いは何?買うならどっち??」と気になるかと思います、僕もそうでした 笑
端的に言うと、『アーサー王』シリーズはフィクション寄りの「伝説重視」、『落日の剣』は歴史ものっぽい「史実重視」です。
なのでいわゆる「アーサー王伝説」のストーリーや人物設定とはかなり違うところも多いです。
例えば、グワルフマイ(ガウェインの他言語での読み方)の役職が医者になっていたりします。
『落日の剣』も傑作ですし、2019年に新装版が出て入手しやすいのも良いところなんですが、「アーサー王伝説」の入門としてはちょっと向いていないかもしれません。
ちなみに『落日の剣』は、アーサー王の上の世代の物語である『ともしびをかかげて』(岩波少年文庫)という作品の続編です。
バーナード・コーンウェル『小説アーサー王物語』シリーズ(原書房)
全6巻。2019年に新装版が出ています。巻数多いですね…笑
『小説アーサー王物語』シリーズは、『落日の剣』と同様に史実を盛り込んだ作風となっています。
そのストーリーは、華やかさ、と言うよりは重々しい雰囲気を全編に渡ってまとっています。
こちらも「原典」からの改変がいくつかあります。
僕が驚いた設定をひとつだけ紹介しますと、「モードレッド」という名前のキャラクターがふたりいて、その内の片方はなんとアーサーの兄弟という設定なんです 笑
そのモードレッドの子どもが、僕らのよく知っている方のモードレッド、という人物関係になっています。
⑤斉藤洋『アーサー王の世界』シリーズ(静山社)
作者の斉藤洋さんは『ルドルフとイッパイアッテナ』シリーズで知られる児童文学作家です。
昔夢中になって読んでいたのが懐かしいなぁ……。その斉藤さんがなんとアーサー王の物語を書いておられる!
ジャンルが児童書にはなりますが、大人の目で見ても楽しめると思います。読みやすさは随一で、物語世界へスッと入っていくことができるのです。
既刊は以下の通りで、
1巻『大魔法師マーリンと王の誕生』
2巻『二本の剣とアーサーの即位』
3巻『ガリヤの巨人とエクスカリバー』
4巻『湖の城と若きランスロット』
5巻『荷車の騎士ランスロット』
6巻『聖杯の騎士パーシヴァル』
7巻『キャメロットの亡霊』
となっています。一冊にまとめてダイジェストにすることが多い児童書の中で、既刊が7巻もあるのは珍しいと言えるでしょう。
言い換えれば、『アーサー王の世界』シリーズの魅力は、伝説を一冊にまとめず、巻数をかけてじっくり描き出すことにあると言えるかもしれません。
ダイジェストになりすぎないというのはおすすめできるポイントですね。
1巻丸ごと、アーサーに仕えた魔法師・マーリンを主人公にして描いているのは中々面白い構成です。基本的にアーサー王伝説のメインの筋書きに沿った進み方をしていますが、終盤になると斉藤さん独自の設定も出てきます。
巻数は多いものの、全て170~200ページほどなのでスラスラ読めます。こちらも近年の作品なので、比較的買いやすいでしょう。
ひとつだけ気になるとすれば、刊行ペースがゆっくりなこと。
1巻は2016年10月で、6巻が2020年12月です。完結するまでもう少しかかりそうなんですよね…笑
追記:2021年8月に最終巻が出て完結しました!!
おわりに
最後にまとめますと、
〇「読むなら原典の最大手から!メインストーリーを知りたい!」
という方は ① の文庫版『アーサー王の死』
〇「メインストーリーを一冊で読みたい!しかも原典より分かりやすく!」
という方は ② の『アーサー王物語』
〇「いろんな原典を一冊で読みたい!」
という方は ③ の『図説アーサー王物語(普及版)』
〇「現代的に書かれた重厚な物語を読みたい!」
という方は ④ の『アーサー王』シリーズ
がおすすめです。あ、もちろん全部でもいいですよ!笑
( ↑ 青色の書名部分はリンクになっています)
強いてどれかひとつを選ぶなら、個人的には ③の『図説アーサー王物語(普及版)』がいいのかな、と思ってます。
約3000円と文庫本などに比べるとちょっと高いですが、一冊でいろんな「原典」の美味しいところを読める(しかも知識も身につく)のが最大のおすすめポイントかもしれません。
他の作品だと、買い揃える場合、合計で結構な値段になりますので… 笑
(④の『アーサー王』シリーズも、是非とも読んでいただきたいのですが……!!)
なので、アーサー王伝説の本を買うという時は、多少の出費は覚悟する必要があります…!笑
もちろん、図書館で探して購入前に自分で比較する、あるいは借りて読むというのもアリですね。
これを機に、アーサー王や円卓の騎士たちをより深く知ってみると、マンガやゲームでの彼らの姿がまた違って見えてくると思います。ぜひ自分の「推しの騎士」を見つけてください 笑
どれか読み終わる頃には、すっかりアーサリアンとなっていることでしょう…。僕はこちら側でお待ちしております……。
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『金色のマビノギオン』紹介・感想|高校生がアーサー王伝説の世界へ
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前編感想&改変点まとめ|映画『FGO 神聖円卓領域キャメロット』
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【後編感想】怒涛の展開で魅せる傑作|映画『FGO 神聖円卓領域キャメロット』
→劇場版FGO『キャメロット後編』の感想記事です。僕がアーサー王伝説にハマるきっかけとなった作品が、素晴らしい映画になっていて感無量です。
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