こんな記事も見られてます
〇斜線堂有紀『恋に至る病』|感想と寄河景についての考察〇斜線堂有紀『私が大好きな小説家を殺すまで』【感想・考察】
〇斜線堂有紀『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』|感想
〇斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』感想|才能の消費期限
〇森林梢『殺したガールと他殺志願者』1巻の感想とレビュー
〇佐野徹夜『さよなら世界の終わり』レビュー|評価が難しい憂鬱な物語
〇『15歳のテロリスト』感想|渡辺篤人と灰谷アズサから見えるテーマ
〇村瀬健『西由比ヶ浜駅の神様』感想・レビュー
命がけで恋をする、不思議な男女の物語
どうも、トフィーです。
今回は瀬尾順先生の『死に至る恋は嘘から始まる』を紹介します。
読み終わるまではライト文芸だと思って見ていたんですが、ブックウォーカーなどをチェックしていると、分類的にはライトノベルとして売り出していたことが発覚。
というよりも、新潮NEXじたいがラノベレーベルのようですね。
ということで、今回より新潮NEXの作品には「読書‐ライトノベル」タグを付けることにしました。
1.あらすじ
「あんただけが、私の恋(うそ)を信じてくれた」一週間だけ、恋人になってあげる――傷だらけの嘘から、永遠(とわ)と刹那(せつな)の恋が始まる――。にがくて甘い究極の「恋と嘘」の物語。
高二の夏、教室で透明なクラゲのように息を潜めて日々をやり過ごしていた宮下永遠の前に、ひとりの目立ちすぎる転校生が現れた。長瀬刹那――人形のような整った容姿に高慢な態度、色めき立つクラスメイトを無視して、まっすぐ永遠へと歩み寄り、そしてその首筋に嚙みついて、ささやいた。「私、人魚なんだ」「君はすごくおいしそうな匂いがする」自称・人魚で傍若無人な美少女転校生・刹那と、心を閉ざし続ける傷だらけの永遠。正反対の「嘘」で武装した二人が運命的に出会い、そして、命がけの「恋」の物語がいまはじまる――。
人を好きになるって、命がけなんだよ――。
2.『死に至る恋は嘘から始まる』感想・レビュー
a.評価と情報
評価:★★★★☆
新潮文庫(NEX)
2021年4月発行
作者は瀬尾順(せお じゅん)先生。
著書に『一ナノ秒のリリス』や『妹はサイコパス』などがあります。
本作の略称ですが、瀬尾先生のTwitterを拝見した感じ、おそらく『死に恋』でいいのかなと思います。
b.ストーリー・人物紹介
ざっくりと言うと、今作はもう一度読み返したくなるタイプの物語でした。
ネタバレ防止のため抽象的な言い回しになってしまいますが、読み進めていくにつれて、「あの時のあのシーンはこのためにあったのか」と振り返って驚愕するようなそんなタイプの作風なんです。
ただその一方で、わりと人を選ぶ作品でもあるかと思います。
というのも、ヒロインがかなり尖っていて、基本的に主人公以外の人間に対しては攻撃的に突っかかっていきます。
男相手には手や足がでることもしばしば。
そのためこの手のヒロインが苦手な方や、倫理感強めの方には少々あわない作品かもしれません。
この物語は、宮下永遠(みやした とわ)と長瀬刹那(ながせ せつな)の一人称によって進んでいきます。
永遠は体中にケガを負い、存在感と潜めてひっそりと生きている男子高校生。
そんな彼のクラスに、長瀬刹那が転入してきます。
刹那は、天上天下唯我独尊を地で行くような、自称「人魚」の女の子。
彼女はぶっきらぼうに自己紹介を済ませると、いきなり永遠の近くに寄ってきて頬にキスしてくるのでした。
刹那は赤茶色にオッドアイで、さらには過激な言動を繰り広げることから「痛いやつ」認定されていきますが、永遠に対してだけはグイグイと距離を縮めようとしていきます。
永遠は彼女から距離を取ろうとし続けていましたが、あることがきっかけで、刹那と恋人関係になるのでした。
「一週間だけ僕の彼女になってほしい」
「その後、僕を食い殺してくれ」
以上が序盤の内容です。
これより先は「命がけの恋」を繰り広げる男女の物語が展開されていきます。
もし興味を持たれた方は、ぜひチェックしてみてください。
www.kakidashitaratomaranai.info
3.『死に至る恋は嘘から始まる』ネタバレありの感想
名前と同じく真逆の属性のように見える永遠と刹那ですが、クラスメイトたちからすれば2人ともある意味で腫物的な扱いであり、そういった意味でも惹かれ合っていくのは自然な流れだったのかなと思います。
一方で気になった点は、姉の人脈とその彼氏でもある探偵の存在そのものが、話を展開上させるために無理やり出てきているようで、そこがちょっと引っかかりはしました。
ただ、それでも次々と謎が明かされて結びついていくのが面白かったです。
また、くるりくるりと変わっていくキャラ造形と、プロローグがエピローグでもあったことが判明するラストシーンには心の底から唸らされました。
冒頭の通夜は、永遠のものだったというわけですね。
他にも、永遠が母親に虐待されていたという事実や、春日部がいじめをしていたこと、美帆がいじめに加担していたことなど、終盤になって衝撃的な事実が出るわ出るわ。
それらの事実を胸にしまってひとり死のうとしていた永遠の覚悟もなかなかに悲壮で印象的でした。(列挙するとすごいな……)
あと、水野くん普通にいいやつだったな……。