友達がマンガを4冊読む時間で1冊しか読めないAuraです。人生ウン十年目にして、マンガを読むことの楽しさにようやく気づいた今日この頃。マンガに限らず、サブカルチャーの諸作品に触れていきたいところです。
さて、この程度に留まっているくらいにはサブカルに疎い僕ですが、断片的にタイトルやらセリフやらを見ていて感ずるのは、「古典文法が…半端だ…!」ということです。
「封印されし」ばかりが使われる
これらで圧倒的によく見かけるフレーズが、「封印されし〇〇」です。「封印されし」ばかりが使われているとも言えるでしょうか。
©高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社・テレビ東京・NAS
©Konami Digital Entertainment
断っておきますと、僕はこのフレーズが嫌いというわけではなく、むしろ好意的なのです。「封印されし右目が疼く!」という中二病的な言葉に心躍らせた時もあったものですから。あの頃は若かった…。
しかし高校で古典にハマり文法警察と化した僕は、「封印されし」を見かけてはその都度、「過去の助動詞『き』の連体形だ!」と、声高に叫ぶ厄介者だったのです。
さらには、「『封印されし』って中途半端やろ。『され』って現代語やん!『封印せられし』が正しい!!」とのたまう始末。
極めつけに、「結局作品で使うの『き』ばかりやんか!他はないんか!」というようなよく分からない注文をつけていました。
(「若かりし頃」とか「在りし日の想い出」とか用例が他にないわけでもないんですが…。)
今はここまでの過激派ではないですが、「古典の表現をもっと使った方が作品がととのうのでは」という考えに変わりはありません。
作品の世界観を演出
ここで、ある作品の冒頭を見てみましょう。
©岸本斉史/集英社
昔 妖狐ありけり
その狐九つの尾あり
その尾一度振らば 山崩れ津波立つ
これに困じて 人ども忍の輩を集めけり
僅か一人が忍の者 生死をかけ
これを封印せしめるが その者死にけり
その忍の者 名を四代目火影と申す――
「四代目火影」でお気づきの方も多いと思いますが、岸元斉史さんによるマンガ『NARUTOーナルトー』第1巻の巻頭の語りです。
では、ここで用いられている主な高校古典文法を以下に列挙します。
「小難しいことは読みたくない…」と感じた方は飛ばしてください…笑
〇妖狐/あり/けり
過去の助動詞「けり」の終止形 訳は「~タ」
〇振ら/ば
順接の仮定条件の接続助詞「ば」 訳は「モシ~ナラ」
〇一人/が/忍/の/者
連体修飾格の格助詞「が」 訳は「~ノ」
いずれも古文で頻出の文法です。連体修飾格の「が」などは、知識がなければ現代語訳できないかもしれません。
また、語彙に着目すると、
〇妖狐ありけり
ラ行変格活用動詞「あり」の連用形 … 古文では生物に「いる」ではなく「あり」を用いる
〇津波立つ
現代でも時たま見かけるが、古文では波が起こることに「立つ」の語を用いる
〇これに困じて
サ行変格活用動詞「困ず(こうず)」の連用形。訳は「困る」
〇人ども
複数を表す接尾語「ども」で、訳は「~たち」。現代であれば「野郎ども、行くぞ」などの用例
このように古典の文法・語彙が様々に使われると、作品の世界観がより一層際立つと僕は思っています。平たく言うのであれば、「ふさわしい雰囲気が出てる!」ということですね。
(元文法警察としては「封印せしめる」の「しめる」が気になりますが…。
使役の助動詞「しむ」を代わりに当てはめると「封印せしむる」となります。まぁ「しむ」から転じた「しめる」自体が少々古風な表現ですから、及第点としましょう 笑)
語調が良くなる
また、いにしえの世界観を演出するだけでなく、語調を良くする効果…要は、テンポを良くしたり、カッコよく見せたりする効果までもが古典文法には備わっているのです。例を示します。
©TYPE-MOON/FGO PROJECT
①「束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流。受けるがいい!
『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!」
©TYPE-MOON/FGO PROJECT
②「地(はは)に産まれ、風(ちせい)を呑み、水(いのち)を充たす。火(ぶき)を振るえば、病(あくま)は去れり。
義は己が血を清浄へと導かん。
聖霊(ルーアハ)を抱きし汝の名は
――『原初の人間(アダム)』なり!」
こちらはTYPE-MOONの作品『fate』シリーズに登場するキャラクターが、いわゆる「必殺技」を発動する際のセリフになります。
まずは先に同じく個々に文法を確認していきましょう。
①より
〇輝け/る
存続の助動詞「り」の連体形 訳は「~テイル」
②より
〇振るえ/ば
順接の確定条件の接続助詞「ば」 訳は「~スルト」
〇病/は/去れ/り
完了の助動詞「り」の連体形 訳は「~タ」
〇己/が/血/を/清浄/へ/と/導か/ん
・連体修飾格の格助詞「が」 訳は「~ノ」
・推量の助動詞「ん(む)」の終止形 訳は「~ダロウ」
〇抱き/し/汝
過去の助動詞「き」の連体形 訳は「~タ」
〇『原初の人間』/なり
断定の助動詞「なり」の終止形 訳は「~デアル」
「封印されし」以外の用例が出てきました 笑
①の「輝ける命の奔流」を訳して「輝いている命の奔流」とすると途端に語感が悪くなりますが、上記のような文法があると、セリフがカッチリすることが分かるのではないかと思います。テンポが良く、かつ格調高さをも醸し出しているのです。
②でも同じですね。長い口上になると、この効果がさらに伝わりやすいでしょう。言葉のひとつひとつが、重々しさや威厳を帯びています。
(以前「『輝ける』は『輝くことができる』って意味ですか」と聞かれたことがありますが…笑)
まとめ
ここまでの僕の弁をまとめたく思います。
初めに述べた、「古典の表現をもっと使った方が作品がととのう」とはすなわち、
古典の表現(文法や語彙)を用いることで
〇いにしえの世界観にふさわしい雰囲気を演出できる
〇語調を良くし、かつ格調高さをも醸し出すことができる
「封印されし」だけが取ってつけたように使われていると、個人的にはどうにも浮いているような印象を受けてしまいます。他にも盛り込んでいくと、面白い作品を作ることへとつながるでしょう。とはいっても、入れすぎると逆に分かりにくくなるものですから、作品の内容と要相談です 笑
また、創作者だけでなく作品を味わう僕たちも、これらの表現に目をつけてみると、別の角度から楽しめるかと思います。何より、文法などの勉強や、古典作品自体への興味を抱く契機となればなお良し!ですね!