“より良い生き方を考える”
高校時代に倫理の授業を取りたかったAuraです。母校では、公民の授業で現代社会しか選べなかったんですよね……笑
今回は、そんな僕にとって待望の(?)漫画である、『ここは今から倫理です。』をご紹介します。
高校の倫理教師・高柳を主人公とした学園物語であり、彼は倫理の授業を受ける生徒たちが抱える様々な悩みや問題に向き合っていくことになります。
2021年6月現在、既刊6巻です。
また、NHKでドラマ化もされ、4巻までのエピソード(の一部)が2021年2~3月に放送されました。僕はこちらも視聴しましたが、やはり面白かったですね。
上掲の画像での高柳先生の沈思したまなざしから、この作品の雰囲気が伝わってくるのではないでしょうか。
キャッチコピーの「考えることで救われることもある」もまたいいですね……。
※これから読まれる方のために、基本的に大きなネタバレなしでご紹介しています。
内容紹介
あらすじと魅力
「倫理」とは人倫の道であり、道徳の規範となる原理。学ばずとも将来、困る事はない学問。しかし、この授業には人生の真実が詰まっている。クールな倫理教師・高柳が生徒たちの抱える問題と独自のスタンスで向かい合う──。
新時代、教師物語!!
高柳先生と倫理を受ける生徒とのエピソードが、1~2話ずつで描かれていきます。
生徒ごとにストーリーやテーマが異なっているので、読みやすい形式になっていると思います。
物語中では、高校生が直面するであろうリアルな悩み・問題が扱われていて、それは誰しもが一度はぶつかるようなものもあれば、袋小路に迷い込んだ “一部の人” だけが苦しんでしまうようなものもあり、種々に出てきます。
これに対し、高柳先生が哲学者や思想家たちの言葉を投げかけていきます。
生徒は自分で考え行動し、それでも「答え」が見出せなかった時には、先生からの助言に耳を傾けることもあります。
そうして気持ちが救われる生徒もいれば、「そうなのかな?」という感じで明確な解決に至らなかった生徒もいます。
しかしどのようなケースでも、現実は変わらなくとも考え方や心の持ちようが変わり、のちの人生にポジティブな影響を受けたということは共通しています。
こういう着地点を取っているのもまたリアルだなと僕は感じます。
生きることって複雑で難しいですからね……(作中で扱われるテーマにもよりますが)「一件落着!」という結び方を取っていないのは個人的に好きなポイントです。
高柳先生の人間臭さ
先の項で、生徒たちは高柳先生の助言を聞くこともあると書きました。しかし、それは必ずしも「答え」ではありません。
確かに高柳先生は、先人たちの遺した数々の思想を知っていて博学ではありますが、常に生徒たちの前を歩くような「超越者」として描かれてはいません。
本記事の冒頭に “より良い生き方を考える” という、作中に登場する文言を載せましたが、高柳先生は、どうすればそれを実現できるのか考え続けています。
生徒たちに問いかける一方で、自分自身もまた迷いの中にある、ということですね。そんな人間臭さもまた高柳先生の魅力のひとつだと思います。
高柳先生の人間臭さは、生徒たちと向き合う場面においても窺えます。
基本的に表情を崩さず静かに受け答えをする彼ですが、時折心揺さぶられる熱さを見せてくれます。
せっかくなので、公式の紹介映像をご覧ください。
本作の雰囲気がかなり伝わるのではないでしょうか。記事の最初に貼るべきだったかもしれません 笑
動画冒頭でのクールな印象からうって変わり、最後には生徒に対し真剣な言葉がけをする高柳先生がカッコいい。
内容自体も語りたいことが多いです。
「あんた私より幸せそうだったじゃん なんで死ぬの」
「命の重さに比べたらちっちゃいことじゃないか」
「恋に破れても 家族が死んでも いじめられても 就職に失敗しても 仕事がイヤでも お金がなくても 人生が退屈でも」
「それがどんな理由でも 命に換わる程重い絶望になるんです」
これらのやりとりが僕は胸に響きました……「どんな理由でも命に換わる程重い絶望になる」という観点は、心の問題の重大さを浮き彫りにしています。
どういう顛末を迎えるかは、ぜひマンガでご覧くださいませ 笑
「生きた哲学」の姿
トラブルを抱える生徒たちに、高柳先生は度々先人たちの言葉を伝えています。トラブルの数だけ、示唆を与えてくれる言葉があるものです。
それらは実に重みがあり、生徒たちは感化を受けていくわけですが、物語を飛び越え、読んでいる僕たちもまた考えさせられます。
「私ならその言葉をこう考える」
「気づきもしなかった視点を教えてくれる思想だな」
「自分もそうかもしれない……」
というような感じですね。
物語中で生徒たちが問題にどう向き合っていくかをただ見届けるだけでなく、こうして自分自身の生き方にまで思慮が及ぶというのは、倫理を題材とする本作ならではの醍醐味かと思います。
僕は本記事のタイトルに「心に触れる物語」と記しましたが、厳密に表すならば
「『ここは今から倫理です。』の物語が心に触れる」
「物語を通して、自分の心に触れる」
のダブルミーニングです。書いといてなんですが、違いが伝わりにくいかもしれませんね 笑
哲学はたまに「現実で役に立たない学問」「言葉遊び」と言われてしまうことがありますが、本作品ではまさしく「生きた哲学」の姿を目にすることができるでしょう。
では、最後に作中で引用された先人たちの言葉の一部を列挙しご紹介していきます。
とはいえ一応ネタバレになりますので、読みたい方のみ ↓ を展開してご覧ください。
タップ/クリックして展開
〇「愛こそ貧しい知識から豊かな知識への架け橋である」マックス・シェーラー
〇「誰もが自分の視野の限界を世界の視野の限界だと思っている」ショーペンハウアー
〇「不安は自由のめまいだ」キルケゴール
〇「他者への没頭は それが支援であれ妨害であれ 愛情であれ憎悪であれ つまるところ自分から逃げる為の手段である」ホッファー
〇「信念を持った一人の人間は 自分の利害にしか興味のない99人の人間と同等の社会的力を持つ」ミル
おわりに
『ここは今から倫理です。』をご紹介しました。
高柳先生と倫理を受ける生徒たちとの人間模様、数々の思想や言葉など、見どころの多い作品です。
読んでいるとなんだか倫理の授業を受けている気分になります 笑
また、物語を通じて “よく生きること” について考え、自分の心に触れてみてほしいですね。
迷いや苦しみがわき起こると、たいてい人は気分転換をして和らげようとするでしょう。好きな音楽を聴いたり、美味しいものを食べたり、友達と話したり……。
ただ、何をしようと、どうしようもなくなることもあります。そんな時、最後にすがるのは哲学の言葉・思想しかないかもしれないと僕は最近思っています。
この漫画の読者層を僕はよく分かってないんですが、高校生だけでなく悩める人全てに読んでもらいたいですね。
もし哲学でもイマイチだったら、あとは宗教くらいでしょうか 笑