はじめに
これは冬の寒い中ぽつぽつと歩いていた時に、イヤホンからチャットモンチーが流れてきて瞬発的に思ったことだ。
チャットモンチーを布団にして寝たい…
痛みも決意も苦しみも悲しみも胸の高鳴りも苛立ちも喜びも、全てを受け止めてくれるチャットモンチーの『YOU MORE』を布団にして寝たい。そう思った。
どういうアルバムなのか
「楽しく、明るく」をテーマに、シングルカットなしのセルフプロデュースで作られたアルバムだ。
シングルカットがないということは、全ての曲がこのアルバムのために作られたということで、
セルフプロデュースということは、誰の評価も気にせず、自分たちが作りたいものを満足いくまで渾身の力を込めて作ったということだ。
そしてこのアルバムを最後に、Dr高橋久美子は脱退する。
その決意は4.『草原に立つ二本の木のように』(詞:高橋久美子)で
まだ何も舗装されてないあぜ道を一人で行きたい
と歌われる。
まさしくチャットモンチーが全身全霊をささげて作ったアルバムだと言っていい。
なんで布団にしたいか
このアルバムは俺の心を暖めてくれるわけでもなければ、癒し系の音楽でもヒーリング系の音楽でもない。
疲れてもうダメって時にすがりたくなるアルバムなのだ。
なので、冬の朝の気持ちいい布団というよりかは、出張で疲れて帰って来た時の布団なのだ。
「無理、しんどい!!俺の体力回復はお前に任せた!!!!!」
って感じなのだ。
人間寝るだけじゃだめだ。
自分の布団で寝なきゃ疲れが回復しない。
我ながらものすごく感覚的な発想で、理論的に突き詰めると矛盾だらけなので説明も難しい。
元気出せ!!って感じの栄養ドリンク的な曲は数あれど、布団みたいだなぁと思ったアルバムはない。
とにかく、聴いてみればいいと思う。
全曲感想
『YOU MORE』 はシングルカットなしの全曲初収録曲で構成されています。
1 バースデーケーキの上を歩いて帰った
始まりの曲が帰り道の曲っていうのは面白いし、意味ありげですね。
長い曲名、印象的なイントロから、おっ?おっ?どんな曲だ?と思わせてくれる。それと同時にどんなアルバムだ?とも思う。
相変わらず高橋久美子さん(Dr)の歌詞はエグい。
どんな比喩かって言うと、帰りの暗い夜道の街灯をバースデーケーキのろうそくに例えているんですね。歌詞にある「環七通り」はその名の如く「環(わっか)」のようになっています。なので環七通りに沿って立っている街灯はさしずめバースデーケーキのろうそくだというわけです。
あとどれくらい繰り返すだろう 希望と絶望を
人生を表しているようであり、暗闇と街灯を繰り返す道を表しているのですごいなあと思った歌詞です。この曲はまあ歌詞がすげえわ。
さえない私 主人公の道 スポットライトさす
ってところも、主人公って言葉使ってんのになんか哀愁あるところがたまらん。街灯をスポットライトにたとえてるのも、何重にたとえんねんって感じで面白い。
2 レディナビゲーション
疾走感半端ない。無敵感半端ない。気持ちは無敵なんだけど、まだまだ成長段階な主人公がかっこいい。この曲の主人公は清々しいまでに自己中心的なんだけど、しっかりと自分を持っているので羨ましくなる。僕はレディではありませんが、たまにこの曲にナビゲーションしてもらってます。
3 謹賀新年
俺は2019年この曲を聴いて年を迎えました。
願い事一つ叶うのなら
あなたを愛していますように
怪我しても病気になっても
あなたを愛していますように
という歌詞がわりと衝撃的。自分の愛情を神頼みかよって。
でも、きっとこの主人公は人間は変わるものだということを受け入れているのでしょう。永遠の愛なんて信じられないのでしょう。そして、神様という不確かなものにすらすがってしまうくらい「あなた」のことが好きなのでしょうね。
鬼素敵警報発令。
4 草原に立つ二本の木のように
僕がチャットモンチーで一番聴いた曲です。自分がへし折れそうなとき、新しい気持ちの時、特に用がなく暇な時、たくさん聴いた曲。高橋久美子さんが脱退を決意している曲と言われています。
おい そこの自分
顔をあげて もっと強くしなやかに
おいそこの自分
という出だしがとても好き。
でも一番好きなフレーズは
昨日によろしく言っといて
ですかね。このフレーズはチャットモンチー史上でも最高の部類だと思っています。ものすごく悲しいことや苦しいことがあっても、このセリフをサラっと言えたら最高にかっこいいでしょうね。
なんかもう好きすぎて感想出てきません。とにかく、この曲が全人類に届けばいいなと思っています。もしくは、俺しか知らなければいいのにとも思ってます。
5 涙の行方
この歌詞俺が考えたことになんねえかなあ…。
甘い味にしてほしかった そしたら辛くて泣いても
少し幸せだったのに
って表現が面白くて好き。
メロディーが耳に残るので、このアルバムで一番最初に好きになった曲だった気がする。これも歌い方が好き。おっきい口あけて歌ってそう。かわいい。
6 Boyfriend
橋本絵莉子(Vo)の声が本当に好きなんだけれども、やっぱり何がいいって歌い方よ。はっきり言って可愛すぎる。この曲を聞いた時、「は?こんなんもできるん?なに?最強なの?」って感じだった。
こんな曲橋本絵莉子に歌わせたらダメ。最終兵器過ぎる。強すぎ。全部破滅。ネットに甘々声で歌ってみたの動画をあげてる人間を皆下位互換にしてしまう強さを持っている。
7 桜前線
ちょっと怒ってる感じの出だし
どうでもいい どうでもいい どうでもいいこと多すぎて
くだらない くだらない くだらないこと多すぎて
この世界はお花見のゴミ箱と同じ
からの
さあ急ごう 卵サンドにジンジャーエール持って
よく分からない友情は今最も色鮮やかに咲き乱れ
っていうサビ。
世の中ウザいけどそんなこと忘れて友達とはしゃいでやろうぜってことかな。
「よく分からない友情」って言ってしまうところが飾ってなくていいなあと思う。
シングルカットのないこのアルバムのエース曲な気がする。
8 Last Kiss
鬱めで橋本絵莉子さんっぽい歌詞だと思ったら福岡晃子さんでびっくりした。
9 少年のジャンプ
週刊少年ジャンプと何か関係がある曲なのかと思ったけど違った。
少年がステージに立つスターを観て憧れ、そして今自分がステージに立つ、そういう曲。
初めて胸は躍ると知った
こんな言葉思いついてみたい。
後に「音楽に向かうパワーがなくなった」と脱退を発表する高橋久美子の歌詞だが、内容はステージに憧れる少年。音楽が嫌になったわけではなく、別の道を歩みたいと思っての脱退だったことが分かる。
音楽を好きな気持ちや、初めてステージを見た時の衝撃は忘れていないという。
10 拳銃
おい、楽しくて明るいアルバムはどこ行った。
明かりと書いて暗闇と読み
表と書いて裏と読む
足りるといっても満たされない
大丈夫 でも 無理
大丈夫か、おい。
11 余韻
曲名通り曲終わりの余韻が強く淡く残る曲。でも、イントロと歌詞の入りもすごく素敵で身を委ねたくなる感じ。序盤ふわふわした歌い方から、激しくなる演奏とともにだんだんと力がこもってきて、ちょっと悲壮感とか自暴自棄感とか悔しさとか決意とか後ろ向きな肯定感とか、そういったものがごちゃ混ぜになったような歌い方になっていく。最後の「ジャーン」ってやつが少しずつ小さくなっていくあの音の感じがまさに「余韻」。
おわりに
布団の中でこのアルバム聴くことで、それはそれはもうえらいことになります。
以上