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【魔王×サイバーパンク】紫大悟『魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿』

 

変わり切った世界/変わらない臣下

 

どうも、トフィーです。
今回は、紫大悟先生のライトノベル『魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿』を紹介させていただきます。

 

本作はファンタジア大賞《大賞》受賞作。
魔王×サイバーパンク(SFの一種)という、ありそうでなかなか目にしない組み合わせの物語でした。
SFといっても、コメディ要素も強いうえに、熱いバトル展開も用意されている物語なので、敷居は高くないと思います。

 

 

 

1.あらすじ

第33回ファンタジア大賞――異次元の《大賞》受賞作!

統合暦2099年――新宿市。究極の発展を遂げた未来都市に、伝説の魔王・ベルトールは再臨した。巨大都市国家の輝かしい繁栄と……その裏に隠された凄惨な“闇”。新たな世界を支配すべく、魔王は未来を躍動する!

引用:魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿 (富士見ファンタジア文庫)

 

2.『魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿』感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★★★
ファンタジア文庫
2021年1月刊行 

 

作者は紫大悟(むらさき だいご)先生、イラストはクレタ先生。
紫大悟先生は、今作によって第33回ファンタジア大賞《大賞》を受賞しデビューされた先生です。

 

ちなみに前年の第32回の大賞は、『スパイ教室』です。
こちらも1巻の感想をまとめていますので、よければご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

また『魔王2099』ですが、現在2巻まで刊行されています。(21年12月現在)

 

ちなみに冒頭で使用したサイバーパンクはSFの一種で、「人と機械の融合」や「脳とコンピューターの融合」によって、高度に情報化が進んだ社会のなかで展開されていく物語……といえばいいでしょうか。

 

このジャンルの作品では『ニューロマンサー』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』などが有名です。
ライトノベルの有名どころであれば、『アクセルワールド』などもサイバーパンクといえるでしょうか。

 

b.作品内容・キャラクター紹介

ここからは物語序盤の内容に触れながら、『魔王2099』の内容を紹介していきます。
多少のネタバレを含みますので、ご注意ください。

 

この物語は、500年の眠りから覚めた主人公である魔王・ベルトールの目覚めによって動き出します。
彼の視点で、電子荒廃都市となった新宿市の様子を見ていくことになります。

 

新宿市では、魔王への恐れはすでに過去のもの。
ベルトールの存在は人々の記憶から忘れ去られてしまい、信仰を力の源としていた彼は、従来の力を発揮することができなくなっていました

 

そればかりか彼の不在の間に進んだ技術が、魔法を用いた戦いを大きく変えてしまっていたのです。
しかも、かつての部下の裏切りにより、魔王だけがその技術の恩恵を受けられないように仕組まれていたのです。

 

かつての幹部に裏切られ、力の差を突きつけられ、魔王は心身ともにズタボロに追い込まれてしまいます。
衣食住もままならない状態のベルトールは、同じくかつての部下のマキナとともに暮らすことになります。
マキナにばかり負担をかけるわけにはいかないと、働き口を探すもうまくいかず……。

 

そうして就職活動でプライドをズタズタにされた魔王は、マキナの知人であり初日に出会ったハッカーの少女・高橋に相談を持ち掛けることで天職を見つけるのでした。

 

その職業とは――――ライブストリーマー。
まさかのゲーム配信者です。

 

と、このような感じで、コメディ的な要素もある物語です。


コメディ部分もシリアスパートもクオリティが高く、個人的に大満足な一冊でした。
また設定にも無駄がなく、伏線大好き人間としてはその点でも高評価。
(これについては、ネタバレありの感想の方で、少しだけ触れます)

 

あまりライトノベルの2巻以降を手に取ることのない私ではありますが、時間を見つけて続巻も手に取ってみようと思います。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

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※ここから先は結末までのネタバレを含む感想となります。 
未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.ネタバレありの感想

1巻を読み進めていくなかで、伏線の貼り方や、設定の出し方・演出がうまいなぁと思いました。

 

序盤でのフードを目深にかぶった男も、広告のハッキングも、信仰心が力となるといった要素も、詠唱の簡略化についても、マンションでの「余も金が貯まったら、マキナと共にこういう部屋に引っ越したいものだな……」(ちょっとかわいいですよね、この台詞)という台詞もすべて後々に効いてくるわけです。

 

個人的には、この手の伏線や設定の回収が魅力的な作品は好物なので、そういった点で『魔王2099』には非常に楽しませていただきました。

 

また、ベルトールの心境の変化にもグッときました。
目覚めたばかりのベルトールは、変わり切った世界のなかで、打ちのめされてしまいます。
ただ、それでも変わらずにいてくれた臣下のマキナに支えられながら、現在を知り受け入れていき馴染んでいきました。
そうしてマルキュスとの戦いを経て、勇者の語る「命の輝き」を知り、マキナに対して愛情を抱くようになりました。

 

そういった内面の変化が「この都市も存外悪くない」といったエピローグ中の台詞に強くにじみ出ていたわけですが、これはベルトールだけでなく一読者の自分とも重なる台詞でもあったために、特に印象に残りました。