どうも、トフィーです。
電撃大賞の一次結果発表が一ヶ月遅れになることが、公式サイトによって告げられました。
しかたないこととはいえ憂鬱な気分です。
梅雨入りも相まって、ただただ憂鬱です。
さて、憂鬱を強調するのはここまでにしましょう。
今回紹介する小説は佐野徹夜先生の『さよなら世界の終わり』です。
佐野先生といえば、第23回電撃小説大賞《大賞》を受賞した『君は月夜に光り輝く』が有名ですね。
映画化もされ、多くの人を虜にしました。
今回レビューする『さよなら世界の終わり』ですが、非常に暗くやるせないストーリーで、読者の憂鬱さを刺激してくるような変化球的な作品です。(また憂鬱を強調してしまった……。それも太字で)
というのも物語に登場する3人の少年少女は、みんな漠然としたなにかに追い詰められています。
これまで取り上げてきたどの小説と比べても、好みのわかれる作風だと思います。
1.あらすじ
僕は、死にかけると未来を見ることができる。校内放送のCreepを聴きながら、屋上のドアノブで首を吊ってナンバーズの数字を見ようとしていた昼休み、親友の天ヶ瀬が世界を壊す未来を見た。彼の顔を見ると、僕は胸が苦しい。だから、どうしても助けたいと思った――。いじめ、虐待、愛する人の喪失……。死にたいけれども死ねない僕らが、痛みと悲しみを乗り越えて「青春」を終わらせる物語。
生きづらさを抱えるすべての人へ――。
2.内容紹介
a.評価
評価:★★★☆☆
新潮文庫
2020年6月刊行
今回は評価を星3としましたが、気分や状況によってはもう一段階上下しうる内容でした。
というのも『さよなら世界の終わり』は、抽象的で幻想的な描写が続きます。
まるで心のうちをそのまま描き出した内容で、自分の心境しだいで受け取り方が大きく変わってくるかと思います。
夢か現実かもわからなくなってくるような、不思議な感覚。
たとえるとするならば、芸術的な絵画を前にしたときの感覚に近いでしょうか。
具体的にいえば、どん底まで落ち込んでいる方、そうでなくても日々が退屈でしかたがない方、漠然とした不安がずっと晴れないような精神状況が続いている方におすすめです。
また、思春期真っただ中の学生にも響くかと思います。
逆に順風満帆の日常を送っている方、毎日が楽しく感じられる方、明日に希望が感じられる方など健全な精神状態にある方が手にとれば、拒否感をもってしまうかもしれません。
というような感じで、人によって大きく好みや受け取り方が大きく変わりそうな小説です。
自分で選んでいるのであまり文句はいえませんが、レビューが難しい……。
b.登場人物
今回はさらっと行きます。
間中
主人公の少年。
死にかけると未来の可能性を見ることができる。
自殺未遂の手段は、縄で首を絞めること。
その能力で天ケ瀬が人を殺し、世界を終わらせる光景を目にする。
この物語は彼の一人称で進行していく。
青木
主人公曰く、「何かほっとするような柔らかい雰囲気」がある少女。
死にかけると幽霊を見ることができ、対話も可能。
自殺未遂の手段は、手首をナイフで切ること。
主人公は彼女を通して、間中の妹や星の幽霊とコンタクトを取っていく。
天ケ瀬
主人公たちの前から姿を消していた少年。
死にかけると他人を洗脳できる。
自殺未遂の手段は、頭にスタンガンを突きつけること。
舞台装置の役割を果たす。
c.ストーリー紹介(若干のネタバレを含みます)
独特で退廃的な世界観でしたが、読みやすく、個人的には大きな抵抗もなく、読み進められる物語でした。
佐野先生が一番最初に書きあげ、ずっと温めてきた作品ということもあって、普段言葉に出来ない思いが込められているかのような印象を受けました。
主人公の少年・間中は破滅願望のような、世界の終わりを夢に見つつも矛盾した行動を取り続けます。
青木や天ケ瀬といった施設でできた仲間との会話もどこか投げやりで、彼らがなにを考えているのか、どうしたいのかがなかなか掴めないのです。
ただ彼らの行動に整合性がないという点に関しては一貫していて……。
一つだけ言えることといえば、彼らはみんな人生に疲れているということです。
以下に、この作品を象徴する間中と青木の会話を引用します。
「究極の幸福って何?」
屋上ドア前で、相変わらず焼きそばパンを食べながら青木が言った。
「この世に生まれてこないことだろ」
僕は身も蓋もないことを言った。それは、何の価値もないただの真実だった。『さよなら世界の終わり』より引用
この物語には、どこか狂った人物しか出てきません。
そして主人公の目線でひたすら世界の不条理さが描かれていきます。
引きこもりの状況から社会復帰をするために、親に厚生施設に送られてしまったこと。
その施設で囚人のような扱いをうけたこと。
妹が死んだこと。
高校で壮絶な虐めにあったこと。
主人公に未来を見る能力が宿ってしまい、施設でできた仲間が人を殺し、世界を終わらせるビジョンを見てしまうこと。
なにもかもが理不尽で、けれども主人公はただ諦観し続けます。
彼が声をあげて動きを見せることに期待するものの、なかなかそのような展開は訪れません。
スカッとするような爽快感や大逆転なんてものはなく、100頁にさしかかったころには気分が落ち込んできて、いっそのこと読むのを止めてしまおうかとも思うほど。
でも、そうはしませんでした。
レビューをするためといった打算的な考えからではなく、この物語にはどこか惹かれるところがあったのです。
そしてまた、こうも思ったのです。
きっとどん底まで落ち込んでいる状況で手にとれば、もっと共感できるような内容なのだろうと。
大なり小なり絶望している人からすれば、きっと心に響く結末が用意されているのだろうと。
結論から言えば、その直感は正しかったと思います。(ただ、自信ありませんが)
ぼかして説明するのであれば、釈然としないような、けれどもハッピーエンドのようななんともいえない結末でした。
けれども中高生時代のぼくが手に取れば、今以上に楽しめたのではないかと思います。
この作品が救いになるか、はたまたなにも残さないかは、読者の状況次第としかいいようがありません。
けれども万人受けする物語など存在しないし、この小説が世に出た意味というのも十分にあるのだとぼくは思います。
一度手に取ってみる価値も十分にある小説だと判断し、今回の記事で紹介させていただいたのです。
過去記事です。どちらも退廃的な雰囲気を持つ物語です。
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レビューのまとめ記事です。
よければご覧ください。
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