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【役割語】女言葉とオネエ言葉の違いレポート

 

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僕は大学生時代、日本文学部として、4年間国語学を勉強していました。
 その一環で、「オネエ言葉と女言葉の違いは何か」というレポートを書きました。

堅苦しいレポートというよりは、身近な言葉の疑問を解決しよう!という気持ちで書いたので、気軽に読んでいただけると嬉しいです。

 

1.はじめに

そもそも「オネエ言葉とは何か」という疑問から始めたい。

結論を言うと、オネエ言葉(おかま言葉)は役割語である。

役割語とは、以下のような定義である。

 

ある話し方を聞くと、それを話している人の人物像が頭に思い浮かべられるとき、あるいは、ある人物像を示されると、その人が話しそうな話し方が思い浮かべられるとき、その話し方 のことを「役割語」という。

(現実でその言葉が使われているかは問題ではない)

(例:「~ですわよ」という語尾を聞くと、この人はお嬢様だろうなと見当がつく。「~じゃよ」と言えば博士なのかな?老人かな?と予想がつく。

 

 

つまり役割語は、話者のキャラクターを口調で表せる便利なものである。

 

※補足:なぜ役割後は使われるのか

「話者のキャラクターを口調で表現するため」

「人物によって話し方が変わるということが大衆および作品の作り手に根付いており、無意識にキャラクターに合った言葉遣いにしてしまうから(作者が無意識に使っちゃう)

使う必要があるのかどうか以前に、役割語はフィクション世界において根付いているといえる。

※河野氏の論文(2008)では、メディアで男性が女性女性語を多用する理由について「非男性性を表現・主張していることに加え、女性語が持つ表現効果を自らの発話に応用したり、「女性に何か(特に女性分野の知識・技能)を教える」という役割を果たしている」と指摘している。


オネエ言葉も役割語のひとつだろう。

オネエ言葉とは、ニューハーフの男性が自身の男性的口調を打ち消すため、現実の女性すら使わない女言葉を用いて自身の女性らしさをアピールするものである。

つまり音声による情報を除けば「女言葉=オネエ言葉」になるはずである。

 

 

しかし、文法的、語彙的な観点からみて女言葉とオネエ言葉には差異があるように思える。よって本稿では、女言葉とオネエ言葉を比較し、また、比較作業を通じて、オネエキ ャラのセリフから女言葉には感じられない共通点を発見したい。

現代で「~だわ」などの女言葉はフィクションであり、現実では使われていない。よってオネエ言葉もフィクションの用例を収集する。

 

本論でやることをめっちゃ簡単に言うと

「オネエ言葉って文字起こししたらただの女言葉と一緒なん?なんか違う気するわ。調査しよ」です。先行研究の調査はかなりさぼってます。

 

2.調査・考察

女言葉とオネエ言葉を比較した。

女言葉の用例は数が厖大なため先行論を基準とし、オネエ言葉は RPG『ドラゴンクエスト Ⅺ』に出てくるオカマキャラ「シルビア」のセリフと、漫画『ONE PIECE』に出てくる オカマキャラ「ボン・クレー」のセリフから引用する。

結論から言うと、表のようになった。

  女言葉 オネエ言葉
代名詞 あたし、あたい、あなた、わたし、わたくし あたし、あたい、あんた
断定 ~よ、~ね(「だ」を省略) ~ね、~よ、~だわ、~わ
疑問・質問 かしら かしら?
命令・依頼 ~ね、~よ、~ないで、して下さる? ~さい
感動詞 あら、まあ、ほほほ、ふふふ おほほ

 

 

詳細は以下である。

比較に使う女言葉は多田 2016 の論文からの引用である。

<女言葉>

代名詞
「あたし」「あたい」「あなた」等が挙げられ、「わたし」「わたくし」は丁寧な表現として男女ともに使われている。「きみ」は男ことばとしての認識であったが、最近は女性が使っても自然に感じるようになった。

 

断定形式

「雨よ」「きれいね」等、男ことばでは「雨だよ」「きれいだね」と使われていた「だ」を省略するのが名詞述語文である。また男ことばの場合「~だね」「~だよね」「~だよ」とされ ていた文末も、「だ」を省略することによって終助詞と一緒に用いることが可能である。

 

疑問・質問形式

「雨かしら」「行くかしら」のように「~かしら」が質問文として多用される。また肯定的 な意味でも使われることもある。 終助詞 「雨だわ」「行くわ」のように終助詞が「わ」とされるのが一般的な女ことばである。これ は、文末を上昇気味にするのが前提である。

 

命令・依頼・禁止形式

「行ってね」「~してよ」「行ってちょうだい」「してくださる?」のような丁寧なものは女ことばとして認識される。ただし、“上から目線”的な印象を与えることもある。また、「行 かないで」 のような「~しないで」という言い回しの禁止形式は女ことばとされるが、男性が使っても 違和感がなくなっている。

 

感動詞

「あら」「まあ」等は、女ことばとしての言い回しに分類される。笑い声の場合は「ほほほ」 「うふふ」等が女性的である。

 


<オネエ言葉>

代名詞
……そうね。アタシ 先に 戻ってるわね。(シルビア)
アンタなんか うまのふんが お似合いよ!(シルビア)
そうようあちしは悪魔の実を食べたのよう (ボン・クレー)
あなたカーワウィーわねー好みよ (ボン・クレー)
アンタの勝ちよう……!!(ボンクレー)


断定形式
……やれやれ お仕置きしないと わからないようね。(シルビア)
口ほどにもナ~イっていうのはまさにア~ンタねい(ボン・クレー)

疑問・質問形式
もう 暗い部屋でも ちゃんと眠れるのかしら?(シルビア)
あちしったらなに出会いがしらのカルガモに飛びついたりしたのかしら!!!(ボンクレー)


終助詞
美しき雪の景色に ピッタリな形だわ。(シルビア)
過去にこんなやつがいたわ…!!!(ボン・クレー)


命令・依頼・禁止形式
無垢な民を襲うのは やめなさいっ!(シルビア)
アンタに勝ちよう……!!殺しなサイ………!!(ボン・クレー)


感動詞
おーほっほ!(シルビア)
がっはっは!!(ボン・クレー)

 

 

4.結果・考察

比較作業を通して分かったことが五つある。

①オネエ言葉と女言葉はほとんどが合致する。

②オネエ言葉の二人称は「アンタ」を使う傾向にある。

③オネエ言葉は「~」を頻繁に用い、語や語尾を伸ばす。

④オネエ言葉は話し手の感情が高ぶったとき、言葉が強めになる(男言葉になる)。

例)~しなさい!

⑤オネエ言葉では親密な人物を呼ぶ際、 「名前+ちゃん」を使うこと。

 

また、テーマとは逸れるが、(河野 2008 )では

「テレビで男性が女性言葉を使うとき、二人称代名詞に「あんた」が頻繁に用いられ、それは親愛表現のひとつである

としていた。

しかし、今回筆者がとった用例で、「シルビア」「ボン・クレー」は主に敵対人物に「アンタ」を用いていた。

さらに、「名前+ちゃん」について河野氏は「女性に対しての呼称に非常に多く用いられていた」としているが、「ボン・クレー」はむしろ男性に「名前+ちゃん」を多用していたように思える。

このように、二次創作におけるオネエ言葉と現実のニューハーフが使うオネエ言葉に差異が生まれている。

その原因としては、リアリティの高さが関係していると考えられる。

二次創作におけるおかまキャラは、「男が好き=女はライバル」という思考が働き、女性には強い言葉を、男性には「ちゃん」をつけていると考えられる。

また、なぜ「あんた」の使い道が異なるか、という点は現実のオネエが「歯に衣着せるストレートな物言いの毒舌キャラ」というステレオタイプ(はたまた傾向)があるからと考えられる。

「あんた」とあえて粗暴な二人称を使うことにより、距離を近く感じさせ、また気を使っていないことを相手に認知させ本音を話すという一種のマーカーになっている。

5.終わりに

調査の反省点としては、「ボン・クレー」が用例対象としては語調が特殊的過ぎたことを挙げたい。(具体的には、一人称が「あちし」、普通は「~よ。」というところを必ず「~よーーーう。」と言う。同じように、「~ね。」を必ず「~ねい。」と言う。『ONE PIECE』のキャラクターは笑い方が特徴的、など)

役割語はまだまだ研究の余地があるので今後も用例数を増やしたり、多くの先行研究を読んだりして考察を深めていきたい。

引用資料、参考文献

河野礼美「テレビにおける男性の女性誤使用―いわゆる「オネエ言葉」について―」 『國文』
お茶の水女子大学国語国文学会(109)2008 07
多田安衣美「役割語の役割とは〜翻訳文に潜むステレオタイプ〜」『コミュニケーション文
化』跡見学園女子大学(10)2016 03 20
『ドラゴンクエストⅪ』2017 SQUARE ENIX 2017 07 29
尾田栄一郎『ONE PIECE』( 18)2001 集英社
尾田栄一郎『ONE PIECE』 (21)2001 集英社