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完璧を目指しなさい。
淀みのない白。
あるいは何にも染まらない黒のように。
どうも、トフィーです。
今回は、呂暇郁夫先生の『楽園殺し』を紹介させていただきます。
前作の『リベンジャーズ・ハイ』に引き続き、非常に濃密で心躍る物語となっていました。
またあらかじめ言及しておきますが、『リベンジャーズ・ハイ』の後の物語となりますが、今作だけでも読めるつくりになっていますのでご安心ください。
いうなれば、『リベンジャーズ・ハイ』は今作の前日譚、他の言い方をするのであれば『楽園殺し/ZERO』みたいなイメージです。
これから入って、『リベンジャーズ・ハイ』も気になったら読む感じでいいのではないでしょうか。
1.あらすじ
その塵は人の想いを力に変え、災いを呼ぶ。
人に異能を授ける砂塵が舞う偉大都市。
荒廃した世界で、楽園とさえ呼ばれる偉大都市には、そんな砂塵を力に変え、様々な能力を発現する人々が集う。
そして、その能力を犯罪に使う者たちを取り締まる精鋭部隊<粛清官>が、この街の秩序を守っている。粛清官ーー射撃の名手シルヴィ・バレト。そして寡黙な黒剣士シン。
とある事件を通じてコンビを組むことになった二人は、人を獣に変貌させるドラッグの捜査を任されていた。だが、そのドラッグの流通には、粛清官たちの作った悪しき過去が潜んでいた。
現代に蘇った巨大な悪意が、獣の牙となって偉大都市に大きな傷を刻もうとしている。粛清官に立ちはだかるは、屍者を操る能力者。熱線を放つ能力者。
そしてーー凶悪な獣人を作り出す、異端の能力者。
暴虐の限りを尽くした能力者たちによる死闘の末、最後に立っているのは……「わたしは、なんとしても完璧を目指さなければならない」
「今回のテロ事件。獣人事件首謀者の協力者と見なしてーー」「ーー貴方たちを、粛清するわ」
吹き荒れる砂塵のなか、マスクをまとう能力者たちの物語が幕を開ける。
2.『楽園殺し 鏡のなかの少女』感想・レビュー
a.評価と情報
評価:★★★★★
ガガガ文庫
2021年6月刊行
星6くらい付けたいくらいには面白い作品でしたが、収拾がつかなくなるので我慢します。
作者は、呂暇郁夫(ろか いくお)先生。
『リベンジャーズ・ハイ』で、第13回小学館ライトノベル大賞「優秀賞」を受賞された先生です。
今作より前の時間軸のお話になります。
www.kakidashitaratomaranai.info
イラストは、ろるあ先生。
前作の『リベンジャーズ・ハイ』も担当されているほか、『超高度かわいい諜報戦~とっても奥手な黒姫さん~』のイラストなども手掛けられています。
www.kakidashitaratomaranai.info
さて、今回紹介する『楽園殺し 鏡のなかの少女』ですが、今作は上下巻構成の第1冊目に当たります。
続刊は9月17日発売とのことなので、後編が出るのはもう少し後になります。
(発売され次第購入する予定なので、またいずれ感想記事をあげます)
また、冒頭でも説明した通り、今作は『リベンジャーズ・ハイ』の続編となります。
時系列的には『リベンジャーズ・ハイ』 →『楽園殺し』です。
ただ前作を知らなくても読めますし、なんなら『リベンジャーズ・ハイ』を0巻のようなイメージで捉えていただいて、『楽園殺し』を先に読んでしまっても問題ないです。
また帯にも書かれていたり、某スペースで語られたりしていた内容ですが、今作はどういうわけか『千歳くんはラムネ瓶のなか』の裕夢先生が編集部に持ち込んで出版される運びとなったようです。
はい、謎ですね。
とにもかくにも、裕夢先生に感謝を。
www.kakidashitaratomaranai.info
※とはいえ、個人的にはやはり『リベンジャーズ・ハイ』を先に読んでしまうのをおすすめします。理由は後述します。
b.ストーリー&キャラクター
前作以上に手に汗握る物語でした。
今年読んだ中でも一二を争うくらいには、熱中しましたね。
復讐&バディもののSFファンタジーです。
舞台は前作と同じく、有害な【砂塵】によって一度文明が滅びたあとの近未来の【偉大都市】。
この世界では、基本的にマスクなくして外を出歩くことはできません。
また偉大都市では、砂塵を取り込む異能を操る【砂塵能力者】が台頭しており、治安維持組織【粛清官】が秩序を維持するために戦い続けています。
『楽園殺し』は、とある事件をきっかけにバディを組むことになった、2人の粛清官たちの物語です。
今作の主人公は、シルヴィ・バレト。
銀髪の銃遣いであり、特異な砂塵能力を持つ少女です。
その能力のためにずっとパートナーに恵まれなかったものの、チューミーとは互いをリスペクトし合う関係になれています。
そしてシルヴィの相棒を務めるのは、黒犬マスクを被る小柄な剣士シン・チウミ。
前作『リベンジャーズ・ハイ』の主人公で、シルヴィより後に粛清官となったにもかかわらず、すでに一つ上の階級にまで上り詰めています。
シルヴィを含めた一部の人間からは、チューミーとも呼ばれています。
前作でのあれやこれやがあって、2人は互いを認め尊敬するようになり、仲間として想いあうようになっていました。
前作から読んでいる方はこの2人の関係性の変化に、より一層もだえることができると思います。
個人的に『リベンジャーズ・ハイ』から読むのをおすすめしているのは、この点が大きいですかね。
危うくエモさに尊死するところでした。
ただ、読み進めていくと、少しずつ不穏な雰囲気に……。
シルヴィは、両親を殺めた犯人の事件を捜査するために上の階級を目指していますが、空回りを続けてしまっていました。
彼女もまた、リベンジャーズ・ハイだったというわけですね。
また彼女は、パートナーとの実力差にも思い悩んでいたのです。
そんな感じで『楽園殺し』は、事件を通して変化していくシルヴィの内面も大きな見所となっています。
また二人が追いかけている敵ですが、前作以上に危険な香りが漂っています。
人を獣に変え、強大な力を与える薬【覚醒獣】。
そんな薬をばら撒くルーガルーは、自らの率いる【狼士会】を筆頭に、古くからある大犯罪組織や凶悪犯を巻き込み、偉大都市を混乱に陥れていきます。
いやぁ、スケールが大きくバトル描写も熱く、世界観も魅力的で本当に面白かった!
ただ同時に、シルヴィの焦りがひしひしと伝わってくるために、感情の揺さぶられる物語でもありました。
一読者としては、非常にじれったい気持ちに駆られましたが、そこもまた今作の魅力なんですよね。
「えっ、そんな絶妙なタイミングでお預けですか⁉」と、非常に続きが気になる終わり方でしたので、後編が出次第すぐに読むことにします。
3.『楽園殺し 鏡のなかの少女』ネタバレありの感想
「なんでこんないいところで終わっちゃうの⁉」といった感じでお預けを食らって、めちゃくちゃツラい……。
シルヴィとシンは、どうやって関係を修復していくんでしょうか……。
後編までまだまだ待たなきゃいけないとか、もう楽園より先に私が召されそうです。
非常に多くのキャラクターが登場する今作でしたが、シルヴィやシンはもちろんのこと、敵にも魅力的なキャラクターが多かったです。
大ボスのルーガルーにしても色々抱えていて、彼について詳しくは続刊で明かされることになるんでしょうけど、個人的にはマティス・ロッソが魅力的に映りました。
自分の腕を犠牲にしても憎き粛清官に一矢報いようとする並外れた精神力、最初から死ぬことを前提に戦う覚悟の強さ。
マティスは倒すべき敵には違いありませんし、シンを倒すまでには至りませんでしたけど、彼の抱える強い想いを見せられては好きにならざるをえません。
今作で粛清されはしましたが、当分私はマティスのことを忘れることはないでしょう。
さて、続刊は9月発売とのことですが、拗れてしまったシルヴィとの関係や、シンに宿った砂塵能力、他にも人形遣いとのバトルやリィリンの活躍など見所になりそうな要素がいくつも残されています。
前作といい今作といいめちゃくちゃ満足のいく内容でしたので、後編の発売が非常に待ち遠しい。
とりあえず積みまくってるラノベを消化して、気を紛らわせようかと思います。