どうも、トフィーです。
言葉の意味を確認したり、ちょっとした調べ物をしたいと思った時、まず皆さんはどのような手段を用いますか?
多くの方はまず最初に、今まさに使用されているスマホやパソコンを使うかと思います。
今の時代、調べ物をする際には、インターネットでの検索や電子辞書の使用など、紙ではないメディアが主流になってきています。ネットの方が便利だから、紙はかさばるから、色々な理由が挙げられるでしょう。
けれども、紙の辞典には紙の良さがある。本記事では、「インターネットの国語辞典と紙の国語辞典について」のそれぞれの特徴を比較し、それぞれのメリットとデメリットについて見ていこうかと思います。
紙の辞書は売れなくなってきている
近年、紙媒体の辞書の売上が低下してきています。『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明氏によると、『広辞苑』は1991年で第4版が発売1年で120万部売れましたが、2008年の第6版は30数万部まで減少。
また、『大辞林』は1988年の初版1年で約80万部売れていた一方で、2006年の3版は目標数の10万部にも達しなかったそうです。
理由としては、やはり電子辞書やインターネットの普及が挙げられます。かさばらず、手書き検索も出来る、画像や音情報も含めて手軽に調べることが可能。こんな超便利ツールが用いられる傾向になるのは当然でしょう。
『辞書の仕事』の著者・増井元氏によると、「電子辞書が本の形で作った辞書をそのまま電子化している間は」編者・執筆者が不要になることはないけれども、「はじめから電子辞書を作るためにデータを収集し、用途や規模にあわせて編集方針を立て、原稿を整えて、電子辞書の諸機能を生かし切る情報とフォーマットとの研究が進めば、その過程で辞書編纂術(レキシコグラフィー)も電子辞書特有のものへと変わることになる」そうです。
これは電子辞書だけでなく、インターネットの辞書も同様でしょう。このような状況にある紙の辞書について、その優位性をこの記事で考えていきたいと思います。
インターネットの辞書と紙の辞書の違いを比較する
と、その前にもう少しインターネットの辞書について見ていきましょう。
ネットの辞書の種類とメリット:「大辞林」「大辞泉」etc.
ネットで使うことのできる国語辞典としては、有名どころだと「大辞林」「大辞泉」。また、Googleの検索画面では「岩波国語辞典」が表示されます。それ以外にも、膨大な項目を収録するWikipediaをはじめとして、言葉を調べる手段は多くあり、また類語や画像なども検索可能です。
飯間浩明『NHKカルチャーラジオ 文学の世界 国語辞典のゆくえ(NHKシリーズ)』によると2017年6月時点では、「大辞林」には約24万語、「大辞泉」には約29万語弱(有料版では更に多い)が収録されており、これは大型辞典だといえます。こんな膨大な量の言葉を収めるとなると、やはり紙の辞典では難しいでしょう。
また、同著によると「岩波国語辞典」には約6万語が収録されており、小型辞典クラスの量の語が検索可能。大辞林ほどではないものの、語数が多いために求める語が見つかりやすいです。
「膨大な語数」といえば、全13巻プラス1巻もの冊数の大型辞典『日本国語大辞典』があります。サンキュータツオ氏によると、改訂は大学院生を含めた何千人もの研究者らが何十年もかけて行うために、語源から現在までの変遷をも記載した辞書の最高権威だといえるようです。JapanKnowledgeでは、2版では50万もの項目を収録しているとの記述があり、有料ではあるもののネット上でも見ることが出来ます。
しかし、上記の「大辞林」などのように無料ではないという点、紙媒体の場合は調べることに手間がかかる点、また紙媒体の場合は個人での購入も所有も難しい点から、優位性という意味では微妙なところです。
ネット版の辞書の優位性はまだあります。それは紙の辞書と違い、自由に増補が出来るという点です。同著によると、その多くは新語(新造語、転用語、新出語のうちやはり転用語が多い)であり、「大辞泉」の場合、収録語数は2009年では約22万語でしたが、2016年では約28万語と7年間で6万語も語数を増やしています。
「大辞泉」で新たに追加された語について、同書ではこのような例も挙げられていました。
スマホ断ち 一定期間、スマートホン(スマホ)の使用を控えること。
ツイッター疲れ ツイッター上での他人とのコミュニケーションによる気疲れ。
VR酔い バーチャルリアリティー(仮想現実)の映像によって生じる、乗り物酔いに似た状態。映像酔いの一種。〔下略〕
スマホやTwitterなどについては、私がまだ中学生の頃に流行り出し、「VR酔い」に関してはさらに近年見られるようになった言葉です。これらのような、細かく、新しい用語を載せられるのは、ネットの辞書だからこそでしょう。
ネットのデメリット:紙の辞書の特徴
このような優位性がある一方で、もちろん紙の辞書と比べて劣る点もいくつかあります。
その1つは信頼性。増井氏はインターネットの辞書について「ネットという場は編者・執筆者と利用者の境界が非常にあいまいになるところでもある」と指摘し、「そこで形成される知識の集積が「辞書」と呼べるものかどうか、私にはにわかに判断できません」と述べています。
Wikipediaなどは誰でも容易に編集できますが、その分間違った情報が載せられてしまうことがあります。紙の辞書に一切の間違いがないとは言えませんが、誤情報を掴んでしまうリスクはネットの方があるでしょう。
またインターネットの辞書について、飯間氏もまた全面的に認めているわけではないようです。飯間氏は、辞典の価値について考えるとき、①「説明の仕方」②「独自の発見」③「ことばに対する見方」の3つの要素について考える必要があるとし、これらの要素はインターネットの辞書では十分ではないと指摘しています。
たとえば、①の「説明の仕方」について、飯間氏は『広辞苑』(第6版)、『明鏡国語辞典』(第2版)、『新明解国語辞典』(第7版)、『三省堂国語辞典』(第7版)中の「勝つ」の例を取り上げ、それぞれの特徴について述べています。
飯間氏によると、『広辞苑』は、古典と現代両方の例を載せており、古典を重視し、『明鏡国語辞典』では「~に勝つ」「~で勝つ」「~が勝つ」と様々な助詞との接続パターンをあげ、助詞・文法に力を入れているそうです。
また、『新明解国語辞典』は「負ける」を使わずに説明し、長くなることも厭わずに語のニュアンスを表現することに努めており、飯間氏も編集委員として加わる『三省堂国語辞典』は子どもが話しているように率直に、「要するにどういうことか」が分かるように簡単に説明することを目指しています。
それぞれの辞書にはこのような特徴がありますが、飯間氏曰くネットの辞書はオーソドックスで特徴を問われても答えにくい。裏を返せば、オーソドックスであることが特徴だともいえます。
紙の辞書には個性がある
上述した②の「独自の発見」について、飯間氏のあげる例を2つ記載します。
『岩波国語辞典』(第7版)では、「追い抜かす」を「主にスポーツで、「追いぬく」の意。追い越す。「早くあいつを―・して関取になりたい」▽二十世紀末から急増した言い方。」と説明していて、〈主にスポーツで〉〈二十世紀末から〉は辞書の作成者の観察の賜物だと飯間氏は述べています。
『三省堂国語辞典』(第7版)は、「なるべく」について「①ぎりぎりまで がんばって。「―早く仕上げよう」②無理のない範囲で。「―〔=行けたら〕行きます」③希望を言えば。「―(なら)このままですませたい」」と解説しています。『三省堂国語辞典』は、①②のように、一生懸命な意味での使用とやる気のない意味での使用の二面性を指摘しており、これは他の辞書より恐らく早かったと飯間氏は述べています。
③の「ことばに対する見方」については、「辞書の特徴を根本的に決定する要素」と言及しています。「歴史的なことばを重視するか、現代語を重視するか」、「ことばに正しい・間違いという区別はあるか、それとも一概に決められないか」、「文法をどう捉えるか」などです。
例として、多くの辞書が連体詞に分類する「大きな」を『新選国語辞典』では形容動詞に分類していることなどがあげられています。
飯間氏は、これからの国語辞典は間違いなく電子版が主流になると述べています。そして、電子版で利用できる辞書が多くなり、どれも同じだと思う利用者から淘汰されないためにも、よりはっきりとした個性を強めていくことが必要であるとも。
そして飯間氏が関わる『三省堂国語辞典』はこれからも、より「短い行で要点を押さえて」「どういう意味か」を説明していくことを目指しています。
あえて紙の辞書を使う理由について
以上のことをふまえて考えられる紙媒体の辞書の優位性とは、限られたページ数で説明するために、様々な種類の辞書が一つ一つの言葉についてそれぞれ吟味し、それを独自の方法で説明している点にあるでしょう。それぞれ違うアプローチでの説明を試行錯誤しているため、きっと自分に適した辞書も見つけられます。
また洗練された説明が載せられているため情報の信憑性も高いことも、紙の辞書を選ぶ理由になります。
また増井氏は、「紙の辞書の方が項目全体の見通し」が効き、「いま探しているのではない項目に目が行く」という点も紙の辞書ならではだと述べています。興味の範囲外にある語彙を増やしやすいのです。
さらに挙げるとするならば、サンキュータツオ氏も「項目の大きさ」で「編者がどこに力を入れているのか」知ることができる点を紙の辞書の利点とし、さらに「手を使う」ことで記憶に残りやすく「知識を定着させる」ことに関しては優れていると述べています。
こうして色々と比べてきましたが、結局のところ紙の辞書と電子辞書やネットの辞書を併用していくのが、今も、そして将来もベストであり続けるかと思います。
おすすめの辞典・事典
個人的にはわかりやすい『三省堂国語辞典』、接続のしかたを紹介してくれる『明鏡国語辞典』がおすすめです。
まだまだ紹介できていないものもたくさんあるので、これからも記事にしていけたらと考えています。
もちろんここで取り上げたものに限らず、よりあなたと相性のいい辞書もあることでしょう。 ぜひとも色々な辞書に触れてみてください。
参考文献一覧
・飯間浩明『NHKカルチャーラジオ 文学の世界 国語辞典のゆくえ(NHKシリーズ)』(NHK出版 2017年7月1日)
・増井元『辞書の仕事』(2013年10月18日、岩波新書)
・サンキュータツオ『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』(株式会社角川学芸出版、2013年3月25日)