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青海野灰『逢う日、花咲く。』感想|記憶転移によって繋がる男女

 

 

心臓を介して繋がる恋物語

 

どうも、トフィーです。
今回は、青海野灰先生の小説『逢う日、花咲く。』を紹介させていただきます。

 

今作は第25回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞作で、このブログ執筆時点からしてもちょっと前の作品となります。
ただ時間が流れても、普遍的に楽しめる物語だと思ったので、今さらではありますが感想をつらつらと書かせていただきました。

 


逢う日、花咲く。 (メディアワークス文庫)

 

 

 

1.あらすじ

これは、僕が君に出逢い恋をしてから、君が僕に出逢うまでの、奇跡の物語。

13歳で心臓移植を受けた僕は、それ以降、自分が女の子になる夢を見るようになった。
きっとこれは、ドナーになった人物の記憶なのだと思う。
明るく快活で幸せそうな彼女に僕は、瞬く間に恋をした。
それは、決して報われることのない恋心。僕と彼女は、決して出逢うことはない。言葉を交すことも、触れ合うことも、叶わない。それでも――
僕は彼女と逢いたい。
僕は彼女と言葉を交したい。
僕は彼女と触れ合いたい。

僕は……彼女を救いたい。

引用:逢う日、花咲く。 (メディアワークス文庫)

 

 

2.『逢う日、花咲く。』感想・レビュー

 

a.評価と情報

個人的評価:★★★★☆
電撃文庫
2019年6月発行
第25回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞作

 

作者は青海野灰(あおみの はい)先生。
表紙イラストはふすい先生。

『逢う日、花咲く。』は青海野先生のデビュー作です。
それでいて、何回か重版もされている人気作で、21年3月時点で8版まで出ていることが確認できました。


また本作ですが、TikTokでも話題になっていたみたいです。
私は関知していなかったのですが、最近このような変わった方法で人気にブーストをかけていく作品も増えてきているなぁと驚いています。


当ブログでも何冊か、同じように注目された作品を紹介しておりますので、もしよければチェックしてみてください。
三作ともめっちゃくちゃおススメなので!

www.kakidashitaratomaranai.info

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b.作品内容・キャラクター

 

「死んでしまっているのに、救いたいってどういうことだろう?」

興味を惹かれる内容ではありますが、あらすじだけだとちょっと抽象的なので、気になっている方向けに詳しく紹介させていただきます。
そのため序盤のネタバレを微妙に含みますので、ご容赦ください。

 

『逢う日、花咲く。』は、心臓移植による記憶転移によって繋がった男女の物語です。

【記憶転移】き-おく-てん-い

臓器移植手術を受けた際、臓器提供者の記憶の一部が受け継がれる現象。

臓器の提供を受けた患者は夢としてドナーの記憶を追体験したり、自覚のないまま本来知りえない知識を得たりする。

記憶のほかに、趣味嗜好を受け継ぐ場合もある。

なお、そのような現象について、科学的な根拠は一切認められていない。

引用:『逢う日、花咲く。』

 

 

主人公の少年・ホズミは夢の中で、生前のヒロイン・葵花の記憶をたどっていきます。
自分の人生に価値を見出せなかった彼は、明るく幸せそうに生きる葵花に惹かれていきます。
しかしいくら強い想いを抱こうとも、葵花はもうこの世にいません。

 

また、この小説は少年と少女、双方の一人称で進行していきます。
覗く主人公の視点を通してのみでなく、生前の葵花サイドでも描かれていくのです。

 

葵花はなんと、自分の中にホズミが訪れていることに気づいていました。
そう、ホズミは夢を見ていたのではなく、心臓を介して時を超えていたのです。


また、葵花は彼から大切に思われていることや、彼が何かに怯えていることにも感づいていました。
だからこそ、葵花は覗かれているということに気づくたび、精一杯今を生きて人生を楽しむことで、名も知らぬ少年を励まそうとしていました。
そうしていくうちに、葵花もホズミに恋心を抱くようになりました。

 

単なる記憶転移に留まらぬ時を超えた不思議な恋。
物語は「葵花はなぜ、死んでしまったのか」と彼女の真相について焦点が当たるようになり、また「過去に干渉できるのであれば葵花を救うこともできるのではないか」という希望と決意のもと進んでいきます。

 

以上が、おおまかな流れとなります。
もう少しネタバレを控えつつ、本書の感想を述べさせていただきます。

 

奇麗な情景描写繊細な心情描写が特徴的な作品でした。
時おり混じり溶け合うように描かれる一人称での表現が、またなんとも印象的です。「僕」「私」と切り替わる一人称に注目して読むと、よりいっそう楽しめるかと思います。


心情描写というか心臓描写というか、同じ心臓を持ち、同じ鼓動を奏でている本作ならではの表現には非常に見どころがあります。

 

私の感覚では、2章から格段に面白くなっていきました
情景描写の多い小説が苦手な方も意外といるという話を耳にしたことがありますが、そんな方にも、2章序盤くらいまでは読み進めていただきたいです。

 

 

上で取り上げた作品以外だと、ライトノベルではありますが『探偵はもう、死んでいる。』もおすすめです。
心臓移植による記憶転移を、題材の一つとして取り扱っています
日常の尊さをうまく描いている点も共通していますね。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

他にも面白いと感じた小説を紹介していますので、もしよければ次の一冊を探す際にご活用ください。

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逢う日、花咲く。 (メディアワークス文庫)

 

※ここから先は、終盤のネタバレを含む感想となりますのでご注意ください。
 
 
 
 
 
 

3.『逢う日、花咲く。』ネタバレありの感想

「イジメの主犯って星野先生なんじゃない?」とか「葵花を手にかけたのは、嫉妬に狂った岡部さんだったりするんじゃない」という考察というか展開の予想をしていましたが、さすがに深読みしすぎていたみたいです。

 

とこんな感じで予想は外しましたが、ジンワリとした感動を胸に、読み終えることができました。
奇麗に着地したなぁ……

 

星野先生も葵花の説得によって心を入れ替えることができ、また葵花もホズミと再会することができたりと、多くの人にとって救いのある終わり方でよかったかなぁと思います。
先生の内側まで見て好きになってくれる人が、現れることを願います。
個人的に、その人は岡部さんであって欲しいですけどね。

 

あと、ホズミくんについて、もうちょっとだけ語らせてください。
もとの時間軸のホズミくんも消えてしまったとはいえ、「生きていて欲しい」という願いを叶えたり、心臓に宿った葵花に看取られて往生することができたりと、ハッピーエンドとは言い難いかもしれませんが、意味のある人生を送ることができたのは、彼にとって大きな救いになるのかなと思います。


デジャヴというかなんというか「なつなしめ きみにあはつぎ はふくずの のちもあはむと あふひはなさく」の句を覚えていたりと、時空を超えても引き継がれているものもありましたしね。

 

と、こんな感じで締めさせていただこうかと思います。
今回もまた、いい小説でした。