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アーサー王伝説の事典を比較|『図説アーサー王伝説事典』と『アーサー王神話大事典』

 

このところアーサー王伝説関連の本を買い漁っているAuraです。しかし、やっぱり価格の高いものが多いんですよね…。なので買う時は厳選したいのですが、一見似たような内容の本だと、どれを選ぶのがいいんだろうと迷ってしまいます。

 

僕が以前迷ったのは「事典」でした。
アーサー王伝説についての知識を整理し、そして深めるためにも事典を買おうと思い立ったんです。

 

そこでググった時にヒットしたのがこの二冊…!! 

①ローナン・コグラン著 山本史郎訳『図説アーサー王伝説事典』原書房

 

②フィリップ・ヴァルテール著 渡邉浩司訳 渡邉裕美子訳『アーサー王神話大事典』原書房 

(伝説・神話を扱う事典は他にもありますが、アーサー王伝説が中心となっている事典はこの二冊です)

 

 

ページ数や項目数などの簡単な比較

まず、先んじて両者の基本的な情報を比べましょう。

『図説アーサー王伝説事典』
(以下、『伝説事典』と表記します)

 

・A5変形サイズ/320ページ

・値段:3800円+税

・項目数:約1300

・出版年:1996年

 

 

『アーサー王神話大事典』
(以下、『神話大事典』と表記します)

 

・A5サイズ/498ページ

・値段:9500円+税

・項目数:約600

・出版年:2018年

 

上記の情報は原書房さんの書籍ページより引用したものですが、『伝説事典』の項目数だけは今回自分で数えました…大変だった……。

 

では、このふたつを見比べますと、『神話大事典』は『伝説事典』の2倍以上の値段で、ページ数は200ほど増加しています。

しかし項目数であれば『伝説事典』の方が2倍多いという結果に。

 

※項目数に関して、単純な比較はできません。例えば、

メドラウト  MEDRAWT 「モルドレッド」参照。

(『図説アーサー王伝説事典』より)

というように、別称から一般的な呼び方へと飛ばすためだけの項目もあります。ちゃんと数えてはいないのですが、こういった項目が100近くあったかと思います。

 

「あれ、じゃあ『伝説事典』と『神話大事典』のどっちがいいんだ…」と判断に困る方が出てくるかもしれません。

 

結論から述べますと、両方あると良いでしょう 笑
なぜなら、この二冊は事典としてのコンセプトが大きく異なるからです。

 

でもこれではなんの参考にもならないので、以下に細かい違いを書いていく…のですが、ぶっちゃけ『神話大事典』の紹介がメインです 笑

 

①『図説アーサー王伝説事典』


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)

 

『伝説事典』、実はいい意味であまり書くことがありません 笑

と言いますのも、『伝説事典』はアーサー王伝説の事典としてオーソドックスな作りになっているからです。

 

こちらでは、人名(主要人物から脇役まで)や地名などを手広く扱っています。
そして物語の顛末(「誰が何をしてどうなったか…」)が載っているため、「この人は誰だっけ」「どんな活躍をしたんだっけ」という確認をするのに向いています。

 

まぁ、ほんとに目立たないモブみたいな脇役の場合だと「〇〇の父。」みたいにひとことで説明が終わっていることもありますが… 笑

 

また、アーサー王物語の原典にはいろんなパターンがありますけれども、それぞれで人物像・言動などにどのような違いがあるかもまとめられていて、情報の整理にも適しているでしょう。3800円+税という価格も、入門として手を出しやすいと思います。

 

②『アーサー王神話大事典』


( ↑ 画像はAmazonへのリンクです)

 

続いては、この記事のメインである『神話大事典』です。まず表紙デザインはこちらの方がかっこいいですね 笑

 

《神話的特徴》を重視した事典

書籍内に記されているコンセプトがこちらです。

本書では、アーサー王文学の登場人物を逐一とりあげて項目を作成したりはしなかった。(中略)収録項目の見出し語(特に登場人物)は、どちらかといえば《神話的な特徴》をはっきりとそなえていることを基準に選定した。

 

アーサー王伝説に出てくる人名や概念の中でも、(ケルト神話等の)神話に起源を持つもの、関連を持つものを重点的に収録しています。

 

こういった起源・関連と、アーサー王伝説における立ち位置についての解説に紙幅を使っているために、『伝説事典』の約半分の項目数でもページ数が多いわけです。

 

なので、目立った活躍がないような脇役とかだと項目自体がありません。

こう書くと、人名をたくさん載せている『伝説事典』が良くないもののように見えるかもしれませんが、要は目的に応じた使い分けが大事ということです 笑

 

では、《神話的特徴》などが実際どのように書かれているのか、円卓の騎士トリスタンを例に見てみましょう。枠で囲ったところが引用になります。

 

「トリスタン」の名といえば、フランス語の「トリステス tristesse:悲しみ」という語に由来すると一般に解釈されていますが、『神話大事典』では別の説が…!

コーンウォール語(ブリテン島のコーンウォールのケルト語)「トリ」(tri、《3》)と「ステレンヌ」(sterenn、《星》)の組み合わせである。これは狩人オリオンの星座を構成する3つ星にあたるが、確かにトリスタンは有名な狩人である。ベルール作『トリスタン物語』では、占星術に通暁した小人フロサンがトリスタンとオリオンをはっきりと結びつけている。

 

上記の引用は解説の一部分に過ぎず、トリスタンの他の要素(ドラゴン殺し、楽師)についても踏み込んだ考察がなされています。

 

このように《神話的特徴》に重きをおいて書かれているということの仔細がイメージできたかと思います。そして、その《神話的特徴》が物語中でどんな意味を持つかが述べられているのです。

(『伝説事典』に載っていたような物語の顛末は簡単にまとめてあることが多いです。まぁ『神話大事典』を読むような人であれば、大体知っているでしょう!)

 

『神話大事典』のようなアプローチをする事典や解説書はあまり見かけないので、読んでいて面白い…!時間があっという間に溶ける…!!笑

 

項目の末尾にある「関連」も便利で、他の項目もついつい引いてしまい、またしても時間を奪われます。

先ほどの「トリスタン」であれば、説明の最後に

⇒ガルルース、毛むくじゃらのユルガン、傲慢男エストゥー、タンタリス、ピクース、(後略)

(※「タンタリス」は「タントリス」の誤植だと思われる。ここでは元の表記のまま引用)

 

というように主だった関連項目を掲載しているので、延々と読んでいられます…笑
アーサー王伝説に出てくる用語は数が多いので、紐づけられてあるのはありがたいです。

 

「アーサー王物語総覧」が便利

『神話大事典』のさらなる特筆すべき点は、「アーサー王物語総覧」が載っていることです。

アーサー王物語は世界各地で作られていますが、総覧ではケルト文化圏、中世ラテン語圏、フランス語圏などの括りで、地域ごとに作品がまとめられています。

 

そして僕が特に便利だと感じたのは、それらの作品の邦訳がある場合、書誌情報も付記されていること…!(2018年時点での邦訳)

 

これが本当に助かるんですよ…!アーサー王伝説の原典そのものを読もうとすると、「数が多くて何が何やら?」ってなるんですが、総覧を見ればどの本になんの作品が載っているのかが分かります。

 

目的とする本の情報を手早く確認できるだけでなく、単純に「アーサー王伝説 本」とか「ランスロット 本」とかで検索しても引っかからないような書籍の情報も見つかって『神話大事典』さまさまです 笑

 

アーサー王伝説の解説書の中にも邦訳についてリストアップしているものはありますが、『神話大事典』の総覧は一番使いやすく、かつ網羅的にまとめてあると思います。

 

余談ですが、総覧を見てて「アーサー王物語って全然邦訳されてないんやな…」と愕然。うーむ、日本でもっと人気が高まる日の訪れんことを…。僕は特に長編『ランスロ本伝』が読みたいッッ!!

 

フランス語読みで引くのに苦戦するかも

『神話大事典』の内容自体は初心者でも上級者でも楽しめると思うんですが、初心者向きでない点がひとつだけ……。
それは、人名などをフランス語の読み方で引かなければならないこと。

 

著者の方がフランス人なので、翻訳もフランス語準拠です。ガウェインなら「ゴーヴァン」、マーリンなら「メルラン」というように、英語読みから結構変わるものもあるんですね。

 

もちろん、フランス語読みが分かるような配慮も一部あります。事典で「ガウェイン」と引けば、

ガウェイン → ゴーヴァン

という項目が書いてあってちゃんと飛ばしてくれます。

 

他の人名でも同じように

ガレス→ゲールエ

ガヘリス→ガエリエ

とあったりします。

ただ仕方ないことですが、全部の人名にこういうサポートがついてるわけではないんです、、、笑

 

僕の経験した一例を書いておきます。

①円卓の騎士パーシヴァルの妹、ディンドランについて調べよう!

 

②「ディンドラン」で引くも載っていない。フランス語読みへ飛ばす項目も書いてない。

 

③兄のペルスヴァル(パーシヴァル)の説明や関連にも出ていない。

 

④巻末の「項目一覧」の中のタ行を見て、ディンドランっぽいのを探す。

 

「ダンドラーネ」がそれっぽいなと感じ引いてみる→正解

まぁ、ディンドランはマイナーなので仕方ないですね…笑

 

ただ、例えばガラハッドのような有名な騎士でも、飛ばしてくれる項目がなかったりするので、フランス語読みが分からない場合には項目一覧を見て探すなどしなければなりません。

(ちなみにガラハッドのフランス語読みは「ガラアド」です)

 

とはいえ、原典をよく読んでおられる方であれば、この苦労はないと思います。
一方僕はアーサリアンとしてまだまだ修行中の身で、フランス語読みを熟知しているわけではないため、こういう風に探すのがちょっと大変だったことも…笑

 

 

おわりに

ふたつの事典のポイントをまとめておきます!

〇『図説アーサー王伝説事典』

 

・320ページ

・値段:3800円+税

・項目数:約1300

 

アーサー王伝説の事典としてオーソドックスな作り

・物語の顛末の確認に適している


( ↑ Amazonへのリンクです)

 

〇『アーサー王神話大事典』

 

・498ページ

・値段:9500円+税

・項目数:約600

 

・《神話的特徴》を重視した事典

・「関連」が知識の幅を広げてくれる

・「アーサー王物語総覧」がとても便利

 

・フランス語読みで引くのに初めは戸惑うかも


( ↑ Amazonへのリンクです)

 

両方手元に置くのが理想……ではありますが、 どちらかだけを選ぶ際に、この記事の情報をご参照くださいましたら幸いです。

 

ちなみに、記事冒頭でどちらにするか迷っていた僕は、結局両方買いました 笑

図書館で読み比べている内に絞るに絞れなくなり、「あー!もう両方買っちゃえ!!」と半ばヤケ(?)になって約15000円を飛ばしました。後悔は…していません!!

 

 

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