書き出したら止まらない

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スニーカー大賞金賞『腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~』感想

お久しぶりです、トフィーです。

 

前回の記事更新からずいぶんと月日が経ってしまいました。

久々のブログ記事の更新で、感想の書き方を忘れつつあります……。

 

ただ幸いにも(?)ブログを書いていない間も、ライトノベルや漫画やアニメや映画にはたくさん触れてはいましたので、ネタは豊富にあります。

今回はそんな大量の物語たちのうち、昨年読んだライトノベルのなかでも、個人的に特にオススメさせていただきたい1冊を紹介させていただきます。

 

それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

 

1.あらすじ

ネタバレに触れない範囲でサラッと概要を説明すると……。

「陸軍に所属する悪魔祓師(エクソシスト)の少年と、腕を無くした大悪魔の少女が契約を結び、明治の時代に蔓延る魑魅魍魎(ちみもうりょう)たちと戦う物語」

と言った感じでしょうか。

 

また、あとがき情報ですが、作者の明治サブ先生曰く、主題はあくまでも「弩(ど)ヱロ可愛い可愛いサキュバスお姉さんと年下の少年による、おねショタ恋愛新喜劇(ラブコメディ)」とのこと。

「このタイトル、このあらすじ、この表紙でおねショタラブコメ⁉」と思われる方もいるかと思いますが、読んだ自分の感想としては間違ってはいないと思います。

 

詳細なあらすじは、以下の通りです。

 

スニーカー大賞〈金賞〉悪魔祓師の少年と悪魔の少女、その出逢の果ては――

◇明治三十六年十一月一日/神戸外国人居留地
悪魔祓師の神童・皆無は、軍の任務中に心臓を貫かれ致命傷を負った。死にゆくなか、どこからか心地よい声が響く。

「人の子よ、そなたに第二の心臓を呉れてやろう。その代わり――予と煉獄の先の覇道へ、ともに征こうぞ」
現れたのは、天使とすら見紛う少女・璃々栖。「七つの大罪」に名を連ねる悪魔で――そして、彼女には腕が無かった。
悪魔の力と引換えに、璃々栖と一蓮托生の命となった皆無。二人の旅路の果ては、煉獄での終焉か、未来を掴む覇道か――

明治悪魔祓師異譚『腕を失くした璃々栖』、ここに開幕す。

引用:https://amzn.to/3Xc4Ye7

 

2.感想・レビューなどなど

個人的評価:★★★★★
作者:明治サブ先生
イラストレーター:くろぎり先生

刊行レーベル:スニーカー文庫
2022年12月1日発行
第27回スニーカー大賞 《金賞》受賞作

 

さて、感想・レビューに移りましょう。
『腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~』ですが、以下のような方には非常にオススメな作品です。

  • 厨二バトルものが好き
  • 男女バディものや、ボーイーミーツガールが好き
  • 最近の流行りとはまた違った面白いライトノベルを読みたい
  • 「和風ファンタジー」や「ダークな雰囲気の物語」が好き

 

またあらかじめ告白しておくと、試し読みなどで冒頭数ページに触れていただけるとわかるのですが、序盤から中二的な用語をゴリゴリに載せまくった文章で正直に言うと読みにくさを感じはします。

 

ただ、そこを乗り越えたらかなりハマれる面白い作品でした。

「今年(2022年)読んだラノベのなかで一番面白かった」と言っていた知人が数名いるのですが、それも納得。

個人的にもトップ3に入るくらいにハマった作品で、続刊を切望しています。

 

ですので、本作に興味をお持ちの方は、まずは璃々栖(リリス)との出会いの場面まで読み進めてみてください。

 

では、ここから『腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~』のなかで、個人的に特にここに惹かれたという点をピックアップしていきます。

 

 

キャラクターが魅力的

主人公の皆無(かいな)とヒロインの璃々栖(リリス)の両キャラクターとも立っていて、とても魅力的でした。

 

まずは主人公の少年、阿ノ玖多羅 皆無(あのくたら かいな)

彼の父、阿ノ玖多羅 正覚(あのくたら しょうがく)は、日本最強の悪魔祓師(エクソシスト)で、そんな父を持つ子どもとして複雑な感情を抱えています。

 

けれども皆無自身も優秀で、周りと比べて幼いながらも少佐の階級まで昇りつめた神童です。

それがまた彼の立ち位置を複雑にしてしまってはいるのですが、様々な葛藤を抱えながらも、璃々栖(リリス)と出会い、共に戦っていくなかで成長していく彼の姿は非常にかっこよかったです。

 

 

次に悪魔の姫、璃々栖・弩・羅・阿栖魔台(リリス・ド・ラ・アスモデウス)

本作のヒロイン・璃々栖(リリス)ですが、出会った時にはそこはかとなく不気味で、主人公からすれば恐ろしくはあるものの、見るものを惹きつける魅力があり、けれどもやはり討伐すべき対象でした。

 

そんな彼女も物語が進むにつれて、逞しいところや可愛らしいところなど新たな顔を見せてきて、全6章中の第2章の段階ですっかり虜になってしまっていました

不気味だけど魅力的カッコイイけど可愛らしい逞しいけれども守ってあげたくなるなど、色んな感情を湧き起こさせてくれるヒロイン力の高いキャラクターでした。

 

 

他にも先ほどチラッと名前を出した父の正覚や、主人公の先生・愛蘭(エイラム)、リリスの近衛の悪魔・聖霊(セアル)など魅力的なキャラクターがたくさん登場しています。

またくろぎり先生によるカラーイラストが非常に美麗なのも、非常によきよきで相乗的に魅力を引き立たせていました。

 

 

情報の出し方/伏線回収が熱い

次に言及したい点として、怒涛の伏線回収が熱かったです。

 

具体的に語ってしまうとネタバレになってしまうので詳細については触れませんが、大きなものから小さなものまで含めて、「あ、あの時の台詞や設定が生きてくるのか!」という箇所が随所にあり、爽快感がありました。

 

終盤まで読むと、本当に設定に無駄がなく、緻密に組み上げられた物語だったなあ……と思いました。

 

 

1冊でエピソードが綺麗にまとまっている

1巻内で綺麗に一つのエピソードが完結していて、読み応えがありました。

ストーリーもいい意味で王道的なパターンのもので盛り上がりポイントが何点かあり、飽きを感じにくい構成でした。

 

1章で出会い、2章でラブコメパートを経て、そこから物語が目まぐるしく変化していきます。

各パートそれぞれに楽しみどころがありつつ、それらのパートでのシーンが次の章でのドラマに繋がっているので、キャラクターの心情にも納得できるし、物語への没入感もページが進むごとに上がっていきました。

そういったこともあり、しっかりと筋の通った物語を読みたいという方には非常におすすめです。

 

 

以上が『腕を失くした璃々栖 ~明治悪魔祓師異譚~』の感想です。

ここまで読み進めていただき、ありがとうございます。

 

 

以下に、本作とあわせてオススメしたい作品の感想記事を載せていますので、作品探しの参考に活用いただけると幸いです。

 

・硬派な雰囲気のバディものです。

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・近未来を舞台に繰り広げるダークなバディもの。

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・王道的な熱いバトル&圧倒的なボーイーミーツガールです。

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・こちらは、よりダークなファンタジーを読みたい方におすすめです。

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【このラノ4位】八目迷『ミモザの告白』感想|彼が彼女になる物語

 

性自認と偏見の目

 

どうも、トフィーです。

 

今日は、八目迷先生の『ミモザの告白』について紹介させていただきます。
前作、前々作も心揺さぶる物語でしたが、今作もかなり衝撃的な一冊でした。

 

 

 

 

1.あらすじ

その告白が、世界を変える。

とある地方都市に暮らす冴えない高校生・紙木咲馬には、完璧な幼馴染がいた。
槻ノ木汐――咲馬の幼馴染である彼は、イケメンよりも美少年という表現がしっくり来るほど魅力的な容姿をしている。そのうえスポーツ万能、かつ成績は常に学年トップクラス。極めつけには人望があり、特に女子からは絶大な人気を誇っている――。

幼馴染で誰よりも仲がよかった二人は、しかし高校に進学してからは疎遠な関係に。過去のトラウマと汐に対する劣等感から、咲馬はすっかり性格をこじらせていた。

そんな咲馬にも、好きな人ができる。
クラスの愛されキャラ・星原夏希。彼女と小説の話で意気投合した咲馬は、熱い恋心に浮かれた。
しかしその日の夜、咲馬は公園で信じられないものを目にする。

それはセーラー服を着て泣きじゃくる、槻ノ木汐だった。

 

『夏へのトンネル、さよならの出口』『きのうの春で、君を待つ』で大きな感動を呼んだ<時と四季>シリーズのコンビ、【八目迷×くっか】が挑む新境地。とある田舎町の学校を舞台にした、恋と変革の物語。

引用:ミモザの告白 (ガガガ文庫)

 

 

2.『ミモザの告白』感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★★★
ガガガ文庫
2021年7月刊行
このライトノベルがすごい! 2022』文庫部門・第4位 

 

第13回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞&審査員特別賞をW受賞してデビューされた八目迷先生の3作目となる『ミモザの告白』

 

今作は、『夏へのトンネル、さよならの出口』(映画化決定!)『きのうの春で、君を待つ』や、今後発売されるであろう『秋』『冬』などの季節を含むタイトルの『四季シリーズ』とは別の位置づけの物語となります。

 

四季シリーズの感想についても、すでにブログにまとめていますのでよければこちらもご覧ください。

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また、『四季シリーズ』とは異なり2巻以降を見越しての構成になっています。
1巻だけでも十分楽しめる作品でしたが、衝撃的な終わり方をしていて続きが気になっていることもあり、2巻も購入してみようかと思っています。 

 

また『ミモザの告白』ですが、『このライトノベルがすごい! 2022』文庫部門・第4位 にランクインしました!(拍手喝采)
自分もWEB票ではありますが、1票投じさせていただいたりしているくらいには好きな作品なので、本当に嬉しいです。

 

題材的にトップ10入りは完全に予想外ではありましたが、これを機に「もっと広まってくれ~!」という感じですね。

 

※ちなみに他にどの作品に投票したのかなどは、こちらの記事で発表しています。

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b.作品内容・キャラクター

前作、前々作の感想記事でも書きましたが、何気ない情景描写や心情描写が美しくて心地よい作品でした。
文字で物語に触れることへの面白さを感じさせてくれる、非常にいい読書体験ができる1冊だったと思います。

 

『四季シリーズ』もそうでしたが、この物語では特に10代の「生きづらさ」がリアルに描かれています。

 

この物語は、主人公の咲馬、幼馴染の美少年ウシオ、クラスの愛されキャラ夏希の三人を中心に進んでいきます。

 

ちなみに表紙の人物がウシオです。
この物語は、彼(彼女)が自身の性別に疑問を抱え、女性として生きることを告白することによって動き出します。
ウシオの決断をきっかけに、主人公の通う高校での人間関係が複雑化していくのです。


たとえば、主人公の咲馬は、物語の序盤でクラスの人気者である星原に片思いをしてしまいます。

ただ、星原は星原でウシオに好意を寄せていて、けれどもそのウシオが女性として生きていくことを告白して……。

 

また主人公も主人公で、過去に初恋の相手に告白した際に、その子が実はウシオに好意を寄せていたという理由で断られてから、幼馴染でありあがら苦手意識を抱えていました。
その過去がまるで繰り替えされるように、星原がウシオに好意を抱いていることを知ってしまう……。
地獄かな?

 

また、この物語の魅力は色恋だけに留まりません。
異なる角度からの疑問や主張が、主人公たちの価値観を揺さぶっていき、考え方が変わっていくところにとてつもない魅力があるのです。

 

偏見の目を向けるクラスメイト。
動揺しつつも、幼馴染として寄り添おうとする主人公。
でも彼もまた別種の偏見に囚われていることに気づいて、さらに悩み抜く。

 

そんな感じで複雑かつ気安く触れにくい題材であるにもかかわらず、エンタメとして成立しているのがシンプルにすごかったです。

 

 

 

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※ここから先は結末までのネタバレを含む感想となります。 
未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.『ミモザの告白』ネタバレありの感想

色々と考えさせられる物語ではありましたが、一方で何気ない台詞にクスリともさせられました。

 

たとえば、星原のP196「明日から勉強頑張ろう!」という台詞。

ウシオのことは「今日から」なのに、勉強は「明日から」というところに彼女の性格が現れているような感じがして、なんだか苦笑してしまいした。

細かな言動に性格が現れていて、いいなぁ……。

 

さて、人間関係については、先ほどにも触れましたが、物語の後半ではウシオが主人公に好意を寄せていることが発覚しました。

 

もうね、矢印が(いい意味で)ぐちゃぐちゃでしたね。
こんな一方通行な三角関係って、そうそう見られるものではありません。

 

あと上での感想での「考え方の変化」について、もう少しだけ掘り下げてみます。
この作品では、前半でクラスメイトたちの偏見が描かれており、主人公はそれに反発して立ち向かいました。

 

けれども咲馬自身、自分でも気づかないうちにまた別種の偏見と憶測に支配されていて、理解できないものを気持ち悪いと思ってしまっていることが発覚。
そのことを認めつつも、前に進もうとする。
けれども、まだまだ答えは出し切れていないまま、物語は2巻へと続いていくのです。

 

これほどまでにキャラクターの内面を掘り下げ、心情と思考に焦点を当てているライトノベルは珍しいと思います。

 

こういう作品が出てくるから、ガガガ文庫は好きなんですよ。
ライトノベルではありませんが、『15歳のテロリスト』『流浪の月』とか、ぼくはどうやらこの手の物語に惹かれてしまうみたいです。
これらも偏見や憶測に苦しめられつつも立ち向かう人物たちの話ですので、よければご覧ください。

 

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またウシオの妹については、ちょっと気にかかる部分もありますが、これは2巻以降を読んでからですかね……。

 

斉藤すず『バレットコード:ファイアウォール』1巻感想

 

君を護る。この命にかけて。

 

どうも、トフィーです。

 

今回は、斉藤すず先生のライトノベル『バレットコード:ファイアウォール』を紹介させていただきます。
『このライトノベルがすごい! 2022』文庫部門・第10位にランクインした作品です。

 

熱いバトルもあり、純愛もあり、好みにぶっ刺さった設定もありと、個人的に好みな要素がてんこ盛りの作品でした。
めちゃくちゃオススメの1冊です。

 

 

1.あらすじ

これは、VRではなく本物の戦争である。死んだらそこで――人生は終わる。

『プロジェクト・ファイアウォール』。
それは戦争の悲劇を防ぐため、青少年に課されることになった『VRによる戦争体験学習』。単なる「ごっこ遊び」の域を出なかったはずのその実習は、ある日唐突に混沌のプログラムと化した。
予定されていない兵士――否、人ですらない「謎の敵」の急襲、そして迫り来る「現実での死」の危険……。
高校のクラスメイトとともに、この異常事態に巻き込まれた少年・古橋優馬は、世界4位の成績を持つ兵士で、『フロストバイター』の異名を持つ少女・雨宮千歳が率いるチームに助けられる。
衝突や悲劇を乗り越え、プロジェクトの真相に迫っていく彼らが最後に見るものとは――!?

引用:バレットコード:ファイアウォール (電撃文庫)

 

 

2.感想・レビュー

a.個人的評価と関連情報 

個人的評価:★★★★★
電撃文庫
2021年2月刊行
『このライトノベルがすごい! 2022』文庫部門・第10位/新作部門第6位

 

作者は、斉藤すず先生。

第25回電撃小説大賞《読者賞》を受賞し、『由比ガ浜機械修理相談所』 (電撃の新文芸)を発表されています。

 

話を『バレットコード:ファイアウォール』に戻しますがが、『このライトノベルがすごい! 2022』文庫部門第10位、新作部門第6位にランクインしています。
また、すでに第2巻も刊行されています。

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イラストレーターは、緜(わた)先生。

『きみは本当に僕の天使なのか』 (ガガガ文庫)や、『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』(GA文庫)なども担当されています。

 

b.内容紹介

★5つとさせていただいている通り、めちゃくちゃ面白かったです。
個人的には昨年読んだラノベの中でも、一二を争うくらいに好みの物語でした。

 

 

 

ストーリーについては上のあらすじの通りですが、もう少しだけ詳しく触れます。

 

各国の青少年を強制的に、かつ同時にVR空間の中に押し込め、戦争を実体験させるプロジェクト:ファイアウォール

 

この物語の世界では、二年前に核戦争が起き、100万人の死者・行方不明者が亡くなっています。
それにより反戦ムードが高まり、悲劇を繰り替えさせないようにするための体験学習プログラムが求められるようになりました。

 

当初は戦争に巻き込まれた人の経験談を聞くことによる学習が予定されていましたが、その人の背景によって話が捻じ曲げられ脚色が加えられる恐れがあるというクレームが噴出。
その結果、国連主導でVRを使ってリアルな戦争をそのまま体験させようというプログラムが計画され、『プロジェクト・ファイアウォール』の名で実行に移されたのでした。

 

主人公の古橋優馬(ふるはしゆうま)は、自身の通う桜丘高校が選抜されたことにより、クラスメイトとともにVR空間の戦場へと身を投じることになります。
プログラムを完遂した場合、大学への進学権や奨学金が出されるということもあり、優馬を含めたクラスメイトはプログラムを乗り切ろうとしていました。

 

しかし、異常な現象が優馬たちに降りかかります。
上陸を目指す舟艇の上で、とつぜん引率の大人たちが自死を遂げ、正体不明の棘によりクラスメイトが虐殺され始めたのです。

 

この異常な現象を受け、VR空間内で戦死したら消えるはずの遺体が残り続けていること、大人たちが死の直前に「本物の戦争だ」と告げていたことから、優馬は自分たちが体験学習ではなく命を欠けた本物の戦争に巻き込まれたのではないかと考えるようになります。


やがて優馬は落水し、幼馴染たちともはぐれてしまいます。
それから意識が戻り、荒廃した東京に辿りついたかと思えば、偉業の化物と相対することに。

 

ピンチに陥る優馬でしたが、突如現れた世界第四位の成績を持つ少女・雨宮千歳(あまみや ちとせ)の率いるチームに助けられたのでした。
そこから彼の、死と隣り合わせの戦いが幕を開けます。

 

……と、以上がこの物語の導入になります。

 

 

自分はこのラノのトップ10にランクインしていることで、この作品に興味を持ち読むことを決めました。
実はこのラノが発売する前にも、Twitterで何度か流れてきたこともあり、表紙やタイトル自体には見覚えがありました。

 

ただ、その時の自分は、あまりよくない言い方かもしれませんが、「なんだ、よくあるVRものか」と思ってスルーしていました。
けれども実際に読み進めてみると、もっと早く手に取っておけばよかったと後悔することになったわけです。


というのも、このラノで好みのタイプの作品だということを察して手購入し、いざ読んでみると、期待以上にバトルが熱く、また胸を焦がすような純愛要素に魂が震わされたのです。


いや、本当に面白かったです。
スピード感もあり、絶望的な状況のなかで紡がれる仲間とのドラマが感動的。
自分の好きな要素がこれでもかと詰め込まれていました。

 

また、ヒロインの千歳が、とにかく愛らしいキャラクターでぶっ刺さりました。

 

カラー絵にもあるので、そこまでネタバレにならないと思うので軽く触れますが、彼女は二つの顔を有しています。

 

一つは、『フロストバイター』として兵を率いる、厳格で凛々しいリーダーとしての顔。
普段の千歳は、このフロストバイターとしての性格を前面に出して振舞うことにより、部隊の仲間からは厳しいリーダーとして認識されています。

 

そしてもう一つは、華憐で儚い、小動物のような少女としての顔。
部隊に合流した優馬は、その日の夜に千歳に呼び出されて、このもう一つの顔を知ることになります。

 

なぜ彼女に仮面があるのか、なぜ優馬にはもう一つの顔が明かされたのか、これ以上は本編でお確かめいただきたいので伏せますが、自分は千歳というキャラクターに完敗しました。
うん、マジで可愛かった。
展開もさることながら、極めて繊細なキャラ描写が千歳の魅力を押し上げていました。

 

うん、みなさんも読みましょう(直球)

 

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※ここから先は結末までのネタバレを含む感想となります。 
未読の方はご注意ください。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

3.ネタバレありの感想

「こういうのが読みたかったんだ」

 

この物語を読み終えてしばらくの間、そんな感想を胸に抱いて余韻に浸っていました。
それくらいに満足する終わり方でした。

 

幼馴染たちと死別し、化物により千歳と引き離され、再会して気持ちが通じ合い、しかしまた別れてしまう。
そんな過酷な運命に翻弄される優馬と千歳を見ているうちに、心の底から二人が幸せになれるような未来を切望していました。

 

だからこそ、最後の戦いを乗り越えたあとのあのエンディングが本当に綺麗で、読了後の満足度は過去最高潮。
余韻に浸るあまり、ついブログの更新を遅らせてしまいました。(というのは嘘でブログは普通にサボりました)

 

読み終わってから見返すと、タイトルと表紙がまた違った見え方をしてそこもまた面白かったです。
章タイトルの「98147523の血と汗と涙」のネーミングがなんともニクい……!

 

すでに2巻も購入していますので、またそのうち感想をあげます。
2巻は1巻以上に面白いというツイートをたびたび目にするので、これよりもっと上の面白さがあるのかとワクワクしています。

 

【魔王×サイバーパンク】紫大悟『魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿』

 

変わり切った世界/変わらない臣下

 

どうも、トフィーです。
今回は、紫大悟先生のライトノベル『魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿』を紹介させていただきます。

 

本作はファンタジア大賞《大賞》受賞作。
魔王×サイバーパンク(SFの一種)という、ありそうでなかなか目にしない組み合わせの物語でした。
SFといっても、コメディ要素も強いうえに、熱いバトル展開も用意されている物語なので、敷居は高くないと思います。

 

 

 

1.あらすじ

第33回ファンタジア大賞――異次元の《大賞》受賞作!

統合暦2099年――新宿市。究極の発展を遂げた未来都市に、伝説の魔王・ベルトールは再臨した。巨大都市国家の輝かしい繁栄と……その裏に隠された凄惨な“闇”。新たな世界を支配すべく、魔王は未来を躍動する!

引用:魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿 (富士見ファンタジア文庫)

 

2.『魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿』感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★★★
ファンタジア文庫
2021年1月刊行 

 

作者は紫大悟(むらさき だいご)先生、イラストはクレタ先生。
紫大悟先生は、今作によって第33回ファンタジア大賞《大賞》を受賞しデビューされた先生です。

 

ちなみに前年の第32回の大賞は、『スパイ教室』です。
こちらも1巻の感想をまとめていますので、よければご覧ください。

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また『魔王2099』ですが、現在2巻まで刊行されています。(21年12月現在)

 

ちなみに冒頭で使用したサイバーパンクはSFの一種で、「人と機械の融合」や「脳とコンピューターの融合」によって、高度に情報化が進んだ社会のなかで展開されていく物語……といえばいいでしょうか。

 

このジャンルの作品では『ニューロマンサー』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』などが有名です。
ライトノベルの有名どころであれば、『アクセルワールド』などもサイバーパンクといえるでしょうか。

 

b.作品内容・キャラクター紹介

ここからは物語序盤の内容に触れながら、『魔王2099』の内容を紹介していきます。
多少のネタバレを含みますので、ご注意ください。

 

この物語は、500年の眠りから覚めた主人公である魔王・ベルトールの目覚めによって動き出します。
彼の視点で、電子荒廃都市となった新宿市の様子を見ていくことになります。

 

新宿市では、魔王への恐れはすでに過去のもの。
ベルトールの存在は人々の記憶から忘れ去られてしまい、信仰を力の源としていた彼は、従来の力を発揮することができなくなっていました

 

そればかりか彼の不在の間に進んだ技術が、魔法を用いた戦いを大きく変えてしまっていたのです。
しかも、かつての部下の裏切りにより、魔王だけがその技術の恩恵を受けられないように仕組まれていたのです。

 

かつての幹部に裏切られ、力の差を突きつけられ、魔王は心身ともにズタボロに追い込まれてしまいます。
衣食住もままならない状態のベルトールは、同じくかつての部下のマキナとともに暮らすことになります。
マキナにばかり負担をかけるわけにはいかないと、働き口を探すもうまくいかず……。

 

そうして就職活動でプライドをズタズタにされた魔王は、マキナの知人であり初日に出会ったハッカーの少女・高橋に相談を持ち掛けることで天職を見つけるのでした。

 

その職業とは――――ライブストリーマー。
まさかのゲーム配信者です。

 

と、このような感じで、コメディ的な要素もある物語です。


コメディ部分もシリアスパートもクオリティが高く、個人的に大満足な一冊でした。
また設定にも無駄がなく、伏線大好き人間としてはその点でも高評価。
(これについては、ネタバレありの感想の方で、少しだけ触れます)

 

あまりライトノベルの2巻以降を手に取ることのない私ではありますが、時間を見つけて続巻も手に取ってみようと思います。

 

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※ここから先は結末までのネタバレを含む感想となります。 
未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.ネタバレありの感想

1巻を読み進めていくなかで、伏線の貼り方や、設定の出し方・演出がうまいなぁと思いました。

 

序盤でのフードを目深にかぶった男も、広告のハッキングも、信仰心が力となるといった要素も、詠唱の簡略化についても、マンションでの「余も金が貯まったら、マキナと共にこういう部屋に引っ越したいものだな……」(ちょっとかわいいですよね、この台詞)という台詞もすべて後々に効いてくるわけです。

 

個人的には、この手の伏線や設定の回収が魅力的な作品は好物なので、そういった点で『魔王2099』には非常に楽しませていただきました。

 

また、ベルトールの心境の変化にもグッときました。
目覚めたばかりのベルトールは、変わり切った世界のなかで、打ちのめされてしまいます。
ただ、それでも変わらずにいてくれた臣下のマキナに支えられながら、現在を知り受け入れていき馴染んでいきました。
そうしてマルキュスとの戦いを経て、勇者の語る「命の輝き」を知り、マキナに対して愛情を抱くようになりました。

 

そういった内面の変化が「この都市も存外悪くない」といったエピローグ中の台詞に強くにじみ出ていたわけですが、これはベルトールだけでなく一読者の自分とも重なる台詞でもあったために、特に印象に残りました。

スタングレー・ミルグラム『服従の心理』感想と超簡単な解説

どうも、トフィーです。
今回はスタングレー・ミルグラム『服従の心理』を紹介させていただきます。

 

難しくて腹立ったから意地でも簡単に説明しちゃおうということで、今回記事にしました。
まず初めに、必ずしも「権威=悪」というわけではないです。
思考停止はあきまへんけど、服従が役に立つこともあるんですわということを心にとどめつつ、見ていこうかと思います。

 

 

 

 

1.スタングレー・ミルグラム『服従の心理』感想と超簡単な解説

a.『服従の心理』の内容

権威が命令すれば、人は殺人さえ行うのか?
人間の隠された本性を科学的に実証し、世界を震撼させた通称〈アイヒマン実験〉 その衝撃の実験報告。
心理学史上に輝く名著の新訳決定版。

引用:服従の心理 (河出文庫)

 

要するに、「権威に命令されれば人間はどこまでも残酷になれちゃうんですよ。人間って怖いねー」という内容の本です。

そう言う根拠として、1961年にイエール大学で行われた「ミルグラム実験」というものがありまして、本書ではその内容の説明をしています。

 

じゃあその「ミルグラム実験」ってなんじゃらほいと気になった方は次でゆるく解説します。

 

b.ミルグラム実験って?

先ほど触れたように1960年にイエール大学で行われた実験です。
この実験では「先生」「生徒」「学者」の3人だけしか登場しません。
まずはそれぞれの役割を確認しましょう。

 

先生役実験の対象。募集して集められた一般人。生徒が問題を間違えるたびに電流を流す。

生徒役:役者。ペーパーテストを受ける。

学者役:役者。先生役がボタンを押すのをためらったら、言葉巧みに声をかける。

 

そしてこんな感じで実験が進められていきます。

 

①電流が流れるイスに生徒役が座ります。
そしてペーパーテストを受けていきます。

 

②先生は生徒が問題を間違えるたびに電流を流します。
ちなみにこの電流の威力は、最初はザコザコ。
ただし流すごとに、強さがレベルアップしていきます。
最後はくらえば死ぬレベルです。

 

③けれども、実際には電流は流れていません。
生徒役はプロの役者です。
めちゃくちゃリアルに痛がる演技をします。

 

④だから先生役は、本当に電流が出てると思い込みます。まさかあのイエール大学の実験で、ドッキリを受けるはめになるとも思いませんしね。

 

⑤先生役は当然「あれこれやばくね?」と思うわけです。当然押すのをためらいます。

 

⑥そこで口を開くのが学者役。彼らは先生役がためらうたびに、「大丈夫マジで死んだりせんから」「この実験はめっちゃ社会のためになるから」「いいからいいから」と言葉巧みにボタンを押すようにすすめます。

 

そうして実験を進めた結果……。

なんと、2/3の参加者が、電流のレベルがマックスになるまでボタンをポチポチ押し続けてしまったのです。
生徒役がめちゃくちゃ痛がっていて、今にも死にそうになっているにも関わらずです。

 

※ちなみに似たような実験が世界各地で行われて、だいたい同じような結果が出たらしいです。

 

c.ミルグラム実験でわかったこと

たとえ一般人でも、権威のある人に指示されることで人を殺してしまうようになってしまうのです。
人間は本人でも気がつかないうちに、どこまでも残酷になってしまえる生き物であることが判明したのです。(おおげさな表現ではありません。歴史を見ても実例がたくさんあります)
思考停止してホイホイと残虐な指示にさえも従ってしまうような状態を「エージェント状態」といいます。

 

2.エージェント状態

a.エージェント状態とは

「エージェント状態」とは、色々思いつつも恐ろしい指示に従ってしまう状態。
自分は偉い人に言われてやってるだけだからと、思考停止しちゃってる状態なんですね。

 

そしてこの状態になってしまったら、権威のある人の声は大きく聞こえてしまう一方で、権威のない人の声は耳に入ってこなくなります
被害者や、それを止める友人や同僚の声もまったく聞こえないのです。

 

またこの時、命令に従う責任感はマックスです。
一方で、やってること自体にはなにも感じなくなってしまい、被害者に対して責任感を持たなくなります。

 

そしてこの「エージェント状態」の一番やっかいなところは、一度はまればもとに戻るのがかなり難しいという点です。
状況が進むほど引くに引けなくなってしまい、自分自身は悪くないと「正当化」していくからです。
それだけではありません。
いや「問題を間違えるやつが悪いっしょ」と、むしろ被害者を悪者として見るようになっていってしまいます
やべえ。

 

b.エージェント状態の実例

ナチスのホロコースト
オウムの地下鉄サリン事件
自粛警察
家庭内暴力

 

c.エージェント状態にならないためにすべきこと

ずばり権威と大義名分を疑うこと!

 

結局これにつきます。

 

口調が強い意見でも、自分よりもずっと立場の高い人の意見であっても、あるいは「誰かのためになるからといった」といった大義名分が掲げられていたとしても、まずは一度立ち止まる
そして、冷静に疑ってみる。

 

そうすることで、エージェント状態を回避できる……かもしれません。

 

簡単ではありましたが、とりあえず解説はこれでおしまいです。
色々説明してきましたが、きっとぼくは明日のうちに綺麗さっぱりと忘れて思考停止していることでしょう......。

『140字の文豪たち』紹介|ツイッター発の文豪エピソード集

 

文学部出身なのに読書家からは程遠いAuraです。本をあまり読まない文学部卒業生って、もはや存在価値が危ぶまれると思うんですよ 笑

 

さて、今回ご紹介しますのは『140字の文豪たち』という本です。

(Amazonへのリンクです)

 

こちらは、日本文学研究者にして古書収集家の川島幸希さんが、ツイッターにてつぶやかれた文豪に関するツイートをまとめたものです。

書名に「140字」とある所以はここにあります。そして単行本化するに際し、ツイートの解説や補足が加えられました。

 

文豪の言葉やエピソードが載っていることは想像に難くないかと思いますが、他の書籍ではあまり見かけないような話が数多く見られました。作者川島さんのご見識の広さが窺えますし、この点が『140字の文豪たち』のウリだと思います。

 

 

本の構成

『140字の文豪たち』は、以下の内容で構成されています。

太宰治ツイート

中原中也・宮沢賢治ツイート

梶井基次郎・川端康成ツイート

芥川龍之介ツイート

佐藤春夫・菊池寛ツイート

萩原朔太郎・室生犀星ツイート

志賀直哉・武者小路実篤ツイート

谷崎潤一郎・永井荷風ツイート

泉鏡花ツイート

夏目漱石ツイート

その他の文豪ツイート

文豪のいないツイート

 

出典:川島幸希『140字の文豪たち』

 

名前が挙がっていない作家についても、ツイートとその解説の中でしばしば出てくるので、実際に言及されている人物の数はかなり多いですね。

 

内容としては、作品解説というよりは作家の人となりや作家同士の関係性が中心となっています。また、それらにまつわる川島さんご自身の体験談や所感なども載っています。

本全体で200ほどのエピソードが載っていますが、1ページにつき1エピソードという形式なので読み進めやすいでしょう。それこそツイッターを見る感覚でスイスイ行けます 笑

 

では、数あるエピソードの中から例として2つ取りあげてみます。本と同じくツイート+解説文のフォーマットで引用するので、実物がイメージしやすくなるかと思います。

 

 

 鷗外を明治大正第一の文豪と考えていた太宰は、その墓がある三鷹の禅林寺を訪問。「私の汚い骨も、こんな小綺麗な墓地の片隅に埋められたら、死後の救ひがあるかもしれないと、ひそかに甘い空想をした日」もあったものの、「同じ墓地に眠る資格は私に無い」と書きました(『花吹雪』)。
 しかし太宰は没後、同じ墓地の、しかも鷗外と向かいの場所に葬られたのです。泉下の太宰は、桜桃忌のたびに鷗外の墓の前も大混雑することに恐縮しているに違いありません。もちろん鷗外は太宰を全く知らないので、桜桃忌の狂騒に驚いているでしょう。

 

出典:川島幸希『140字の文豪たち』

 

 

 多読であったと同時に、芥川は大変な速読家だったようで、主治医の下島勲は次のように回想しています。「一体どのくらひの速度で本が読めるのかと聞いてみたところが、普通の英文学書なら一日一千二三百頁は楽だと言ってゐた。併し一日といつたところで、時間によるのだが、まあ仮りに一日一千二百頁の十時間とすれば、一時間百二十頁、一分間二頁といふことになるわけです。」
 常識的には、日本人にとって英語の本を読む方が時間は掛かるのだから、一分間に二ページはやはり相当なスピードです。多読と速読、この両輪によって芥川の博識は築かれたのでしょう。

 

出典:川島幸希『140字の文豪たち』

 

おわりに

こういう文豪トリビア系の本っていいですよね。え?それなら文豪の書いた本自体を読めって?全くもっておっしゃる通りです!!

僕は頑張って近代文学と取っ組み合っていくので、この記事をご覧くださっている方は、『140字の文豪たち』を本棚に加えてみてください。

 

(Amazonへのリンクです)

 

関連記事

『文豪どうかしてる逸話集』も作家たちのエピソードをまとめた本です。こちらは面白エピソードが中心となっていて、彼らの人間臭さがよく伝わってきます。

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『このライトノベルがすごい! 2022』文庫部門について語りたい

お久しぶりです、トフィーです。
諸事情によりサボりにサボってしまったブログ活動ですが、そろそろ再開します。

 

今年も『このライトノベルがすごい! 2022』の文庫部門トップ10について語っていこうと思います。
短かったような長かったような、『このラノ 2021』の記事を出してから、もう1年たったんですね……。

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多種多様な意見の飛び交う『このラノ 2022』ですが、個人的には納得のランキングでした。
また、「これは入るだろうな」と予想していたものがだいたいランクインしていたり、逆に「この作品は推しだけど、厳しいだろうな……」と思っていた作品が入っていたりと、面白いラインナップになっていて満足です。

 

ちなみにぼくは、例年『このラノ』のチェックはしつつも投票自体はしてこなかったのですが、今回は強く推したい作品もあり、WEBの方で投票に参加しました。
どの作品に票を入れたのか、それもあわせて各作品について触れていこうかと思います!

 

※この記事では、単行本・ノベルズ部門に関しては触れていません。

 

『このラノ 2022』文庫部門トップ10について語っていく

ランキング

まずはざっと、順位を紹介します。
2022はこんな感じでした。

 

1位『千歳くんはラムネ瓶のなか』(ガガガ文庫・ラブコメ)

2位『春夏秋冬代行者』(電撃文庫・和風ファンタジー)

3位『ようこそ実力至上主義の教室へ』(MF文庫・学園サスペンス)

4位『ミモザの告白』(ガガガ文庫・青春ストーリー)

5位『プロペラオペラ』↑(ガガガ文庫・空戦ファンタジー)

6位『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』↑(GA文庫・ラブコメ)

7位『義妹生活』(MF文庫J・ラブコメ)

8位『探偵はもう、死んでいる。』↓(MF文庫J・ミステリー×異能×アクション)

9位『ロシア語でデレる隣のアーリャさん』(角川スニーカー文庫・ラブコメ)

10位『バレットコード:ファイアウォール』(電撃文庫・サバイバルSF)

 

ちなみに赤色のタイトルは、昨年に引き続きTOP10入りした作品です。
矢印によって、昨年から順位がどう変わったのかを示しています。

各作品についての紹介や所感

続いてランクインした10作品について、サラっとふれていきます。

 

 

『千歳くんはラムネ瓶のなか』

まずは1位、裕夢先生の『チラムネ』こと『千歳くんはラムネ瓶のなか』です。
昨年に引き続き、首位を獲得。
ランキング入り自体は絶対にするだろうと思っていましたが、2年連続で取ってくるのは予想外でした。


うーん、強い。
WEB票と協力者票を、バランスよくとっていますね。
年代別や女性ランキング、どの観点から見ても人気であることが伺えますが、特に10代20代のプッシュが強い感じ。

 

カーストトップの超絶リア充主人公という、ラノベではわりと珍しいタイプの主人公、千歳朔を中心とした男女グループを描いた青春ラブコメ。
5・6巻では新たな試みもされており、またこのラノ内の作者インタビューでも興味深い発言が見られました。
これらについては、ご自身の目でチェックしていただけるといいかと思います。

 

また1巻の内容については、過去のブログ記事でも語っているので、そちらを参照いただければ。

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『春夏秋冬代行者』

続いては第2位の『春夏秋冬代行者』
作者は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で有名な暁佳奈先生。

 

この圧倒的カバーデザイン!
簡潔でイカしたタイトル!
めちゃくちゃすばらしい……!

なんとも2冊並べて飾りたくなるような表紙ですよね。
しかもこの作品ですが、上下巻同時に刊行(ネームバリューのある作者ならではの展開方法ですよね)されていたこともあり、書店でも並べて展開されているのをよく見かけました。

 

さて、肝心の内容ですが……。
すみません、まだ読めていません!

 

発売してすぐに上下巻とも購入していたのですが、2冊ということもあってなかなかタイミングを逃してしまい……。
各所で話題にされていたり、「面白い!」「文章が美麗!」だとか好評をよく目にしていたこともあって、このラノ入りはしそうだなと思いつつもチェックできていませんでした。

 

読みたい欲はバリバリにあるので、また読了次第記事を出します。

 

 

『ようこそ実力至上主義の教室へ』

次は衣笠彰梧先生の『ようこそ実力至上主義の教室へ』です。


順位は昨年と同じ第3位で、WEBランキング、10代ランキング、20代ランキングでは1位に君臨しています。
相変わらず強いですね。
ちなみにキャラに関しても、綾小路清隆が1位、軽井沢恵が第4位と好成績をおさめています。

自分としてもランキングを予想する際に、まあ『よう実』は確定だろと残りの9作を考えだしていたわけで……。
「もう殿堂入りしてもいいんじゃないかな」と思いつつも、実は総合1位の獲得自体はまだということで、もう数年はランクインし続けるのではないかなと思います。

 

何気に作品単独で記事にしたことはなかったのですが、「能ある鷹は爪を隠す」系の主人公の物語を読みたい方にオススメです。

 

 

『ミモザの告白』

続いては、八目迷先生の『ミモザの告白』

 

『ミモザの告白』はかなり好きな作品のうちの一つではあったのですが、扱われている題材的に、協力者票は得られてもTOP10入りは難しいだろうと予想していました。
……が、しかし、いい意味で裏切られました!
しかも4位ですよ、4位!

 

同作者の他作品もそうでしたが、この『ミモザの告白』では特に少年少女の「生き辛さ」がリアルに描かれています。
自分の「男」という性別に違和感を抱き、女性として生きていくことを告白した幼馴染のウシオと、彼の味方をすることを決意するも多種多様な意見に頭を悩ませる主人公が、はたしてどのような結末を迎えることになるのか楽しみです。

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また八目先生の『夏へのトンネル、さよならの出口』(『このラノ2020』9位)や『きのうの春で、君を待つ』についても記事にしています。

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『プロペラオペラ』

続いては犬村小六先生の『プロペラオペラ』です。

『とある飛空士への追憶』などの飛空士シリーズや、『やがて恋するヴィヴィ・レイン』などで有名な先生です。

さて『プロペラオペラ』ですが、昨年の『このラノ 2021』でもTOP10にランクインされており2年連続で好成績をおさめています。
また前回が位だったため『このラノ2022』では、前回よりもさらに順位が上がった結果となりました。

『プロペラオペラ』は空戦、太平洋戦争を下敷きにした世界観での物語、架空戦記ファンタジー。
惚れた幼馴染の皇女のために、一国を敵に回した少年の熱い物語です。
設定や世界観に深みもあり、それでいて読みやすく、キャラクターも魅力的な作品でした。
また全5巻で完結していることもあり、冊数的には比較的手を出しやすいかと思います。
まずは表紙が美しすぎる第1巻から、手に取ってみてください。

 

 

『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』

続いては、佐伯さん先生の『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』です。

小説家になろう発の作品。

ヒロインを助けたことから、貸し借りを清算するために主人公の家に通い始めたものの、主人公の生活能力のなさに面倒をみることに。
まったくの他人から、半同棲のような生活を送るようになり、そして恋人未満の関係性になっていく。
大きな事件こそ起こらないものの、少しずつ、丁寧に関係性を詰めていくような物語です。
もう読んでる側がやきもきしてしまうような、じれったくて甘々なラブコメを求めている方にはオススメの作品です。

 

 

『義妹生活』

続いてはアニメ化が発表されている『友達の妹が俺にだけウザい』の作者、三河ごーすと先生の作品『義妹生活』です。
高校生の主人公・浅村悠太は、父の再婚を機に、義理の母と妹ができた。
しかしその妹・綾瀬沙季は悠太と同じ年齢で、さらに派手な格好をしている、いわゆるギャルだった。
悠太も沙季もドライな性格のため、互いに反発することもなく、互いの価値観をうまく擦り合わせながら日々を送っていくといった内容です。
一日ずつ丁寧に、まるで日記のようにたんたんと主人公たちの日常が描かれており、この点が他ではあまり見られない新鮮な構成になっています。

またこの作品は、作者の三河ごーすと先生が運営されているYouTubeチャンネル『義妹生活』発の作品です。
YouTubeの方ではわりとぶっ飛びまくった展開もあったりと、小説とでは雰囲気が大きく異なります。それぞれの媒体でのギャップを楽しみのもよし、各キャラクターに声優が付いているのでイメージ固めのために見るのもよしということで、今までノーチェックだった方はYouTubeの方から手を出してみるのもアリかもしれません。

 

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『探偵はもう、死んでいる。』

 

続いては、MF文庫Jの新人賞発の作品二五十先生の『探偵はもう、死んでいる。』です。
この2021年にアニメも放送されたこともあり、非常に注目度の高いタイトルだと思います。

 

タイトル通り、『たんもし』はヒロインのシエスタが物語開始時点ですでに亡くなってしまっています。

そういった意味で非常に珍しい作品だったかと思うのですが、このヒロイン、死んでもなお存在感を強く発揮してくるんですよね。
もうそれがただただエモいし、しかもかわいい。

 

バトルも恋もミステリーもある、笑ったり感動することもできるなど、1つの物語でたくさんのジャンルや要素を楽しみたい方にオススメです。
興味のある人は、アニメから入ってみてもいいかもしれません。

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『ロシア語でデレる隣のアーリャさん』

お次は『ろしでれ』こと『ロシア語でデレる隣のアーリャさん』
発売前からTwitterで漫画が公開されていたり、上坂すみれさんが声を当てたPVが出ていたりと、絶大的な知名度を得ていた作品です。

 

そういった戦略に加えて、美麗なイラストと物語自体のクオリティ自体も素晴らしかったこともあり、非常に総合力が高い物語でした。
重版をもう何度も繰り返していたり、Vtuberデビューもしてしまったりと、もう来年あたりにはアニメ化も発表されそうな勢いがあります。

 

ヒロインのアーリャさんは、主人公に対してツンツンとした態度を取りながらも、ロシア語でボソッとデレてくれる。
これだけでもギャップが可愛いのに、そのうえ「実は主人公はロシア語がわかる」という非常に美味しい設定で、読んでる最中ニヤニヤが止まりませんでした。

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『バレットコード:ファイアウォール』

最後は、斉藤すず先生の『バレットコード:ファイアウォール』です。 

 

Twitterでチラホラと書影を目にしたことはあったのですが、これについては本当にノーチェックでした。
ただ実際にこのラノをきっかけに読んでみると、自分の好みにドンピシャの内容で、「ああ、もっと早く知っておけば推せたのに!」と後悔しましたね。

 

「どうしてこの作品を見落としてしまっていたのだろう……」と思いもしましたが、そういったタイトルを拾い直せるのも『このラノ』のいいところ。
『バレットコード:ファイアウォール』を知れたことが、今年の『このラノ』での一番の収穫だったかもしれません。

VRを通じて戦争の悲劇を体験させる教育プログラムに参加していたつもりが、実は本当の戦争に身を投じることになってしまったという、これまた強烈な設定。
仮想空間
熱いバトル、それから純愛要素もあって、個人的に好きな要素盛りだくさん。
上記のキーワードにピンときた方はチェックされてみるといいかもしれません。

 

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以上がランキング作品への紹介や感想になります。

 

後出しじゃんけん的な感じになってしまいますが、TOP10にノミネートする作品予想はだいたい当たっていました。
具体的には8/10作品。
『ミモザの告白』と『バレットコード:ファイアウォール』の代わりに、昨年に引き続き『スパイ教室』、鮮烈な表紙と衝撃的な内容で話題となった『魔女と猟犬』、この2作あたりが入ってくるのではないかなーと思っていました。

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『魔女と猟犬』文庫部門22位・総合25位・新作14位と非常にいい順位であることには違いありませんし、2巻の引きも強く3巻以降もさらに面白くなりそうなので来年に期待!

 

『スパイ教室』は文庫部門13位・総合16位と高順位を獲得しているため、アニメ化発表や続刊の評判次第で簡単に返り咲きそうな予感がします。

 

そういった感じで、引き続き注目していきたい作品ではありますので、来年にTOP10入りするのか、はたまたまったく別の新作が来るのかと、気が早いですが『このラノ 2023』も楽しみにしています。

 

投票した作品

さて、今回WEBで投票させていただいたのですが、票を投じさせていただいた5作品はいかの通りです。
大衆受けやランキング予想は完全に抜きにして、個人的な趣味全ブリで選んだ作品群になります。

 

上記で触れた作品以外の各感想は、それぞれの個別に記事にしています。

 

1位『楽園殺し』

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2位『魔女と猟犬』

 

3位『ミモザの告白』

 

4位『君が、仲間を殺した数―魔塔に挑む者たちの咎―』

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5位『泥酔彼女』

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各協力者の方がどのような作品に票を投じたのか、他にどんな作品が注目されていたのかなど、より詳しい情報を知りたい方はぜひ本誌をチェックしてください。

 

ここまでご覧いただきありがとうございました。
当ブログでは、他にも色々な作品の紹介・感想記事を載せています。
新たな作品への出会いのきっかけとして、ご活用いただければと思います。

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【雪の魔女と迫る九使徒】カミツキレイニー『魔女と猟犬』2巻感想

 

氷の城で巻き起こる殺戮

 

どうも、トフィーです。
今回はカミツキレイニー先生『魔女と猟犬』第2巻を紹介させていただきます。

 

今巻ではよりいっそう世界が広がっていきつつも、1巻での重くのしかかってくるようなダークな空気感も継承されています。
非常に読み応えのある1冊になっていました。

 

『魔女と猟犬』1巻についての感想記事はこちら。

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魔女と猟犬 2 (ガガガ文庫)

 

 

 

1.あらすじ

静寂に包まれた“氷の城”で巻き起こる殺戮

“鏡の魔女”テレサリサと共にレーヴェを脱出したロロは、魔力の影響で眠り続けるデリリウムを連れてキャンパスフェローへと戻ってくる。だが、王国アメリアによって陥落された故郷は、流血と破壊に蹂躙され見る影もなかった……。

ロロとテレサリサは城下町に作られた隠れ処にて、城から逃げ延びた者たちと合流する。領主バド・グレースの留守を預かる宰相ブラッセリ―と、<鉄火の騎士団>の副団長であり、ハートランドの妻であるヴィクトリアをはじめとする九十二名の者たち。

彼らは隠れ処を捨て、<北の国>へ向かうことを決断する。そこには、バドが生前に同盟を結んだ雪王ホーリオが治める<入り江の集落ギオ>がある。きっと助けになってくれるはずとの目算からだった。そして、ロロには<北の国>へ行くもうひとつの目的があった。それは、氷の城に住むという“雪の魔女”を味方につけること――。

その頃、王国アメリアの王都にあるルーシー教の総本山“ティンクル大聖堂”には、魔術師の最高位を冠する九人の者――“九使徒”が集められていた。

 
衝撃的な展開で刊行と同時に大きな話題を呼んだ本格ダークファンタジー『魔女と猟犬』。その待望の続刊がついに登場。

引用:魔女と猟犬 2 (ガガガ文庫)

 

 

2.『魔女と猟犬』2巻感想・レビュー

 

a.評価と1巻の感想記事のリンク

評価:★★★★★
ガガガ文庫
2021年6月刊行

 

カミツキレイニー先生×LAM先生による『魔女と猟犬』の第2巻ですが、個人的には前の巻以上に楽しめました。
内容もさることながらイラストもまた美麗で、表紙の雪の魔女がまた目を引くパッケージになっています。

 

ちなみに1巻の感想についてはこちらにまとめていますので、もしよければこちらもご覧ください。 

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b.ストーリー・キャラクター


2巻で出会うのは【雪の魔女】
1巻のプロローグが鏡の魔女テレサリサの過去から始まったように、この2巻についても雪の魔女ファンネルの過去が導入に置かれています。

 

プロローグが終わり、視点はロロたちの方へ。
彼とテレサリサは、眠り続けるデリリウムとともにキャンパスフェローへと帰還します。

 

キャンパスフェローは酷いありさまになっていました。
城は陥落し、市場には遺体が転がり、ロロの実家デュベル家も焼け焦げてしまっています。
変わり果てたキャンパスフェローの様子を目にしながら、ロロたちは生き残った仲間たちを捜索。
そこで宰相ブラッセリーや、鉄火の騎士団副団長にしてハートランドの妻ヴィクトリアと合流します。

 

しかし、ゆっくりしていられる状況でもなくなり、彼らは今もなおキャンパスフェローに残留するアメリアの兵や魔法使いの追手を退けながら、バドが同盟を結んでいた【北の国】へと向かったのでした。
――が、北の国を統治する雪王ホーリオが、これまた癖のある人物で……という感じで、ロロたちはまた奔走することになります。

 

2巻では新たなる魔女の登場はもちろんのこと、魔法の種類九使徒のお披露目など、より詳細な設定や世界観が明かされました。
それに加えて、帯でも触れられている「氷の城で巻き起こる殺戮」、1巻以上に手に汗握る死闘や衝撃的な出来事など、見所の多い巻となっていました。

 

また他の見どころといえば、やはり魔女との掛け合いでしょうか。
途中でアメリア兵に話しかけられた際に夫婦を演じて乗り切ったり、他にもニヨニヨとできる描写があったりと、シリアスだけではない他の魅力も詰め込まれています。

 

個人的には1巻よりも2巻の内容の方がずっと楽しめて大満足だったので、このまま3巻も追っていこうかと思います。
『魔女と猟犬』1巻を読まれていて、かつ2巻が未読の方にはできれば今巻も触れてみて欲しい。
そう思えるような物語でした。

 



当ブログでは他にも面白かったライトノベルやライト文芸をいくつか紹介していますので、もしよければご活用ください。

www.kakidashitaratomaranai.info

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※これより先では、結末までのネタバレを含む感想も載せていますので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.『魔女と猟犬』2巻ネタバレありの感想

ファンネルすこ。

雪の魔女様、正直めちゃくちゃ好きなタイプのキャラクターでした。
ということで、2巻の物語は雪の魔女ファンネルが強く印象に残りました。

 

彼女の過去は壮絶なものでした。

 

・母を生き返らせるため、弟(雪王ホーリオ)とともに異教を竜を呼び出すも中途半端な形となり、顔に傷を負う

・異教の竜を召喚したことで父の逆鱗に触れ、弟を庇って投獄

・自分を慕い脱走を手引きしようとしたメイドたちも処刑され、彼女の前にその首が投げ捨てられる

・自分も処刑されそうになったその瞬間に、魔女の力に目覚めあたり一帯を氷漬けにし、孤独にひきこもることに。

・以後ずっと本を読んで退屈をしのぎつつ、年に一度訪れる魔女討伐隊と剣を交えて生き続けてきました。

 

いや、壮絶すぎる……。


また、ェンリルが城から出なかったことにも、ちゃんと理由がありました。
それは彼女が自分の肉体と精神の時間を凍結していたから。


フェンリルが凍らせた城は、偶然にも魔力が溢れるスポットでした。
彼女が城から出ると、魔女となったその瞬間に負った致命傷までもが復活して死んでしまうので、出たくても出られない状況にあったのです。

 

そんな中、自分に満足のいく死を与えると約束し、40数年ぶりに「ネル」の愛称で呼んでくれる存在・ロロが現れたのです。
しかしロロは、九使徒のひとり召喚師ココルコ・ルカに辛勝しつつも、片腕を斬られて致命傷を負ってしまいます。

 

ファンネルはロロを凍結し、足りない魔力をテレサリサから補給してもらいながら、彼を直すために次なる魔女を探すための旅に加わるのでした。
形はどうあれ、彼女はようやくようやく外の世界を旅して回れるようになったわけです。

 

とこんな感じで、フェンリルにスポットを当てつつも2巻の内容を振り返ってみました。
肉体も精神も凍ってしまった不老不死の少女にして、脳筋スタイルの戦闘狂。
魔力補給のためにテレサリサのエイプリルをまっずと言いながらかぶりつく様子など、そこはかとなく漂うポンコツの香りもまた次巻への期待要素です。

 

また、デリリウムに続いて、まさかのロロまで眠ってしまいましたね。
1巻の感想記事では群像劇チックと述べましたが、3巻以降はますますその感じが深まっていきそうです。

【珠玉の物語】呂暇郁夫『楽園殺し 鏡のなかの少女』1巻の感想

完璧を目指しなさい。
淀みのない白。
あるいは何にも染まらない黒のように。

 

どうも、トフィーです。
今回は、呂暇郁夫先生の『楽園殺し』を紹介させていただきます。
前作の『リベンジャーズ・ハイ』に引き続き、非常に濃密で心躍る物語となっていました。


またあらかじめ言及しておきますが、『リベンジャーズ・ハイ』の後の物語となりますが、今作だけでも読めるつくりになっていますのでご安心ください。
いうなれば、『リベンジャーズ・ハイ』は今作の前日譚、他の言い方をするのであれば『楽園殺し/ZERO』みたいなイメージです。


これから入って、『リベンジャーズ・ハイ』も気になったら読む感じでいいのではないでしょうか。


楽園殺し: 鏡のなかの少女 (1)

 

1.あらすじ

その塵は人の想いを力に変え、災いを呼ぶ。

人に異能を授ける砂塵が舞う偉大都市。
荒廃した世界で、楽園とさえ呼ばれる偉大都市には、そんな砂塵を力に変え、様々な能力を発現する人々が集う。
そして、その能力を犯罪に使う者たちを取り締まる精鋭部隊<粛清官>が、この街の秩序を守っている。

粛清官ーー射撃の名手シルヴィ・バレト。そして寡黙な黒剣士シン。
とある事件を通じてコンビを組むことになった二人は、人を獣に変貌させるドラッグの捜査を任されていた。

だが、そのドラッグの流通には、粛清官たちの作った悪しき過去が潜んでいた。
現代に蘇った巨大な悪意が、獣の牙となって偉大都市に大きな傷を刻もうとしている。

粛清官に立ちはだかるは、屍者を操る能力者。熱線を放つ能力者。
そしてーー凶悪な獣人を作り出す、異端の能力者。
暴虐の限りを尽くした能力者たちによる死闘の末、最後に立っているのは……

「わたしは、なんとしても完璧を目指さなければならない」
「今回のテロ事件。獣人事件首謀者の協力者と見なしてーー」

「ーー貴方たちを、粛清するわ」

吹き荒れる砂塵のなか、マスクをまとう能力者たちの物語が幕を開ける。

引用:楽園殺し: 鏡のなかの少女 (1)

 

2.『楽園殺し 鏡のなかの少女』感想・レビュー

a.評価と情報

評価:★★★★★
ガガガ文庫
2021年6月刊行

 

星6くらい付けたいくらいには面白い作品でしたが、収拾がつかなくなるので我慢します。

 

作者は、呂暇郁夫(ろか いくお)先生。
『リベンジャーズ・ハイ』で、第13回小学館ライトノベル大賞「優秀賞」を受賞された先生です。
今作より前の時間軸のお話になります。

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イラストは、ろるあ先生
前作の『リベンジャーズ・ハイ』も担当されているほか、『超高度かわいい諜報戦~とっても奥手な黒姫さん~』のイラストなども手掛けられています。

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さて、今回紹介する『楽園殺し 鏡のなかの少女』ですが、今作は上下巻構成の第1冊目に当たります。
続刊は9月17日発売とのことなので、後編が出るのはもう少し後になります。
(発売され次第購入する予定なので、またいずれ感想記事をあげます)

 

また、冒頭でも説明した通り、今作は『リベンジャーズ・ハイ』の続編となります。
時系列的には『リベンジャーズ・ハイ』 →『楽園殺し』です。
ただ前作を知らなくても読めますし、なんなら『リベンジャーズ・ハイ』を0巻のようなイメージで捉えていただいて、『楽園殺し』を先に読んでしまっても問題ないです。

 

また帯にも書かれていたり、某スペースで語られたりしていた内容ですが、今作はどういうわけか『千歳くんはラムネ瓶のなか』裕夢先生が編集部に持ち込んで出版される運びとなったようです。
はい、謎ですね。
とにもかくにも、裕夢先生に感謝を。

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※とはいえ、個人的にはやはり『リベンジャーズ・ハイ』を先に読んでしまうのをおすすめします。理由は後述します。

b.ストーリー&キャラクター

前作以上に手に汗握る物語でした。
今年読んだ中でも一二を争うくらいには、熱中しましたね。
復讐&バディもののSFファンタジーです。


舞台は前作と同じく、有害な
【砂塵】によって一度文明が滅びたあとの近未来の【偉大都市】
この世界では、基本的にマスクなくして外を出歩くことはできません。
また偉大都市では、砂塵を取り込む異能を操る【砂塵能力者】が台頭しており、治安維持組織【粛清官】が秩序を維持するために戦い続けています。
『楽園殺し』は、とある事件をきっかけにバディを組むことになった、2人の粛清官たちの物語です。

 

今作の主人公は、シルヴィ・バレト
銀髪の銃遣いであり、特異な砂塵能力を持つ少女です。
その能力のためにずっとパートナーに恵まれなかったものの、チューミーとは互いをリスペクトし合う関係になれています。

 

そしてシルヴィの相棒を務めるのは、黒犬マスクを被る小柄な剣士シン・チウミ
前作『リベンジャーズ・ハイ』の主人公で、シルヴィより後に粛清官となったにもかかわらず、すでに一つ上の階級にまで上り詰めています
シルヴィを含めた一部の人間からは、チューミーとも呼ばれています。

 

前作でのあれやこれやがあって、2人は互いを認め尊敬するようになり、仲間として想いあうようになっていました。
前作から読んでいる方はこの2人の関係性の変化に、より一層もだえることができると思います。
個人的に『リベンジャーズ・ハイ』から読むのをおすすめしているのは、この点が大きいですかね。
危うくエモさ尊死するところでした。

 

ただ、読み進めていくと、少しずつ不穏な雰囲気に……。
シルヴィは、両親を殺めた犯人の事件を捜査するために上の階級を目指していますが、空回りを続けてしまっていました。
彼女もまた、リベンジャーズ・ハイだったというわけですね。
また彼女は、パートナーとの実力差にも思い悩んでいたのです。
そんな感じで『楽園殺し』は、事件を通して変化していくシルヴィの内面も大きな見所となっています。

 

また二人が追いかけている敵ですが、前作以上に危険な香りが漂っています。
人を獣に変え、強大な力を与える薬【覚醒獣】
そんな薬をばら撒くルーガルーは、自らの率いる【狼士会】を筆頭に、古くからある大犯罪組織や凶悪犯を巻き込み、偉大都市を混乱に陥れていきます。

 

いやぁ、スケールが大きくバトル描写も熱く、世界観も魅力的で本当に面白かった!
ただ同時に、シルヴィの焦りがひしひしと伝わってくるために、感情の揺さぶられる物語でもありました。
一読者としては、非常にじれったい気持ちに駆られましたが、そこもまた今作の魅力なんですよね。

 

「えっ、そんな絶妙なタイミングでお預けですか⁉」と、非常に続きが気になる終わり方でしたので、後編が出次第すぐに読むことにします。

 

 
 

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※ここから先は結末までのネタバレを含む感想となります。 
未読の方はご注意ください。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

3.『楽園殺し 鏡のなかの少女』ネタバレありの感想

「なんでこんないいところで終わっちゃうの⁉」といった感じでお預けを食らって、めちゃくちゃツラい……。
シルヴィとシンは、どうやって関係を修復していくんでしょうか……。
後編までまだまだ待たなきゃいけないとか、もう楽園より先に私が召されそうです。


非常に多くのキャラクターが登場する今作でしたが、シルヴィシンはもちろんのこと、敵にも魅力的なキャラクターが多かったです。
大ボスのルーガルーにしても色々抱えていて、彼について詳しくは続刊で明かされることになるんでしょうけど、個人的にはマティス・ロッソが魅力的に映りました。


自分の腕を犠牲にしても憎き粛清官に一矢報いようとする並外れた精神力、最初から死ぬことを前提に戦う覚悟の強さ。
マティスは倒すべき敵には違いありませんし、シンを倒すまでには至りませんでしたけど、彼の抱える強い想いを見せられては好きにならざるをえません。
今作で粛清されはしましたが、当分私はマティスのことを忘れることはないでしょう。

 

さて、続刊は9月発売とのことですが、拗れてしまったシルヴィとの関係や、シンに宿った砂塵能力、他にも人形遣いとのバトルやリィリンの活躍など見所になりそうな要素がいくつも残されています。
前作といい今作といいめちゃくちゃ満足のいく内容でしたので、後編の発売が非常に待ち遠しい。

 

とりあえず積みまくってるラノベを消化して、気を紛らわせようかと思います。

呂暇郁夫『リベンジャーズ・ハイ』感想|『楽園殺し』を楽しむために

 

どうも、トフィーです。

 

今回は、呂暇郁夫先生のライトノベル『リベンジャーズ・ハイ』を紹介したいと思います。
実はこの作品、ずっと前に読了していたのですが、この21年6月に呂暇先生の新作『楽園殺し』が発売されるとのことで、改めて読むことにしました。

 

ここで長々と書くのもなんなので、先にひとつだけ述べておきます。

ハードなライトノベルが好きな方は、絶対に読んだ方がいいです。

 


リベンジャーズ・ハイ (ガガガ文庫)

 

1.あらすじ

 

スタイリッシュな近未来SF×復讐譚。

第13回小学館ライトノベル大賞 優秀賞受賞作!!

砂塵という有害物質による“塵禍”で文明が一度滅びた近未来。
砂塵を取り込んで異能力に変換できる“砂塵能力者”が力を持つようになっていた。
ここ偉大都市において、チューミーは、因縁の復讐相手“スマイリー”の行方を探りながら、復讐のためにその日暮らしの生活を送っていた。
情報を追って踏み込んだとある教会で、チューミーは治安維持組織である“粛清官”の大物、ボッチ・タイダラに身柄を拘束されてしまう。
絶体絶命のチューミーだったが、ボッチからの意外な提案を受け、一時的に粛清官に協力することに。パートナーとしてあてがわれたのは「これまでバディを解消されてばかり」というワケありのシルヴィ。正反対の性格と出自を持つ二人は、はじめは反発し合うのだが……。

小気味よい筆が紡ぎ出す、唯一無二で圧倒的な世界観!!

バディものの王道でありながら、「異端」である二人を見事に描き出し、斬新なキャラ設定には舌を巻くこと間違いなし!
実力派新人による近未来SF復讐譚をお楽しみあれ!!

引用:リベンジャーズ・ハイ (ガガガ文庫)

 

 

2.『リベンジャーズ・ハイ』感想・レビュー

a.評価と情報

個人的評価:★★★★★
ガガガ文庫
2019年6月刊行 
第13回小学館ライトノベル大賞「優秀賞」を受賞

 

ガガガ文庫の小説賞で「優秀賞」を受賞した作品。
受賞時とタイトルは同じです。

 

同じ回の受賞作だと、八目迷先生の『夏へのトンネル、さよならの出口』や裕夢先生の『千歳くんはラムネ瓶のなか』などがあります。
また、裕夢先生にかんしては、『リベンジャー・ハイ』や同じ世界観をもって描かれる『楽園殺し』を激推しされていたりと、お墨付きもあります。
※『楽園殺し』については、また別途記事にまとめます。


この2作品については、当ブログですでに紹介させていただいているので、もしよければご覧ください。


『夏へのトンネル、さよならの出口』

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『千歳くんはラムネ瓶のなか』

www.kakidashitaratomaranai.info

 

 

 

また、『リベンジャーズ・ハイ』と共通した世界観で展開されていく物語『楽園殺し』も発売されております。
今作の続刊に当たる物語ではありますが、『楽園殺し』から読み始めても問題のないような構成になっています。

 

※とはいえ、個人的には『リベンジャーズ・ハイ』から読み進めることをお勧めしています。
気になった方はこちらもチェックしてみてください。

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b.ストーリー・キャラクター紹介

良質な復讐&バディもののSFファンタジーでした。
作りこまれた世界観に、手に汗握る熱いバトルとストーリーが魅力的な物語です。

 

舞台はあらすじにある通り、有害な【砂塵】によって一度文明が滅びたあとの近未来の【偉大都市】
偉大都市では、砂塵を取り込む異能を操る【砂塵能力者】が台頭しています。

 

この作品は2019年の6月に刊行されましたが、砂塵が舞い、生活にマスクが必須という世界観設定は今の社会と通じるものがあり、どこか不思議な感覚です。
(こういうのって、SFならではですよね)

 

さて、話を戻します。
人体に有害な砂塵により、外を歩くにはマスクが必須となってしまったために、主人公のチューミーも黒犬のマスクを着けて活動しています。
チューミーは、肉親を殺した因縁の相手を探しながら殺し屋として活動しており、【掃除屋】と呼ばれていました。

 

そんなチューミーですが、ある日、治安維持組織【粛清官】のなかでも最上級の階級に属するボッチ・タイダラに遭遇し、捕らわれてしまいます。
生殺与奪の権は粛清官次第、そんな状況の中で、チューミーはある提案を持ちかけられます。

 

それは、訳ありの粛清官の少女・シルヴィとバディを組み、ある犯罪者を追いかけるという内容でした。
そして、その人物こそが、チューミーの追い求める復讐の対象だったのです。

 

ネタバレに配慮して、ストーリーの流れについてはこのあたりでストップさせていただきます。
ただ、付け加えていうのであれば、この先にはいくつもの爆弾が仕掛けられており、読み進めるたびにあっと驚かされることになるかと思います。
話の内容自体はかなり重めではありますが、読み応えのある物語を好む方には突き刺さりやすい1冊ですので、もし気になった方はチェックしてみてください。

この作品単体でもきれいにまとまっていますが、続刊とも呼べる小説『楽園殺し』も刊行されましたので、複数巻にわたって楽しみたい方にもおすすめです。

 

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他にも当ブログでは様々なライトノベルを紹介しています。
もしよければ、ご覧ください。

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※この先、『リベンジャーズ・ハイ』についてのネタバレが含まれています。
未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.『リベンジャーズ・ハイ』ネタバレありの感想

主人公のチューミーが、兄と妹のどちらなのかという叙述トリック的なネタが仕込まれていたり、その正体が妹の体に魂を宿してしまった兄のシンだったりと、一味変わった驚かせ方に思わず唸らされました。
本当に、もうっ!(語彙力の消失)

 

シルヴィの出自や、危機の回避にも役立った「能力を無効化する能力」など、チューミー以外にも驚きが用意されているのもまたにくい。

 

驚きだけではなく、エンディングも最高でした。
ずっとマスクで顔を隠してきたチューミーが、最後の最後にマスクを取った状態でシルヴィと再会し、再度バディを組むことを告げる。
ずっと冷徹に心を閉ざしていたチューミーが、一つの事件を経て心を通わせて笑みを浮かべてくれば、それはシルヴィの涙腺も緩みますし、なんなら私の涙腺も緩みました。