絶賛麒麟ロス中のAuraです。放送終了から2ヶ月経っても、ロスがひどすぎて未だに次作『青天を衝け』を見れていません。
近頃は、サウンドトラック(BGM)を聴いては「麒麟がきた……」とボソッとつぶやくような日々を過ごしています 笑
ジョン・グラムさんが手がけた、大河ドラマ『麒麟がくる』のサウンドトラックには、数々の名曲があります。
物語を彩るべく時をかけて練り上げられた音楽は、その制作の背景を知るとより一層深みを増して聴こえてくることでしょう。
そこで本記事では、『麒麟がくる』のサントラについてラジオで放送された話をご紹介していきます。
ラジオ番組『Serendipity』の2/27と3/6の放送回にて、音楽プロデュースを担当された備耕庸さんと、ボーカルを担当された堀澤麻衣子さんがお話ししていた内容を文字化して編集しました。
元々自分用に書き残しておいたものですが、現在はこの放送を聴くことができず、内容を知る手段がありません。
そのため、「せっかくだし、ファンの皆さんに届く形でメモを公開しちゃおう」と思い立ちました。
(もし “お声のかかることがあれば” 記事は削除いたします……笑)
体裁としましては、司会者による個別の楽曲の質問に対し、備さんか堀澤さんが答えていくというQ & A方式を取っています。
参考として楽曲の試聴を貼っていますが、聴ける部分が短すぎて全然伝わらないので、サントラをお持ちの方はぜひ原曲を流しながら記事をお読みください 笑
なお、僕個人のコメントや補足などがある場合は、「筆者コメント」として付記しています。
本能寺Ⅰ/Ⅱ
——『本能寺Ⅰ』と『本能寺Ⅱ』のふたつある意味は?
備さん
実はジョンの中で「本能寺」っていうテーマがずっとあって、この本能寺の情景を描いたものがⅠとⅡになります。
そしてⅠの方が本能寺までの苦悩をジョンの中で表現したもの。
Ⅱの方が実際に本能寺に向かい、そこから描かれる様子が情景化されているんです。
——本能寺へ向かうビフォーアフターですね。
備さん
前編・後編みたいな感じがありますね。
筆者コメント:
『本能寺Ⅱ』は本能寺の変での情景を描いた曲ですが、実際のドラマでは本能寺以外の場面でも結構流れていました 笑
まぁ、こんないい曲なのに1回しか使わなかったらもったいない(?)ですしね……。
ⅠとⅡを続けて聴くと合計で15分以上あるので、『麒麟がくる』の世界にどっぷり浸れるのが僕のお気に入りポイントです。
なお、ジョン・グラムさんの特設サイトで、『本能寺Ⅰ』と『本能寺Ⅱ』についてのコンポーザーノート(楽曲解説)が掲載されています。一部を抜粋しますと、
Ⅰは「光秀が道を共にした信長が、日本を統じることを目指しつつも如何なる手段も選ばない者であったことに対しての痛恨の嘆き」を、
Ⅱは「信長公と共に歩んでしまった過ちに対する怒り、光秀が信長を討つ決心」を表現した楽曲であるとのことです。
出典:
『本能寺Ⅰ』……John R. Graham - 本能寺 I / Honnoji I
『本能寺Ⅱ』……John R. Graham - 本能寺 II / Honnoji II
美濃の里
——ジョンが自分の体験・経験と一番重ねたであろう楽曲としてパッと思い浮かぶ曲はなんですか?
備さん
サントラのvol.1に入っている『美濃の里』という曲ですね。
ジョンは岐阜には行ったことはないんですけども、この曲を書くにあたって、美濃の風景を写真とかで見た時に、故郷のバージニアを思い出したそうです。
非常に山々が美しくて、美濃と自分とを重ねたところがあると。今はLAに越してそこに住んでいるジョンが、光秀の美濃への気持ちと重ねた曲。故郷への想いが表現されているんじゃないかなと思います。
筆者コメント:
特設サイトにて、同様の解説が掲載されています。
→ John R. Graham - 美濃の里 / Mino My Home
攻防
——『麒麟がくる』の111曲の中で、「ジョン・グラムっぽいな~」と感じた曲は?
備さん
『攻防』です。これは極めてジョン・グラム節なオーケストラロック曲です。
ロックの魂の激しさであったりとか、力強さっていうものをオーケストラで表現しています。
光秀たちいろんな武将たちがほとばしるエネルギーが表現されていて、それを後押しするような熱い呼応が広げられるような曲なので、熱量とかも含めてカッコいい曲ですね。
「グラムーー!!」って感じじゃないですか(笑)
筆者コメント:
僕も『攻防』が好きでよく流しています。勝負事の前に聴くと勝てそうな感じがするので 笑
コンポーザーノートでは、曲でイメージした情景についてさらに踏み込んで書いていました。
→ John R. Graham - 攻防 / Castle Assault
静かなる炎
——今の気分で選ぶ一番のお気に入りは?
備さん
あー、比較的短い曲ですが、『静かなる炎』ですね。
曲を作るときは「曲のコンセプト」っていうのをいただいて、それを描いていくんですが、実はコンセプトも『静かなる炎』だった曲で、それを音楽にして表現されているんです。
静かにロウソクの上に灯っている炎……心の中で灯っている炎が、どんどん広がっていってひとつに開くような、炎がパッと開くような様子が表現されている曲です。
聴いていると僕は勇気をもらえますね。音楽による芸術が体現されているなと感じます。
筆者コメント:
やはりこちらも解説があります。『静かなる炎』は記述が短いので、以下に引用します。
曲の冒頭、光秀の思慮深い様子が表現されています。様々な可能性や出来事に思考を巡らせ、進む道を決断する光秀。曲の進行と共に、想いの強さと感情は徐々に高まり1’53”に最高頂に達し、行動に移すため昂る感情を鎮めます。
人間五十年
——タイトルに引っかかったのは『人間五十年』ですね。目につきました。どんな楽曲ですか?
備さん
実はコンセプトを練るのにすごく時間がかかった曲で、3カ月くらいですかね、実際に筆をつけ始めるまでに。
人間五十年、これにはいろんな考え方があります。能でもあるし、実際に信長が桶狭間の戦いの直前で舞ったとされる人間五十年もあります。
『麒麟がくる』においては、約50年生きてきた信長の気づきというものを表現しているんです。そのひとつに信長の感じた孤独というテーマが歌われています。
「歌われている」と言いましたが、実はこの曲のクワイア(混声合唱)には歌詞があって、それはジョンが日本語で歌詞を書いているんです。
その歌詞では信長が、今まで切り捨てたり、殺めたりしてきた人たちに呼ばれているんです。兄弟や民草ですね。
そしてこの曲は常に愛を求めていた信長の中にあったものが「孤独」である、ということを歌い上げています。クワイアのないオーケストラの部分で孤独への気づきが表現されています。
天下統一まで近づいたところにあったのにも関わらず、どんどん孤独になっている。いろんな思いが込められている曲なんですよ。
筆者コメント:
ドラマにおける『人間五十年』の使用頻度は高かったように思います。
最終回でも、光秀が愛宕山にて謀反を決心した場面で流れていました。
(信長の「わしが一人で大きな国を作り……」という言葉を光秀が回想する場面ですね)
備さんがおっしゃっていた、『人間五十年』での混声合唱の歌詞は、以下になります。(特設サイトより一部抜粋)
息子よ(娘よ)、どこにいる
父よ(母よ)、どこにいる
弟よ(妹よ)、どこにいる
みつからない
信長に命を奪われた人たちが、互いを探し求めている様子が歌われています。愛を求めている信長が知らず知らず他者の愛を奪ってしまった、とでも表現できる構図です。
実際の『人間五十年』では、ここまでハッキリと歌詞は聞き取れません。
多分、あえてそういう歌い方をしてるんだろうなぁと僕は思ってます。合唱に詳しい方がいたら教えてください 笑
ただ、明瞭には聞き取れない歌い方によって、声にならない叫びのような印象を与えていますね。
なお、「信長の感じた孤独」というイメージが込められているとのことですが、先ほど書きましたように、最終回では光秀視点の回想で流れていました。
光秀が愛宕山で思いに沈んでいた時、上掲の歌詞=亡者の呼び声を聴いたことが、謀反を決意する後押しになった……という解釈を僕はしています。
そして自分語りになりますが、オープニングで流れるメインテーマを除くと、個人的には『人間五十年』が一番好きな曲です。
好きなあまりに、目を閉じて4ループ聴き入ってたら完全に光秀の気持ちになりきってました 笑
曲の長さは約8分なので、4ループで30分持ってかれました。
秘策
——『麒麟がくる』×ジョン・グラムだったからこそ生まれた一曲というのはありますか?
備さん
サントラのvol.6に入っている『秘策』という曲です。この曲はすごくジョンのセンスが爆発したような超独創的な曲なんですよ。
なぜかと言うと、まず楽器的なところでは、東洋的な胡琴の音に加えて、フィンガーシンバルとかアラビア半島のタンバリン………中東系の音が入っていて、さらにオーケストラも入っているっていう。
オリエンタルでありつつ、ミドルイースタンな感じもありつつ、オーケストラな感じもありつつ……すごく独創的な曲だと思うんです。
——通常だとありえないような組み合わせを見事にひとつにした、そこにジョンのセンスが光るということですね。
備さん
絶妙すぎるアレンジですごくかっこいい。
劇中では帰蝶をはじめとして、賢い人物がいっぱいいるわけですけども……。そういう人物たちが考えた策、閃いた名案を無我夢中に実行する時に使われたらいいな、と思っていた曲ではありました。
まさしく『秘策』という曲名に表れていますね。
——いろんな世界のジャンルのスパイスがあるのは、それぞれの武将のイメージにもつながっているということなんですね。
備さん
そうですね。ある意味、フレンチ風トルコ四川料理みたいないろんなものがハイブリッドになったカッコよさが詰まっています。
その組み合わせとかも含めて、ジョンのセンスとなおかつ戦国感が混ざってすごくならではの一曲なんじゃないかと思います。
——それは無国籍な感じが、戦国と言われるような時代を象徴していると言えますね。
ところで、麻衣子さんが参加された楽曲は、浮遊感や歌い上げる感じのものが多かったかと思います。もしも、ジョンに『秘策』でも歌ってよ、と言われたらどんな感じにしますか?
堀澤さん
その楽曲に寄り添うための工夫が必要ですよね。
私は日本でずっと生活していますが、異国情緒漂う曲には、どんな時だったらこの感情に合うかなってことをまず探します。
『秘策』であれば、笛の音とかも入っててちょっとお祭りみたいな。縁日でワイワイしてる人がいて、その中で子供って気持ちが躍動するじゃないですか。あの時の気持ちに戻って歌います。
心を作ってからその音色(おんしょく)を音に乗せてみるというのをやってますね。
——この曲から来るのは子供の頃の縁日感というのか、ちょっと無邪気な感じなんですね。
燐光
——『麒麟がくる』のサントラ111曲中の、麻衣子さんが参加されている10曲で何かご紹介してください。
備さん
それであれば『燐光』という曲がvol.2に入っています。
「燐の光」、つまりイメージ的には蛍の光。戦国時代の、蛍の光が舞うような夜を想像した情景曲です。
備さん
蛍って、ジョンが住んでるLAではいないと思うんですよ、僕見たことないんで。蚊はいますけどね(笑)
だけど蛍の光っていうイメージに対して、ジョンが持ってたのが実は映画の『火垂るの墓』とかを観たりして想像したもの。
『火垂るの墓』と魂が舞う様子っていうのをジョンの中で情景として思い浮かべています。
「魂が舞う」というのは東洋の感覚であって、西洋の感覚だと、お墓でハロウィンみたいなもので舞うことはあっても、やはり情景としては珍しいんです。
しかしそれをジョンの中で描いた時に出てきたのが、『燐光』という曲です。その美しく切ないところに麻衣子さんの声が儚く乗っているっていうところがこの曲の美しさですね。
——これは元々麻衣子さんに歌ってもらうという想定で作られたんですか?
備さん
そうですね。
——麻衣子さんは『燐光』についてどう感じていますか?
堀澤さん
儚げで切ない中に魂が舞うって話がありましたけれども、それは何かただ悲しいだけじゃなくて、「意志」といいましょうか……それが乗っているメロディーだと思います。
日本の武士の、忠誠的な、美しい気持ち……正しく生きようとする気持ち、誇りをもって生きようとするところが現れていると思います。
そういうのをジョンもすごく理解した上で音にされたんだということを、曲を聴きながら私は感じたんですね。その思いを声にも乗せて届けたのがこの曲なんです。
私も歌いながら泣きそうになっちゃうんですけど、儚げな中にも残る思いというのを歌で届けられたら、という気持ちを込めましたね。
希求
——麻衣子さん以外にも、ウクレレやバイオリンでいろんな方が参加されています。『麒麟紀行Ⅳ』以外で、タイトルに「feat.」がついているのは『希求』だけです。
備さん
川井さんには、最初『麒麟紀行Ⅳ』だけを演奏していただくようにご相談させていただいていたんです。
ただ、それで川井さんのバイオリンをジョンが聴いた時に「すごいな!」って感動していたんです。
胸を刺すような、極めて情熱的な演奏が素晴らしくて、それでどうしてもあと一曲演奏をお願いしたいとご相談したのがこの『希求』という曲なんです。
実は、この曲は元々オーケストラの曲としてアレンジしたものだったんですけれども、それを川井さんに演奏していただくためにアレンジをゼロからやり直して作った曲なんです。
川井さんの演奏に合わせる形で、他のバイオリンとかもアレンジをし直したんですね。
川井さんは「ストラディバリウス」というバイオリンを演奏されています。
でもあの素晴らしさはストラディバリウスだからっていうことではなく、川井さんが、特別なバイオリンも込みで、美しくしかも情熱的な音を表現されているんです。
それに合わせる形にするにはアレンジをどうしたらいいんだろうと聴きながら考えて、セッションが終わった後には、ジョンと「あーだねこーだね」みたいなことを話して収録に備えましたね。
——アーティスト同士のコラボレーションという楽曲なんですね。麻衣子さんはいかがですか?
堀澤さん
ドラマでは、大事なシーン、空間を作る時に流れていたので、すごく印象深いですよね。
筆者コメント:
ドラマ内では、光秀が正親町天皇に謁見した際などで流れていたように思います。
そこでは「こののち、信長が道を間違えぬよう、しかと見届けよ」というお言葉を帝より仰せつかっていました。
さて、音楽ド素人の僕でも、「ストラディバリウス」は聞いたことがあります。
インターネットで軽く調べたら、ストラディバリウスのバイオリンは約10億円するそうな……。
金額が凄まじすぎてイメージできませんが、僕だったら怖くて近寄ることも憚られます 笑
川井さんが『希求』にも参加するきっかけになった『麒麟紀行Ⅳ』が ↓ です。
また、『希求(オーケストラver.)』がサウンドトラックのvol.6に収録されています。元の『希求』とはまた違った印象があります。
智将
——111曲の中で、テーマが明智光秀というものが数多くあったと思います。ドラマでは光秀が悩むシーンが多くなっていきましたが、一番ポジティブな楽曲はどれだと思いますか?
備さん
『智将』という曲ですね。これはたくさんある光秀のテーマを使ったアレンジの中でも特に、なんというか勇気をもらえるような、上がる曲ですね。アップ系の光秀曲っていう感じです。
アレンジ的にもドンドコドンドコ山を登ってくように前進感が強いです。ドラマも後半になってくると、やはり光秀が頑張らないといけないシーンとか、前半の時よりも行動力を発揮して決断をするシーンが増えてきます。そんな時にこの曲をイメージしていました。
『智将』は、朝起きた時とかに聴くとすごく元気が出る光秀曲だなぁと思って、朝自分自身でもかけてますね 笑
——この曲は『麒麟がくる』のメインテーマのリフレインが使われていますよね。個人的には、考えた後で行動する時にメインテーマのリフレインを羽織っていくようなイメージが湧きます。麻衣子さんはいかがですか?
堀澤さん
迷いの中で最終的な決断を下す時に、このテーマがスッと気持ちを押してくれます。
そういうエネルギーをとても感じますし、一日の始まりに聴くと前に一歩進もうという気が、「できるエネルギー」がもう一段階上がる感じがして、私も好きです。
備さん
この曲でひとつ付け加えたいことがありました。
『麒麟がくる』での知的なイメージのひとつとして、バイオリンの、なんというかチャキチャキチャキチャキというような音があります。近い距離で鳴らしているバイオリンを録音した時に出てくる音ですね。
それは閃き的なことを実は表してて、この短い音が、頭の中でいろんな思考が動いてく様子を表現しているんです。
それがあって曲名が『智将』になりました。光秀が智将と言われたからということもありますけれども。
——脳内シナプスのつながりというか、思考がまとまって、行動していくという感じなんですね。
全111曲の振り返り
——全体を振り返っていかかですか?
備さん
111曲というより、「111作品」がある、という感じですね。
全ての曲でコンセプトをすごく練って作品として作り上げました。全てに長いストーリーがあり、111人の子供がいるというような感じがしています。
——サントラのベストで、111曲から18曲を選び出すのは大変だったんじゃないですか?
備さん
めちゃくちゃ大変でしたよ!(笑)
——ジョンさんと備さんの想いがこもった選曲なんだな、ということがよく分かります。
おわりに
ラジオ番組での『麒麟がくる』サントラ特集は以上になります。
ここまでたくさんのお話を伺っておいてこんなことを言うのもわがままですが、他の曲の制作エピソードも気になってしまいますね 笑
いつか、ジョン・グラムさんの特設ページやインタビュー記事などで教えていただけることを願いまして!
記事を書いたら余計にロスがひどくなった気もするんですが、もう幕を閉じたんだという現実を受け入れようと思います……。
『麒麟がくる』の制作に携われた全ての方に、御礼申し上げます。本当に素晴らしい作品でした。
よし、録画してある最終回をもう一回見たら、いよいよ青天を衝くぞーー!!
あれ?でも、そんなことしたら逆戻りになるのでは……??笑
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僕は全曲聴きたくて完全盤を買いましたが、ジャケット写真はベスト盤の方が好きかもしれません 笑
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