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【敵は名探偵】小林一星『シュレディンガーの猫探し』感想・レビュー

どうも、トフィーです。
今回も前回と同じくガガガ文庫から一冊紹介していきたいと思います。
レビューするのは小林一星先生の『シュレディンガーの猫探し』
ガガガ文庫の新人賞作品です。

 

ジャンルとしてはミステリーですが、普通のそれとは毛色が違います。
探偵を追い詰める物語なのですから。


シュレディンガーの猫探し (ガガガ文庫)

 

 

1.あらすじ

探偵嫌いの僕と迷宮落としの魔女。

妹にまつわる不思議な現象、「やよいトリップ」。未来視とも思えるその力が原因で巻き込まれたとある事件をきっかけに、訪れた洋館。
洋館の表札には『探偵事務所 ラビリンス』。
そして、古めいた書架に囲まれるように彼女はいた――。
魔女のような帽子に黒い服。書架に囲まれた空間そのものが一つの芸術作品のように美しい佇まい。

「解かれない謎は神秘と呼ばれる。謎は謎のまま――シュレディンガーの密室さ」

彼女――焔螺は、世界を神秘で埋め尽くしたいのだと言った。

「私は決して『探偵』なんかじゃない。神秘を解き明かすなんて無粋な真似はしないよ」

探偵じゃないなら、いったい何なんだ。
問えばふたたび、用意していたように即答だった。

「魔女さ」

まったく、時代錯誤も甚だしいと嘆かずにはいられない。
神秘的で、ミステリアスな一人の魔女に、この日――僕は出会った。

 

第14回小学館ライトノベル大賞・審査員特別賞受賞。

ゲスト審査員・若木民喜氏絶賛の新感覚「迷宮落とし」謎解き(?)開幕!

引用:シュレディンガーの猫探し (ガガガ文庫)

 

2.『シュレディンガーの猫探し』感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★★☆
ガガガ文庫
2020年6月刊行 
第14回小学館ライトノベル大賞「優秀賞」を受賞

 

上にもある通り『シュレディンガーの猫探し』は新人賞出身の作品です。
作者は小林一星(いっせい)先生です。
受賞時点では『令和生まれの魔導書架~全天時間消失トリック~』というタイトルでした。
原型がないけれども、目に留まりやすくなったと思います。(個人的には前のもかっこよくて好きですけど)
そして前記事と同様に、ゲスト審査員の若木民喜先生のコメントを引用します。
『神のみぞ知るセカイ』で有名な漫画家です。

こちらが一番楽しかったです。ボクみたいなずぼらな読者にとってはミステリってのは「謎」というモンスターに、「探偵」というヒーローが立ち向かうバトルものです。そういう観点で見ると、このお話の探偵達の魅力、登場する事件のわくわく感は素晴らしいものがありました。どうやって解決するんだろう!と子供のように楽しみました。解決してから迷宮いりさせるとか面倒くさい手順もむしろ焔螺さんのキャラ性につながっていました。

文句ではなく希望として、他の探偵諸兄にもっと活躍して欲しかった! とにかくみんな面白そうな人達なので。かまぼこ……いや、ゆでたまごちゃん……。

引用:https://gagagabunko.jp/grandprix/entry14_FinalResult.html

 
若木先生の言う通り、めっっっちゃくちゃ楽しかったです。
だからこそ星5でもよかったのですが、ただ一点、少しだけ物足りなく感じられたので星4といたしました。

 

ただそれもそのはず、あとがきによると、この作品は投稿時のものを二分割しているそうです。
早く続きが見たい!
次巻の発売が楽しみです。

b.作品内容

物語は三つの短編から成っています。
現代を舞台にしており、三十六重密室事件、消えた手紙などいくつもの興味深い謎が登場します。
これはそんな数々の謎を解き明かす――のではなく、迷宮入りさせる物語なのです。


普通の推理小説とは真逆。
むしろそれらの主人公である探偵と敵対さえするようなストーリーです。
なんとも面白いテーマです。
推理小説において謎を謎のままにするどころか、隠ぺいしてしまうというテーマは、かつての作品で存在したでしょうか?
ぼくには思いつきません。

 

ではなぜ事件の真相を迷宮入りさせるのか、それにももちろん理由があります。
主人公の少年・令和は妹の平穏を守るため、魔女・焔螺(ほむら)は神秘を守るために、謎を謎のままにするのです。
時にはギャグみたいな力技で、時には口八丁で操って。

 

そして隠ぺい工作をするために、探偵よりも先に「仮説」を導き出すのです。
この仮説を導く部分が、一般的な推理小説における謎解きパートにあたるのでしょう。ちなみに仮説という表現を使っていることにも事情があります。

 

それはやはり神秘性を保つためです。
仮説はあくまでも思考実験に過ぎず、その検証をせずに真相を闇に葬ればひとつの可能性にすぎない。
だから神秘は守られるのだ、という論調です。

 

この点が生粋の本格小説ファンには受け入れられないかもしれません。
そうでなくても消化不良と感じる方もいそうです。

 

けれども、そこさえ気にならなければ、十分に楽しめるかと思います。
この作品の一番の見どころは、魔女によって着々と探偵が追い詰められていくところです。
審査員特別賞というだけあって個性が飛び抜けたこの作品、はまる人はとことんはまることでしょう。

 

c.キャラクター

『シュレディンガーの猫探し』は非常に独特な物語ですが、登場人物もまた個性的です。
全体的に口の回るキャラクターが多く、セリフ回しが面白おかしい
主人公・令和の一人称での語りや、彼ら彼女らの掛け合いが心地よく、いつまでも見ていたくなるほどでした。
だからこそミステリーというジャンルでありながら、気楽に読むことができました。

守明令和(もりあきれいわ)

主人公で、生粋の探偵嫌いの少年。
それはもう筋金入りで、一人称の地の文やあるいは探偵本人に直接、面白おかしく毒を吐く。
探偵たちほどではないにせよ、頭の回転は速い方。
妹の日常を守るために、魔女のもとへと足を運ぶ。
そしてシスコン。

焔螺(ほむら)

ヒロインで、魔女を名乗る表紙の少女。
作中での台詞、「魔女は受け入れることから始める」の通りに、いかに現実味がなく誰も信じないような話でも聞き入れる。
神秘を愛しており、依頼の報酬を求めないかわりに、神秘的な現象にのみ介入する。

恐ろしいほどに頭の回転が早く、気がつけば迷宮構築(事件を迷宮入りさせるための筋道)を行っている。
過去に迷宮入りさせた不可思議な出来事を再現する本、「魔導書」を何冊か所持している。
スイーツが好き。

「『全天の星を見た』。……とても。とても素晴らしい! 夜空から時間の概念を消失せしめたというのかい。なんてダイナミックでファンタジックでロマンチックな盗難事件だろうか! 世にも奇妙なこのミステリー。不可能にも程がある荒唐無稽な不可能犯罪。私がこの手で何としてでも――――迷宮入りにしてみせよう」


『シュレディンガーの猫探し』より引用

芥川くりす(あくたがわくりす)

令和の同級生で、焔螺以上にミステリアスでクールな少女。
文芸部に所属しているが、メンバーは実質彼女一人。
たびたび部室を訪れる令和とは仲がいい。
会話文中で「ケラケラ」と笑い声を表現するタイプといえば、よりイメージしやすいでしょうか。

尋常じゃない程に仕事が早い天才。
彼女の紹介で、令和は焔螺と出会う。
焔螺にはなぜか「母さん」と呼ばれている。

守明弥生(もりあきやよい)

令和の妹、で同じ高校に通う一年生。
『やよいトリップ』なる未来予知じみた力を持っている。
この能力によって、犯人しか知りえない情報を口にしてしまい、疑いの目が向けられる。

 

天然な性格で、無自覚な男泣かせ。
太陽とは同級生。

明智太陽(あけちたいよう)

高校生探偵。
入学して一月あまりで噂になるほどに活躍している。
「太陽の名のもとに!」が決め台詞。
確証がないと口にしないタイプの探偵。
過去に焔螺に辛酸をなめさせられた経験があり、彼女を警戒している。

金田一勘渋郎(きんだいちかんじゅうろう)

自称ハードボイルド探偵。
ハットにシャツにコートに、といかにも探偵らしい格好をしたおじさん。
太陽とは違い事件が解決すればいいというスタンス。
他に頼りになる人間がいれば任せて怠けるが、屈指の名探偵。

ゆでたまご

勘渋郎の助手を務めるセーラー服の少女。
勘渋郎にはわりと毒舌だが、信頼関係はある様子。
常人離れしたとある特技をいかして、事件解決の糸口を探っていく。
それから、気配が薄い。

 

 

さて、ネタバレなしの作品紹介はここまでです。
例のごとく、これより先にはネタバレを含めての感想を記述していきます。
未読の方はお気をつけください。
また、おすすめ作品をさらに先で紹介しています。
したのリンクでスキップできますのでよければどうぞ!

 

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3.ネタバレありの感想

といっても、今回は少なめでいきましょう。
伏線のはり方がうまいですね。
タイムカプセルの入れ物に、令和が姉に贈ったクッキーの缶が使われていたという確信的な予想は想像できはしたけれども回収の仕方が丁寧で興奮しました。

 

一巻としては未回収の要素を残しながらも、一応は大団円。
令和も探偵事務所ラビリンスにアルバイトとして雇われることになったわけで、次の巻はよりいっそう楽しめそうです。
やよいトリップの神秘に迫るとのことですが、はたしてどんなカラクリがあるのやら、あるいは本当の超常現象なのか、期待を胸に待つこととしましょう。

 

 

4.『シュレディンガーの猫探し』を読み終えたあなたにおすすめな作品

『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』

同日に発売された新人賞受賞作。
退廃的で切ない恋愛小説です。

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『夏へのトンネル、さよならの出口』

前年のガガガ文庫の新人賞作品です。
ダブル受賞という快挙を成し遂げています。
巧みな情景描写で、切なくてすがすがしい青春が描かれています。
間違いのない傑作です。

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他にもいろいろな作品のレビューをしています。
よければご覧ください。

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 ここまでご覧くださり、ありがとうございました。