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犬君雀『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』感想と評価

哀しくて、むなしい、退廃的な物語。

どうも、トフィーです。
今回はガガガ文庫の新作ラノベ『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』について、つらつらと語っていこうと思います。

 

絶賛傷心中の大学生男子と女子高生が、クリスマスを消すために疑似的な恋人関係を結ぶといったストーリー。
クリスマスを消すといっても、「はい今年のクリスマスは中止ですー、カップルざまあ」などという、ぼくみたいなモテない人間の僻みとは違います。
その内容はもっと切実で、人の古傷を抉り、感傷に浸ってしまうような空気感があります。

若干ファンタジーチックではありますが、あまりライトノベルらしくない作品でした。
一度手に取っていただきたい名作です。

 

 

 


サンタクロースを殺した。そして、キスをした。 (ガガガ文庫)

 

 

1.あらすじ

聖夜を間近に控えた12月初旬。先輩にフラれた僕は駅前のイルミネーションを眺め、どうしようもない苛立ちと悲しさに震えていた。クリスマスなんて、なくなってしまえばいいのに…。そんな僕の前に突如現れた、高校生らしい一人の少女。「出来ますよ、クリスマスをなくすこと」彼女の持つノートは『望まない願いのみを叶える』ことが出来るらしい。ノートの力で消すために、クリスマスを好きになる必要がある。だから―「私と、疑似的な恋人になってください」これは僕と少女の奇妙な関係から始まる、恋を終わらせるための物語。第14回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞。

引用:サンタクロースを殺した。そして、キスをした。 (ガガガ文庫)

 

2.『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』感想・レビュー

 

a.評価と情報

評価:★★★★☆
ガガガ文庫
2020年6月刊行 
第14回小学館ライトノベル大賞「優秀賞」を受賞

 

上にもある通り、『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』は新人賞受賞作です。
同じ回の新人賞受賞作品、『シュレディンガーの猫探し』と同日に発売されました。
作者は犬君雀先生、「いぬきみ」ではなく「いぬき」と読むようです。
受賞時点では『サンタクロースを殺した。初恋がおわった。』というタイトルでしたが、現在のものに改変されて若干前向きな印象になりました。
そして以下が、ゲスト審査員の若木民喜先生のコメント。
週刊サンデーで連載されていたラブコメ漫画、『神のみぞ知るセカイ』で有名な方ですね。

心の痛いところ突いてきますねぇ……。ボクも大学生の時のくよくよ感をもう一度呼び覚まされてしまいました。恋愛って怖いですねぇ。とても文章がよかったと思います。こういう文章書けるようになりたい。

ただ全体的に自己言及に傾きすぎて「この犯罪者君と少女の二人が、なぜ一緒にいるのか?」という部分がしっくりこなくて……。序盤で2人をもっと好きになれていたら、最後の展開でそれはそれはものすごいインパクトがあっただろうと思います。

引用:https://gagagabunko.jp/grandprix/entry14_FinalResult.html

 

読み終えた身としてはこのコメントには頷けます。(投稿時と発売後では、いくらか内容の改稿がなされているとは思いますが)
心情描写がうまく、読み手の感情を刺激してくる一人称です。
その反面、主人公と少女が協力関係を結ぶ理由がやや薄くも感じられました。
良くも悪くも心情描写に非常に重きの置かれている作品ですね。
感想については、次の項で詳しく書いていきます。

 

b.作品内容

昨年の受賞作しかり、他の作品しかり、ガガガ文庫は他のレーベルと比べると異質な作品が多いですね。
最近のライトノベルとはまた距離を置いているとさえ思えるような内容のものがちょくちょくと見られます。

 

今回読み終えた『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』についても、ライトノベルっぽくないような印象を受けました。
メディアワークス文庫などで出ているキャラ文芸に近い雰囲気です。

 

この作品、かなりの良作です。
上手く生きることのできない「僕」と「少女」の様子が描かれていく、かなりビターな物語なんですよね。
個人的には好みのストーリー。
けれども嫌う人も一定数いそうな好みのわかれる作風です。

 

というのも、登場人物が法律スレスレ、場合によっては余裕でアウトな行動ばかりとるんですよね。
主人公の「僕」は元カノの「先輩」に未練たらたらで新しい彼氏の行動パターンを周到に調べ上げて、◯人計画を手帳にまとめていたり、高校時代に授業を抜け出してタバコをふかしていたり、他人を冷めた目で見つめていたり。

 

少女も主人公を脅迫したり、彼のタバコやビールを一口かっさらったり。
リアルと物語は別物だと思っていますし、退廃的な雰囲気づくりにかっているのでぼくは気にしませんが、いい顔をしない層はどうしても出てくることが予想されます。
そういった点が気にならず、センチメンタルに浸りたい方、「暗く、哀しく、むなしい物語」がお好みの方には刺さることでしょう。

 

この作品のストーリーはあらすじの通り。
『望まない願いのみを叶える』ノートの力を駆使して、クリスマスを消してしまおうというものです。
そのためには二人の中にクリスマスの訪れを望む気持ちがないといけません。
二人は疑似的な恋人関係を結び、目的の達成のために動きます。

 
「僕」と「少女」、二人の男女が出会い少しずつ関係性が変わっていく、そのストーリーは王道で魅力的です。
険悪とまではいかないまでも、けっして良好な関係だとはいえなかった二人が、互いに弱みをさらけ出していく。
適当な駅で降りて散歩をして、適当な写真を撮って、適当に過ごしていく。
はたから見ると無意味で無価値とすら思えるようなことばかりだけれども、それらは着実に二人の心境を変えていってクリスマスを望むようになっていくといったストーリーです。

 

作中の言葉を借りればこの小説は、「負けている人の物語」「なにかを失っている人の物語」です。
人間が下手で人生がうまくいかない二人の男女が、ささやかな幸せを掴みとろうととにかく奔走します。
負け組のぼくからすれば、そりゃハマらんわけがない。

 

またこの小説、「恋を終わらせて過去と向き合う物語」という一面もあります。
クリスマスを消すためには、互いがクリスマスを待ちわびるような心境にならなければいけません。
そのために、「僕」も「少女」もそれぞれの過去と向き合うシーンが登場します。
しっかりと内面描写が掘り下げられているために、読み手としても彼ら彼女らの勇気や恐怖、喪失感などの感情が迫ってくるように感じられます。
だからこそ、人によっては古傷を抉られるかもしれません。

 

c.キャラクター

キャラクターを第一とするライトノベルにしては珍しく、この小説の登場人物には「名前」がありません。
けれども、「人物が入り乱れていてわかりにくい」といった感じはありません。
というのもメインの登場人物が4人に抑えられているうえに、この作品での会話シーンは一対一が基本なんです。
きちんと配慮がなされているので、読んでいて混乱することはなかったです。

 

では、そうまでして「名前」というキャラクター造形において絶対のものをあえて用いないこと、固有名詞を避けることにはどのような意図があるのでしょうか。

 

安直ではありますが、ぼくとしては「この世界には彼らのような人間はありふれていて、いくらでもいる存在だ」ということを示しているのかなと思います。
「僕」も「少女」も主人公やヒロインといった特別な存在ではなく、世界の一部なのであるというような……。
あとがきで、過去の体験をベースに書くと述べていますし、エピソードごとにわければ彼ら彼女らのような体験をしている人間はごまんといるのでしょう。

 

とまあ色々書き連ねましたが、答えは一読者であるぼくにはわかりません。
ただ、犬君先生があえて名前をつけなかった理由はきっとあるはずです。

 

やさぐれた大学2年生。
付き合っていた先輩と別れて傷心中。
講義をさぼる、部屋が散らかっている、飲酒と喫煙のシーンがいくらか登場する、そして先にもあげた失恋など、とにかく退廃的な人間として描写されている。
現実にいくらでもいそうなキャラクターで、先にも触れたように名前がないことがそれを後押ししている。
少女と出会って少しずつ変わっていく。

少女

女子高生。
主人公の手帳を拾って中身に目を通し、彼を脅して協力関係を結ばせる。
また主人公のことを犯罪者さんと呼ぶ。
「書いた内容が望まないこと限定で現実になる」というノートを所持している。
棘のある性格だが、年相応の女の子らしい一面も見せる。
人とすれ違うことが苦手で恐怖を感じる、強迫性障害のようなものを持っている。
家では虐待を受け、学校ではいじめにあっている。
あることがきっかけで、クリスマスを恨み、なくすことを決意する。

先輩

社会人で、主人公の元カノ。
ミステリアスで退廃的な雰囲気を持つ女性。
たびたび回想で登場する。

悪友

大学の友人。
1年目で留年が確定する猛者。
「人生、女に振られてヘコんでいる時間と、出そうで出ないくしゃみをひっこめようとしている時間ほど無駄なものはない」と座右の銘のように繰り返し語る。
ふざけていてくだらないことばかり言っているかと思いきや、あとから振り返るとはっとするような台詞ばかりを口にしている。

 

 

他にも作品内に何人か登場しますが、メインのキャラクターはこの4人。
人間性の濃い彼ら彼女らの掛け合いには独特な味がありますし、あとから読み返すとハッとさせられます。
彼ら彼女らがどのような物語を作っていくのか、それはあなた自身の手によって確かめてください。

 

 

さて、ネタバレなしの作品紹介はここまでです。
例のごとく、これより先には核心的なネタバレを含めての感想を記述していきます。
未読の方はお気をつけください。

 

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3.『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』ネタバレありの感想

なんで先輩の正体に気がつけなかったんだろう。
ミステリアスな雰囲気で、なにか秘密のある人だとは思っていたのに。

「君、妹みたいだからさ」
「僕、男ですけど……。いや、ああ、妹さんがいらっしゃるんですね」
「いや、いないよ」

『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』p167ページより引用

僕が先輩に告白して「きっと私たち、幸せになれないと思うけどそれでもいいんだね」という言葉とともに付き合うことになるのも、先輩の妹さんが深夜徘徊による交通事故で亡くなっていたと知るのも、まだ先のことだ。

『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』p169ページより引用

 

思い返せばこのあたりのシーンはそういうことかと。
あの少女、いかにも深夜に徘徊していそうなのに……。
ミステリアスつながりで、「サンタクロースの正体は先輩なんだろうなぁ……」となんとなく予想はしていましたけど、そっちに意識が行き過ぎてて「先輩=少女の姉」の可能性を思いつきませんでした。

 

サンタクロースは亡くなった「少女」の姉であり「僕」の元カノでもあり、その事実がどうしようもなく悲しいけど美しいというサプライズ。
ただやはりこのまま消えてしまうというのもあんまりで、二人にクリスマスの奇蹟が訪れるのをただただ願うばかりです。

 

この作品のラストについて、ハッピーエンド捉えるかバッドエンドと捉えるかは、私たち読者の感性しだいでしょう。
ぼくはハッピーエンドと捉えましたが、あなたはどう受け止めましたか?

 

 

レビューは以上です。
長々と書きましたが、ここまで目を通していただきありがとうございます。

 

4.『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』が気に入った方におすすめの作品

以下に、他作品のレビューのリンクを貼っておきます。
『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』がはまりそうな方・あるいははまった方には、きっとこの2つの作品も合うと思いますので、もしよければご覧ください。

 

1作目は『夏へのトンネル、さよならの出口』です。
第13回の受賞作。
この作品と同じく「喪失」が一つのテーマとなっていて似ている部分もあります。
そしてなにより、犬君先生が小学館ライトノベル大賞に今作を応募したきっかけにもなった作品です。
ぼく個人としても、数あるラノベの中でトップクラスに気に入っています。

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続いておすすめなのが『15歳のテロリスト』です。
この作品と同様に、アウトローさが際立つ作品。
社会を相手に奔走する少年の物語です。
また違ったやるせなさと無常感が伝わってきます。

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同日に発売された『シュレディンガーの猫探し』についてもレビューしました。
まったく毛色の違う作品ですが、非常に面白かったです。
ミステリーでありながら、謎を解き明かすのではなく、迷宮入りにさせるというひと味違う物語です。

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 他にも様々な作品のレビューを行っています。

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