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【アーサー王伝説】物語を彩る美しい絵画〔番外編〕|近代ヨーロッパの芸術

 

終わる終わる詐欺をしてしまったAuraです。「これが最終回!」と言っておきながら続きをやってしまうなんてギルティですね 笑

 

これまで近代におけるアーサー王伝説の絵画を、前・中・後編の3回にわたりご紹介してきました。

 

〔後編〕で最終回……のつもりだったんですが、今回は〔番外編〕と題して、そこで載せきれなかった作品を取りあげていきます!

やはり好きなものは、とことん布教したくなるのが人の性というものです 笑

 

〔番外編〕となる本記事では、主にアーサー王物語の脇役と言えるような人物をピックアップしています。

リストは以下の通りです。

〇妖姫モルガン

 

〇アストラットのエレイン

 

〇エレックとエニード

 

〇エルザとローエングリン

 

今回はマイナーな人物も含まれているので、アーサー王伝説に詳しくない方でも最低限分かるような説明を付しました。

 

前・中・後編の記事はこちらです。

〔前編〕アーサー王やグィネヴィア王妃などの主要人物

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〔中編〕トリスタンとイゾルデのような恋愛物語

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〔後編〕パーシヴァルとガラハッドによる聖杯探索

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前~後編の記事と同様に、物語中の一場面を明確に描いていると思しいものには、あらすじ風の解説もつけています。また、絵画のタイトルは僕の和訳です。

 

 

妖姫モルガン

モルガンは、脇役というか普通に主要人物ですね……。
主要人物を扱うはずの〔前編〕の記事でご紹介するのを忘れてました 笑

 

彼女はアーサー王の異父姉でありながら、魔女としてアーサー王に敵対することになります。

 

と言うのも、分かりやすく画像にしますと……

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モルガンの父を殺した、先王ウーサーの子がアーサー王なのです

 

すなわち、父を殺されたモルガンにとって、アーサー王は仇の息子というわけですね。

以来、度々アーサー王を害するようになります。(エクスカリバーの鞘を盗んだのも彼女の仕業です)

 

本当はモルガンについてもう少しお話ししたいのですが、ここいらでササッと絵画を見ていきましょう!笑

 

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ウィリアム・ヘンリー・マージェットソン『修道院で育てられる間に魔術を修めたことで彼女は知られていた』(イギリス)

 

こちらは、モルガンの少女時代を描いた作品です。

一見するとあどけない少女でかわいいなぁ、なんて思うかもしれませんが、絵の左下にご注目を!

 

父亡き後、モルガンは修道院で育てられることとなりました。
そこで修道女らしく、日々をつつましく過ごしている……と思いきや、なんと魔術に手を染めています。

 

神に仕える者が、禍々しい魔術を行使しているという実にヤバい光景です。
ただ、なんの魔術なのか知識がなくて分からないので、ご存知の方がおられましたら教えてください 笑

 

ここで、彼女の表情をつぶさに観察しますと、どこか視線の定まらない虚ろな表情をしているように感じられます。

貴族であった父を殺され、母は寝取られるという苦渋に満ちた生を送っているのですから、そんな表情を浮かべていても無理ないですね……。

 

モルガンはこうして魔術を修めながら、虎視眈々とアーサー王へ復讐するための機を窺っているのでしょう。

 

何かと悪者扱いされるモルガンですが、こちらの作品には、まさに悪へと堕ちていく瞬間の痛ましい少女が描かれていて心にずしんと来ます。

(それがこの絵の好きなポイントなのではありますが)

 

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フレデリック・サンズ『モルガン・ル・フェ』(イギリス)

 

続いてはこちらの作品。
モルガンがまたしても何か妖しげな術を実行しようとしています。

ただ、なんの魔法を試みているのかはやはり僕には分かりません。うーん、絵画鑑賞をもう少し深めるためにも、黒魔術について知っておくんだった 笑

 

先ほどの絵とは打って変わって、こちらのモルガンはすっかり悪者感漂う強面の妖姫になっています。
か弱く脆そうだった少女の面影は、一体どこへやら……笑

 

いかめしい表情に加え、魔女らしい衣装をまとうモルガンの姿は、アーサー王最大の敵と言うに相応しい気迫を備えていますね。
まぁ意外と詰めが甘いんですけど

 

この段階の彼女は、治癒術、変身術、飛行術などあらゆる魔法に長けているというチートっぷりです。

しかしその法外な強さも、彼女のフルネーム「モルガン・ル・フェ」が、「妖精モルガン」を意味していることを踏まえれば納得できるでしょう。
(フェ = フェアリー:妖精)

 

人間だけど、人間じゃなくて妖精だったんやな、モルガン……。
この辺りは設定がややこしいので、稿を改めてお話しします 笑

 

 

アストラットのエレイン

アーサー王伝説には、「エレイン」という名を持つ女性が何人も登場するのですが、区別するために地名を名前の前に置くことがあります。

 

アストラットのエレインの「アストラット」も地名です。
以下、この項では単にエレインとだけ記していきます。

 

では、エレインについて詳しくご説明する前に、絵画を見てみましょう!

 

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エドモンド・ブレア・レイトン『エレイン』(イギリス)

 

一艘の小舟が流れ着く。寝台にて横たわる少女——エレインの死顔は美しかった。

小舟にはあまたの別れ花が飾り付けられているが、死してなお、そのいずれにも勝る華やぎを帯びていた。

 

百合の乙女エレイン。彼女は、叶わぬ恋の故に死んだのだ。
ランスロット卿の心に宿る面影はただひとり、グィネヴィア王妃その人のみ。

さりながら、エレインはランスロット卿へ、愛を、そして命を捧げたのである。

 

 

上記のあらすじ風解説で、なんとなくお分かりいただけたかと思うのですが、エレインはランスロットへの悲恋で有名な姫君です。

 

ランスロットって全く罪な男なんですよ……笑
グィネヴィア王妃に一途なランスロットですが、とにかくモテる。

いろんな女性に想いを寄せられても、ランスロットは丁重にお断りしていきます。しかし女性の方からすると、余計に燃え上がっていくわけです。

 

このエレインもまたしかりで、彼女の場合、最後には恋煩いで息絶えてしまうのです。
その後、亡骸を載せた舟がアーサー王の元へ辿り着きます。

 

エレインの絵画は結構あるんですけれども、僕が一番好きなのはこの作品です。

こちらの絵では、中央にアーサー王とグィネヴィア王妃の姿が確認でき、ふたりとも沈痛な面持ちをしています。

若い身空で死んでしまったのですから同情したくもなります。

まぁ、グィネヴィアは、ランスロットがエレインに言い寄られていたことを知った時、「ランスロットのバカ!!」って感じでめっちゃ怒ってたんですけどね 笑

 

そして、エレインの左手にはランスロットへの手紙が握られています。

そこには、「天に召された自分のために祈ってほしい」というランスロットへの願いがしたためられており、恨み言などは一切書かれていません。けな気だなぁ、エレイン……。

(物語のバージョンによっては手紙の内容が変わります)

 

ちなみに、このエレインのエピソードを元ネタとしているのが「シャロットの姫」です。
永久の眠りについた姫君が、小舟でランスロットのもとへ向かう」という共通の趣向を見出すことができます。

 

シャロットの姫については、〔中編〕の記事にて、絵画とともに詳しくご紹介しています。

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エレックとエニード

続いては、円卓の騎士エレックと、妻のエニードの絵画です。
このふたりはかなりマイナー寄りですね 笑

 

彼らが主役の物語、『エレックとエニード』について、こちらの記事の中で取りあげています↓

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まぁ、ストーリーを知らなくても、絵画を見るのに支障はほぼないと思うので、本記事では簡単な解説にとどめます 笑

では、さっそく作品紹介へと移ります!

 

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ローランド・ウィールライト『エニードとゲライント』(イギリス)

 

エレックの前方を進むエニード。彼女は、行く手に賊の待ち構えていることに気づく。
身に迫る危険を、夫であるエレックに告げなければ。

だが、それが言葉として発せられることはない。エレックに課された誓いが、エニードの口をつぐませていたのだ。

 

「何を見ようと何を聞こうと、口をきくことはまかりならない」

 

彼女の胸は悲しみと憂いにとざされていく。あえて夫に告げるか、それとも黙っているべきか——

 

 

『エレックとエニード』の一幕を描いた作品です。
(ただし、こちらではエレックの名前がゲライントという別の呼称になっています)

 

ストーリーを知らないと、きっと「なんでエニードは押し黙ってないといけないんだ??」と思われるでしょう 笑

一言でご説明しますと、上記より前の場面において、エレックの騎士としての誇りをエニードが傷つけたからです。

 

それでエレックが「もう何も余計なことを言うな!!」という感じで怒ってしまったというわけですね。

エレックの怒りは凄まじく、エニードが一言でも何か言おうものなら殺してしまおう、というくらい。

 

こういった事情があるため、上記の場面にてエニードは相当に悩みます。そして思案の末、エレックに危難を知らせるのです。

そのおかげで、エレックは賊に対処することができたのですが、エニードは誓いを破ってしまったために命を奪われ……たりはしません!!ご安心ください 笑

 

エレックはエニードに、「もう二度と誓いを破るな」と念を押して見逃してくれます。

 

絵だけを見ると、「木漏れ日のさし入る穏やかな森でデートしてていいなぁ」と思ってしまうかもしれませんが、実際はこのように一触即発の緊張した場面です 笑

綺麗に描かれていることは間違いないですが!

 

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アーサー・ヒューズ『エニードとゲライント』(イギリス)

 

今度は、仲睦まじいふたりの絵。
(こちらの作品でも、エレックはゲライントという表記です)

左側に小さな池が描かれていますが、水面に映る陽を見るに、時間帯は夕方にさしかかったころ、と言ったところでしょうか。

 

エニードはエレックに体を預けて、暮れゆく空を眺めています。

片やエレックはそんなエニードに見とれながら、頭を優しくかきなでているのです。

 

先ほどとは異なり、もうふたりの間にはいかなる障壁もありません。実にあたたかな時間が流れていますね。

 

なんやかんやあって問題が解決し、幸せな夫婦に戻ることができたところを描いているのでしょう。とはいえその過程を書くととんでもない長さになるので、ここでは割愛します 笑

 

エレックとエニードは、アーサー王伝説の中でも稀有な、ハッピーエンドを迎えることのできたカップルなんです。

嗚呼、基本的にハッピーエンド主義者の僕にはなんたる眼福か!!
これ以上、僕から言えることなんてありはしません……!!!

 

 

エルザとローエングリン

ローエングリンの名前だけなら、結構知られている方なんじゃないかな?と僕は思っています。

 

作曲家ワーグナーが、アーサー王伝説を元ネタとして完成させたオペラ『ローエングリン』は特に有名でしょう。

そこで描かれているのが、エルザ姫と聖杯騎士ローエングリンの恋愛です。


こちらについても、以下の記事であらすじなどを簡単にご紹介しています↓

www.kakidashitaratomaranai.info

 

本記事では、「策略にかけられたエルザを、ローエングリンが助けた」というくらいの認識で読んでいただければ大丈夫です。

 

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ガストン・ビュシエール『エルザとローエングリン』(フランス)

 

河面にほど近いところで、ローエングリンがエルザをしっかと抱きしめています。
エルザの方はと言うと、彼の想いに包まれ陶然と見惚れている様子が窺えます。

 

窮地に陥ったエルザが神に祈りを捧げた時に、ローエングリンは颯爽と駆けつけたわけですから、そりゃあもう惚れ込むのも道理です。

 

先ほどのエレックとエニードと同じくらい、ふたりからは幸せムードを十二分に感じ取れますね。
アーサー王伝説の絵画の中でも、これほどに甘い抱擁を交わしている男女の絵はそうそうないでしょう。

 

また、ローエングリンは最初舟に乗って現れたりするなど、水辺にゆかりのある騎士なので、こちらの作品はロケーションも完璧です。

 

こういったもろもろの理由で、今回ご紹介した中で僕が一番好きな絵なんですよ……!!

それゆえ、この作品についてもう少し語りたい……。
でも、この後ふたりがどうなるかを知っている僕としては、書けば書くほどつらくなってくるのでやめます 笑

 

(※この作品を、『ロミオとジュリエット』だとするサイトもあります。ただフランス文化庁のデータベースには『エルザとローエングリン』と記載されていたので、僕はこちらを採用しました)

 

おわりに

 〔番外編〕の記事はこれにて幕引きです!
おそらくは本当に、絵画紹介の最終回になります 笑

 

今回ご紹介した作品は、最初のモルガン以外、全てが恋愛をテーマとするものだったので、〔中編〕の記事とコンセプトがだだ被りしてました。

しかも番外編のくせに(?)、字数が前・中・後編のどれよりも多くなってしまいました。力加減を間違えましたね 笑

 

要はそれだけ、アーサー王伝説の近代絵画には魅力ある作品が多いということでしょう!

 

しかし、僕の知らない作品はまだまだあるでしょうから、もし素晴らしい絵画を見つけられましたら、ご一報よろしくお願いします!笑

 

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画像の出典

記事内の画像は全て、「パブリックドメイン」という、誰でも自由に利用できる状態のものを使用しています。主に以下のサイトからダウンロードしました。

〇Wikimedia Commons https://commons.wikimedia.org/wiki/Main_Page

〇Art UK https://artuk.org/

 

参考文献

〇ハルトマン・フォン・アウエ著 平尾浩三訳『エーレク』(『ハルトマン作品集』郁文堂 1982年)

〇アンドレア・ホプキンズ著 山本史郎訳『図説アーサー王物語 普及版』原書房(2020年)