「カフェイン」がもう「ガウェイン」にしか見えなくなってしまったAuraです。お茶やコーヒーを飲む時は、彼を想いながら味わおうと思います。
さて、アーサー王伝説のストーリーやキャラクターについて、現代日本においてはサブカルチャー作品を通じて知られることが増えてきたと言っていいと思います。
そこから興味を抱いて、「原典」となった作品などを読み漁ることもあるでしょう……言わずもがな僕もその内のひとりです 笑
【関連】「物語そのものが読める本を知りたい!」という方はこちらの記事をご覧ください。↓
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そして、ある程度詳しくなってくると、「もっと深く掘り下げたい!」と考えるのが世の常人の常!笑
今回はそういった方のために、言わば「アーサー王伝説の周辺事情」について知ることができるおすすめの解説書をご紹介します。解説書といっても、そんなに難しい内容のものではないので、初心者の方でも読みやすいと思います。
近年、アーサー王伝説の知名度を高めている『Fate』シリーズの原作者・奈須きのこさんも読んでいる本や、セイバー=アルトリアが人気を得た理由について考察した本をご紹介しています。
アーサー王伝説 おすすめの本(掘り下げ編)
①アンヌ・ベルトゥロ『アーサー王伝説』(創元社)
アーサー王伝説 (「知の再発見」双書)(Amazonへのリンクです)
この本は、アーサー王伝説の物語を味わうためのものではなく、伝説が成立した歴史的背景などを中心に扱った本となっています。
5章立て+資料編という構成で、
第1章 アーサー王と歴史
第2章 伝説の創造
第3章 アーサーの生涯
第4章 封建制と騎士道
第5章 花咲くアーサー王文学
資料編
となっています。全170ページほどですが、内容はかなり濃いです 笑
また、図版が多数入っていて、1ページに最低ひとつはあるようなレベルなので、それを見るのも楽しいです。
では、この本の内容の一部(第1章)を、かんっっったんにご紹介していきます。
〇 第1章 アーサー王と歴史
ブリテン島の実際の歴史と、アーサー王のモデルであろう人物について述べています。
ブリテン島は、およそ紀元前50年、ローマ帝国に侵略されていました。これは「ブルータス、お前もか!」で有名なカエサルの時代ですね。
以後、西暦410年ごろまでローマ帝国の支配下にあり、当時ブリテン島はブリタニアと呼ばれていました。
©SUNRISE/PROJECT GEASS
では、肝心のアーサー王のモデルは誰でしょうか…??
それは、マクシムスです!彼は、ローマ帝国のブリタニア軍司令官でしたが、なんと反乱を起こしてローマ皇帝を倒し、自分が帝位についたのです(西暦383年のこと)。
まぁ、在位6年くらいで戦いに負けて処刑されてしまうんですけど…。
しかし、アーサー王も物語の中でローマ帝国と戦ったことがあるので、確かに上記の史実と重なって見えますね。
ふぅ、これでモデルの人物が確定…ではないんです!!笑
実は他にも、モデルとされる人物がいます。アルトリウスという名の指揮官がいて、ブリテン島を侵略してくるサクソン人などを相手に戦ったといいます。
やはりアーサー王も作中で侵略者と戦っているので、重なる要素があります…!アルトリウス、お前もか!
そして「アルトリウス」の別の発音が「アーサー」になります。
しかし本の中では、さらに何人か候補が紹介されているんです 笑
僕は読んでて「お前もか!お前もか!あっ、お前もかいッ!!」となりました。つまり結論として、アーサー王のモデルはひとりではなく複数いたということなのです。
ただ、全員分書くと大変なので、詳細は割愛させてください…笑
そして、上記の史実を踏まえた『ブリタニアの破滅と征服』という文献が、550年ごろに書かれます。ここでは直接「アーサー」の名は出ませんが、最古のアーサー王文献とされています。
この後、800年ごろに『ブリトン人史』、1138年に『ブリタニア列王史』が書かれ、段々と伝説の枠組み(筋書きや登場人物)が整っていくのです。
どういう風に整っていったか、そして時代が下るにつれ物語の構成がどう変質していったかが、続く章で語られていきます。
余談にはなりますが、この本、なんと『Fate』シリーズ原作者・奈須きのこさんの本棚にも置いてありました(TYPE-MOON展での展示で確認)。
原作者と同じ本読んでたって、なんか嬉しいですね…笑
②岡本広毅・小宮真樹子編『いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか 変容する中世騎士道物語』(みずき書林)
いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか〈アーサー版〉: 変容する中世騎士道物語(Amazonへのリンクです)
まず思うことがありますよね。タイトルなっっっが!!笑
このタイトルには元ネタがあります。ずばり今日一番知られているアーサー王物語である、『アーサー王の死』の章タイトルです。
そこでは「いかにして〇〇が△△したか」というフレーズが度々出てきます。この本のタイトルはオマージュになっているわけですね。
(長すぎて、公式で『いかアサ』という略称が設定されてもいます 笑)
そして書名の通り、「アーサー王伝説が日本でどのように受け入れられたか」について取り扱っています。この記事の冒頭で書いていた「サブカルチャー作品を通じて知られること」についても詳しく分かるわけです。
伝説そのものについて細かく書いている書籍は多々あれど、こういったテーマを扱う本はそうそうないので即購入しました。
この本は大きく分けて3部構成になっています。それぞれの部の内容について、概要と共に個人的に着目したところをご紹介します(枠で囲まれている部分は本からの引用です)。
第1部 受容の黎明期
〈アーサー王が海を越えて日本へやって来たこと。明治・大正期の騎士と武士の混合。夏目漱石が日本初のアーサー王小説を書いたこと。日本人研究者の貢献。〉
日本で初めてアーサー王伝説を題材に小説を書いた(単なる翻訳ではなく)のは、実は日本近代文学の巨匠・夏目漱石なのです。
『薤露行(かいろこう)』というタイトルで、ランスロットの逸話に取材した短編小説となっています。
数ある伝説の中から、漱石がランスロットを選んでくれたのはグッジョブですね~。僕はランスロットが好きなので、漱石とは話が盛り上がりそうです 笑
この『薤露行』という作品の分析や、日本では最初「ナイト」が「騎士」ではなく「武士」と訳されていた話などなど、見どころがたくさんあります。
第2部 サブカルチャーへの浸透
〈アーサー王と円卓の騎士たちがその名声を高めていったこと。アニメ、ゲーム、舞台で活躍する騎士たち。ご当地化・女体化するアーサー王伝説。〉
日本のサブカルチャーにおける「アーサー王」として最も名が知られているのは、ほぼ間違いなく『Fate』の「セイバー」だと言って良いでしょう。
この本、実は元々『女体化するアーサー!?』という書名の予定だったんです 笑
後々、『いかアサ』へと改められました。セイバーこそまさしく「女体化するアーサー」の筆頭なのです。
©TYPE-MOON/FGO PROJECT
そして本の中では、女体化したアーサー王であるセイバーが受け入れられた理由を、
①「戦う少女」
②「男性として育てられた女性」
③「キャラクターの商品展開」
という3つの観点から、『美少女戦士セーラームーン』『ベルサイユのばら』といった作品と比較して論じています。
面白い論考でした、大学時代に読んでたら絶対レポートのネタにしたのに……!笑
第3部 君臨とさらなる拡大
〈さまざまな冒険のすえ、高貴なるアーサー王と円卓の騎士たちが現代日本サブカルチャーにおける英雄となったこと。語り直されるアーサー王伝説。騎士たちのグローバルな活躍。〉
2017年にノーベル文学賞を受賞した、カズオ・イシグロさん。彼もまた、アーサー王伝説に題を取った小説『忘れられた巨人』を著しています。
ちなみにこちらはガウェインの逸話が元ネタとなっています。
イシグロさんがアーサー王伝説をモチーフとした理由や、それによって生まれる意義などが論じられていて、『忘れられた巨人』をまだ読めていない僕は「早く買わなきゃ…!」という思いが芽生えました 笑
また他にも、『ルドルフとイッパイアッテナ』で有名な作家・斉藤洋さんが、アーサー王伝説をリライトするに当たって、「なぜマーリンは不道徳な先王ウーサーに仕えたのか」を考察されたエピソードなど、他にも読んでいて興味深い話がありました。
(斉藤洋著『アーサー王の世界』について、記事末尾の関連記事内にてご紹介しています。)
なお、この『いかアサ』はなんと表紙が3種類あります。「アーサー版」・「ランスロット版」・「ガウェイン版」があるので、好きな騎士のものを選ぶと良いでしょう。
僕は迷った末にランスロット版にしました 笑
©みずき書林
おわりに
アーサー王伝説の物語を味わった次は、「周辺事情」を掘り下げてみましょう!
ちょっとマニアックな内容かもしれませんが、楽しめること請け合いです 笑
〇「伝説そのものの成り立ちや、それがどう発展していったか知りたい!」という方は ① の『アーサー王伝説』
〇「日本でどう受け入れられ、どう広がっていったのか興味がある!」という方は ② の『いかアサ』
を手に取るのがいいと思います。
こちらの2冊は、比較的入手しやすいのもおすすめできるポイントのひとつです。アーサー王伝説関連書籍は、絶版になっていたり入手しづらかったりと、中々ハードルが高いんですよね…。
それでは、アーサー王物語の沼の底で語り合える日を楽しみにしています!そしてイギリスまで聖地巡礼に行っちゃいましょう!!笑
関連記事
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↑ 斉藤洋著『アーサー王の世界』について取りあげた記事です。
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↑このブログの、アーサー王伝説に関する記事まとめです。