書き出したら止まらない

3人で運営するサブカル系雑記ブログです。お気に入りの本や漫画をここで見つけてみてください。

『いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら』感想

――お願い、プロの世界に辿り着いて

 

どうも、トフィーです。

今回は、MF文庫Jのライトノベル『いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら』について紹介いたします。

小説家を目指す、一人の少女と二人の少年たちの物語り。
「(プロ・アマ問わず)一度でも筆を執った経験がある方」、あるいは「小説を書くこと自体に憧れの気持ちを抱いている方」には、ぜひとも読んでいただきたい一冊です。

 


いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら (MF文庫J)

 

 

 

1.あらすじ

柊海人の日常は全てが灰色だった。可愛い妹と何かと気に入らないことがあればすぐに激昂してしまう父。アンバランスな家庭を守るため、アルバイトに明け暮れ、将来のことなんて考えられなかった。

天谷浩太の日常は全てが虹色だった。幼いころから欲しいものは何でも与えられ、何をしたって上手くいった。そんな二人に文芸部部長・神楽坂朱音は小説の世界の素晴らしさを説いた。そして、囁く

「君たちのどちらかがプロデビューして、私を奪って欲しい――」

いびつな関係の3人が小説という名の戦場に出揃うとき、物語は動き出す。小説に魅せられた少年少女が贈る、本物の青春創作活劇!

引用:いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら (MF文庫J)

 

 

2.『いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら』感想・レビュー

 

a.評価と情報

評価:★★★★★
MF文庫J
2020年8月刊行  

 

作者は永菜葉一先生。
『もう異世界に懲りたので破壊して少女だけ救いたい』『幼馴染が引きこもりの美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)』など、これまでは角川スニーカー文庫から何冊かの作品を出されていたようです。

 

今回は(いつも以上に)主観たっぷりで星5評価をつけました。
というのも、昨年から新人賞に応募し始めた身としては、グサグサと刺さるものが多かったのです。
詳しくは以下で語ります。

 

 

b.作品内容

多少なりとも執筆にチャレンジした経験がある方ならば、「わかる~‼」と首を縦に振ってしまうシーンがいくつもあります。
そして今作では明るいあるあるネタだけでなく、暗い負の部分をもしっかりと描写されており、特に主人公の一人・柊海人(ひいらぎ かいと)にはずっと共感しっぱなしでした。 

 

彼は創作の知識がまったくのゼロ。
ヒロインの朱音に手を引かれて創作の世界に飛び込んでから、彼は様々な壁にぶち当たります。
たとえば、初めてPCを前にして、なかなか第一歩を踏み出せずにいたシーン。
彼は創作をすることへの「羞恥」にとらわれて、なかなか文字を打つことさえも出来ません。
またたとえば、初めて酷評を受けたシーン。
彼は自身の人格までをも否定されたと思い込んでしまい、酷く落ち込んでしまいます。

 

創作の経験がある方ならば、その時の彼の心情に深く寄り添うことができるかと思います。
ひたすらに葛藤し、取り乱し、投げ出しそうにもなる。
それでも創作の魔力に引きずり込まれた彼は、「書きたい」という思いに突き動かされて壁へと立ち向かいます。
そして時には努力が報われて、これ以上ないほどの喜びを噛みしめるのです。

 

この物語は、昨今のライトノベルの中でも珍しく、ダブル主人公形式で進められます。
海人パートの魅力については以上で触れた通りですが、もう一人の少年・天谷浩太(あまやこうた)のパートにも、また違った魅力が込められていますので、気になった方はぜひ手に取って見てください。
二人の少年が物語を通してぶつかり合い、共鳴しあう様は見ていて最高です。

 

c.キャラクター

神楽坂朱音(かぐらざか あかね)

「私ね、恋愛観とかそういう真っ当な感情が……少し壊れてるの。私という人間は同じ道をいく人にしか寄り添うことが出来ない。だからね、もしもキミが本気で私を欲しいと思うのなら――お願い、プロの世界に辿り着いて」(本文より引用)

本作のヒロイン。
表紙に描かれている、燃えるような赤い髪の少女。

 

二人の主人公、海人と浩太を創作の道に引きずり込んだ張本人。
年上のお姉さん(かわいい)
よく突拍子もない行動を起こし、海人と浩太をドギマギさせる(めちゃくちゃかわいい)
上の引用からもわかる通り、小説に魅せられていてプロの世界に執着している。

 

 

柊海人(ひいらぎ かいと)

この物語における、主人公の一人。
働かずに酒と暴力に溺れる父。
帰って来ない母。
彼はそんな二人の両親のもとに生まれ、極貧生活をよぎなくされてきました。

 

妹の進学と夢を叶えるために、ハードなバイト生活を送ってきた彼ですが、ある雨の日に限界を迎えてしまいました。
彼はアスファルトに倒れたまま打ちのめされていましたが、偶然居合わせた朱音に手を引かれ、小説家になり生計を立てるという道を見つけます。

 

またネット投稿サイト『カクヨム』に投稿するようになってからは、同じく彼女から師事を受けているという浩太を超えることを目標とし、出会う前からライバル心をたぎらせていました。

 

天谷浩太(あまや こうた)

この物語のもう一人の主人公で、海人とはなにかと対照的な存在です。
幼いころに朱音に声をかけられ、彼女の側にいるために物語を書き始めます。
そしてそのうちに書くことの「楽しさ」にのめり込み、書き上げてきた物語はカクヨム でも上位へと上り詰めました。

海人とは違い「プロになりたい」という思いは抱いていませんでしたが、彼と出会ってから勢いあまって……(この先は本編で‼)

 

 

 

3.おすすめ作品・関連リンクなど

『いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら』を読んだ方には、以下の本もおすすめです。

 

『私が大好きな小説家を殺すまで』

もうこのブログでは、クドいほどにとりあげている作品です。
ゴーストライターの少女と、物語を書けなくなった小説家の青年による、「共依存」の物語りです。
この作品では、「書くことへの苦しみ」「より優れた他人への嫉妬」など、負の部分が巧みに描かれています。
かなり暗めのテイストではありますが、恋愛小説としても非常におすすめです。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

こちらは創作者の方向けです。
数あるサブカル系の辞書の中で、個人的に満足のいったものを紹介しています。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

他にも様々な作品を取り扱っていますので、ぜひご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

読書感想文を書くのにおすすめの小説まとめ|どうせなら面白い作品で!

どうも、トフィーです。
今回は、読書感想文を書くのにおすすめの本を紹介していこうかと思います。


というのも最近『本のタイトル 読書感想文』で検索して、このブログを訪ねてくださる方が非常に増えてきているのです。(ありがとうございます)
ですので「需要があるのであれば、まとめ記事を作ってしまおう」、という考えのもと今回はこのようなテーマで記事を書かせていただきました。

 

※これからも定期的に追記していきますので、よければ温かく見守ってください。

1.はじめに――読書感想文の書き方の流れ

読書感想文におすすめの本を紹介する前に、まずは読書感想文の書き方を紹介します。
「絶対にこの流れでなければいけない」というわけではありませんので、あくまで一例として捉えてください。

 

①この本を選んだ理由・きっかけを書く。

サラッと書きましょう。
「あらすじや帯の文句に惹かれたから」、「友達にすすめられたから」、「話題になってたから」など、なんでもいいです。

 

②あらすじを書く。

ex.『NARUTO』を例に

「火影(里で一番偉い忍者)をめざす落ちこぼれの少年が、努力・友情・勝利を積み重ねて、みんなに認められていく話」

 

③気になった箇所について掘り下げたり、自分の体験や考えと照らし合わせての作品の感想を書く。

ex.またまた『NARUTO』を例に

「いがみ合ってライバル視していたサスケが里を抜けたあとも、一人の友人として彼を連れ戻そうとするナルトのひたむきさに心を打たれた。自分も過去に友人が道をたがえてしまった経験があったけれど、あの時の自分がナルトのように向き合い続けることができたら、違う未来もあったかもしれない。」

みたいな感じですね。例が下手とか言わないで!

 

④この本を読んで得られたことをまとめたり、抱負を書いたりする。

 ex.またまたまた『NARUTO』を例に

「自分もこれからはナルトのように努力を重ねて、みんなに認められ、友人を大切にできるような人間になりたい」

 

 

簡単ではありますが、以上が書き方の一例です。

 

 

2.読書感想文を書くのにおすすめの作品

今回ここで取り上げている本は、「しっかりとしたテーマがある」ことに加え、「読みやすい」、「親しみやすい」、「そしてなによりも面白い」という観点から選びました。
読書が苦手な方も、このような作品であれば、比較的書きやすいかと思います
また以下の本は、このブログ内ですべて記事としてアップしていますので、よければ参考までにご覧ください。

 

『15歳のテロリスト』

最初に紹介させていただくのは、『15歳のテロリスト』です。
迷ったら、まずこれを選べば問題ないかと思います。


内容について一文で説明すると、「被害者家族の少年と、加害者家族の少女が互いの境遇を知っていき理解を深めていくという物語」です。

2020年のこの夏、かなり注目されている作品。
その要因としては、カドフェス2020でとりあげられたことが大きいのではないかと考えられます。
もともと人気のある作品ではありましたが、そこにさらにブーストがかかったという感じですね。

 

そしてまた以下の過去記事に関してですが、この夏には『15歳のテロリスト 読書感想文』と検索して辿り着かれる方が毎日のようにいらっしゃいました。
というのもこの作品では、「少年犯罪」や「世間の目」といった作品全体を通してのテーマがしっかりとしていて、かつ「少年と少女の葛藤」もしっかりと描かれているので、様々な角度から意見や論を展開していきやすいんですよね。

 

社会派の物語なので教師ウケも狙えます。
なによりも、ライト文芸であるために非常に読みやすく面白い
そのため本が苦手な方であっても、比較的楽に読んでいくことができるのではないでしょうか。

このリンク先の記事でも書きましたけれど、もしもぼくがこの作品で読書感想文に取り組むのであれば。
①「少年犯罪をベースに物語の内容を簡単に説明する」
②「偏見と憶測、世間の声へと話を移していき、最後にこの作品を読んで思ったことをまとめる」
という感じでまとめていくのかなー、と思います。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『流浪の月』

続いて紹介するのは、『流浪の月』です。
キャラクターが書かれた表紙に抵抗があるという方には、こちらをおすすめします。
2020年の本屋大賞にも選ばれた作品なので、知名度も高く権威的にも申し分ない作品です。

 

この物語は幼いころに誘拐された少女と、彼女を連れ去った大学生の青年の物語。
つまりは被害女児と誘拐犯ということになるのですが、二人の関係はそれだけで表現できるものではなかった……ということがこの小説では描かれていきます。

この作品では、「偏見と憶測の怖さ」について深いとこまで突き詰めていきます。
勝手に決めつけることの愚かさ、優しさという名前の暴力、自分だけは間違えることはないという根拠のない自信など、様々な方向から意見を広げやすい作品です。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』

倫理的なテーマで書きたいなら『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』がおすすめです。
物騒なタイトルではありますが、読んで損はしない非常に面白い一冊なので、感想文なんて関係なしに、ぜひ手に取っていただきたい作品です。

内容を一文で紹介するなら「体が金塊に変わってしまう致死の病を患う女子大生と、劣悪な家庭環境に苦しみながら生きてきた少年が出会い、田舎の病棟で心を通わせていく物語」です。


恋愛小説としても傑作なこの作品ですが、全体を通してしっかりとしたテーマもあるため、読書感想文を書くうえで非常におすすめの一冊となっています。
さらりと紹介すると「感情の証明は可能なのだろうか」「恋か、金か」といった感じですね。


明確な答えのない問いではありますが、それゆえに結論も自由です。
まずは読む、そして思ったことを正直に書く。
それだけでも、十分に中身の濃い感想文を書けるのではないかと思います。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『さよなら世界の終わり』

鬱屈とした思いを書きなぐりたいという方はこれ。
『15歳のテロリスト』と同様に、ありがたいことに『さよなら世界の終わり 読書感想文』と検索して、訪ねてくれる方が非常に増えてきてます。

 

そのためここで紹介させていただきますが、ただ正直にいえば万人ウケする作品ではありません。
例のごとく一文で紹介すると、「夢のように抽象的な世界で、少年少女が暗い部分をただひたすらに吐きだし続けるといったストーリー」という感じでしょうか。
刺さる人にはめっぽう刺さる、一方で最初の3ページでキツイと思ったらずっとキツイ、といった物語です。


全体の内容をまとめるのはかなり難しいかと思うので、今のみなさんの境遇や心境と重なるところをピックアップしていくような書き方をしていけば、きれいにまとまるのではないでしょうか。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『土の中の子供』

「文学にチャレンジしたい」という方は『土の中の子供』がおすすめ。
「虐待」がテーマ。
幼少期に受けた虐待の経験を引きずったまま、大人になってしまった男性の物語です。
たんたんとしたスタイルのため、文学作品の中でも文章は難しく感じないかと思います。
ページ数も少ないので、あまり時間がない方でもサクッと読めてしまうのもおすすめポイントです。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

 

斜線堂有紀『楽園とは探偵の不在なり』感想・レビュー

二人殺せば地獄に堕ちる! 起こりえない連続殺人事件に挑む探偵の物語

 

どうも、トフィーです。
電撃文庫の二次審査発表日が近づいてきて、ソワソワしております。
そんな時だからこそ、読書で現実逃避をしていきたいと思います。


今回は、このブログでも何度か取り上げた名作メーカー、斜線堂有紀先生の『楽園とは探偵の不在なり』を読み終えました。
本格ミステリーには久々に触れましたが、非常に楽しく読み進めることができました。


楽園とは探偵の不在なり

 

 

1.あらすじ

二人以上殺した者は"天使"によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦(あおぎしこがれ)は「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱(つねきおうがい)に誘われ、天使が集まる常世島(とこよじま)を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。かつて無慈悲な喪失を経験した青岸は、過去にとらわれつつ調査を始めるが、そんな彼を嘲笑うかのように事件は続く。犯人はなぜ、そしてどのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。最注目の新鋭による、孤島×館の本格ミステリ。

引用:楽園とは探偵の不在なり

 

 

2.『楽園とは探偵の不在なり』感想・レビュー

a.評価と情報

早川書房
2020年8月刊行

 

斜線堂先生による渾身の本格ミステリー
綾辻行人先生や相沢沙呼先生などの、超大物ミステリー作家も手に取った話題作です。

 

また、この作品ですが、発売早々に重版が決定しています。
初版分が少なかったのだろうか、あるいは斜線堂先生の注目度が高まってきたからかは不明ですが、この作品が多くの人の手に渡る機会が増えるというのは嬉しい限りです。

 

ちなみにですが、初版分のP275 で誤植があります。
早川の公式ページの方でも訂正されていますので、読了後に確認ください。

 

 

b.作品内容

①『天使』・舞台設定について

本格ミステリ―ではあるものの、『天使』が存在しているという特殊な設定が面白かったです。
それも神々しい感じではなく、得体の知れない化け物っていうね。(表紙でフヨフヨと浮いているやつです)
今作においては、この『天使』の存在こそが非常に重要な要素となっているので、詳しく解説していきます。

天使はヒト型をしているにも関わらず、言葉を発さないし、そもそも顔がありません。
普段はなにもせずに、ただフヨフヨと浮いているだけです。
そんな天使がアクションを起こすときは、たった二つの状況下のみ。

 

一つ目は、誰かが二人以上を殺したとき。
天使はその犯人を、例外なく地獄へと引きずり込みます。

 

二つ目は、彼らの前に砂糖が放られたとき。
意志があるのかも怪しく、自身の命にも執着を見せない天使ですが、なぜか砂糖に放られたときは、一目散に群がってすりすりと頭部をこすりつけるという謎の習性を見せます。
その姿は、さながら鳩のようです。(くるっくー)

 

今作で非常に重要なのは、一つ目の特性です。
これによって、「二人以上殺せば地獄行き」というルールが、この物語の世界には敷かれているため、連続殺人事件は絶対に起こりえないはずなのです。
この発想、天才的ですね。

 

そんな前提条件をすえての、この物語の舞台は孤島×館
数日の間、船も寄らず、外界から完全に遮断されたいわゆる『クローズドサークル』です。
この王道ともいえる状況下で、起こりえない連続殺人事件が発生し、主人公たちは翻弄されていきます。


はたして、事件の背後にはいったいなにがあったのか、どんなトリックが用いられているのか。
それはぜひとも、あなた自身の目で確認ください。

 

 

こんな天使が登場する作品ではありますが、決してイロモノ系というわけではありません。
天使以外には特殊な設定はなく、超能力やら魔法やらが登場して……なんてこともないため、「あまりの荒唐無稽さに推理が成り立たない」なんてことはありません。
ですので、純粋なミステリ―ファンの方でも、楽しく読み進めることができるかと思います。

 

 

②主人公・青岸焦について(若干のネタバレを含みます)

続いてはこの作品の主人公、青岸焦(あおぎしこがれ)について紹介していきます。


彼は探偵を職にする男性です。
彼の営む探偵事務所には、どこまでも愉快で善人な仲間たちがいました。
彼ら彼女らは、個性の突き抜けた問題児ばかりだったけれども、それでも全員が『正義』を信じて数々の事件に向き合っていました。
ある日、唐突に彼らは事件に巻き込まれて命を落としてしまいます。
青岸は仲間を失い、それ以来この世界の不条理に苦しみ、『天国』の存在を夢見て生きてきました。

 

そんな過去があったからこそ、「天国が存在するか知りたくないか」という言葉に惹かれ、天使が集まる常世島(とこよじま)の館へと足を踏み入れます。
ところが一晩明けると、最初の殺人事件が発覚、物語は不穏な方向へと舵を切っていくのでした。


ただ、ずっと暗い展開が続くというわけでもなく、クスリとくる場面も多くありました。
たとえば次々と助手を名乗り出る登場人物たちが、とにかく微笑ましかったです。
ところどころで挟まれる、探偵事務所の仲間達とのエピソードもひたすらにエモかった(語彙力)。
青岸さん、辛い過去を背負ってはいるものの、幸いにも人には恵まれていますね。

 

探偵としての在り方に葛藤しつつも、それでも事件へと立ち向かっていく彼のあり方には心が動かされました。
天使によって、かき乱された倫理が蔓延る世界における『正義』とはなんなのか。
彼の心には救いはもたらされるのか。
ミステリ―としてだけではなく、一人の人間の物語としても非常に見ごたえのある作品でした。

 

 

ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
また以下は、過去記事のリンクです。
暇つぶしにでも、ぜひともお立ち寄りください。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

このブログでは、他にも多くの物語を紹介しています。 
斜線堂有紀先生の『私が大好きな小説家を殺すまで』や、『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』などもとり上げていますので、ぜひともご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

アーサー王伝説記事まとめ|「原典」や解説書などについて

 

最終更新日:2020年9月8日 

 

アーサー王伝説を方々に少しでも布教したいAuraです。
その思いのもと、記事を書いていたらそこそこの数になったので、記事まとめを作りました。

 

〇アーサー王伝説の「原典」とは
〇物語を読むためのおすすめの本
〇解説書や事典

などについて書いた記事を載せています。それぞれに簡単な説明とリンクもつけました。

(記事冒頭の、最終更新日の上に表示されている「アーサー王伝説」タグからでも記事の一覧を見ることができます)

 

 

アーサー王伝説の簡単な解説記事

「円卓の騎士」や「エクスカリバー」といった言葉は、全てアーサー王伝説に由来しています。

「でも、ストーリーとかキャラクターについては全然知らないなぁ」という方のための、超・ざっくり解説記事を書きました。

こちらでは、伝説の成り立ちや、アーサー王を始めとする主な登場人物あらすじなどについて簡単にまとめています。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

アーサー王伝説の「原典」について

今日では、中世ヨーロッパ文学がアーサー王伝説の「原典」とされています。

「アーサー王伝説って、いろんな原典があるらしいけどよく分からない…!」という疑問にお答えすべく書いた記事です。

 

中世文学のまとめ①|物語のメインストーリー

まとめ①の記事では、

〇アーサー王物語において重要な設定や趣向が出てくる作品


中世文学における傑作という評価がなされている作品


日本語訳が出版されている作品

を中心に、アーサー王伝説の発展を辿る上で欠かせないような作品をリストアップしています。
言うなれば物語のメインストーリーといった感じですね。

 

「この記事を読めば分かる!アーサー王物語の本まとめ!」というコンセプトを掲げて書きましたが、アーサー王物語を本で初めて読むという場合には、まとめ記事後半にある、
「アーサー王物語を最初に読む時のおすすめ本」
の項も併せてご覧ください。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

【まとめ①で取り扱っている主な作品】

〇ジェフリー・オブ・モンマス
『ブリタニア列王史』
〇ベルール
『トリスタン物語』
〇クレティアン・ド・トロワ
『ランスロまたは荷車の騎士』
〇トマス・マロリー
『アーサー王の死』

 

中世文学のまとめ②|物語のサイドストーリー

まだ準備中です…!すみません…!!(9月上旬に投稿予定)

内容としましては、まとめ①には載せられなかった、物語のサイドストーリーとなる作品をご紹介するつもりです。

たかがサイドストーリー、されどサイドストーリー。こちらにも傑作があります。

 

【まとめ②で取り扱う予定の作品】

〇クレティアン・ド・トロワ
『イヴァンまたは獅子の騎士』
〇作者不詳
『ガウェインと緑の騎士』
〇リヒャルト・ワーグナー
『ローエングリン』

 

「原典」のひとつ『マビノギオン』について

『マビノギオン』とは、イギリス南西部ウェールズにて作られた11編の物語の総称です。

11編の内、5つがアーサー王伝説に属しています。他の「原典」と異なり扱いがちょっとややこしいので、別個に記事を作りました。

 

特に有名な『キルッフとオルウェン』については詳しく触れています。
この物語では、円卓の騎士ケイの「森の中の木と同じくらいまで背を伸ばせる」などの珍妙な能力が語られているんです 笑

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

アーサー王伝説のおすすめ本など

この項には、

〇アーサー王物語を初めて読むにあたっておすすめの本

 

〇アーサー王のモデルとなった人物や、物語の発展についての解説書

 

〇アーサー王伝説の事典

について取り扱う記事がまとめてあります。

 

アーサー王物語を最初に読む時のおすすめ本

この記事は、「アーサー王物語を本で初めて読む」場合におすすめの本をまとめたものです。
先ほどご紹介した中世文学から入ってもいいんですが、(慣れるまでは)文体などが読みにくく感じられるかもしれませんので…笑

 

初心者の方の「入門」に相応しい原典のダイジェスト本や、他には現代の作家による作品をいくつか取りあげました。

 

ゲーム『Fate』シリーズのキャラクターがサムネイル画像になっているのは気にしないでください 笑

www.kakidashitaratomaranai.info

 

周辺事情を分かりやすく書いた本

アーサー王伝説が成立した歴史的背景、アーサー王のモデルとなった人物、物語の発展の過程など、伝説の周辺事情を解説する本のおすすめについて書いた記事です。

 

アーサー王伝説の解説書はたくさんありますが、最初に読むなら創元社の『アーサー王伝説』が一番いいと僕は思っています。

 

記事の後半では、「日本におけるアーサー王伝説の受容」について取り扱う本をご紹介。難しそうな感じがしますが、サブカルチャー多めの内容なので分かりやすいです。

 

その本では、記事のサムネイル画像になっている『Fate』のセイバーについても言及されていました 笑

www.kakidashitaratomaranai.info

 

アーサー王伝説の事典の比較

アーサー王伝説への理解を深めたい時には、事典を読んでみるのもひとつの手です。

 

その際、『図説アーサー王伝説事典』と『アーサー王神話大事典』が候補にあがります。
「事典としてどういう違いがあるんだろう?」と気になり、どちらかだけ買おうとするも、結局両方とも買ってしまった僕が比較レビューをしてみました 笑

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

アーサー王伝説の絵画

〔前編〕|英国ヴィクトリア朝の芸術 

アーサー王伝説は古来より様々な画家に題材とされています。
その中でも僕のお気に入りである、ラファエル前派を中心とするヴィクトリア朝の絵画について扱っている記事です。

 

〔前編〕では、アーサー王グィネヴィア王妃など、物語の主要人物をピックアップ。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

〔中編〕|近代ヨーロッパの芸術

〔中編〕では、トリスタンとイゾルデシャロットの姫の絵画を載せています。

 

〔前編〕は全てイギリスの作品でしたが、こちらは更にフランスの作品を対象に加えています。トリスタンとイゾルデの絵画は、イギリスだけでなくフランスのも素晴らしい……。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

まとめ記事は以上になります!
もしさらに記事が増えた場合には、こちらにも追記していきます。

 

『超高度かわいい諜報戦~とっても奥手な黒姫さん~』感想・レビュー

恋愛×諜報戦、積み重ねられていく勘違い!


どうも、トフィーです。
100記事が目前まで迫ってきました。

 

さて、今回紹介するのは『超高度かわいい諜報戦~とっても奥手な黒姫さん~』です。
なかなかに、声に出して読み上げたくなるタイトルですね。


登場するのは、一癖も二癖もあるキャラクターばかり。
ラブコメなのに繰り広げられる本格的な諜報戦の数々、けれどもその内容はやはりこの上ないほどに馬鹿馬鹿しい、そんな物語になっています。 

 

『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』をよりブラックにしたようなイメージです。


超高度かわいい諜報戦 ~とっても奥手な黒姫さん~ (MF文庫J)

 

 

 

1.あらすじ

"一見普通"の高校生による「だまし愛」ラブコメ、開幕!

 

「凡田君と、もっと仲良くなりたいの!」

高校生にして秘密諜報機関を指揮する天才少女、橘黒姫は初恋の真っ最中。

好きな人のために組織の力を濫用し、超高度な諜報技術で接触を図る。

「……誰かに監視されている?」

それに勘づいたのは初恋相手・凡田純一。

一見影の薄い、平凡な男子生徒の彼は、実はある秘密を持っていて……?

「私が……凡田君と友達になるの!?」

そんな中、組織の命令で凡田と接触することになった暗殺少女・芹沢明希星。

友達の作り方なんて知らない彼女の行動は、とんでもない波乱を巻き起こす!

高校生の三角関係に裏社会の命運が揺るがされていく超本格学園スパイ・ラブコメ、開幕。

引用:超高度かわいい諜報戦 ~とっても奥手な黒姫さん~ (MF文庫J)

 

 

2.感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★☆☆
MF文庫J
2020年3月刊行 

恋愛×諜報戦ということで、なかなか類をみないような作品です。
終盤ではやや盛り上がりに欠ける印象がありましたが、それでも全体を通して楽しめました。

 

b.作品内容・キャラクター紹介

恋愛×諜報戦ということで、冒頭でも触れた通り『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』とも通じるところがあるため、同作が好きな方には軽くチェックしていただきたい作品です。

 

さて、この作品について紹介していくわけですが、今回はメインキャラクターについての簡単な説明だけにとどめておきます。
作品の雰囲気を把握していただくにおいて、おそらくそれが一番わかりやすいかと思うのです。

 

凡田純一(ぼんだ じゅんいち)

表紙の少年。
名前を体現したかのような、地味で目立たない少年。

というのは、世を忍ぶ仮の姿。
彼の正体は、とある組織に所属していた凄腕のエージェント
組織からの追手をかわすため、偽装に偽装を重ねていて、日常の些細なことにまで気を張り巡らせていたのだが……。
彼の平穏は、とある少女によって崩されていくのだった。

 

橘黒姫(たちばな くろき)

表紙の少女。
才色兼備で人望も厚く、生徒会役員を務めている少女。

というのも、世を忍ぶ仮の姿。
その正体は、諜報機関『御伽衆』の長
御伽衆とは、極東を中心に活動し、いかなる権力にも属さずに、金を目的に暗躍する謎多き組織。
そんな機関のトップに立つ彼女は凡田くん以上にヤバいやつだと言えるだろう。


そんな彼女であるが、年頃の少女らしく思いを寄せる相手がいた。
その男性こそが凡田くんなのだが……。
黒姫は、こと恋愛においては恐ろしいほどに奥手なのである。
彼女は凡田くんと恋仲になるために、いやまずはお友だちから始めるために、ひたすら慎重に動き続ける。
どれくらい慎重なのかといえば、少なくない予算と人員を割き、凡田くんの趣味嗜好を探るために、組織の力をふんだんに使い監視網を張り巡らせてしまうほど。
ひどい職権乱用である。

 

ただそんなある日、彼の周囲に一人の少女の影が見え始めたことを契機に動き始めるが……、やはりチキンはどこまでいってもチキンなのであった。

 

芹沢明希星(せりざわ あきほ)

スタイル抜群で、人目を惹くほどの美少女だが、一方で人を寄せつけない雰囲気をまとっている。
いわゆる一匹狼タイプのヒロイン。

 

だが、もうお察しのことであろうが、例のごとく彼女にも裏の顔がある。
その正体は、『御伽衆』の暗殺者
それも時が来るまで日常に溶け込み、いざという時に動き出す、いわゆるスリーパー・エージェント
ただ、彼の直属の上司はすでに姿を消しており、彼女自身も末端に位置する存在であるために、組織からもほとんど忘れ去られていた。

 

そんな彼女のもとに、ついに命令が下される。
その内容は、同じ学校の少年・凡田純一の情報を集めるというものだった。
ただ、彼女は暗殺者としては一流だが、それ以外では超ポンコツ。(ポンコツかわいい。あと超いい子かわいい
彼女の突拍子もない行動の数々に、凡田はもちろんのこと、黒姫さえもかき乱されていく。

 

 

 

といった具合に、三人のキャラクターを紹介したわけですが、それぞれが裏の顔を持ち、それぞれが思惑をもって行動しているものですから、それはもう大変なことになっていきます。
勘違いに勘違いが塗り重ねられていき、カオスになっていく状況には、思わず笑いがこぼれました。
一風変わったラブコメを見たい方は、ぜひとも手に取っていただきたいです。

 

このブログでは、他にも色々な作品のレビューをしています。
よければ、他の記事もご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

【日常と非日常が混ざり合う!】明利英司『#指令ゲーム』感想・内容紹介

読んだら疑心暗鬼になる。不思議な読書体験をしたい方におすすめのサスペンス小説。


#指令ゲーム (双葉文庫)

 

どうも、トフィーです。
今回は明利英司先生の『#指令ゲーム』を読み終えましたので、感想を書かせていただきます。
リアル脱出ゲーム風味の、サスペンス小説です。
この手の小説は久々に手に取りましたが、サクッと楽しむことができました。
文章も小難しくないので、読書慣れしていない方にもおすすめです。

 

1.あらすじ

あなたの人生は本物ですか? 福山鞆広は大学卒業後も就職せずに、アルバイトを続けていた。そんなある日、大学の先輩だった城之内祥子から「起業するから幹部社員として参加してほしい」と連絡が入る。しかし条件があり、それは日常型エンターテイメントゲーム【指令ゲーム】のテストプレイをすることだった――。これはゲーム? 現実? 日常と非日常が交差するこのゲームに終わりはあるのか……。第6回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作受賞の気鋭の作家によるサスペンスミステリー!

引用:#指令ゲーム (双葉文庫)

 

2.感想・レビュー

双葉文庫
2020年6月刊行

 

あらすじの通り、主人公の福山鞆広(ふくやま ともひろ)が、大学時代の先輩・城之内祥子(じょうのうち ようこ)に再会。
彼女が起業する会社に幹部社員として迎え入れられることと引き換えに、「指令ゲーム」という体験型のゲームをテストプレイしていく、というストーリー。

指令ゲームのイメージとしては、リアル脱出ゲームに近いでしょうか。
「そもそもリアル脱出ゲームって……?」という方は、以下の引用文をご覧いただければ、だいたいのイメージを掴むことができるかと思います。

マンションの一室や野球場や学校、廃病院、そして地下鉄や六本木ヒルズなど様々な場所を舞台に、謎を解いてそこから「脱出」することを目的とした体験型ゲーム・イベントです。

引用:https://realdgame.jp/about.html


さて『#指令ゲーム』へと話を戻しましょう。
祥子に言われ自宅で待機していた主人公のもとに、青いスーツを身にまとった怪しげな男が訪ねてきます。
彼に手渡された封筒を開けてみると、その中には現金5万円と一枚の紙。

 

この紙に書かれている内容こそが、最初の指令というわけですが、その内容は以下のようになんてことのないものです。
「ラーメン店で、牛骨ラーメンオーダーすること。ただしチャーシュー以外の具は全抜き、追加でチャーシューをトッピングしてもらうこと」(要約)


主人公は不審に思ってドッキリを疑いながらも、現金も入っていることだし……と、その指令に従っています。
当然のことながら、なんなくクリア。
するとまた次の指令が下され……というような形でどんどん指令が連鎖していく形式のゲームです。
指令は必ずしも書面で渡されるというわけではなく、ときには口頭であったり、またときには予想だにしない方法で伝えられるために、時間内はつねに気を配らなければなりません。

 

日常の中で起こる、非日常的なイベントの数々に魅せられて、主人公はゲームに熱中していきます。
そして最初は簡単だった指令も、難易度がCからBへそれから……とグレードアップするごとに複雑さを増していき……。
といった物語でした。

 

指令の内容も簡単だったこともあり、序盤では大きな動きもありません。
そのため、ちょこちょこと読み進めていたわけですが、中盤に差し掛かってからは一気に読み進めてしまいました。

 

 

 

新鮮なサスペンスでした。
指令形式のゲームに従っていくうちに、だんだんと日常と非日常の境がわからなくなってくるという奇妙で恐ろしいストーリーです。


そして、境がわからなくなるのは主人公だけではありません。
ぼく自身も「あれ、これは指令なのかな? それとも……」と思考がごちゃごちゃとしてくるわけで。
なるほど、帯にも書かれている

「その「指令」を聞いたが最期、もう日常には戻れない」

とはそういうことか、とそのうたい文句にも納得です。
言うなれば、胡蝶の夢。
現実と非現実との区別がわからなくなる不思議な読書体験でした。

 

たまにはこういった類の物語を手に取るのもいいですね。
さてと、ブログ記事も書き終えたし、今日の目標はクリアっと

 

最後まで目を通していただき、ありがとうございます。
ライトノベルから文学まで、他にも色々な「面白いと思った」本を紹介していますので、もしよければご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

www.kakidashitaratomaranai.info

 

斜線堂有紀『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』|感想・レビュー

感情の証明は、はたして可能なのだろうか?

 

どうも、トフィーです。
今回は斜線堂有紀先生の小説『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』について紹介していきます。

 

「金塊病」という架空の病気を患う女子大生と、彼女に惹かれてしまった少年の物語です。
舞台は片田舎のサナトリウム(高原や海岸に設けられた療養所のこと)。
堀辰雄の『風立ちぬ』を筆頭に、この手の作品は多数存在します。(サナトリウム文学という言葉もあるくらいです)

 

また舞台がサナトリウムでなくとも、病気を中心に据えた作品は数え出したらキリがなく、現代に至ってもなお人々を魅了してきました。(ここ数年での大ヒット作だと『君の膵臓をたべたい』などですね)

 

そんな感じで競合の多いジャンルではありますが、今回取り上げる『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』は、他とは違った切り口で物語が繰り広げられていき、疲れ切ったぼくの心に格別な余韻を残してくれました。

 


夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

 

 

  

 

1.あらすじ

最愛の人の死には三億円の価値がある――。壮絶で切ない最後の夏が始まる。

 

片田舎に暮らす少年・江都日向(えとひなた)は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。

そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子(つむらやこ)だった。彼女は死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける。

相続の条件として提示されたチェッカーという古い盤上ゲームを通じ、二人の距離は徐々に縮まっていく。しかし、彼女の死に紐づく大金が二人の運命を狂わせる──。

壁に描かれた52Hzの鯨、チェッカーに込めた祈り、互いに抱えていた秘密が解かれるそのとき、二人が選ぶ『正解』とは?

引用:夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

 

 

2.『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』感想・レビュー

 

a.評価と情報

評価:★★★★★
メディアワークス文庫
2019年7月刊行

 

いや、傑作でした。
こんな素晴らしい作品を生み出してくださった斜線堂先生には、感謝してもしきれません。

 

詳しい感想については後述するとして、まず最初にこの小説の優れている点を一つだけ挙げるとするならば、「構成の美しさ」でしょう。
「その台詞をここで再登場させるのか」とか、「あの言葉にはこんな意味が込められていたのか」みたいに、読み進めていくうちに何度もハッとさせられたわけです。

こういった構成の美しさという観点で見れば、以前レビュー記事を書きました同作者の『恋に至る病』『私が大好きな小説家を殺すまで』以上の作品だったかと思います。

 

人の心を惹きつける物語の作り方が本当にうまい作家だなぁ……、と嫉妬を通り越して崇め奉りたくなるくらい。
とにかく魂が震えました。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

b.作品内容

この物語には二つの軸があります。

①家庭と金

②終わりへと向かうサナトリウムでの日常

 

以下ではこの二つをもとに、『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』の内容について語っていきます。 

 

①家庭と金

まず①の「家庭と金」について。
主人公の江都日向(えとひなた)には二人の家族がいます。
ひとりは事業に失敗し、無気力になってしまった義父。
そしてもう一人は、「サナトリウムに収容されているのは病人ではなく、国の保有している生物兵器だ」という陰謀論を唱え、日々施設の撤去を求める運動に勤しむ母。(強烈すぎる)

 

彼の家庭は事業の失敗という困窮から始まります。
そしてまた、彼には金がないために、そんな閉塞的な家からは出ることもできないのです。
母は荒れくるい、彼や義父にあたり散らし、酷な言葉をぶつけてくる。
虐待といってしまっても、問題ないでしょう。
けれども彼は耐え続けたのでした。

 

彼にはそんな家庭に反発するほどの気力もなく、ただ諦観し、暗く行き詰った未来を受け入れてしまっていた。
けれども金塊病患者の都村弥子(つむらやこ)さんとの出会いが、彼を変えていくことになるのです。
いつか終わりがくるとわかり切っていても、彼の日常は色鮮やかになっていくのです。

 

ただ、それでも弥子さんの抱える病「金塊病」の性質から、金の問題はつきまといます。
それは家族を含めた周囲の反応だけでなく、彼自身の心にものしかかってきます。
彼が弥子さんのもとにいる理由は、決して三億という大金のためではありません。
ただそのことをいかにして証明すればいいのかといった、呪い染みた苦悩を抱え続けることになるのです。

 

いや、斜線堂先生、切り込み方が本当にえげつない。
ただのサナトリウムものとせずに、金を絡めての「価値の証明」までをも絡めてくるなんて……。
作中で出てきた「金に至る病」という表現は、言い得て妙だと思います。



余談ですが、先にも取り上げた『恋に至る病』でも『私が大好きな小説家を殺すまで』でも、主人公の家庭環境は決していいものではありませんでした。
後者にいたっては、今作とはまた違ったたぐいの虐待を受けていましたからね。

 

 

②終わりへと向かうサナトリウムでの日常

この作品の冒頭は、終盤のワンシーンから始まります。
もうほとんど取り返しのつかない状況にいる二人の姿を先に描写し、「144日前」「143日前」といった具合に、そこに向かって突き進んでいく構成をとっています。

 

もうクドイくらいに挙げています、同作者の『恋に至る病』と『私が大好きな小説家を殺すまで』と同じです。
今作もまた、「終わりへと向かう物語」なのです。

 

そして物語の舞台がサナトリウムですから、よけいにそのことを実感してしまいます。
特殊な環境下で、できることが限られてくるからこそ、ささやかな日常が際立つわけですね。
ふたりは毎日のように「チェッカー」というボードゲームに興じながら、互いのことをしっていき心の距離を縮めていくことになります……。
そんな二人の日常を見ていて、もう本当に切ない感情にさせられました。
そして、弥子さんがチェッカーが好きな理由について知ったとき、本当にやりきれない気持ちになりました。

 

 

感想・レビューについては一度ここで区切りとします。
以下では、重大なネタバレを含んでの解説をのせていますので、まだ今作をお読みになっていない方はご注意ください。

 

また他にも色々な作品のレビューを行っておりますので、もしよければ暇つぶしにでもご覧くださいませ。

www.kakidashitaratomaranai.info

www.kakidashitaratomaranai.info

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』ネタバレありの感想

突然ですがこの作品で、ぼくが一番好きな台詞はこれですね。

「私はエトに全部をあげることで好きを証明しようとしたんだけど、エトは捨てることで証明しようとしているんだね。愛情ってさ、もしかしたら、捨てるかあげるかしかないのかな」

『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』p231より引用

なんていうか、今作の魅力がグッと詰まっているんですよね。
それまでの弥子さんの苦悩や、彼女の江都を想う気持ちや、江都の必死さや、作品全体を通しての物寂しい空気。
あと弥子さんだけが、「江都」のことを「エト」って呼ぶさりげない特別感なんかも。それらがココにギュッと濃縮されていて、名シーンの多い今作の中でも、最も印象に残りました。

 

そしてこの台詞が、二人で病院を抜け出してたどり着いた朝焼けの海を前に繰り出されたという点も美しい。
正直ここで二人一緒に、海の底に沈んでしまうという「過ち」のエンディングでも、ぼく的には納得していたことでしょう。


けれども今作では、そうはなりませんでした。
海にとび込んだものの、江都も弥子さんもともに生き延びて、束の間の日常に戻っていきます。
それから弥子さんは、やはり死んでしまうわけです。


その描写はあまりにも唐突で自然だったから、逆に衝撃が大きかった。
彼女の死の場面に江都さえも立ち会えなかったわけですから、ぼくたち読者が最後に彼女がなにを想って死んでいったのか、その感情を知るすべなどありません。
ただ未遂に終わった心中によって、弥子さんの中で、江都の感情は証明されたものだとぼくは信じています。

 

弥子さんが残した額は三億円ではなく、彼女の薬指の重さに相当するであろう、十万三百二十六円分だけ。
当初に比べれば本当にささやかな額ではありますが、そのささやかさこそが江都にとって最も価値あるものだったのです。
「時は金なり」とはいいますが、弥子さんと過ごした時間は、彼にとって金銭にも代えがたいものでした。
きっと彼は彼女との日々をいつまでも思い返すでしょう。
だって、彼はまだ弥子さんに勝っていないのですから。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

 

【アーサー王伝説】「原典」となる中世文学のまとめ|私的おすすめ本も

 

日本文学部出身ながらアーサー王伝説の記事ばかり書いているAuraです。アーサー王関係の本に使った金額は、大学時代の教材費を優に超えてしまいました…笑

 

さて、アーサー王伝説といいますと、騎士の名前や大体のストーリーについてはご存知の方も少なくないかと思います。

 

(この記事は、大なり小なり物語を知っている方向けの内容になっています!笑
「全然知らない…」という場合はこちらの記事をご覧ください)

www.kakidashitaratomaranai.info

 

それらの元ネタとなっていることが多いのは、トマス・マロリーによる『アーサー王の死』だと思います。この作品が今日最も有名なアーサー王物語だと言えるでしょう。

 

ただ、それ以外にも「原典」と呼ばれる作品が膨大にあるということもまた「なんとなく聞いたことがある!」という方が多いのではないでしょうか。

 

本記事では、

「アーサー王伝説のいろんな原典について知りたい」

 

「アーサー王伝説はどういう風に発展していったのか気になる」

 

「それはどの本に載ってるんだろう

といった疑問にお答えできればと思います。

 

なるべく簡単に書いたつもりですが、どうしても語らないといけないことが多いので、若干ややこしく感じられるかもしれません 笑

 

【関連】「アーサー王伝説を手軽に読みたい」という方におすすめの本について書いた記事です↓

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

「原典」と呼ばれている作品のまとめ図

現代においては、「中世ヨーロッパのアーサー王文学」が一般にアーサー王伝説の「原典」とされています。

西暦1100~1500年ごろに、イギリス・フランス・ドイツで書かれた作品がその中心を占めていて、数で言うとフランスが特に多いです。

 

僕は最初「アーサー王伝説といえばイギリスでしょ!」と思っていたので、その範囲の広さには驚きました 笑

 

では、個別に作品の内容を見ていくよりも先に、で物語の発展のイメージをつかんでみましょう。

 

以下の画像をご覧ください。

f:id:Aura_13:20200823213635p:plain

『アーサー王神話大事典』などに基づき作成

 

 …はい、情報量が多すぎてよく分からないですよね!笑
ただ、これでも頑張って絞った方なんです……笑

つまりは、それだけアーサー王物語には厚みも広がりもあるということに他なりません。

 

この図では、アーサー王物語の集大成といえるトマス・マロリーの『アーサー王の死』をゴールとして設定しています。

 

他には、以下の3つの条件におおよそ当てはまる作品を載せました。

①アーサー王物語において、重要な設定や趣向が出てくるもの

 

中世文学における傑作という評価がなされているもの

 

日本語訳が出版されているもの

 

③の日本語訳があるかどうかは、図に載せる条件として本来考慮すべきではないですが、「本で読めないものを紹介してもなぁ…」という思いがあって今回基準に組み込んでみました 笑

①と②を満たしていれば日本語訳されることが多いのですけれども、例外も少なくないです。

 

また、図中の過程には、さらに別の作品を挟んだり細かい派生を入れたりすることもできます。
しかし、「アーサー王物語の発展」に焦点を絞った時、解説書などでは上掲の作品が取りあげられることが多いです。

(もちろん、図に含まれていないものでも傑作はあります!)

 

では、今度は図に載っている作品の内容をそれぞれ見ていきましょう。数が多いこともあり簡単に書いたつもりです!笑

 

 

①『ブリタニア列王史』と『マーリンの生涯』|アーサー王伝説の始まり

作者:ジェフリー・オブ・モンマス

国:イギリス

成立年代:1138~1151年ごろ

 

作者の名前ですが、「モンマス」であって「マンモス」ではないので要注意(?)です 笑

 

『ブリタニア列王史』

『ブリタニア列王史』とは、ジェフリー・オブ・モンマスが著した偽史書のこと。
「偽史書」というのは、「伝説や伝承、創作が本当にあった歴史のように書かれている文献」を意味します。

『日本書紀』も、歴史書ですが神話がその中に含まれていますよね)

 

『ブリタニア列王史』では、5~7世紀の間ブリテンを治めた王たちの歴史や事績が順々に書かれていて、その中にアーサー王の名が出てくるのです。

 

先にも触れましたように、この作品は歴史書の体裁を取った偽史書なので、書かれている内容自体は史実と伝承の混ざったものとなっています。

そのためアーサー王も、実在の人物何人かをモデルとした架空の王だと言えるでしょう。

 

歴史書としての評価はイマイチですが、ここから中世アーサー王文学が始まることになります。
(ジェフリーが偽史書として『ブリタニア列王史』を書いた理由については割愛します 笑)

 

気になる内容ですけれども、アーサー王VSサクソン人、アーサー王VSローマの戦いなど、外敵との戦いがメインとなっていて、円卓の騎士たちの冒険譚は描かれていません。
そもそも「円卓」という言葉が出てきません 笑

 

ただ、アーサー王物語の大枠はここでほぼ出来上がっています。以下にまとめました。

《『ブリタニア列王史』で述べられている主な内容》

 

〇先王ウーサーの謀殺

 

〇アーサーとグィネヴィアの結婚

 

〇エクスカリバーを使用

 

〇ガウェイン、モルドレッド、ケイ、ベディヴィアらが部下の騎士として登場

 

ここでのモルドレッドはアーサー王の不義の子ではない

(アーサー王の妹アンナとロット王の息子が、ガウェインとモルドレッド)

 

※ランスロットやトリスタン、パーシヴァルなどは登場しない

 

※聖杯探索のくだりはない

 

〇アーサー王がローマ遠征をしている時にモルドレッドが反逆

 

※モルドレッドは王位だけでなく王妃グィネヴィアをも奪おうとする
今日知られている物語では、グィネヴィアと密通したランスロットを討伐するため、アーサー王がブリテンを離れている時にモルドレッドが反逆

 

〇モルドレッドと相討ちになったアーサー王はアヴァロンへ……

↑を読むと、「あ~大体のストーリーはできてるな」と分かりますよね。

 

そんな『ブリタニア列王史』の日本語訳が、

瀬谷幸男訳『ブリタニア列王史 アーサー王ロマンス原拠の書』 南雲堂フェニックス(2007年)

になります。

 

ちなみに現在はプレミアがついて入手困難な一冊です。と言っても歴史書の体の本なので、物語的な面白さはあんまりないですね…笑

僕は図書館でちょっと読みましたが、眠くなりました 笑

 

読む場合は、『ブリタニア列王史』を物語化した『アーサー王の生涯』の方が良いと思います。

 

 

『マーリンの生涯』

こちらについてはほんとにザックリ書きます!笑

ジェフリーの書いた『マーリンの生涯』では、今のイメージとは大きく異なるマーリンが登場します。
(原題は『メルリヌス伝』。「メルリヌス」はマーリンのラテン語名)

 

ここではなんと、マーリンはある戦いの後に、気の狂いを起こし森で野人のように暮らしていました。

ただ持ち前の予言能力は健在で、アーサー王はアヴァロンで治癒されると宮廷で告げています。

 

『マーリンの生涯』はアーサー王物語の発展においてそこまで重要ではない…と僕は勝手に思ってるんですが、アヴァロンについての記述があるため今回取りあげました。

 

日本語訳を読む場合、全訳した論文がPDFで公開されているのでそちらを当たると良い(本もあります)でしょう。やはり中々クセのある文ではありますが…笑

 

京都大学学術情報リポジトリ

六反田収 Kyoto University Research Information Repository: ジェフリー・オヴ・マンマス 『メルリーヌス伝』(訳)(1) 
『英文学評論』第41巻(1979年)

 

六反田収 Kyoto University Research Information Repository: ジェフリー・オヴ・マンマス : 『メルリーヌス伝』(訳)(2)
『英文学評論』第43巻(1980年)

 

 

②『アーサー王の生涯』|伝説の「物語化」

作者:ヴァース

国:フランス

成立年代:1155年ごろ

 

先ほどの『ブリタニア列王史』を「物語化」したものが『ブリュ物語』で、その内のアーサー王の部分だけを日本語訳したものが『アーサー王の生涯』として出版されています。

 

『ブリタニア列王史』はラテン語で書かれていますが、それを(聴衆が受け入れやすい)フランス語に翻訳し、他にも文の書き方を変えることなどによって「物語化」したのです。

 

この作品のポイントは「円卓」について初めて言及されたことです。
円卓の騎士、という要素は『アーサー王の生涯』から生じたと言えるでしょう。

なお、(当然ではありますが)ストーリーの流れについては『ブリタニア列王史』とそう変わりません。

 

日本語訳がこちら。


フランス中世文学名作選
(Amazonへのリンクです)

 

この中に『アーサー王の生涯』が収録されています。ただ、高いので図書館で借りて読むのがいいと思います 笑

 

そして、肝心の(?)物語としての面白さですが、現代人の感覚からするとやはり読みにくいところはありますね……。
(中世文学に慣れれば多少読めなくもない??という感じです…笑)

 

 

③『トリスタン物語』|円卓の騎士ではなかったトリスタン

作者:ベルール、トマ

国:フランス

成立年代:1165~1170年ごろ

 

さて、この項ではアーサー王物語の大筋からは少し離れまして、「トリスタンとイゾルデ」について書いていきます。

 

まず、「トリスタンとイゾルデってどんな話だったっけ…」という方のために、起・承・転・結でサラッとストーリーに触れます。

 

起:マルク王は、イゾルデという姫君と結婚することを決めた。

 

マルク王の命を受けたトリスタンは、イゾルデを迎えるため出立する。イゾルデは、迎えに来た時負傷していたトリスタンを治療した。

(このイゾルデは金髪のイゾルデとも呼ばれています)

 

承:国への帰路の途中、船内でトリスタンとイゾルデは誤って愛の秘薬を飲んでしまい、互いに恋慕する気持ちを持つようになる。

 

転:イゾルデはマルク王と結婚。しかしトリスタンはイゾルデへの思いを胸に秘めたまま。ふたりは密会を重ねるが、露見しトリスタンは追放されてしまう。

 

その後トリスタンは同じ名を持つ別のイゾルデと結婚する。

(区別するため、こちらのイゾルデは白い手のイゾルデと呼ばれます)

 

結:しかしトリスタンはもうひとりのイゾルデを、終ぞ愛することができなかった。

ある時戦いで重傷を負ったトリスタンは、かつてのように、金髪のイゾルデによる治癒を望み、その旨を伝える使者を送り出した。

 

使者が船で帰ってくる際、彼女を伴っていれば白い帆を、そうでなかったならば黒い帆を揚げるようトリスタンは頼んでいた。

戻ってくる船を陸地から認めた時、そこには白い帆が揚げられていた。しかし衰弱していてそれが見えないトリスタンは、白い手のイゾルデに、「何色の帆だ?」と尋ねる。

 

イゾルデはこう答えた。「——黒い帆です」と。

 

彼女は、自分を愛さなかったトリスタンを恨み、嘘をついたのだ。

金髪のイゾルデが現れることはない、と絶望したトリスタンはそのまま命が尽きてしまう。トリスタンの元へと辿り着いたイゾルデは、彼の死を知ると悲しみに打ちひしがれ、亡骸に寄り添ったまま息絶える。

 

こうしてふたりは、死してようやく結ばれたのだった——

 

 

……結だけやたら長くなってしまいました。好きなんですよね、この話が…笑

 

ヨーロッパでも絶大な人気を誇る悲恋物語です。1165~1170年ごろにベルールトマなどによって送り出された『トリスタン物語』が(日本では)特に知られています。

 

最初のまとめ図には載せませんでしたが、

アイルハルトによる『トリストラントとイザルデ』(ドイツ、1170年)
ゴットフリートによる『トリスタンとイゾルデ』(ドイツ、1210年)

なども有名です。

 

なお、円卓の騎士として知られているトリスタンですけれども、この時点ではまだ騎士団に加わっていません。

後の作品でアーサー王物語に組み込まれることになる(『散文トリスタン』)のですが、そのパターンは日本語訳が出ていないので説明を割愛します 笑

 

先に挙げたベルールやトマらの作品は日本語訳が出ていて、

『フランス中世文学集1 信仰と愛と』 白水社(1990年)に収められています。

しかし、こちらは韻文(詩のような形式)で訳されているので、初めて読むには少々ハードルが高いです。

 

ゴットフリートの方も日本語訳があります。

石川敬三訳『トリスタンとイゾルデ』 郁文堂(1976年)で、訳は散文(詩でない普通の文章)なので読みやすいと思います。

が、こちらの問題点は、未完であるということ。ゴットフリートは作品を完成させる前に亡くなったといいます。

 

韻文や未完の作品を最初に読むのはちょっとおすすめできないかな~と僕は思っています。

そこで候補になるのがこちらです。


トリスタン・イズー物語 (岩波文庫)
(Amazonへのリンクです)

 

この『トリスタン・イズー物語』は、1800年代のフランス文学研究家・ベディエが、先ほどのベルールやゴットフリートらの作品を編集してひとつにまとめあげたものです。

 

訳は散文(普通の文章)で、しかも文庫なので買う場合はお財布にもやさしい 笑
「原典」そのものではないものの、読むならこれが良いでしょう。

 

アイルハルトのも日本語訳が出ている(小竹澄栄訳『トリストラントとイザルデ』 国書刊行会 1988年)のですが、ひとまず文庫の方を当たってみるのがおすすめです。

 

 

なお、トリスタンが円卓の騎士に加わっているパターンの物語を読む場合には、やはりトマス・マロリーの『アーサー王の死』が候補になりますね。

 

イゾルデとの悲恋の他に、円卓の騎士パロミデスとの確執と、それを乗り越えた後の友情などが描かれています。

 

 

④『荷車の騎士』と『聖杯の物語』|ランスロットと聖杯の初登場

作者:クレティアン・ド・トロワ

国:フランス

成立年代:1177~1181年ごろ

 

中世ヨーロッパ最高の物語作家であるとの評価を与えられているのが、クレティアン・ド・トロワという人物です。

彼の書いた作品は、まさにアーサー王文学が一挙に拡大する出発点と言えるでしょう。

 

クレティアンはアーサー王物語をテーマとする作品を5つ書いていますが、その内の2つ、『ランスロまたは荷車の騎士』『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』は後世への影響力が特に強く、アーサー王文学を語る上で外せない作品となっているのです。

 

と言ってもこの記事では簡潔にしか書きませんが…笑笑

(以下、書名を略して『荷車の騎士』『聖杯の物語』と表記することがあります)

 

『ランスロまたは荷車の騎士』

『ランスロまたは荷車の騎士』は、円卓の騎士ランスロットの実質的な初登場作品です。
(クレティアンの先行する作品に、ランスロットは名前だけ出てくるのですが、主役をはって活躍するのは『荷車の騎士』なので「実質的な」と書きました)

 

あ、「ランスロ」はランスロットのフランス語名です。「ット」を入力し忘れている訳ではありませんよ!笑

 

ランスロットの登場によって、アーサー王物語の構造が大きく変わっていきます。それは、物語のテーマとして《宮廷愛》が重視されるようになったということです。

 

アーサー王文学における《宮廷愛》の描かれ方をひとことでご説明しますと、「騎士が貴婦人を尊崇し、奉仕すること」になるかなと思います。

騎士は愛する貴婦人のため、あれやこれやと頑張り、貴婦人の方もまた騎士を愛し称える…というような感じです。

 

こういった男女の愛が、クレティアン以降の騎士道物語に増えていきます。『ブリタニア列王史』において国家間の戦いが物語の中心だったことを踏まえると、作風の変化が分かりますよね。

 

『荷車の騎士』では、王妃グィネヴィアとランスロットの密通も描かれます。しかし、ふたりの関係は『荷車の騎士』の物語が始まる前から既に続いていることになっています。

初登場にして、早くもグィネヴィアと密通しているランスロット……笑

 

許されぬ恋、というのはいつの時代でも人気になるテーマということが分かりますね。僕も大好きです 笑

 

では、『荷車の騎士』のあらすじを起・承・転・結で、今度こそ!サラリと!書きます 笑

 

起:王妃グィネヴィアが、何者かに誘拐される。

 

承:円卓の騎士ガウェインが救助に向かうが失敗する。同行していたランスロットも救助を試みる。

 

転:ランスロット、敵の策略によって捕まってしまう。

 

結:数々の苦難の末、グィネヴィアを誘拐していた騎士をランスロットが打ち倒し、グィネヴィアを救出する。

 

我ながら、これ本当に雑な起承転結です……話がめちゃくちゃ入り組んでてまとめられなかったんですよ…笑

また、あらすじを読むと分かりますが、ランスロットの活躍を単発で描いた作品なので、かの有名なランスロットVSガウェインの戦いはまだ出てきません。

 

なお、書名の「荷車の騎士」の所以は、道中でランスロットが馬の代わりとして荷車に乗ったことからきています。

 

この作品の見どころは、

〇ランスロットとガウェインのコンビ
〇とにかくグィネヴィアが大好きなランスロット
〇ランスロットの胸躍る活躍

になるのですが、詳しくはまた稿を改めようと思います。 

 

『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』

『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』では、アーサー王物語において重要な意味を持つ「聖杯」が初登場します。

なお、ペルスヴァルとは円卓の騎士パーシヴァルのことです。では、再び起・承・転・結を見てみましょう。

 

起:幼き少年パーシヴァル、騎士に憧れる。様々な試練を乗り越え、遂に円卓の騎士に。

 

承:漁人(いさなとり)の王は聖杯の守護者であった。しかし重傷を負っていて、聖杯の力でどうにか生き長らえていた。完璧な騎士が現れた時、その傷は癒えるという。

 

転:漁人の王の国を訪ねたパーシヴァル。しかし騎士として未熟であった彼は「聖杯の城」を見失ってしまう。もう一度探すことにしたのだが……

 

結: ? ? ? 

 

残念ながら、物語は途中で終わってしまうのです…。作者のクレティアンは、作品の完成を見ぬまま亡くなりました。

 

『聖杯の物語』では、聖杯のバックボーンについて踏み込んだ説明はありません。ここでは、聖杯とキリスト教との結びつきもまだ薄い段階です。

 

しかし未完に終わった『聖杯の物語』をきっかけとして、アーサー王物語はさらなる進展を見せることになるのです。

 

それが、

①『聖杯の物語』を完結させる作品
②聖杯のバックボーンについて語る作品

の2パターンです。

 

『パルチヴァール』 

①の中で著名な作品が、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハによる『パルチヴァール』(ドイツ、1200年)です。

まとめ図にも載せたこの作品は、中世ドイツ文学の最高傑作のひとつとされています。

 

(なんとなく分かるかと思いますが、「パルチヴァール」はパーシヴァルのドイツ語名です。ドイツ語ってかっこいいなぁ

 

細部の設定に違いはあれど、大まかなストーリーは『聖杯の物語』をなぞりつつ、さらに膨らませた物語となっています。
最後にはパーシヴァルが聖杯を手にし、聖杯王となって守護する役目に就くのです。

 

では、これらの物語を読むことができる本をご紹介します。

『ランスロまたは荷車の騎士』と『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』を収録しているのがこちら。


愛と剣と フランス中世文学集 2
(Amazonへのリンクです)

 

この『フランス中世文学集2』は400ページちょっとありますが、上記の2作品だけで300ページ以上あります 笑

 

そして、(現代人から見た)物語としての面白さですが……十分に楽しめると思います。

もちろん中世文学ならではのクセ(?)はあるものの、全然読みやすい方だと言えます。まぁ、僕が中世文学に慣れてきているのも否定できませんね…笑

 

ただし、この本もやはりプレミアがついていて入手困難なので、図書館で借りて読むようにしましょう 笑

 

『荷車の騎士』の方は、トマス・マロリーの『アーサー王の死』にも取り込まれていますが、内容がかなり短縮されている上にガウェインとコンビを組んでいません。

マロリー版もいいですがクレティアン版もぜひ……。

 

なお、ダイジェストが載っている本はいくつかあって、

『アーサー王ロマンス』 ちくま文庫
『図説アーサー王物語』 原書房

などが挙げられます。

 

できれば元の長さで楽しんでほしいのが本音ではありますけれども、図書館にも置いていなかった場合はこれらの本で読んでみてください。

冒頭にもリンクを貼った記事で、『アーサー王ロマンス』『図説アーサー王物語』について取りあげています↓

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

そして、『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』の完全版(?)と言える『パルチヴァール』の日本語訳がこちらです。


パルチヴァール (1974年)
(Amazonへのリンクです)

 

…はい、そして例に漏れずこちらの本も入手困難なので図書館で借りましょう……笑
1974年出版なので古く感じられるかもしれませんが、けっこう読みやすいです。

 

 

⑤『魔術師マーリン』と『聖杯由来の物語』|聖杯のキリスト教化

作者:ロベール・ド・ボロン

国:フランス

成立年代:1200年ごろ

 

さて、もう少し記事は続きます!!ここまで読んでくださっている方はいらっしゃいますか、、、、笑

 

『聖杯由来の物語』

先ほどの『聖杯の物語』の項で、物語が未完だったために、

①『聖杯の物語』を完結させる作品
②聖杯のバックボーンについて語る作品

の2パターン生まれたというお話をしました。

 

①は『パルチヴァール』で、②がロベール・ド・ボロンによる『聖杯由来の物語』です。

 

『聖杯由来の物語』は、『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』の言わば前日譚となっていて、聖杯についての詳細な描写があります。
あ、『聖杯の物語』と『聖杯由来の物語』という、似たような書名なので両者を混同しないようご注意ください 笑

 

そしてこの作品によって、聖杯のキリスト教化が強まるのです。

『聖杯の物語』にて聖杯が何であるか詳細は語られませんでしたが、『聖杯由来の物語』では聖杯=「(ヨセフという人物が)キリストの磔刑の際にその血を受けた器」ということになっています。

 

『聖杯由来の物語』では、ヨセフの行動や聖杯の奇蹟などが中心に書かれていて、アーサー王物語関係者は全然出てきません。

 

日本語訳はこちら。大分前にご紹介した『アーサー王の生涯』も収録されている本です。


フランス中世文学名作選
(Amazonへのリンクです)

 

まぁ…あくまで僕一個人の意見ですが、『聖杯由来の物語』はそこまでアーサー王ものっぽくないので、読まなくてもいいかなぁ…と思ってたりもします。

僕自身、図書館で軽く読みましたがあまり楽しめなかったので…笑

 

『魔術師マーリン』

ロベール・ド・ボロンの著した作品には、他に『魔術師マーリン』があります。こちらはタイトル通りマーリンの物語となっていて、 

〇マーリンの誕生

 

〇ヴェルティジエ(ヴォーティガーン)王とのエピソード

 

〇先王ユテル(ウーサー)とのエピソード

 

〇アーサー王の誕生

 

〇アーサー王の戴冠

までが描かれており、一般的なマーリンのイメージに沿った話だと言えるでしょう。
そして何より、この作品ではあの「石に刺さった剣」が初登場するんです。

 

そう、若きアーサーが、先王ウーサーの死後、王位継承者であることを示すため引き抜いた剣ですよ…!!

 

そんな『魔術師マーリン』の日本語訳がこちら。


西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン (講談社学術文庫)
(Amazonへのリンクです)

 

アーサー王物語の「原典」の日本語訳には珍しく文庫です。なので入手しやすい!kindle版もあります!(2020年8月現在)

しっかりアーサー王ものなので、『聖杯由来の物語』と違っておすすめしたい一冊です。

 

 

⑥ランスロ=聖杯サイクル|ガラハッドの初登場

作者:不詳

国:フランス

成立年代:1215~1230年ごろ

 

今度は何やらよく分からない用語が出てきましたね 笑

 

「ランスロ=聖杯サイクル」とは、1215~1230年ごろに書かれたアーサー王伝説の物語群のことです。

「流布本サイクル」や単に「流布本」と呼ばれることもあります。「流布」とつく通り、このサイクルの作品によってアーサー王伝説が広くヨーロッパ中に広まることになるのです。

 

ここに含まれる作品を3つとする括り方と、5つとする括り方があるのですが、面倒くさいのでこの記事では前者を採用しています。

 

すなわち、

〇『ランスロ本伝』
〇『聖杯の探索』
〇『アーサー王の死』

の3作品です。
(※3つ目の『アーサー王の死』は、トマス・マロリーの書いたものとは別です)

 

ランスロ=聖杯サイクルの作品は、先ほどまでに出てきた、『トリスタン物語』『荷車の騎士』『聖杯の物語』等々を大体取り込んでいます。

 

その上で、アーサー王の治世の始まりから終焉までを描いているため、トマス・マロリーによる『アーサー王の死』の元ネタとして非常に重要な位置にあります。

 

3作品の中では『ランスロ本伝』が最も分量が多く、ランスロットとグィネヴィアの禁じられた愛や、円卓の騎士たちの活躍が描かれている……んですが、なんと日本語訳がありません(泣)

 

なんでないの…!!めちゃくちゃ重要な作品なのに…!!

僕含め多数のアーサー王伝説ファンが、『ランスロ本伝』の日本語訳を渇望している状態です 笑

 

『聖杯の探索』 

この嘆きはひとまず置いておきまして、残りの『聖杯の探索』『アーサー王の死』は日本語訳が出ています。

 

『聖杯の探索』がこちら。


聖杯の探索: 中世フランス語散文物語
(Amazonへのリンクです)

 

この作品では、ガラハッドが初登場し、聖杯に至る唯一の騎士として描かれます。

『パルチヴァール』ではパーシヴァルが聖杯を手に入れていましたが、ここでポジションチェンジが起きてしまいます。かわいそうなパーシヴァル、、、、笑

 

ガウェインやランスロットたちも聖杯探索に臨みます。しかし、ことごとく失敗。
例えば、ランスロットが失敗した理由として、「罪深さ」を作中で指摘されます。(グィネヴィアとの不義のことですね)

 

『聖杯の探索』にはキリスト教の影響が色濃く見られるため、それまでの「罪深い」円卓の騎士たちでは聖杯探索をなし得ない…という訳で、「清らな」ガラハッドが登場する訳です。

宗教的メッセージも随所に散りばめられており、具体的には、修道院の隠者による騎士たちへの宗教的な叱責や教えの数々が挙げられます。

 

正直なところ、宗教的訓戒の部分は好みの別れそうな部分ですね…笑

 

『アーサー王の死』

そして『聖杯の探索』の続きにして、ランスロ=聖杯サイクルの最後を締めくくるのが、(マロリーのではない方の)『アーサー王の死』になります。

 

この作品の終盤には、円卓の騎士団の崩壊やランスロットVSガウェインなど、よく知られているエピソードがてんこ盛りです。

特にガウェインの最期はもう、読んでるとつらくなります、、、、笑
ランスロットVSガウェインの戦いについては、また別の機会に詳しくお話しします。

 

日本語訳はこちら。


奇蹟と愛と フランス中世文学集 4
(Amazonへのリンクです)

 

570ページほどある本書の内、半分くらいの分量が『アーサー王の死』です。
『聖杯の探索』はあまりピンと来なかった僕ですが、こちらは良かったです。

 

そして、「また?」という感じですが、『聖杯の探索』も『フランス中世文学集4』も大体プレミアがついているので図書館で借りましょう…笑

 

 

おわりに

アーサー王物語の集大成であるトマス・マロリーの『アーサー王の死』については、言うに及ばずだと思いますので割愛しました 笑

 

もう一度「原典」のまとめ図をここに貼っておきます!

f:id:Aura_13:20200823213635p:plain

『アーサー王神話大事典』などに基づき作成

記事の内容を踏まえれば、きっとこの図の意味が分かるのではないでしょうか…!笑

 

そして最後に、この中での僕の私的おすすめ本を列挙しておきます。 

『トリスタン・イズー物語』岩波文庫

→トリスタンとイゾルデ

 

『フランス中世文学集2』白水社

→『ランスロまたは荷車の騎士』『ペルスヴァルまたは聖杯の物語』

 

『パルチヴァール』郁文堂

→パーシヴァルによる聖杯探索

 

『西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン』講談社学術文庫

→アーサー王物語の言わば前日譚

 

『フランス中世文学集4』白水社

→ランスロ=聖杯サイクル(流布本)の『アーサー王の死』

 

『アーサー王物語Ⅰ~Ⅴ』筑摩書房

→一番有名なトマス・マロリー版

 

長い記事になってしまいましたが、これを契機としてめくるめくアーサー王物語の世界に浸っていただければ幸いです。

そして僕と一緒に、『ランスロ本伝』の日本語訳が出ることを願っていただければと思います!笑

 

 

【関連】
アーサー王伝説の、言わば主流の「原典」ではありませんが、そのひとつに数えられている『マビノギオン』について書いた記事です。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 このブログ内の、アーサー王伝説の記事まとめです。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

参考文献

〇アンヌ・ベルトゥロ著 松村剛監修『アーサー王伝説』創元社(1997年)

〇マーティン・J・ドハティ著 伊藤はるみ訳『図説アーサー王と円卓の騎士』原書房(2017年)

〇ローナン・コグラン著 山本史郎訳『図説アーサー王伝説事典』原書房(1996年)

〇フィリップ・ヴァルテール著 渡邉浩司/渡邉裕美子訳『アーサー王神話大事典』原書房(2018年)

〇国際アーサー王学会 日本支部オフィシャルサイト http://arthuriana.jp/

 

 

竹町『スパイ教室01 《花園》のリリィ』感想・レビュー

新感覚の「スパイ×教官もの」

 

どうも、トフィーです。
今回は『スパイ教室01 《花園》のリリィ』について紹介していきます。
第32回ファンタジア大賞に選ばれた作品です。


豪華キャストを起用したpvの作成や、雑誌の表紙を飾るなど、今ファンタジア文庫が猛プッシュしています。
そういった要因から、そしてなにより本作が面白いことから、SNSでもよく取り上げられていて、今まさに勢いに乗っています。
順調にいけば、アニメ化もありえるのではないかと思います。


スパイ教室01 《花園》のリリィ (富士見ファンタジア文庫)

 

1.あらすじ

陽炎パレス・共同生活のルール。一つ、七人で協力して生活すること。一つ、外出時は本気で遊ぶこと。一つ、あらゆる手段でもって僕を倒すこと。―各国がスパイによる、影の戦争を繰り広げる世界。任務成功率100%、しかし性格に難ありの凄腕スパイ・クラウスは、死亡率九割を超える“不可能任務”専門機関―灯―を創設する。しかし、選出されたメンバーは実践経験のない七人の少女たち。毒殺、トラップ、色仕掛け―任務達成のため、少女たちに残された唯一の手段は、クラウスに騙し合いで打ち勝つことだった!?一対七のスパイ心理戦!第32回ファンタジア大賞“大賞”作の痛快スパイファンタジー!!

引用:スパイ教室01 《花園》のリリィ (富士見ファンタジア文庫)

 

2.『スパイ教室01 《花園》のリリィ』感想・レビュー

 

a.評価と情報

評価:★★★★☆
ファンタジア文庫
2020年1月刊行 
第32回ファンタジア大賞「大賞」を受賞

 
『スパイ教室』は、ファンタジア大賞《大賞》に選ばれた作品です。
作者は竹町先生、イラストはトマリ先生。
受賞時は『スパイは甘く誘惑される。学校全員の美少女から』というタイトルで、公開されているあらすじを見ると、内容もまったく違うものでした
気になる方は以下をご覧ください。
富士見書房ファンタジア大賞WEBサイト
凄まじいほどの大改稿ですね。

 

この記事の冒頭でも紹介した通り、ファンタジア文庫が非常に力を入れている作品です。

b.作品内容

ギャグもバトルも楽しめる一冊でした。
キャラクターも魅力的で、メインヒロインのリリィもライトノベルらしく可愛らしい女の子として描かれています。
ポンコツかわいい。

 

本作は、「教官もの」の一種といえるのでしょうか。
『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』『アサシンズプライド』(どちらもアニメ化済み)など、ファンタジア文庫が得意とするジャンルですね。

 

凄腕のスパイ・クラウスが、落ちこぼれの少女たちを育てあげて、不可能任務に挑むというストーリーなのですが……。
クラウスの教え方には、少々、いやかなり問題があったのです。
具体的には以下の通り。

「鍵はこのように―良い具合に開けろ」

(中略)
「……まさか、理解できないのか?」

(中略)
「……大サービスだ。今後の授業予定を教えよう。交渉『美しく語れ』編と、戦闘『とにかく倒せ』編、変装『割となんとかなる』編だが、ついていけそうか?」

引用:『スパイ教室01 《花園》のリリィ』

 \(^o^)/オワタ

このクラウス、恐ろしいほどに教師としての才能がないのです!
彼は超感覚派の天才肌。
引用の通り、フワッフワな教え方しかできません。
これを問題視したリリィは、先生を誘い出してひと悶着おこすわけですが、彼はそれによって妙案を思い浮かべます。

それは、あらすじでも触れられている通り、「全員で協力して、クラウスに打ち勝て」という超実戦形式の教育方針
これが功を奏します。
凄腕スパイを相手に、彼女たちは何度も何度もあしらわれ、見破られ、返り討ちにあってしまいますが、着実に成長していき団結を深めていくことになるのです。

 

そうして迎えた不可能任務。
実力を伸ばし、結束を深めたクラウスと少女たちの活躍は手に汗握るものとなっていて、まさに「極上」なストーリーとなっています。
また、前半部で散りばめられた伏線が、後半で回収されていくときの爽快感もすばらしかったです。

 

欠点はキャラクター数が多く、覚えにくいことでしょうか。
ただこれに関しては、ある理由から一概に欠点といえるものでもなく、単純に評価することは難しいですが。(それにスパイは、基本的には目立ってはいけませんしね!)
あまり活躍の場のないキャラクターもいるので、次巻以降に期待しましょう。

 

www.kakidashitaratomaranai.info

この先には重大なネタバレが含まれています。
未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.『スパイ教室01 《花園》のリリィ』ネタバレありの感想

7人だと思っていた少女が8人いた。
終盤の見せ場として、そういった叙述トリックが使われている作品でした。

……が、正直なところかなりわかりやすかったです。
その手の仕掛けに鈍いぼくでさえ、気がつくほどのものでしたから。
というのも前半挿絵で描かれていたキャラクターが、集合カラー絵にいなかったのですから……。

 

叙述トリックのために、この作品ではキャラクターが覚えにくいつくりにされているのでしょうが、そのせいでカラー絵を何度も何度も見てしまう。
だから「あれ、この子カラー絵にいなくね……? ていうか7人じゃなくて8人じゃね?」という感じであっさりと見抜けてしまったわけです。

 

物語が悪い、イラストが悪いというわけでは決してなく、むしろどちらも完成度が高い作品ではあるのですが、ライトノベルであることが裏目に出てしまっていた珍しいパターン。
そういった点から評価は★4に留めました。

 

ただ、他の部分はクオリティが高く、叙述トリックを抜きにしてもうまい作品であったことは事実です。
スパイものというのが、個人的な好みにヒットしていたこともあり、非常に楽しむことができました。
すでに続巻も登場しているので、そろそろ読んでいきたいところ……。

 

 

また他にも、色々な作品のレビューをしています。
もしよければご覧ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

 

『文豪どうかしてる逸話集』が面白い|文豪たちの笑えるエピソード

 

ガンガン読書したいなぁと思いつつペースがのろいAuraです。なんというか特に物語は、コンディションが万全な状態かつ、たっぷり時間が取れないと、「読もう!」って気が起こらないんですよね…笑

 

そんな読書家とは言い難い僕が今回ご紹介しますのは、『文豪どうかしてる逸話集』です。


文豪どうかしてる逸話集
(Amazonへのリンクです)

いかにも文豪の本らしい表紙デザインがいいですね 笑

 

夏目漱石や芥川龍之介ら「文豪」というと、「難しく高尚な文学作品を生み出した人たち」というイメージが浮かぶかと思います。

 

しかし『文豪どうかしてる逸話集』には、僕たちとそう変わらない(いい意味で?)人間くさい逸話が数多く載っています。
お酒にお金に女と、なんだか俗っぽくて笑えるエピソードを知ると、文豪たちが身近に感じられるとともに、作品への興味も俄然高まるかもしれません。

 

作者の進士素丸(しんじすまる)さんのお言葉を借りましょう。

「素晴らしい作品を生む人間が必ずしも素晴らしい人間とは限らないし、またそうある必要もないのです」

出典:進士素丸『文豪どうかしてる逸話集』

 

 

本の構成

『文豪どうかしてる逸話集』の目次及び、扱われている文豪は以下の通りです。

第一章 太宰治を取り巻くどうかしている文豪たち
~太宰治・檀一雄・坂口安吾・志賀直哉・中原中也・宮沢賢治~

 

第二章 夏目漱石一門と猫好きな文豪たち
~夏目漱石・芥川龍之介・室生犀星・正岡子規・内田百間~ 

 

第三章 紅露時代の几帳面で怒りっぽい文豪たち
~尾崎紅葉・泉鏡花・田山花袋・国木田独歩・幸田露伴・淡島寒月~ 

 

第四章 谷崎潤一郎をめぐる複雑な恋愛をした文豪たち
~谷崎潤一郎・佐藤春夫・永井荷風・江戸川乱歩・森鴎外~

 

第五章 菊池寛を取り巻くちょっとおかしな文豪たち
~菊池寛・直木三十五・川端康成・横光利一・梶井基次郎~

出典:進士素丸『文豪どうかしてる逸話集』

 

これだけ多くの人が載っているので、好きな作家や聞いたことのある作家は大体カバーしているのではないでしょうか。

しかし、みんな「どうかしてる逸話」があるということなんですね…笑

 

文豪ごとに、

①プロフィール

②代表作

③「どうかしてる逸話」2~3つ

が簡潔にまとめられています。本全体での「どうかしてる逸話」の収録数は約50です。めちゃくちゃありますね 笑
また、各章の初めには文豪同士の人間関係図も掲載。

 

書名からも十分伝わるかと思いますが 笑、分かりやすい文体でゆる~く書いてあるので、とても手軽に楽しめます。

例えば、夏目漱石のプロフィールをここに載せますと……

f:id:Aura_13:20200813200718j:plain

©進士素丸/KADOKAWA

出典:進士素丸『文豪どうかしてる逸話集』

 

イラストのタッチといい、文中で現代風に書かれたセリフといい、取っつきやすいですね 笑

「代表作」の方を見れば、「この作品はこんな話だったっけ、面白そうだなぁ」と次に読む本が決まるきっかけになるかもしれません。

 

そしてこの本のメインである「どうかしてる逸話」
僕が個人的に気に入ったエピソードをご紹介しようと思います。

 

酔っぱらった中原中也、太宰治にウザ絡みをする

詩人・中原中也と言えば、『汚れっちまった悲しみに』が特に知られているでしょう。

汚れっちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れっちまった悲しみに
今日も風さえ吹きすぎる

(後略)

 

あとは、高校国語で習うことがある『一つのメルヘン』ですね。

秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射しているのでありました。

(後略)

 

昔、僕はこれらの詩を読んで、「中原中也すげぇ、見えてる世界が違う…繊細な感覚の持ち主なんだろう…」と思ったものです。

 

いえ、繊細な精神世界を内に広げていることは間違いないのですが、私生活は豪快で面白過ぎました 笑 

太宰と檀と中也の3人で飲んでいた時のこと。いつものように絡んでくる中也にうんざりした太宰は家に逃げ帰ってしまう。

 絡み足りない中也は檀の静止を振り切って、太宰の家まで押しかけて、「起きろ!ばーか、ばーか!」
 と、太宰の枕もとでわめき散らす。そして、なにも言い返すことができず布団の中で怯えている太宰。

 

f:id:Aura_13:20200813200937j:plain

©進士素丸/KADOKAWA

出典:進士素丸『文豪どうかしてる逸話集』

 

中也、完全にやってることがヤンキーですね 笑
しかも「いつものように絡んでくる」って、どんだけ酒癖悪いんですか、、、笑

布団で怯えている太宰の姿もまた滑稽。最終的に、中也は檀一雄に投げ飛ばされたそうです。

 

高校の『一つのメルヘン』の授業で、このエピソードも一緒に教えたら、難しく思われがちな詩にも興味を示してくれるかもしれません。
いや、むしろ詩の内容が入ってこなくなる…?笑

 

芥川龍之介と夏目漱石、職務質問をされた時にふざける

芥川も漱石も、めちゃくちゃ有名な文豪ですよね。
芥川は『鼻』『羅生門』『蜘蛛の糸』、漱石は『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『こころ』などが代表作と言って良いでしょう。

 

どれかひとつやふたつは読んだことのある方が多いかと思います。
ベタですが僕は『こころ』が大好きです。「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という言葉、うーん刺さりますね 笑

 

人間のエゴイズムを鋭く描き出す作品が多いふたり。そこから窺い知れる近代的知識人の苦悩というのは、現代人の僕らでも分かるところがあると思います。

 

が、そんな芥川と漱石にもやんちゃなところがありました。

近所で起こった火事をふたりで見に行った帰り道、警察官に職務質問をされ…

 芥川と漱石は、警察官からの「どこから来た?」という簡単な質問に「家はあっちだから、あっちから来たとも言えるし、でも、火事場はこっちだから、こっちから来たともいえるし…」などと答えていると面倒くさいヤツ認定をされ、「行ってよし!」と言われるも「署まで行きますよ!興味あるし」みたいなことを言って、警察官を困らせ面白がったのであった。

 

f:id:Aura_13:20200813201106j:plain

©進士素丸/KADOKAWA

出典:進士素丸『文豪どうかしてる逸話集』

 

警察官相手にふざける度胸がすごいです 笑
今やったら、どんなリアクションされるんでしょうね…パトカーの中で尋問…??

 

「署まで行きますよ!興味あるし」なんて、小学生の社会科見学の気分で言ってるやつですよ、絶対。

 

ずっとこれくらい気楽に(?)生きていられたら、芥川も漱石も作風が全く異なっていたかもしれません。(まぁそうなると『こころ』などは書かれていなかったでしょうが)

 

あと、「あっちとも言えるし…こっちとも言える…」っていう、芥川みたいな面倒くさい言い回しをする僕の友人が、何を隠そうこのブログの共著者・トフィーです 笑

彼は文豪では芥川が好きだと言ってましたが、なるほど、このエピソードをリスペクトしてたのか……()

 

おわりに

自分語りと身内ネタが大分混ざってしまいましたが 笑、『文豪どうかしてる逸話集』の魅力は十二分に伝わったかと思います。

 

文豪のプロフィール、代表作、関係図が分かりやすくまとめられ、何より終始愉快なエピソードが盛りだくさんの本書を、みなさんも是非手に取ってみてください。

 

【参考】
『文豪どうかしてる逸話集』は、進士素丸さんの書いた記事が、加筆され書籍化したものです。他のエピソードも気になる方は、こちらもご覧ください。

www.ou-en-za.com