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【アーサー王伝説】物語を彩る美しい絵画〔中編〕|近代ヨーロッパの芸術

 

英語のWebサイトを読むのに四苦八苦しているAuraです。アーサー王伝説について調べていると、海外のサイトに行き着くこともままあります。特に絵画については情報が乏しくて大変……笑

 

さて今回は、近代におけるアーサー王伝説の絵画〔中編〕の記事になります。

 

先日の〔前編〕では、イギリスのラファエル前派とその周辺にフォーカスしてご紹介しました。

こちらではアーサー王やグィネヴィア王妃など、主要人物を扱っています。
(ラファエル前派については〔前編〕をご参照ください)

www.kakidashitaratomaranai.info

 

アーサー王伝説の近代芸術は、ラファエル前派によるものがすこぶる多いですが、〔中編〕ではもう少し範囲を広げ、(ラファエル前派含む)近代ヨーロッパの作品を取りあげていきます!

 

本当はラファエル前派まわりに絞りたかったんですけれども、いくつかありあまる魅力を放つ作品があったので予定を変えました。

その結果作品数も増えて、ここに何を載せるべきか大いに迷うことに……笑

 

〔中編〕の本記事では、以下の人物をご紹介しています。

〇トリスタンとイゾルデ

〇シャロットの姫

 

前回と同様に、物語中の一場面を明確に描いていると思しいものには、あらすじ風の解説をつけています。また、絵画のタイトルは僕が和訳したものです。

 

 

トリスタンとイゾルデ

中世ヨーロッパの恋愛物語、それが「トリスタンとイゾルデ」です。メインテーマは、騎士トリスタンイゾルデの悲恋。

 

イゾルデは、トリスタンの主君マルク王と政略結婚をすることになりますが、マルク王の元へと向かう船の中で、誤って愛の秘薬をトリスタンと共に飲んでしまいます。

ふたりの心には情愛が芽生えるも、それが叶えられることはなく……。

 

愛に生き、愛に死んだトリスタンとイゾルデの悲劇は、今日まで語り継がれている名作で、オペラや映画にもなっています。

 

【関連】「トリスタンとイゾルデ」の顛末について(めちゃくちゃざっくりですが)言及している記事です↓

www.kakidashitaratomaranai.info

 

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ガストン・ビュシエール『冠を戴く姫君イズー』(フランス)

 

イゾルデの手にあるものは——。すなわち、トリスタンと飲み交わすことになる愛の秘薬である。

それを口にしてしまえば最後、ふたりは愛の縛めに囚われ死するのみ。

 

「イゾルデ」をフランス語で読むと作品名の「イズー」になります。
(僕は「イズー」という音の響きの方が好きですね 笑)

 

イゾルデはやはり恋人のトリスタンとセットになることが多いのですが、こちらでは単独で描かれています。

 

後景の薄暗さの中で引き立っているのが、イゾルデの美しさです。

絵の中に彼女ただひとりを置くことで、それがより明瞭に伝わってきます。あえて(?)トリスタンと一緒に描かなかった発想の妙を賞賛するしかありません…!

 

しかし、ここにはイゾルデの麗しさのみならず、杯=やがて来たる死の象徴も描かれているのが素晴らしい点です。
なお、同時に情緒もぐちゃぐちゃになります 笑

 

と言いますのも、「トリスタンとイゾルデ」がテーマになる以上は、どの場面を取りあげてもバッドエンドを漂わせることになるのですが、愛の秘薬を飲む場面は特にエモいんです。

 

加えてこの絵の場合、

①まずイゾルデの顔に目が行く

 

暗がりにあって一見すると分からないところに、破滅を予感させる杯が描かれていることに気づく

 

際立った明暗の落差で心をめった刺しにされる

という、げに上手い構図の絵になっているのがまた…!

 

そして、杯を飲み交わしている場面だと理解すれば、この絵がトリスタンの視点で描かれていることも分かります。

 

すると必然、イゾルデの表情に深みが出てきます。笑み…とは言い切れない、何か複雑な心情をたたえたまなざし。

イゾルデにとってトリスタンは叔父を殺した仇ですから、その心中は穏やかではありません。かと言って険しい表情を浮かべているわけでもなく…。

 

愛の秘薬を飲む前なのか飲んだ後なのか、どちらの解釈をするかで表情の意味が変わりますね。

 

『冠を戴く姫君イズー』の絵が好きすぎて、初っ端からたくさん語ってしまったので、ここからはササッと行きます…笑

 

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ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『トリスタンとイゾルデ』(イギリス)

 

先の絵と同じく、テーマになっているのは愛の秘薬を飲み交わす場面です。
画面全体が明るいため、今度はふたりの間にある杯が目に入りやすいですね。

ちなみに、飲む場所は基本的に船内とされることが多いですが、こちらでは船上になっています。

 

トリスタンの姿もここには描かれていて、(個人的な印象ですが)がっちりした武人でなんか寡黙な感じを受けます 笑

 

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エドモンド・ブレア・レイトン『トリスタンとイゾルデ』(イギリス)

 

続いては、ふたりで密会している場面。

この絵でのトリスタンは先ほどと印象がやや異なり、優しそうな面立ちをしていますね。イゾルデも色鮮やかな服を着ていて、いかにもお姫さまなスタイルに。

 

トリスタンはイゾルデに見とれ恍惚とした表情を、イゾルデの方は少しはにかんだ表情を浮かべています。

ふたりにとって今は、甘美な夢のような時間なのでしょう。

 

……と言っても、絵の右端にはイゾルデの夫であるマルク王の姿が…!!

まぁこのように影はありますが、それすらもはね除ける幸せムードが出てるので別にいいんです!笑

 

数ある「トリスタンとイゾルデ」の絵画の中でも、これほど幸せそうな逢瀬が描かれているものはあまりないためお気に入りとなりました。

 

推しが幸せを満喫してる絵、もっと欲しい、、、、、

 

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ユーグ・メルル『トリスタンとイズー』(フランス)

 

まさにTHE・ヨーロッパの芸術という感じがする絵です(語彙力
絵全体の柔和なタッチがとても好みな一枚。

 

こちらは、トリスタンがイゾルデと駆け落ちし森に身を潜めている場面です。
ちょっと見えづらいですが、背後には木々が生い茂っています。

 

道ならぬ恋がマルク王に知られてしまったため、(処罰されそうになるも逃れ)ついに駆け落ちするに至り、しばらく森の中で暮らすことになるのです。

 

結果としてふたりきりにはなれたものの、イゾルデはどこか憂いを感じさせるような表情をしています。

先行きが見えないのですからそれも頷けるというものです。トリスタンはそんな彼女を慰め支えているように見えますね。
(あるいは、耳元で愛をささやいているのか…)

 

まぁ、原典では「愛しあっていて苦しみなどは感じない!」というふうではあるんですが…。さすが、愛のなせるパワー

 

 

シャロットの姫(シャロットの女)

『シャロットの姫』は、19世紀にイギリスの詩人アルフレッド・テニスンが、アーサー王伝説をもとに書き上げた作品です。

 

【関連記事】
その元ネタになっているのが「アストラットのエレイン」のエピソードです。
こちらでは、絵画とともにアストラットのエレインについて(かる~~く)ご説明しています。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

さて、『シャロットの姫』は日本での知名度がやや低いので、あらすじ紹介にも力を入れていきます。

 

川の中州に建つ塔に幽閉されていたシャロットの姫。彼女の身には呪いがかけられていた。
もし、外の世界を窓から直接見たならば、その命は尽きるのである。

 

ゆえにシャロットの姫は、を通すことでしか世界をとらえられない。鏡に映る影の世界を朝に夕に眺め続け、それを織物の模様として織る日々を過ごしていた。

 

ある日のこと、塔の側をランスロット卿が通りかかった。しろがねの武具に身を固めた彼の姿が、鏡へと映し出される。それはあたかも、まばゆい陽光のごとくであった。

 

鏡の像に心惹かれたシャロットの姫は——

 

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ウィリアム・モウ・エグリー『シャロットの姫』(イギリス)

 

機織りをやめ、ランスロット卿を見る。自分の目で確と。

 

絵の左上に鏡があり、そこに馬にまたがるランスロットが映し出されていますね。呪いがあるにも関わらず、シャロットの姫は自ら外を見てしまいました。

まぁ、影の世界に倦んでいたところへ、理想の騎士かつ美男子なランスロットが現れたのですから、衝動的に見ちゃうのも分かります…笑

 

ここに描かれているシャロットの姫は、まだ幼さを残す少女といった風貌です。
では、鏡を介さず外を見てしまった彼女がどうなるのか、続きへ進みましょう。

 

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ウィリアム・ホルマン・ハント『シャロットの姫』(イギリス)

 

鏡はひび割れた。織物もまた千切れ、解け、シャロットの姫の身体に絡みつく。
呪いが我が身に降りかかったことを悟った彼女は、塔を降りて川べりへ行く。

 

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ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『シャロットの姫』(イギリス)

 

そこで一隻の舟に乗り込み、ランスロットのいるキャメロットへと向かう。だが、その余命はもはや幾ばくも無い。彼女の往くは、死出の旅路に他ならぬ。

 

シャロットの姫はひとり涙しながら、誰に聴かれることもない臨終の歌をただ口ずさむ——

 

こちらのシャロットの姫は、少し大人びた女性という印象がありますね。

 

舟の先にはわずかな灯りをともすランタンが吊り下げられていますが、これはシャロットの姫の暗い運命を暗示していると言えるでしょう。

また、彼女の前に立ててあるロウソクの炎=命の象徴が、3本中2本消えていることから、彼女の死が目前に迫っていることもまた解せるのです。

 

ランスロットに恋焦がれ呪いに侵されつつ船出するも最期には歌いながら息絶えるとか、あまりにも救いがないですね……。

ほんと、バッドエンドばかりにするのやめましょうよ!もうしんどいです…!!笑

 

最後には、亡骸を乗せた舟がキャメロットへと流れつき、ランスロットは彼女に祈りを捧げています。

 

ちなみに、『シャロットの姫』を題材にした短編小説を夏目漱石が発表しています。『薤露行(かいろこう)』というタイトルで、こちらでもやはりシャロットの姫は死んでしまうのでした…。

 

 

 

おわりに

〔中編〕では、トリスタンとイゾルデ、シャロットの姫の絵画をご紹介しました。図らずも今回は、「悲恋物語」がテーマになっていた気がします。

 

そして記事を書く中で改めて実感したのが、アーサー王伝説においてハッピーエンドを迎えられたカップルが少なすぎる問題です 笑

 

うーん、報われない物語がみんな好きなのだろうか……でも僕も好きだな……。

 

次回の〔後編〕では、パーシヴァルとガラハッドによる聖杯探索の絵画などを取りあげていきます!

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画像の出典

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〇Art UK https://artuk.org/

 

参考文献

〇ベディエ編 佐藤輝夫訳『トリスタン・イズー物語』岩波文庫(1953年)

〇川端康雄・加藤明子著『ウォーターハウス夢幻絵画館』東京美術(2014年)