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〇【記憶のロールバック】八目迷『きのうの春で、君を待つ』感想
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性自認と偏見の目
どうも、トフィーです。
今日は、八目迷先生の『ミモザの告白』について紹介させていただきます。
前作、前々作も心揺さぶる物語でしたが、今作もかなり衝撃的な一冊でした。
1.あらすじ
その告白が、世界を変える。
とある地方都市に暮らす冴えない高校生・紙木咲馬には、完璧な幼馴染がいた。
槻ノ木汐――咲馬の幼馴染である彼は、イケメンよりも美少年という表現がしっくり来るほど魅力的な容姿をしている。そのうえスポーツ万能、かつ成績は常に学年トップクラス。極めつけには人望があり、特に女子からは絶大な人気を誇っている――。幼馴染で誰よりも仲がよかった二人は、しかし高校に進学してからは疎遠な関係に。過去のトラウマと汐に対する劣等感から、咲馬はすっかり性格をこじらせていた。
そんな咲馬にも、好きな人ができる。
クラスの愛されキャラ・星原夏希。彼女と小説の話で意気投合した咲馬は、熱い恋心に浮かれた。
しかしその日の夜、咲馬は公園で信じられないものを目にする。それはセーラー服を着て泣きじゃくる、槻ノ木汐だった。
『夏へのトンネル、さよならの出口』『きのうの春で、君を待つ』で大きな感動を呼んだ<時と四季>シリーズのコンビ、【八目迷×くっか】が挑む新境地。とある田舎町の学校を舞台にした、恋と変革の物語。
2.『ミモザの告白』感想・レビュー
a.評価と情報
評価:★★★★★
ガガガ文庫
2021年7月刊行
このライトノベルがすごい! 2022』文庫部門・第4位
第13回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞&審査員特別賞をW受賞してデビューされた八目迷先生の3作目となる『ミモザの告白』。
今作は、『夏へのトンネル、さよならの出口』(映画化決定!)、『きのうの春で、君を待つ』や、今後発売されるであろう『秋』や『冬』などの季節を含むタイトルの『四季シリーズ』とは別の位置づけの物語となります。
四季シリーズの感想についても、すでにブログにまとめていますのでよければこちらもご覧ください。
www.kakidashitaratomaranai.info
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また、『四季シリーズ』とは異なり2巻以降を見越しての構成になっています。
1巻だけでも十分楽しめる作品でしたが、衝撃的な終わり方をしていて続きが気になっていることもあり、2巻も購入してみようかと思っています。
また『ミモザの告白』ですが、『このライトノベルがすごい! 2022』文庫部門・第4位 にランクインしました!(拍手喝采)
自分もWEB票ではありますが、1票投じさせていただいたりしているくらいには好きな作品なので、本当に嬉しいです。
題材的にトップ10入りは完全に予想外ではありましたが、これを機に「もっと広まってくれ~!」という感じですね。
※ちなみに他にどの作品に投票したのかなどは、こちらの記事で発表しています。
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b.作品内容・キャラクター
前作、前々作の感想記事でも書きましたが、何気ない情景描写や心情描写が美しくて心地よい作品でした。
文字で物語に触れることへの面白さを感じさせてくれる、非常にいい読書体験ができる1冊だったと思います。
『四季シリーズ』もそうでしたが、この物語では特に10代の「生きづらさ」がリアルに描かれています。
この物語は、主人公の咲馬、幼馴染の美少年ウシオ、クラスの愛されキャラ夏希の三人を中心に進んでいきます。
ちなみに表紙の人物がウシオです。
この物語は、彼(彼女)が自身の性別に疑問を抱え、女性として生きることを告白することによって動き出します。
ウシオの決断をきっかけに、主人公の通う高校での人間関係が複雑化していくのです。
たとえば、主人公の咲馬は、物語の序盤でクラスの人気者である星原に片思いをしてしまいます。
ただ、星原は星原でウシオに好意を寄せていて、けれどもそのウシオが女性として生きていくことを告白して……。
また主人公も主人公で、過去に初恋の相手に告白した際に、その子が実はウシオに好意を寄せていたという理由で断られてから、幼馴染でありあがら苦手意識を抱えていました。
その過去がまるで繰り替えされるように、星原がウシオに好意を抱いていることを知ってしまう……。
地獄かな?
また、この物語の魅力は色恋だけに留まりません。
異なる角度からの疑問や主張が、主人公たちの価値観を揺さぶっていき、考え方が変わっていくところにとてつもない魅力があるのです。
偏見の目を向けるクラスメイト。
動揺しつつも、幼馴染として寄り添おうとする主人公。
でも彼もまた別種の偏見に囚われていることに気づいて、さらに悩み抜く。
そんな感じで複雑かつ気安く触れにくい題材であるにもかかわらず、エンタメとして成立しているのがシンプルにすごかったです。
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※ここから先は結末までのネタバレを含む感想となります。
未読の方はご注意ください。
3.『ミモザの告白』ネタバレありの感想
色々と考えさせられる物語ではありましたが、一方で何気ない台詞にクスリともさせられました。
たとえば、星原のP196「明日から勉強頑張ろう!」という台詞。
ウシオのことは「今日から」なのに、勉強は「明日から」というところに彼女の性格が現れているような感じがして、なんだか苦笑してしまいした。
細かな言動に性格が現れていて、いいなぁ……。
さて、人間関係については、先ほどにも触れましたが、物語の後半ではウシオが主人公に好意を寄せていることが発覚しました。
もうね、矢印が(いい意味で)ぐちゃぐちゃでしたね。
こんな一方通行な三角関係って、そうそう見られるものではありません。
あと上での感想での「考え方の変化」について、もう少しだけ掘り下げてみます。
この作品では、前半でクラスメイトたちの偏見が描かれており、主人公はそれに反発して立ち向かいました。
けれども咲馬自身、自分でも気づかないうちにまた別種の偏見と憶測に支配されていて、理解できないものを気持ち悪いと思ってしまっていることが発覚。
そのことを認めつつも、前に進もうとする。
けれども、まだまだ答えは出し切れていないまま、物語は2巻へと続いていくのです。
これほどまでにキャラクターの内面を掘り下げ、心情と思考に焦点を当てているライトノベルは珍しいと思います。
こういう作品が出てくるから、ガガガ文庫は好きなんですよ。
ライトノベルではありませんが、『15歳のテロリスト』『流浪の月』とか、ぼくはどうやらこの手の物語に惹かれてしまうみたいです。
これらも偏見や憶測に苦しめられつつも立ち向かう人物たちの話ですので、よければご覧ください。
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またウシオの妹については、ちょっと気にかかる部分もありますが、これは2巻以降を読んでからですかね……。